35話 沈没艇
水を一気で飲み干した3人。
もはや食事をとる気力もなくなってしまう。
というのも、携帯食の乾パンをこの環境で水無しで食べるとか考えられないからだ。
アイナのボヤきが無線から聞こえてきた。
『出撃前のラムネ。全部飲み干せば良かったよ〜。何であの時パンなんかじってたんだろ。私はお馬鹿さんだ〜』
するとリナ。
『私、実はよお。格納庫にな、サイダーを隠してたんだよ。くっそ、何で飲んでおかなかったかな。大失敗だよ。ああ、一気飲みしたかったなあ』
そしてマノンの愚痴が始まる。
『何で乾パンにしたんだろ。缶詰を持って来れば水分含んでたのに……乾パンかあ』
マノンが何か考え始めた様だ。
『どうしたの〜、マノン少尉?』
そうアイナが聞くとマノンが返答。
『砂漠に乾パン放り出したら、何か釣れたりしない?』
魔物がを釣って食べれば、多少水分が得られるのではと考えたらしい。
するとリナ。
『どうせこのままここに居てもさあ、何もすることが無いんだからよお、やってみれば良いんじゃね?』
こうして最後の釣りが始まった。
釣り針は無いから針金で小さいのを作り、その針に細い紐で乾パンを結ぶという簡単な仕掛けだ。
さっそくマノンが仕掛け付いたロープを投げる。
しかし軽過ぎて砂に沈まない。
仕方無く重りを付けようとロープを手繰り寄せるのだが、何かに釣り針が引っ掛かった。
砂の中の浅い部分に何かがある様だ。
するとアイナが機体を起動しながら言った。
『折角の針がもったいない〜。私が外してくるね〜』
そう言ってアイナは機体を砂の上へと移動させ、針が引っ掛かってる所へと向かう。
アイナの機体が針の辺りに来た所で、何故かアイナの機体の挙動に変化が見られた。急に浮力を失った様にバランスを崩したのだ。
直ぐに体制は持ち直したが奇妙ではある。
マノンが機外スピーカーで『どうしたの?』聞くとアイナ。
「この砂の下なんだけどね〜。なんかさ~、感触が岩じゃない。金属で出来ているかもぉ」
そんな言葉が返ってきた。
噴射ブーツは砂漠の砂に反応する為、下に砂以外の物があると少し挙動が変わる。それが大きければ大きいほど変化も大きい。それに岩ならばゴツゴツしている感触が機体からも感じ取れるのだが、どうやらそのゴツゴツではない感触があるらしい。
そこでマノンは考える。
『ちょっと砂をどかしてみて、もしかしてそれーー』
マノンが言い終わらない内に、アイナは機体をその場に降ろした。つまり噴射ブーツをオフにしたのだ。
すると機体が砂の上に立った。沈むことも無い。それはその下に大きな物体がある事示す。
アイナは機体が沈まないのを確認すると、コクピットから機体の脚部へと降り立った。
機外に出ると無線が通じない。慌ててマノンは機外スピーカーに切り替える。
『アイナ、気を付けてよっ』
アイナはマノンに軽く手を振り、機体の脚部に掴まりながら手袋をする。そして地面へと恐る恐る降り立った。
やはり沈まない。
アイナはニコリとすると、その場にしゃがみ込んで手で砂を掘り始めた。
それを固唾を呑んで見守るリナとマノン。
しばらくすると、アイナの穴掘りの手が止まった。
そして顔を上げると笑顔で手を降り出した。
たまらず今度はリナが機外スピーカーで声を掛ける。
『何が見つかった!!』
するとアイナが大声で答える。
「岩じゃないくて〜、金属の板みたいなのが出てきたよ〜。結構大きいかも〜。でも何かは分かんな〜い!」
それを聞いたマノンはピンときた。
直ぐに機体を起動させ、アイナの側に移動する。
『アイナ、スラスターで砂を飛ばすからそこどいて!』
「え、ええっ?!」
マノンは返事を待たずに背中の噴射口をその固い物体に向けると、その場で機体をクルクルと回転させながらスラスターを一気に噴射させた。
すると周囲の砂が吹き飛び、砂に埋もれていた物体の一部が露わになった。
金属で出来た構造物。
自然に出来たものでは無いのは一目瞭然だ。
『やっぱり思った通りだったわね……』
そうマノンが言うと直ぐにリナが尋ねる。
『マノン少尉、これだけ見てもよお、私にゃ何だか分からんぜ。説明してくれると有り難いんだけどな』
するとマノン。
『これは陸戦艇の司令塔かしらね。この辺りにあったって事は、沈没した友軍の陸戦艇だと思うわよ。多分この下に岩盤か何かがあって、それに引っ掛かってこれ以上沈まなかったんでしょうね』
俗に言う沈没艇である。
そこでアイナが目を輝かせながら言った。
「ね、ね、中に入ってみようよ。次いでに金目の物を貰おうよ〜」
するとリナも。
『賛成だな。水があるかもしれないしな。どうする、マノン少尉?』
確かにこのままだと我々はどのみち助からないとマノンは考える。そこで決定を下す。
『分かったわ。入ってみましょう。ただし私とリナが行くわね。アイナは外で見張りをお願い』
するとアイナ。
「ええ〜、私も行きた〜い〜!」
だがマノンがピシャリと言って聞かせた。
『もし中に魔物が住み着いて居てよ。それが目の前に出て来たら、生身の身体で接近戦するのよ。それがアイナに出来るの?』
「うう……無理……」
アイナは身体が小さく力も弱い。それに魔法も使えないとなると、一緒に行ったら足手まといになるだけである。
『アイナ、外での見張りも重要なのよ。大型魔物がこの沈没艇にぶつかったりでもしたら、再び沈んで行く事も有り得るんだからね。アイナに私達の生命かを掛かっているのよ』
そう言われると何も言い返せないアイナ。
「分かった。見張り頑張る」
素直に従ってくれたようだ。
先ずは中に入る入り口だが、時間を掛けていられるほど余裕は無い。3人とも喉がカラカラだからだ。
そこでアイナの機体の1式30ミリ連射砲で、船体に穴を開けてもらう。数発ほど撃って一般的な女性が入れる位の穴を開けた。
装甲歩兵用の武器ならではの威力である。
これで艇内への侵入口は出来た。
準備を整えると、初めにマノンがスルリと中へと侵入した。
しかし後から来るはずのリナが中々来ない。
「どうしたのリナ、早く入って来てよ」
と艇内のマノンがカンテラで穴を照らしつつ催促すると、穴からリナの頭がひょっこり出て来た。
「す、すまん。筋肉が邪魔してこの穴じゃ入れないみたいだ。そもそも肩幅が広すぎて頭しか入らんぞ」
穴から首だけ出して、そんな事を言うリナ。決して笑わそうとしている訳では無いのたが、真剣な表情のリナを見ると、マノンは何か腹の底から湧き上がってくるものがあった。
そこでマノンは、口元を隠しながら船内の奥の暗闇へと移動。
「おい、マノン少尉、どこへ行くんだよ?」
だがリナの質問の返事は無く、暗闇の奥からは「クックック」という、不気味な魔物の笑い声が聞こえたという。
結局、その後に穴を広げる事になった。
アイナからは「私なら余裕で通れるのにな〜」と言う、遠回しな不平不満もあったが、何とかマノンとリナの2人は艇内へと入って行ったのだった。
この時点でこの沈没艇のブリッジの一部分だけが見えているだけで、全体の大きさ等の詳しい事はまだ不明なままである。