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15話 生き残った兵士









 マノン達は計画通りに街の中心部に向けて進む。味方の戦線に何気なく合流する為だ。

 反対にバーバラ達は、街の中心部から遠ざかる様に川伝いに歩き始めた。


 しばらく進んだマノン達は、戦闘中の味方部隊に遭遇する。

 その部隊は本来、懲罰部隊の後方にいるはずの部隊だった。ということは、マノン中隊の第2と第3小隊は直ぐ近くのはずだと思われる。

 マノン達は戦闘には参加せずに、こっそりと横を抜けて行く。


 戦闘が遠ざかった所で音信不通にしていた無線を解除し、第2と第3小隊に連絡を試みた。


『こちらアラクネ部隊第1装甲歩兵中隊のマノン。第2か第3小隊、誰か近くにいたら返答せよ』


 すると返答があった。


『こちら第2小隊のミヒロです。第2小隊と第3小隊の隊長は戦死。現在、私が指揮を執ってます』


 敵の真正面から攻撃した彼女ら2個小隊は、相当な被害を被ったらしい。


『こちらは東方面で敵の防御陣地と交戦した。そっちはどうなっているか報告せよ』


 一応は敵とは戦ったよのアピールは忘れないマノン。


 無線に出た者の報告によると、マノン達と別れてから直ぐに、敵のハング型1個小隊6機の待ち伏せと遭遇。反撃しつつ後退したらしいが、味方被害は大きく装甲歩兵3機が撃破され2機が損傷。小隊長2名を含む3名が戦死、1名が負傷したという。大損害である。

 第2と第3小隊は合わせて7機の89式があったのだが、今じゃ4機しか残っていない。しかもその4機の内2機は酷く損傷している。


 マノン達はその生き残りと合流した。

 結局、まともに動く装甲歩兵は2機。マノン達と合わせて5機だ。それと装甲車が1両健在だ。

 そこでマノンは大隊本部へ無線で現状報告した。


 すると大隊長のギメ大尉。


『その程度で済んで良かったと思いなさい。他の中隊はもっと被害が大きいからね。それからね、新たな命令よ。その近くに第2中隊の機動猟兵と第3中隊の突撃兵の生き残りがいるはずなのよ。その部隊と直ぐに合流して部隊を再編成して。1時間後にその部隊で再び攻撃が始めるからね。連絡があるまでその場で待機よ。良いわね、以上』


 弾薬補充や燃料補充の話さえさせてもらえず無線は一方的に切られた。

 いつもの事だが、マノンはやり切れない思いである。

 

『聞こえたでしょ、第2中隊と第3中隊の生き残りと合流しろって命令よ。この辺りに居るみたいだから探すわよ』


 一応はそれぞれの中隊本部へ無線連絡してみる。


『こちらアラクネ部隊、装甲歩兵中隊のマノン。機動猟兵中隊および突撃兵中隊、いたら応答せよ』

 

『……』


 応答は無い。


 ちなみに無線が通じず音信不通が続くと、ギメ大尉の判断で罪人の首輪を発動させかねない。もし間違って首輪を作動させ兵を死なせても、とがめられることはない。懲罰部隊の兵士の扱いはそんなものだ。戦時下の書類など、何とでも誤魔化せるものだ。

 懲罰大隊は師団司令部直下の命令系統なのだが、その生死の判断については事実上は大隊長のギメ大尉が握っている事になる。


 どちらの中隊からも連絡がないと言う事は、全滅したのかそれに近い被害の可能性もある。どっちにしろこのままいけば、ギメ大尉は首輪を作動させて全滅だ。

 

 その時だった。


『こち……バーバ……』


 感度が悪く途切れ途切れだが、間違い無くバーバラ伍長の声だった。


『こちらマノン、感度が悪いみたいね』


『現在地……南……壊れた橋……ザザ……』


 何とか壊れた橋は聞き取れた。

 それでマノンが地図を確認すると、近くに橋を見つけた。

 バーバラ達は恐らくその橋の近くにいるのだろう。地図上では壊れているかは分からないが、マノン達の今いる所からは一番近い橋だ。可能性は一番高いと考え、マノンはその橋へ行くことにした。

