26話 師団長が来た
マノンは敵の陸戦艇が轟沈しのを確認すると、無線でアイナとリナに連絡をした。
『アイナ、リナ、今どこにいるの。こっちは一応は終わったわよ。あとでドラム缶の回収に来なくちゃいけないけどね。聞こえてる?』
するとアイナが返信する。
『マノン少尉! どこに行ってたのよ〜!』
続いてリナからも。
『そうだよ、全然連絡とれなかったから心配したんだぞっ』
『ごめんなさいね。ちょっと揚陸艇に手間取ってたのよ。でも燃料は手に入れたわよ。ワイヤーでブイに繋いで砂漠に投げ込んであるから、後で回収しなきゃいけないけどね。それよりちょっと派手にやっちゃったから、敵が集まって来そうだね。ひとまずはここから逃げましょうか』
そんなやりとりの間にも、敵の飛空艇やら駆逐艇が迫って来ていた。
それも当たり前の話で、ゴブリン陸戦艇部隊は短時間の内に駆逐艇2隻と空母1隻が沈められたのだ。それも人族との戦線となっている場所ではない後方の部隊。ゴブリン軍としては、その沈めた部隊を探そうと必死だった。
炎宝山に航空攻撃へ行っていた飛空艇は急遽呼び戻され、他の空母は一旦はずっと後方へと下がらせる命令まで出していた。
それを知らない人族軍は、敵が撤退を始めたからチャンスと思い、炎宝山後方に配置していた陸戦艇部隊を前へと進ませた。攻勢に出たのだ。
攻勢に出た人族軍陸戦艇部隊は、そこで謎に破壊された駆逐艇2隻、さらには空母1隻の残骸を見るのだった。
敵は居なくなり、味方陸戦艇部隊が進出して来たおかげで、マノンは輸送艇を先程の戦場へと進出させた。
『敵は後退したみたいね。今ならドラム缶を回収できるわよ。急ぎましょう』
マノンはそう言って噴射ブーツを機体に装着させ、真っ先に砂漠に飛び込んだ。
続いてアイナとリナも、恐る恐る砂漠に入り込む。
その時上空では、味方の飛空艇が周囲の偵察の為に飛び回っていた。
『イ号11、こちらハ号33。現場上空に到着したんだが、この辺りで活動している味方陸戦艇はいるか調べてくれ』
『こちらイ号11。その辺りに味方は居ないはずだ。ハ号33、何か発見したのか』
飛空艇のパイロットは機体を旋回させ、地上を観測しながら言った。
『ああ、損傷の酷い輸送艇が1隻と装甲歩兵が3機活動している。味方の識別信号を発しているから敵ではないのは確かだと思う。遭難って訳でもないだろう』
『了解した。近くの火宝山に守備隊が配備されているから、そこから来たのかもしれない。念の為、こちらから駆逐艇を差し向ける。それから例の爆発に関しての情報はどうだ』
『敵の陸戦艇の残骸を発見した。1隻は駆逐艇クラスと思われる。もう1隻も駆逐艇と思われるが、かなり酷い状態だから何とも言えないな。それと大型の陸戦艇の残骸があるんだが、これはもしかしたら敵の空母かもしれないぞ。いや、きっと空母だ。飛空艇の残骸もあるから間違いないだろう』
『ハ号33、空から見て原因は分かるか』
『味方の装甲歩兵小隊が攻撃に向かったと聞いたが、彼らが撃沈したとは考えられないのか』
『それは無い。彼らの最後の連絡は撤退するとの連絡だったからな。そこにいる3機の装甲歩兵の部隊がやったんだろう。ハ号33、彼らの部隊を確認出来るか』
『イ号11、低空飛行して彼らと連絡を試みる』
『了解、以上』
飛空艇は旋回しながら高度を落として行く。
そして輸送艇がハッキリと見える高度まで降りて来た後、無線での交信を試みた。
『こちらハ号33、上空偵察をしている飛行艇だ。そこの輸送艇、聞こえるか。所属部隊を名乗れたし』
すると輸送艇の通信兵から直ぐに返信があった。
『こちら輸送艇マウラ、ええっと……現在は第999懲罰大隊に所属……だと思われる。詳しくは師団司令部へ直接問い合わせてくれ』
それを聞いて飛空艇のパイロットは驚く。
『第999懲罰大隊だと? あのアラクネ部隊のことか……理解した。一応確認させてもらう。その前にひとつ質問がある。ここに散乱している陸戦艇の残骸についてだ――』
□ □ □
マノン達は味方の陸戦艇がくる前にと、必死でドラム缶の回収を行なっていた。
