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25話 大型の揚陸艇









 マノンの放った2発目の噴進弾は、駆逐艇のロケット弾発射装置に命中した。対陸戦艇用の大型ロケット弾が4発装填された発射装置である。


 噴進弾は命中すると呪符された魔法が発動。

 紫電がロケット弾発射装置を包み込む。


 すると数秒遅れでロケット弾が誘爆。


 次いで今度は、ロケット弾に呪符されていた魔法が解き放たれた。

 

 それは爆裂魔法だった。


 ロケット弾に仕込まれた爆薬に加え呪符された爆裂魔法。しかも対陸戦艇用の大型ロケット弾が4発分。


 結果、大爆発。


 通常の呪符魔法は外部からの力ではそう簡単には発動しない仕組みなのだが、当たりどころが良かったのか、今回は発動してしまっていた。

 駆逐艇はもちろん轟沈である。


 それを見たアイナとリナは、ポカーンと口を開けたまま固まっていた。


『アイナ、リナ、もう一隻も沈めるわよ!』


 マノンの無線の声で我に返る2人。

 しかし今のアイナとリナの噴射ブーツの腕前では、マノンに付いて行くことさえ出来ない。

 必死に付いて行こうとするが、徐々に置いて行かれる二人。


 しきりに無線で待ってくれと伝える二人だったが、マノンには二人の声は聞こえていなかった。

 マノンはハイな状態になっていたからだ。

 その時のマノンは、脳内にアドレナリンが充満していた。


 マノンは真直ぐに駆逐艇へと機体を走らせる。


 一隻が沈んだのを見せられた駆逐艇は必死だ。

 全力の防御砲火がマノンに向けられていた。


 しかし今やマノンの目には、敵の砲火がハッキリと見えていた。


 少し機体の姿勢を低くすれば避けられる。そう思って姿勢を低くすると敵弾が機体の上をかすめて飛んでいく。

 

 次は右に機体を滑らせれば当たらない。そう思って僅かに機体を右に滑らせる。

 すると敵弾は機体の左の砂に埋もれていく。


 全てが手に取るように分かった。

 

 それを繰り返すうちに、マノンの周囲からは余計な音が消えていた。


 聞こえるのは薄っすらと響く敵の砲撃音と着弾の音。そして89式から聞こえる駆動音。

 嫌というほど聞いてきた音。

 

 だが今やそれが心地よいBGMとさえ思えた。


 一歩先には生死の境があるにも関わらず、今のマノンの五感は研ぎ澄まされていた。


 感じたままに行動すれば間違いがない。実際にそうであった。

 その証拠に全ての敵弾を避けている。


 マノンは噴進砲を構えたまま加速する。


 駆逐艇までの距離は急速に縮まる。

 とっくに有効射程に入ったがまだ撃たない。


 右に左に敵弾を避ける。


 距離100メートル。


 そこでやっと噴進砲を発射。


 一射目を撃って直ぐに90度回頭。


 噴進弾は船体へ吸い込まれる。


 爆発。


 そのまま機体は砂を巻き上げつつ、駆逐艇の横を船尾に向かって進む。


 そこまで近付かれると、マノンの機体に防御砲塔の旋回が追い付かない。


 マノンの機体を追うように、敵弾が砂に埋もれていく。


 マノンはそのまま船尾方向へ向かいながら二射目を発射。

 

 そして船尾を抜ける寸前に三射目を発射。

 それで噴進砲は弾切れとなる。


 しかしその三連射で十分だった。


 船体に数カ所の穴が空いた駆逐艇は、船体内部で火災が発生。

 煙を吐きながらその場をくるくると回り始めた。

 三射目の攻撃で舵を破壊されたのだ。


 マノンはそれを横目でチラリと見ただけで、視線を別方向へと向けた。


 その視線の先は大型揚陸艇。


 マノンはつぶやく。


「それじゃあ本番、行こうかしらね」

 

 ・

 ・

 ・

 ・


 マノンに狙われた大型揚陸艇だが、実際は揚陸艇ではなくて飛空艇の空母だった。

 その空母のブリッジでは大慌てだ。


 艇長のゴブリン士官が声を荒げる。


「どうなっている。駆逐艇が立て続けに二隻も沈められているんだぞ。敵はどこから撃ってきたんだ、誰か報告しろ!」


 この時点で二隻目の駆逐艇も総員退去命令が出ていて、ゴブリン部隊では沈没扱いとなっていた。

 

