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33話 砂漠の孤独







 マノンがやっとのことで砂嵐から抜け出し改めて時計を確認すると、入ってから出るまでに4時間が経っていた。89式と違い97式は燃費が悪く、予備燃料の増槽を持って来て正解だ。

 マノンは周囲を見回すのだが、味方の高速巡視艇が見えない。方位計で調べると、回収してもらう予定の場所は砂嵐の反対側だと分かる。

 無線で連絡を試みるが、距離が遠すぎて装甲歩兵の無線では届かない。

 焦りながらも燃料の残量と、集合場所までの距離を計算。


「ああもう、燃料が足りないじゃないのっ」


 そう言ってマノンは計器盤を叩く。

 そして深く息を吐いてうなだれた。


「私、何やってんだろ……」


 しばらく下を向いて落ち込んでいたマノンだったが、ふっと頭を上げてコクピットハッチを開けた。


「落ち込んでてもしょうが無い」


 マノンは周囲を見回し、休めそうな場所を探し始める。そして少し行った所で小さな岩場を発見する。そこで一旦休むことにした。

 小さな岩が3〜4つあるだけの場所。そこなら砂に沈まずにいられる。



 マノンは機体の外に出て被弾確認をする。緑の悪魔に撃たれた箇所だ。

 予想通り被弾したのは左腕であった。爆裂魔法が付与されていたらしく、左の腕の装甲板が吹っ飛ばされている。

 可動確認するが、左腕の肘から先は動かない。損傷が酷くここでの修理は不可能だった。

 だが左腕の損傷はそれだけ。確か2発被弾したはずと、砂を払いながら探していると、左手で持っていたゴブリン製の盾に、弾が1発食い込んでいるのを発見した。


「危なかったわね。でもこれって、もしかして不発弾?」

 

 一人ブツブツ言いながら、マノンはその弾を確認する。

 小さな弾頭なのだが、しっかり魔法陣が描かれている。やはり不発弾であった。

 不発の原因は魔法陣に不備があったからだ。


「これって……」


 その魔法陣には見覚えがあった。

 地震アースシェイク魔法である。

 実はこの魔法は、ゴブリンには扱えないと思われていた魔法。現に今まで一度も人間に対して使われた事がなかったこの魔法だが、遂にゴブリン軍も手を出せる様になったということ。

 そこでマノンは考えた。


「ゴブリン共め、遂に人族製武器の真似を始めたか」

 

 これは人間にとっては厄介極まりない。

 そんなことを思いながら、マノンは再びコクピットに乗り込み動き出す。

 結局マノンは、砂嵐は避けての移動を決心した様だ。

 燃料が持たないだろうが、無線が届く距離までなら近付けそうだとの判断だった。

 そこでマノンは自分にめられた罪人の首輪が、異常反応しているのに気が付いた。


 黄色く点滅していたのだ。

 それは首輪の活動範囲から外れそうだと言う警告だ。無線も届かないこの距離でも機能する首輪の性能に驚くマノン。


「ったく、罪人の首輪が無線機よりも高性能とか、お金の使い道がおかしいわよ」


 愚痴をこぼしながらも、マノンは早々に出発するのだった。

 

 砂漠を移動しながら、携帯食の乾パンをかじる。

 地平線の彼方まで続く砂漠をひたすら眺めつつ、操縦するだけの退屈な移動。1時間後もしない内に飽きてくる。

 一休みしたくても岩場がないと休めない。砂漠の上で装甲歩兵の動力を切ると、砂に沈んでしまうからだ。

 かといって燃料の節約をしないといけないこの状況では、一箇所に留まって燃料を垂れ流しする訳にもいかない。

 それでひたすら砂漠の上を走行して行く。


 そんな中でマノンに睡魔が襲ってきた。

 ウトウトしながらの走行だが、周りに遮蔽物などある訳もなく、マノンはそのまま意識をブラックアウトさせた。


 その時だった。


 マノンの機体の前方で砂がうねる。


 そのうねりが徐々にマノンへと向かって来る。


 だがマノンはコクピットで首を垂れたまま動かない。


 そしてマノンの機体の30メートル手前で、砂が急激に盛り上がり、中から巨大な魔物が飛び出した。

 砂ミミズと呼ばれる地中を移動する魔物である。


 ほぼ同時にマノンは顔を上げた。


 砂ミミズが大口を開ける。


 反射的にマノンはスラスターを全開。


 砂ミミズの牙が襲い掛かる。


 97式の機体が急加速。


 マノンは機体を傾ける。


 すると機体が横滑りする。


 すんでのところで砂ミミズの大口を回避。


 砂ミミズは大口を開けたまま、何も居ない砂に喰らいついた。


 マノンは次に機体を半回転。

 腰のなたを引き抜く。


 砂ミミズは、喰らいついた勢いのまま砂に潜る。

 だがまだ半身しか潜り終えていない。


「逃がすか!」


 スラスターが砂を巻き上げて加速する。


 なた状の武器を真横に構える。


 砂ミミズの真横を通り抜ける機体。


 なたが振り抜かれた。


 刃がキラリと輝く。


 次の瞬間、砂ミミズの姿がブレる。

 アースシェイク魔法が発動したのだ。


 なたから魔力が空になった薬莢が飛び出し、砂漠に落ちる。


 全てがあっという間のことだった。


 そして体の半分ほどが肉片となった砂ミミズを見ながら、マノンはつぶやいた。


「えっと、夢じゃなかったんだ……」


 居眠りで現実との区別がまだ出来ていない様だ。

 それでも少しすると頭がハッキリとしてきたらしく、この後の事を考え出した。


ーーう〜ん、このまま砂ミミズを放置するのは勿体ないわよね


 沈み行く砂ミミズの上で考えるマノン。

 砂ミミズは食用になる。つまり金になる。マノンの記憶だと、1匹で30万〜50万コロネにはなる。

 このまま放置は勿体ない。


 こんな状況でも金儲けを考えるマノンだった。


 とは言っても、とても運べる大きさでは無いし、そもそも燃料が足りない。

 仕方無く、未だ形が残っている部分を拾って、背中の増槽の上にしっかりとロープでくくり付けた。

 

 砂ミミズの死骸の周りには、既に他の魔物達が集まり出した。砂漠の掃除屋達だ。


 そしてここに長居は無用と、マノンも出発するのだった。


 







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