『マノン少尉、上空に飛空艇。偵察機っぽいな』
そうリナが報告するとマノン。
『1機なら放って置いても大丈夫でしょ。それよりドラム缶よ。あと1缶どこかにあるからブイを探して』
『敵かもしれないぞ?』
『それなら尚更よ。敵が来る前にドラム缶を見つけて、ここから逃げるわよ』
そしてそのタイミングでアイナから連絡。
『み〜つけたっと!』
最後の一つのドラム缶を見つけたようだ。
そこからの3人は早い。
あっという間に輸送艇にドラム缶を積込むと、砂を巻き上げて火宝山へと走って行った。
火宝山に到着すると、やっと解放されて安堵する輸送艇の乗組員。そのまま彼らは本土へと戻って行った。実は彼らは一時的に徴用された、民間の輸送艇だったのだ。
そして大量の燃料を手に入れたマノン達は、早速その燃料を補給部隊との交渉に使うことになる。燃料は飛空艇に使うもので、金額的には1番高価な燃料だった。
マノン達は火宝山から出られない為、炎宝山の補給部隊が燃料を取りに来てくれる事となった。そこで取り引きとなる予定である。
翌日の昼頃、早くも炎宝山からの陸戦艇が来たと港から連絡が入る。
早速港に出迎えに行く3人。
3人が港に到着すると、ちょうど陸戦艇も接岸したところであった。
来島したのは護衛艇3隻と軽巡艇が1隻だ。
単なる取り引きにしては大掛かり過ぎである。
アイナとリナが「凄い」と驚く中、マノンだけは違和感を覚えていた。
港に到着すると、軽巡艇から陸戦隊の兵士達かを降りて来た。
一瞬、守備隊に援軍が来たのかと思うのだが、その後に降りて来た人物を見て、それが間違いだったと気付く。
降りて来たのはアラムート・グラーフ中将閣下、つまり師団長である。
陸戦隊は護衛の兵だったのだ。
マノン達は2度目の再会となる。
慌てて敬礼するマノン達。
そこでマノンの脳内で「何しに来たの?」という疑問が駆け巡る。
そしてグラーフ中将が腰の後ろで手を結んだまま、ゆっくりと歩いて来る。もちろんマノン達の方へだ。前と同じ様に、御付きの士官達も一緒だ。
ビビりまくるマノン達。
そしてマノンの真ん前で立ち止まる。
マノン達3人は敬礼したまま、何がバレたんだと考えを巡らす。
重い空気の中、グラーフ中将が口を開く。
「この先の砂漠で敵の機動部隊と戦闘があった。敵は空母や重巡を含む陸戦艇部隊でな。対する我々は空母はなく、せいぜい軽巡クラスの陸戦艇くらいしかなかったんだよ。早い話が不利な状況だった訳だな。戦闘が始まってもそれは変わらずでな。飛空艇の数も少ない中、我軍は砂漠仕様の装甲歩兵で陸戦艇に挑むしかなかったのだよ。しかしな、その装甲歩兵も大した戦果もなく、次々に撃破されてしまったよ。そんな中、敵の部隊の後方で爆発が起きていると報告があってな、敵部隊が混乱していたらしいんだよ。そこでな、たまたま敵の後方に入り込めた偵察飛空艇がいてな、1隻の輸送艇に3機の装甲歩兵を見つけたんだそうだ。ここまで聞いて、我々が何故ここに来たのか分かるだろ?」
アイナとリナは、歯を食いしばったまま敬礼を崩さない。どこか遠くを見つめたまま微動だにしないでいる。不動の姿勢を保っての沈黙である。そのコメカミからは汗が流れている。
しかしマノンは敬礼を崩し、グラーフ中将に対して涼しい顔で言った。
「さあ、閣下は何が言いたいのでしょうか」
するとグラーフ中将は薄っすらと笑みを浮かべて言った。
「我々が知りたいのは、あそこで何があったかだよ。何も無い所で敵の陸戦艇が3隻も沈むはずがないだろう。そしてだ。その場所には味方の輸送艇マウラがいて、さらに3機の89式装甲歩兵が居たんだよ。この辺りで旧式の89式装甲歩兵を使ってる部隊と言ったら、君達しか居ないよな」
マノンは顔に手を当てて肩の力を抜いた。
「あちゃ〜、参りましたね。そこまで調べが付いていましたか。そうです、確かに我々はあの場所にいました……ですが火宝山の守備範囲ですと進言します。それでもやはり、命令違反で銃殺刑ですか?」
アイナとリナの2人は敬礼したまま青ざめるのだった。