22話 補給物資
敵のハング型に武器を向けられ、巡視艇が回避行動をとりはじめる。
船体を左右に揺らしだしたのだ。
そこへハング型が手に持った30ミリ連射砲を発射。
30ミリ砲弾が巡視艇の左右を掠める。
動く陸戦艇同士では、そう簡単には当たらない。それでも敵ハング型は射撃を止めない。
そして30ミリ砲弾が砂漠に着弾する度に砂が舞い上がる。
それを見てマノンは薄っすら笑みを浮かべた。
――イケる!
マノンは操舵室へ鉈を向け、機外スピーカーで檄を飛ばす。
『何をビビってるのっ、もっと近付くのよ!』
涙目になりながらも操舵手は速度を上げる。
そして100メートルまで接近した所で、巡視艇が被弾。しかし走行には問題ない。
巡視艇の乗組員は、泣きそうな顔でマノンの機体を見る。
『速度そのまま!』
それを聞いて操舵手は、諦めたように前を向く。
さらに50メートルまで接近。
数発の被弾を受けた。
それはさすがにマズくなる。
巡視艇から煙が上がった。
『急速回頭!』
マノンの叫び声に合わせるように、操舵手が舵を思いっきり切った。
すると急速に巡視艇が180度回頭。
船尾が砂の上を滑るように回る。
巡視艇が大きく砂塵を舞い上げる。
その砂塵はハング型が乗っている輸送艇へと降り注いだ。
一瞬視界を失う敵ハング型。
やっと視界が晴れたと思いきや、砂塵の中から赤く光るセンサーが現れた。
89式の正面センサーだ。
ハング型は慌てて30ミリ連射砲を構える。
「もう遅い!」
マノンは叫びながら愛用の鉈を叩き落とした。対装甲歩兵用の接近戦武器だ。
鉈はハング型のコクピットに叩き込まれた。
即座に地震魔法のアースシェイクが発動。
ほんの数秒、映像がブレた様に見えた後、敵ハング型はピクリとも動かなくなった。高速の振動がパイロットを肉片に変えたのだ。
鉈からは空になった魔力カートリッジが排出され、カラ〜ンと音を立てて甲板の上に落ちた。
するとハング型はゆっくりと傾き、砂漠へと転落。砂の中へと埋もれていく。
大喜びしたのは、まだ輸送艇に乗っていた元守備隊の兵達だ。
だが喜んではいられない。まだ戦闘は続いているし、輸送艇は火災が発生したままだ。
『火消し班は消火に全力を注ぎなさい。それ以外の者、まだこの輸送艇は動くんでしょ。早く港に着けなさい!』
マノンの指示が飛ぶ。
それを聞いて乗組員達は慌てて作業を開始する。
ジョシュ少年も消火に協力した。
そして敵の攻撃が続く中、何とか港に到着。そして元守備隊は再び元の配置に戻り、戦闘に参加する事となった。
マノンは直ぐに各部隊に状況を連絡させた。
無線連絡によると敵のハング型の空挺降下は14機で、対空砲によって2機撃破、1機が砂漠に落ちて砂に埋まり、3機を機動猟兵が地上で撃破。さらにアイナとリナが合わせて3機撃破、マノンが1機撃破した。そうなると残りは4機ということになる。
ただし味方に死傷者が出ていた。
それはギメ大尉達がいた、大隊本部からだった。
最初の敵飛空艇からの攻撃で、たまたま爆弾が大隊本部付近に落ちた。その時たまたま外で視察していたギメ大尉が重傷、一緒にいた本部員3名は戦死したらしい。
爆弾が大隊本部の掩蔽壕付近に落ちた瞬間、兵士達が小躍りして喜んだらしい。「それを待っていた!」とばかりに。しかしギメ大尉だけが生き残った事に、兵士らは酷く落ち込んだという。
そしてギメ大尉が重傷という報告を聞いたマノンは、小さな声でつぶやいた。
「しぶといわね……」
そうなると中隊長であるマノンがこの火宝山での指揮を執ることになる。第999懲罰大隊の中隊長クラスはマノンしかいないからだ。マノンの少尉という階級が今やトップだからでもある。
それに伴い彼女らの指揮が少し上がったように見えた。
そして戦況はというと、敵の飛空艇も時間と共に減っていき、味方の飛空艇も空に見えるようになってきた。そして挺降下してきた残りのハング型4機も、遂には味方の包囲攻撃で撃退した。
一息ついたところでマノンは師団司令部へ、状況を無線報告した。
そこで輸送亭に乗っていた守備隊は、火宝山での任務が正式に延長された。その報告を聞いてカップル達は、しばらく一緒にいられると大喜びだ。
