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29話 復讐








 拳銃をゆっくりと引き抜いたマノンは、スライドを作動させて発射体勢に移る。


 そこでやっとアイナとリナが、事の危険さに気が付いて走り寄る。


「マノン少尉、それ以上はヤバいよ〜」

「おい、それはいくら何でも駄目だって!」


 そう言いながらリナが胴体を押さえ、アイナが拳銃を持つ腕を押さえだした。


「私に触るなっ、奴を撃たせろっ」


 暴れまくるマノン。


 それを目の前にしたギメ大尉は恐怖で動けず、ただただそれを見ているしか出来なかった。


 しばらくするとマノンは落ち着きを取り戻し、その場に座り込んだ。ただ拳銃は未だに握ったままではある。


 取り敢えず落ち着いたと判断してアイナとリナも、マノンを挟む様にしてしゃがみ込む。

 そしてリナがマノンに話し掛けた。


「マノン少尉、気持ちは分かるけどな、こんな奴を撃ち殺しても何も変わらないだろ」


 そしてアイナ。


「そうそう、どうせやるなら拷問の方が良いと思う〜」


 そこでやっと少しだけ動けるようになったギメ大尉。非常にゆっくりとだが、ぎこちない動きで外骨格をまとったまま、徐々に後退りしてマノンから離れて行く。


 突然リナが座り込んだギメ大尉に近付いて行く。近くまで歩み寄ると、ギメ大尉の顔を覗き込む。

 鼻先が引っ付くんじゃないかという距離まで顔を突き合わせて、数秒間睨む。そしてかろうじて聞こえる位の声、しかも殺気のこもった声で言った。


「なあ、大尉。今あった事、1分後には忘れているよな。何も覚えていないし何も聞いてない。それなら他の部隊兵に勝手に私事の命令をした事も目をつぶるし、上にも報告しない。従うなら今後も貴様は、夜道を襲われる心配も無く一人で歩ける。どうだ?」


 ギメ大尉は何度も頭を縦に振る。


 そしてリナは振り返り、マノンに近付きながら聞いた。


「マノン少尉もそれで良いよな?」


 しかしマノンは、地面に落ちている千切れた階級章を見つめたまま何も言わない。


 リナが「参ったなぁ」とつぶやきながら、再びギメ大尉の方を向いた。


 そこでアイナが「あっ」と声を上げた。


 その瞬間、一発の銃声が響いた。


 リナの目の前のギメ大尉の頭が弾ける。


 直ぐにリナが振り向くと、拳銃を構えたままのマノンがいた。


 硝煙が3人の間を漂う。


 ギメ大尉が外骨格を着装したまま、前のめりに倒れる。


 リナが溜め息をついた後、ポツリと言う。


「はあ〜、やってくれるじゃないの……ま、仕方無い」


 するとアイナ。


「まさか撃つとは思わなかったよ〜。マノン少尉もやる時はやるんだね〜。でさ、これどうするの?」


「ギメ大尉は不発弾で少年と一緒に爆死。それで良いでしょ。さあてと、早いとこ墓穴を掘るかね」


 リナはギメ大尉が装着していた作業用の外骨格である機動歩兵を着て、穴を掘り始めた。

 その間にアイナは守備隊の小隊長を呼びに行く。どう説明するか考えながら。


 マノンはしばらくそれをジッと眺めているだけだったが、いつしか穴掘りを手伝い出していた。


 守備隊の小隊長に説明したら全く疑う感じもなく、嘘の報告を信じた。銃声は人を呼ぼうとして空に撃ったとした。死体を調べられたら大変だったが、そんな事もされなかった。

 そして2人を埋葬すると小隊長も戻って行った。

 師団本部に報告したところ、守備隊の小隊長のコメントもあって師団司令部も全て信じた。

 こうして思った以上に、あっさりと片付いてしまった。


 マノンは思う。

 ジョシュの死は確かに悲しい以上のものがある。しかしそれ以上なのが、人を殺してしまった自分だ。

 言葉では説明出来ない感情が、マノンの心の中で渦巻いていた。

 だがその感情は人を殺した罪悪感ではなく、少年のかたきを討てた満足感や達成感であった。その感情を抱いた自分が許せなかったのだ。

 

 マノンはしばらくの間、ジョシュ少年の墓の前で一人座っていたが、突然立ち上がる。


 そして深呼吸。


 そして足早に自分の宿舎に戻って行った。



 □ □ □



 翌日の朝に守備隊だったの男達の小隊は、輸送艇で去って行った。人目など気にしないカップル達が、別れを惜しんで抱き合う光景が、あちこちで見られたのは言うまでもない。


 そして火宝山には、20人も満たない数の懲罰大隊が残された。


 その翌々日のことだった。

 師団司令部から無線があった。


 その内容というのは、新しい大隊長と大隊本部要員が来ると言うもの。それに加えて補充兵まで来るらしい。補充兵の人数はまだ未定らしいが、小隊単位での補充というから驚きだ。


 5日後、補充兵の乗る輸送艇が入港した。


 輸送艇から降りて来た兵士を見守るのは、マノン達3人だけだ。


 ぞろぞろとタラップを歩いて来る女達。

 一目見て普通の奴らじゃ無いことは分かる。犯罪者の面構えだ。中には軍人っぽい奴もいるが、まともな奴は一人も居ない様に見えた。


 輸送艇の士官がマノンを見つけると、挨拶もそこそこに書類の封筒を手渡し、サッサと輸送艇に乗り込む。そしてあっという間に出港して行った。


 港に降り立った兵達は、整列もせずにおしゃべりを初めていた。


「静まれ!」


 マノンが大声を上げた。


 すると視線がマノンに集まる。


「この中に士官か下士官は居ないのか」


 少しの間を開けて名乗り出て来たのは3人だ。3人とも伍長の階級章を着けている。

 小隊長だろう。


 だが新しく来るはずの大隊長と、大隊本部要員が居ない。

 仕方無くマノンは目の前の兵達を仕切り、兵科ごとに整列させた。


 突撃兵小隊、機動猟兵小隊がそれぞれ1個小隊。そして装甲歩兵小隊は2個小隊だった。

 荷物は後から届くらしい。

 武器や装備は最低限しか持っていない。

 特に装甲歩兵小隊は肝心の装甲歩兵が無い。それも後から来るのか?

 マノン達は半信半疑だった。なんせ今までは兵員の補充があっても、機体の補充は無かったからだ。しかも2個小隊と言えば12機の装甲歩兵が必要だ。

 そこでマノンは思い出す。

 グラーフ中将との約束。

 マノンは以前グラーフ中将に、武器や装備の補充をお願いして許可されていた。それが今回の補充なのだろう。

 それなら必ず、機体の補充もあるはずとマノンは考えた。


 その2時間後、港に輸送艇と駆逐艇と4隻の巡視艇が接岸した。待望の武器と装備、そして装甲歩兵だった。全員に1機配備出来る程の数である。機種はやはり旧型の89式だが、久し振りに二桁の機数まで揃った。

 それを運んで来た輸送艇の他にも、駆逐艇が入港している。通常の護衛ならば沖合いに停泊するのだが、入港するということはそう言う事だろう。それと巡視艇が4隻だ。こっちは恐らくこの火宝山に配備するのだろう。


 駆逐艇から20数人の兵が降りて来た。続いて下士官や士官が何人も降りて来た。彼女らは懲罰を受ける様な軍人には見えない。身綺麗だし規律もとれていると思えた。


 マノン達3人が出迎えると、士官達がマノン達の元へやって来た。その中には中佐の階級の者がいる。彼女こそ大隊長であった。









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