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28話 不発弾







 守備隊の男達の部隊移動だが、もちろん、あのジョシュ少年もいる。実はそれが知らされたのは移動の前日の昼過ぎ、先日の敵飛空艇の爆撃の不発弾の処理で、誰もが大忙しの最中であった。

 

 そうなるとジョシュ少年は、ソワソワしっぱなしとなる。危険な爆弾処理中だというのに、完全に上の空。何度も怒鳴られていた。

 そんなジョシュ少年は、他の兵士にとってからかいの的であった。

 それでも何とか主要な場所の不発弾処理も終わり、残す所は一箇所だけとなる。それはギメ大尉の宿舎近くであった。使われていないから一番後回しとなっていたのだ。


 そして小隊長の号令で一旦休憩となる。その時小隊長は、ニヤニヤしながらジョシュ少年にある命令を出した。


「ジョシュ一等兵、この封筒の中に引き継ぎ書類が入っている。これをマノン・クルーム少尉に渡して来てくれるか」

 

 ジョシュ少年の顔は一瞬で笑顔となる。

 小隊長からの粋なはからいだ。


「了解しました。ジョシュ一等兵、早速行って来ます!」


 封筒を受け取るや否や、ジョシュ少年は疾風の如く走り出した。


 これが最後のチャンスかもしれないとジョシュは考えており、それなら自分の気持ちを伝えようと決意した。いわゆる告白である。


 そしてマノンのいつもいる格納庫を目指して、少年は息を切らして走る、走る。

 

 途中、港近くを通る時、巡視艇が停泊しているのに気が付いた。

 そのまま通り過ぎようとしたのだが、巡視艇から降りて来た士官を見て足を止めた。見覚えのある人物だったからだ。


 その人物とはギメ大尉だった。


 ジョシュ少年は、ギメ大尉が重傷で入院した事も知っている。だから普通に「退院したんだな」と思った。少年にしたらその程度の興味しか無い。

 それで立ち止まり敬礼した後、足早に立ち去ろうとした。

 

「待ちなさい、一等兵」


 ギメ大尉に止められた。


 ジョシュ少年は素直に止まる。


「はい、大尉殿」


 そう言って再び敬礼。


「悪いけど、私の荷物を宿舎まで持って行ってちょうだい。頼んだわよ」


 そう言うや、杖を突きながら去って行く。

 片足がどうやら義足の様で、ぎこち無い歩き方だ。


「大尉殿、僕はこの書類をマノン・クルーム少尉に渡しに行けとの命令がーー」


「そんなの、後回しにしなさい!」


 振り返りもせずに、そう怒鳴り散らされてしまえば、一等兵の彼には何も言い返せない。

 ギメ大尉はそのまま立ち去った。


 ジョシュ少年は「そんなの自分の部下にやらせれば……」と小声でつぶやくが、ギメ大尉の部下は爆撃で戦死したんだと思い出す。


 どのみち士官からの命令を断わることなど出来やしない。仕方無く、ジョシュ少年は向きを変えて走り出す。サッサと荷物を届けて、マノンの所へ行こうと考えた。


 