そしてギメ大尉はというと、炎宝山の野戦病院へと運ばれて行った。それを見送ったマノンは、上手くいけばもう会わなくても良いかもしれないと、頬が緩みっぱなしとなる
野戦病院送りと言うことは、ポーションや治癒士でも治癒は無理と判断されたということで、それは間違いなく除隊となるはずだからである。
しかし良い話ばかりではなかった。
その翌日のことだ。
敵の陸戦艇部隊が集結しているとの情報が入った。
それは炎宝山及び火宝山の沖合いだ。
ゴブリン軍が資源の獲得の為、炎宝山を奪取するべく総攻撃を仕掛けてくるといったところだろう。
師団司令部では、今日明日くらいには敵の総攻撃が始まると予想していた。
それで火宝山にも物資の補充があった。要塞の武器や弾薬の補給品は当然だが、懲罰大隊の分の補充もあった事に誰もが驚く。
特に装甲歩兵専用の武器もあった事に、アイナとリナは驚きを隠せない。
「マノン少尉、これ見て、1式30ミリ自動砲っ。ああっ、それに出力装置に新式の衝撃吸収装置まである〜。うわ〜、信じられな〜い」
そう言って喜んでいるのはアイナだ。
格納庫に送られてきたコンテナを開けたところである。
そして別の武器を眺めて驚くのはリナだ。
「アイナ、こっちもすげ〜ぞ。2式噴進砲だぞ。これは初めて見るぜっ」
そこでアイナが、コンテナに書かれている送り主を見て疑問を口にした。
「あれ? なんで送り主の名前が書いてあるのかな」
軍がわさわさ物資を部隊に送るのに、送り主の名前など書くはずがない。
そこでマノンが口を開く。
「軍以外から送られて来たからよ」
するとリナ。
「どういう事だよ?」
「前にポンパンに頼んでおいたのよ。正式に軍を通しての発注よ。もちろんギメ大尉は知らないと思うけど。それとね、代金はもう金貨で払ってあるから安心して。もちろん私の取り分の金貨だから心配しないでね」
驚いてキョトンとする2人。
「良いの?」
「少しは払おうか?」
2人の言葉に首を横に振るマノン。
「大丈夫よ、気にしないで。生き残れないと金貨も宝の持ち腐れだからね。それでアイナ、例の件はどうなってるの?」
例の件とは首輪を外す計画の事だ。
だが聞かれたアイナは申し訳なさそうに返答した。
「全然見つからないんだよね〜。本当にそんな事が出来る奴がいるのかなぁ〜」
調達屋のアイナでさえ、見つけられないらしい。例え見つけたとしても首輪を外すには、この地までそいつを連れて来なくてはいけない。それはかなり難易度が高い。首輪のせいでこっちから行けないからしょうがない。それでも彼女らは諦めなかった。
「そう……引き続き探してちょうだい。アイナの腕に掛かってるから頼むわね」
「ああ〜、ハードル上げた〜〜」
「それより武器の調整を急ぎましょう。敵は目の前よ。ここで死んだら首輪が外れても意味ないからね」
そんなやり取りの中、補充品リストを眺めていたマノンが肝心な事に気が付いた。
「ちょっと待ってよ。これ、燃料の補給が無いじゃないの」
武器弾薬の補充はあったが、装甲歩兵の燃料の補充がないのだ。
するとリナが答える。
「出た、またかよ。そうなると、そうだな、せいぜいあと1回の出撃分くらいしか持たないね。ああ、それが上層部の狙いか。燃料を売って金に換えない様にしてるんだろうね。アラクネ部隊は信頼されてないからねえ」
そこでマノンがつぶやいた。
「そう言えばよ、燃料なら砂漠に沢山浮かんでるわよね……」
直ぐにピンときたアイナが答える。
「えっと〜、まさか敵の陸戦艇から奪うとか言ってる?」
すかさずリナが口を挟む。
「いやいや、それはいくらなんでも無理があるんじゃないのか。だいたい装甲歩兵用の燃料が積まれているかも分からないんだぞ」
しかしマノンは退かない。
「陸戦艇用の燃料があれば問題ないわよ。それを補給部隊へ持って行って、装甲歩兵用のと交換してもらえば良いでしよ。余った分は換金しても良いしね。他に手はあるなら聞くけど?」
「まあ、マノン少尉がそう言うならば問題ないけどな……」
「それなら決まりね」
こうして3人は大急ぎで新しい武器の調整に入った。