12話 金庫
明かりの方へと下水道の中を進むマノン達。
明かりに近付いて行くと、銃声の音が繰り返し聞こえてきた。何かと戦っている様だった。
それに人の声も聞こえてきた。
そして見えてきたのは5人の人族。バーバラ達だった。
装甲歩兵を見るなりバーバラ伍長が大声で言った。
「来るのが遅いんだよっ。取り敢えずこいつらを何とかしてくれ!」
この地点がバーバラ達との合流場所だったのだ。
そこでバーバラ達はジャイアントラットに出会したという訳だった。
ジャイアントラットとは、ドブネズミか魔物化したもので、大きい個体となると猪くらいある。
周囲の死骸の数から、かなり倒しているらしい。だが近くの排水溝からは次々に新しい個体が出て来て、これはキリが無いと思われた。
そこでマノンは機外スピーカーを使って言った。
『バーバラ伍長、皆を機体に乗せて。ここは逃げるが勝ちよ』
それを聞いたバーバラは「仕方無いね」と言って、装甲歩兵の脚部に足をかけて掴まった。部下達もそれに従う。
そして多数のジャイアントラットを残して、急速にその場所から離れて行った。
装甲歩兵の脚に掴まりながら、バーバラが操縦席のハッチをコンコンと叩く。
するとハッチが開きマノンが顔を出す。
そこでバーバラが一言。
「遅刻だよ」
「ごめんなさいね。下水道入口に敵の陣地があったのよ」
「ほほう、どのくらいの部隊規模だったんだ?」
「そうね、装甲歩兵小隊と速射砲小隊、それに守備隊が2個小隊ってとこかしらね」
バーバラが驚いて大声を出した。
「ええっ? それって1個中隊規模じゃないの!」
「そうね、大したこと無かったけどね」
「その言い方だと、逃げて来たんじゃなくて戦ってきたのか?」
「そうよ。でも弾薬をちょっと消費しただけだから心配しないで。それに主要な敵は全て潰したから大丈夫、作戦に支障はないわよ」
唖然とするバーバラ。
旧式の装甲歩兵3機で、敵1個中隊を退けるとか普通じゃない。しかも主要な敵は潰したとか言っている。それは壊滅状態にしたってことだろう。
それを聞いたバーバラは、マノン達への考えを変えることにした。噂通り、こいつらの強さは本物だったと。
しばらく下水道を進むと目的の場所に到着した様だ。地図を確認して間違いないと判断。
マノンが指示を出す。
「ここで間違い無いわ。荷物を降ろして直ぐに作業に入るわよ」
リナの機体の背中に縛り付けた“掘削機”を、全員で下ろすと、早速穴掘り作業に取り掛かった。見張りに測量にと割り当てられ、商業ギルドに向かってひたすら掘り進める。
掘削機はリナの装甲歩兵が受け持った。
小型とはいえ、装甲歩兵が取り扱う大きさだ。その分、掘り進める速度は早い。
掘削の作業音も大きいが、地上では戦闘が始まっているから問題無い。
2時間ほど掘り進めた頃、掘削音に変化があった。音が変わっただけでなく、掘削機が先へ進まなくなったのだ。そこでバーバラ伍長が掘削を止めるように指示。確認する為に穴の中へと向かう。
穴の中でバーバラ伍長がつぶやいた。
「掘り当てたな……」
それを聞いたマノン軍曹。
「どうやらたどり着いたみたいね」
商業ギルドの壁である。
そこでリナが言った。
「マノン軍曹、ここからはマノン軍曹の出番だね。土魔法はお任せしましたよ」
そう言って掘削を交代する。
商業ギルドの壁は魔法が込められていて、そう簡単には削れない。それで土魔法の得意なマノンの出番となる。
マノンは自分の機体に乗り込むと掘削機を受け取り、少しだけ見えてきた商業ギルドの壁らしき場所に向き合う。そして掘削機に魔力を流し込むと、その壁に掘削機をあてた。
明らかに先程とは違う音が響き渡る。
そして壁が崩れていく。
予想以上に早く壁には穴が空いた。
そこで一旦掘削を止め、真っ暗な壁の向こう側を確認することになる。
バーバラの部下の二人がライトで中を照らす。
通路になっているようだ。敵兵の姿は見えないと言うので、バーバラ達5人が中に入って行く。それにリナも付いて行く。
下水道側には、マノンとアイナの2人が見張り役となった。
バーバラ達は地図を見ながら通路を進む。
ここは商業ギルドの地下にある、隠し扉の奥の隠し通路にあたる場所。敵は居ないはずだが、一応は警戒する。
それに地上では戦闘が起こっていて、敵は地下なんて気にしてるはずがない。
そして遂に目的の部屋の前に到着した。
バーバラ伍長が扉を開ける。
ライトを照らすと中は5メートル四方の部屋で、正面に鉄格子が見える。その奥に金庫の扉が見えた。
まずは鉄格子を取り払う作業だ。
人が通れれば問題無いので、鉄格子数本の根元に爆薬を仕掛ければ良い。この作業はすんなりと進み、鉄格子には人が通れる程の隙間が出来た。
バーバラ達5人とリナが鉄格子を通り抜け、金庫の扉の前に立つ。
全員の顔からは自然と笑みがこぼれた。
そしてバーバラ伍長が気合を込めて言った。
「とっとと作業に掛かるよっ」
そこからは目の色を変えて作業に励んだ。
それはもう、お互いが今まで見たことがない姿だ。
「ねえ、そんな頑張る姿、初めてみるよ」
「何を言ってんのさ。あんたの真剣な顔こそ初めて見たよ。ふはははは」
幾つものライトを吊り下げさながら昼間のように明るくなった室内で、まるで井戸端会議をするかの様に笑い声を響かせながら作業は進んだ。共通するのは、そこにいる誰もが笑顔だってことだろう。
現在、金庫の扉に爆薬を仕掛けているところだ。ポンパンからカードキーを預かっていたのだが、割れていて使えないかもしれないと言われていた。実際、試してみたが使えなかった為、第2プランの爆破へと移行していた。
爆薬を仕掛け終わり、いよいよ爆破となる。
「皆、準備は良いねっ」
そう言ってバーバラ伍長が皆の顔を見渡した。爆破に巻き込まれない様に、全員が通路の曲がり角まで下がっている。
マノン達にも見える所だ。
そして待ちに待った、爆破の時間だ。
嬉しそうにバーバラ伍長が爆破のスイッチを押した。
「爆破っ!」
地響きと共に、激しい音と衝撃が辺りを襲う。
あっという間に煙で充満する。
慌ててガスマスクを装着する面々。
数秒後、土煙で視界が閉ざされる中、待ち切れないとばかりにバーバラの部下が立ち上がる。
「ちょっと確認して来るよっ」
そう言って金庫の扉に向かう。
1メートル先が見えない中、その姿は直ぐに消えていった。
しばらくすると土煙の中、女性の叫び声が響いた。
「凄いよっ、金だ、大量の金だよ!」
その声を合図に、ワッと金庫室に皆が殺到した。
リナもその後に付いて金庫扉の前に行くと、鍵穴が破壊された扉が見えた。
扉は開いていた。
視界を塞いでいた煙も大分収まり、金庫室の中が見えてきた。
リナは胸を高鳴らせて中を覗いた。