 

 マノン達が移動していると、時々街から砲撃がくる。それを軽くかわしながら橋へと向かう。


 時々雲の合間から敵の飛空艇が、降下してきてマノン達に銃撃してくる。ただ細かい機動が出来る装甲歩兵には、そう簡単には当てられるものではないし、マノン達の回避技術をもってすれば、それくらいは難なく避けてみせる。

 だが逆に空中を飛ぶ飛空艇を撃ち落とす事も簡単では無い。

 結局は無駄弾を浪費しただけだった。


 橋が見えてきた。


 マノンが思ったより小さな橋で、長さ20メートル程の橋。幅は軍用トラックが1台通れる位しかない。


 その橋の対岸に味方の軍服の兵士が見えた。

 突撃兵中隊と機動猟兵中隊の兵士達だった。

 バーバラ達もいる。ただそこにいる誰もが傷だらけでボロボロだった。


 バーバラ達も何とかゴルドーの街から逃げ延びて、部隊に合流出来た様だ。


 マノン達の装甲歩兵が5機やって来ても、突撃兵達は目もくれずに、座り込んでうなだれたままだ。相当疲れていると思われる。


 マノンが機体から降りて、兵士達の前に立った。そこで初めて何人かの兵がマノンを見た。


 その中の一人、バーバラ伍長もマノンに視線を向けたのだが、嫌そうに直ぐにそっぽを向く。

 色々あったから気まずいのだろう。

 

 それでマノンはえてバーバラ達には声も掛けずに、大隊本部からの命令を全員に向かって伝えた。


「皆、大隊本部からの命令よ。アラクネ大隊は残存部隊で1時間後に再度攻撃を掛ける事になったわ。準備はしておいて。補充は来ないから各自食料と弾薬は調整するように。それまではここで待機よ。ところで他の兵はどこにいるの?」


 マノンが疑問に思ったのも当然で、そこにいる突撃兵は12人と機動猟兵が16人しかいない上に、指揮官である中隊長も見当たらない。それに商業ギルドに一緒に行った、バーバラの部下も2人しか見えない。明らかに人数が足りない。


 そこでバーバラ伍長が口を開く。


「1時間くらい前の戦闘で皆やられたよ。たまたま通り掛かった味方トラックに負傷者だけは乗せたけどね。どうせ懲罰部隊の兵士はろくな治療はされないからね、助かる見込みは薄いと思うよ。助かったところでまた懲罰部隊に戻って来るんだろうし、いっそ死んだ方がマシなのかもしれないね。ねえ、中隊長さんよ、私達はこの後どうなるんだい」


 あの強気な性格なバーバラがこれである。

 それにあれだけの金を得られたのにだ。

 確かにこのままだと宝の持ち腐れという事になる。

 しかしマノンはバーバラ伍長の質問には答えずこう言った。


「死にたきゃ勝手に死になさい。生きたければ戦いの準備をすることね」


 それを聞いた突撃兵達はしばらくは地面を見つめていたのだが、バーバラ伍長が立ち上がったの見て徐々に動き出す。

 弾薬の確認や武器の整備を始めた。


 それを見たマノンも、自機のコクピットに入り込んで整備を始めた。

 すると他の装甲歩兵も燃料や弾薬のチェックを始める。

 燃料は何とか持ちそうであるが、弾薬が乏しく頭を悩ますマノン。特に多脚戦車などの装甲の厚い敵が来た時の武器が乏しい。

 あるのはノーマル仕様のロケット弾くらいだが、それは装甲車や装甲歩兵くらいにしか効かない。

 そうなると敵のトーチカには、機動猟兵に頼る事になる。



 






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