 □ □ □




 ギメ大尉は火宝山の指揮官代理をやっているマノンの元へと向かった。指揮権を早急に自分の元に戻す為だ。あんな奴に手柄を取られる訳にはいかないと。

 ギメ大尉の望みは、早くこの懲罰大隊から抜け出す事だ。比較的安全な後方任務に戻りたかったのだ。それには手柄が必要である。

 だがいつもマノン達に邪魔されていると思っていた。


 格納庫の扉を開けるとマノン達3人が、楽しそうに会話しながら機体整備をしている最中だった。

 それだけでギメ大尉は「私は死にそうだったのにっ」と、怒りの感情が込み上げてくる。完全に八つ当たりである。 

 それで思わず声が出た。


「マノン少尉!」


 半ば怒鳴り気味に声を駆ける。

 すると当然、視線がギメ大尉に注がれる。


 そして3人の表情はまるで、ゾンビを見る様な形相となる。

 アイナが小さな声で「ひっ」と声を上げる。

 するとリナも「で、出た!」と今度はハッキリとした声を発してしまう。


「な、何を驚いているの!」


 ピシャリと言われて静まり返る格納庫。


「本日を持ってこの部隊に復帰ずるわよ」


 そう言われて焦る3人。

 そこでマノンがギメ大尉の足に気が付く。


「大尉、その足は……」


 そこまで言って言葉に迷う。

 左足が義足だと分かったのだ。


 するとギメ大尉。


「大丈夫よ、後方の仕事ならこなせるわ……」


 再び沈黙。


 次いでギメ大尉が、何か言おうと口を開き掛けた瞬間だった。



ーー爆発音



「ひ、ひ〜、爆撃よ〜!」


 頭を抱えてその場に縮こまるギメ大尉。


 一瞬身を小さくするマノン達だったが、爆発は1回だけ。外に出て空を見回しても地平線を見ても、敵の姿は無い。そうなると考えられるのはひとつ。

 マノンは爆発の煙の方向を見て言った。


「まさか、あれは大尉の宿舎の不発弾……」


 するとギメ大尉。

 恐る恐る顔を上げて言った。


「そ、そう言えば一等兵の少年に、私の荷物を置きに行くように命じたのよ……」


 直ぐにマノンの表情が変わる。

 一等兵で少年と言ったら、今は守備小隊の中にジョシュしか居ない。

 

「まさか!」


 マノンは格納庫から飛び出した。


「アイナ、私達も行くよ!」


 リナとアイナもマノンを追うように飛び出す。


 残されたギメ大尉は話の流れから、自分の命令で少年が大変な事になったかもしれないと自覚した。

 慌てて自分の宿舎に行こうとするが、足の義足が言うことを聞かない。その時、格納庫内で作業用の機動歩兵を見つけた。機動歩兵と言うと大層な名称に聞こえるが、単なる作業用の外骨格である。

 

 ギメ大尉はその外骨格を身にまとい、自分の宿舎、つまりは爆発の方へと向かったのだった。


 



 マノンが息を切らしてギメ大尉の宿舎近くに到着すると、側道に爆発痕が出来ていた。

 不発弾があった場所である。

 そしてそこには焼け焦げた書類が散らばっていた。

 その切れ端を拾い上げるマノン。

 それは守備隊の引き継ぎ書類だった。

 それと一緒に千切れた一等兵の階級章が目に入った。


 急激に力が抜け、ガックリと両膝を突いてしまう。

 そしてその先の草むらの中には、ジョシュの血だらけになった体の一部が見えていた。


 マノンの視界が急激に霞む。


「ジョシュ……なんで、なんで…………」


 止めどなく涙が溢れた。

 堪えても堪えても止められなかった。


 そして声を上げて泣いた。

 

 遅れて来たアイナとリナは何も出来なかった。そんな姿のマノンは、初めて見るからである。どうして良いか2人とも分からなかったのだ。

 ただ見守るしかなかった。


 そこへ外骨格の駆動音を響かせて、ギメ大尉が到着した。


「こ、これはどういう事なの……」


 ギメ大尉は不発弾の事など知らない。

 知らないでジョシュ少年に指示したのだ。

 だがマノンにとってはそれはどうでも良い事。


 突然立ち上がるマノン。


 そしてゆっくりと振り返る。


 アイナとリナが一歩後退りする。


 マノンの表情が余りにも冷たく、殺気に満ちていたからだ。


 だが一番驚いたのはギメ大尉だ。

 驚いたというよりも、死への恐怖を感じたのだろう。ギメ大尉の顔からは表情が消え、完全に血の気が失せていた。


 ギメ大尉は小さく「ひっ」と発して、その場で固まった。

 ただギメ大尉の震えに反応した外骨格が、意味の無い細かい作動を何度も何度も繰り返すだけだった。

 

 マノンが腰のホルスターに手を掛ける。

 そしてゆっくりと拳銃を引き抜いた。














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