 部下のゴブリンが艇長に報告する。


「はい、無線によると敵の装甲歩兵に攻撃されたと言っています」


「装甲歩兵だと! いつの間に近付いてきたんだ。それで敵の戦力は?」


「はい、それが……報告を何度も確認したのですが……」


「何だ、ハッキリ言え!」


「それが敵の装甲歩兵1機に沈められたと……」


「はあ? 何を言ってるっ。1機しかいないはずがないだろ。1個中隊の間違いだろ」


「そ、それが沈められた2隻とも1機の装甲歩兵から攻撃を受けたとの報告です……たった1機に沈められたと言ってます」


「たった1機の装甲歩兵に2隻の駆逐艇が沈められただと? そんなはずがある訳ないだろうが!」


 空母の艇長がそう叫んだ瞬間だった。

 総員退去命令が出ていた駆逐艇が爆発した。


 その音と同時に、空母の飛行甲板に何かが降り立った。


 マノンの89式装甲歩兵である。


 飛行甲板の上に立ったマノン。さすがに同士撃ちを恐れて迎撃の銃弾は飛んでこない。

 ゆっくりと機体を旋回させて周囲を見回す。

 ゴブリンの飛空艇が2機ほど飛行甲板で待機しており、その周囲にはゴブリンの整備兵達がマノンの機体に視線を合わせて固まっていた。


 だいたいの状況は掴めたマノンは、ひとりつぶやく。


「思ったよりも大きいのね、この陸戦艇。それに揚陸艇にくせに飛空艇まで積んでいるのね。さて、この後はどうしたら良いかしらね」


 マノンはまだこれが空母だと気が付いていない。それもそのはずで、彼女は空母を見たことが無いのだ。

 マノンが呑気にキョロキョロしていると、甲板上の1機の飛空艇が発進を試みた。

 徐々に甲板上を加速して行く。


「甘いわよ」


 そうポツリと言って、固定武装の8ミリ連射銃を発射。対人用の武装だが、それで十分だった。

 8ミリ弾がランディングギアに命中。バランスを崩した飛空艇はそのままブリッジへ激突。炎上を始めた。

 それを境にゴブリン兵達が大騒ぎを始めた。

 甲板上を逃げ惑うゴブリン兵達。

 火災の消火など誰もしない。

 どのゴブリン兵も自分が逃げるので精一杯の様だった。


 サイレンが鳴り響き、スピーカーからは消火しろと怒鳴り声が響く。だが誰一人として命令に従う者はいない。


 時々小銃弾がマノンの機体に当たるが、ゴブリン兵の抵抗はその程度だった。

 飛空艇の空母に対装甲歩兵用の歩兵武器など、積んでいるはずもないからだ。

 だがこの時点でもまだマノンは、これが大型揚陸艇だと信じきっていた。


 しばらすくるとブリッジに激突した飛空艇が爆発。消化しようとする兵がいないため、火災はさらに酷くなる。


 それを横目で見ながらマノンは、飛空艇用の昇降エレベーターで格納庫へと降りて行った。

 格納庫に降り立つと、恐怖におののくゴブリン兵達が、蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。


 だがここでは逃げる兵達ばかりではなかった。必死に拳銃を乱射してくるゴブリン兵もいた。恐怖からくる乱射である。

 とは言っても所詮は拳銃。装甲歩兵には全く効果が無い。

 マノンはそれは無視して燃料らしいドラム缶を見つけ、近くにあったワイヤーにブイをくくり付けて、昇降エレベーターから砂漠に投げ込んでいく。燃料のドラム缶は拳銃弾くらいじゃビクともしない。


 そして幾つか投げ込んだところで、今度はライフル銃を撃ってくるゴブリン兵を発見。

 ちょっとウザいと思うマノン。

 それで空のドラム缶をその兵士達の方へ勢いよく転がしてやった。


 ゴロゴロと転がっていくドラム缶。

 聞こえるゴブリン兵の悲鳴。


 だが違う方からまだ撃ってくる。

 そこで目に付いた新たなドラム缶を転がした。

 転がした後に気が付いた。



ーー中身が入ったドラム缶!



 マノンは咄嗟とっさに昇降エレベーターに飛び乗り飛行甲板を目指す。


 甲板にたどり着く前に爆発。


 爆発の音と衝撃がビリビリと機体を振動させる。

 昇降エレベーターの上で危ないとこだったと一安心するマノン。


 何とか飛行甲板に出ると、そこでマノンの目にしたのは先程のブリッジでの火災だ。さっきより酷くなっている。

 まだ頂きたい品は沢山あるが、この状態は危険。引き上げるタイミングだとマノンは悟る。


 周りを見回せば、金になりそうな品が沢山目に入る。残念だが、マノンは後ろ髪を引かれる思いで、機体を砂漠へと飛び降りさせた。


 次の瞬間、格納庫で大きな爆発。


 昇降エレベーターが吹っ飛んだ。


 数秒遅れてまた爆発。


 船体の横から噴煙と火花が上がった。


 そのあとが凄かった。

 連続して爆発したかと思ったら、今度は大爆発が巻き起こった。


 砂漠の上を噴射ブーツで逃走しながら後方を確認するマノン。

 そこには空高くまで破片を飛び散らせる、“大型揚陸艇”の無残な姿があった。


 










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