11話 敵ハング型接近
その頃、アイナとリナは敵ハング型と戦闘に入っていた。
敵4機の内2機は恐らく新兵らしいが、残り2機はそこそこ戦闘慣れしたパイロットの様だった。それは機体の動きを見れば一目瞭然である。
そして敵ハング型4機に対してアイナとリナは、真正面から撃ち合う事になった。
お互いに盾を前面にかざし、致命箇所への被弾は避ける姿勢だ。
新兵のハング型2機は連射を繰り返し、あっという間に弾切れを起こした。そして何やら武器の操作を始めた。弾倉を交換するらしい。新兵ほど無駄な弾丸をバラ撒くものである。
しかし装甲歩兵にとって弾倉交換は、大きな隙が出来る。新兵の場合は弾倉交換はプログラム行動に頼る。慣れない内はマニュアル行動よりもプログラム行動の方が早いからだ。ただしプログラム行動だと他に何も出来なくなる。それ程までに弾倉交換というのは繊細な行動ということ。そしてその行動の間は無防備となる。
それをリナは見逃さない。
『アイナ、前に出る。援護頼むよ』
そう無線で伝えると、リナは機体の速度を上げた。
それに対して敵のベテラン2機が、リナの機体を近寄らせない様にと、30ミリ連射砲を撃ちながら新兵の前に出る。
敵の30ミリの砲弾は、当たれば89式の装甲など紙の様に貫通する。ヘタをしたら一発で終わる。だからリナも当たらないようにと必死だ。
木や岩などの遮蔽物を利用しながら敵の射線を躱し、照準されない様にジグザグに移動する。
それでも時折敵弾は当たるものである。
敵の放った30ミリ砲弾が、構えていたリナの盾に何発か命中した。機体じゃなかったのはラッキーだった。ゴブリン製の盾は頑丈だ。その程度では壊れない。
だが砲弾には魔法の呪符がされていた様で、直ぐに爆裂魔法が発動した。
30ミリ砲弾にしては少し大きな爆発が連続で起こる。
破片が散らばりリナの機体を叩く。
89式の機体は旧型なため、一部の配線は簡単な防護板で囲ってあるだけだ。そこに破片が命中でもしたら、操縦に支障が出てしまう。
リナはそれを避けるためにも、盾の後ろに機体を隠れる様に持っていく。
そして何事もなく再び速度を上げた。
その間にアイナは、敵ベテランの機体に数発の命中弾を与えた。
すると敵ハング型は転倒。必死に起き上がろうとするが、足関節から火花が散るばかりで起き上がれない。それを確認したアイナは直ぐに別のハング型に狙いを付けた。
だがそう簡単にはやられてくれない。敵は味方機から離れて、単機でリナの機体に迫る。
そこでリナはアイナに無線で告げた。
『こいつは私に任せてくれる。アイナは新兵2機を頼むよ』
『分かったけど、あんまり時間を掛けないでね~。まだ始まったばかりだよお』
『分かってるよ!』
そう言ってリナは遮蔽物を巧みに利用して接近戦に持ち込んだ。
この状況で接近戦用の武器への持ち替えは、弾倉交換同様に危険を伴う。
だが敢えてリナは接近戦に持ち込む。ただし武器の持ち替えは無し。
リナの視界一杯にハング型が迫る。
ハング型は30連射砲の砲口をリナの機体に向けるが、リナは機体を低くする。
そこへ30ミリ砲弾が発射される。
リナの機体の真上を砲弾が掠める。
ハング型も89式も接近戦闘に関する性能は大差ない。
だが89式の25ミリ自動短砲はバレルが短い分、接近戦闘になると取り回しが良くて有利になる。
あとは操縦士の力量の差がものをいう。
リナはするりと機体を躱しつつ、低い姿勢から武器を持った機体の腕を持ち上げる。
ちょうど25ミリ自動短砲の砲口が、ハング型の操縦席に狙いを付ける様に。
「至近距離からでも耐えられるかな!」
そう言ってリナは25ミリ弾を連続発射した。
3発の25ミリ弾を放ち、その内の1発が操縦席の装甲を撃ち抜いた。
何の呪符もされていない徹甲弾だが、装甲の内側のゴブリンパイロットはタダでは済まない。
穴が空くと同時に機体は動かなくなった。
残るは新兵機体が2機である。
だがそれもアイナがあっという間に破壊した。
長砲身に換装した25ミリ自動砲ならば、距離があってもハング型の正面装甲を撃ち抜ける様だ。ただし当たる角度や当たり所にもよるが。それと盾で防がれるとそれも無理になる。
そうは言っても短砲身じゃ成し得なかった性能だ。
新兵のハング型を倒したアイナにリナからの無線が入る。
『こっちは終わったよ。でもさあ、ちょっと時間を掛け過ぎちゃったよ。マノン軍曹にどやされそうだね』
『こっちも今終わったところだよ~ん。速射砲陣地も終わってるみたいね。取りあえずマノン軍曹のとこ行こ』
『ああ、了解だよ』
2人はマノンがいる速射砲陣地へと向かった。
いざ二人が陣地に到着してみると敵の速射砲や歩兵だけでなく、何故かそこには4機のハング型が無残な姿で横たわっていた。
驚いたリナが無線で尋ねる。
『マノン軍曹、もしかしてこいつら隠れてたんですか』
『そうそう、何か隠れていたみたいね』
どうやらマノンがひとりで片付けた様だった。それも鉈と言う格闘武器だけでだ。
そこでアイナも無線に入ってきた。
『ね、ね、マノン軍曹。これってさ、大隊本部に知らせなくて大丈夫かなあ』
『そんな事したら私達の行動がバレちゃうでしょ。だから放っておくのが正解ね。それより予定より遅れているわね。急ぐわよ』
本来ならば戦利品を漁りたい所だが、予期せぬ戦闘で時間を取られてしまい、予定よりも大分遅れてしまっていた。そこで戦利品は諦めて先を急ぐ事を優先する3人だった。
近くにある川へと行くと、背の高い草で隠れてしまってはいるが、大きな穴が見えてきた。下水道である。
ちょうど装甲歩兵が入れる大きさでもある。
ただしそこには鉄格子が嵌められている。
それを装甲歩兵でもって外し、ようやく下水道内部へと入って行った。
3機は警戒しながらもライトで照らして奥へと進む。
ポンパンに貰った地図を見ながら、目的地の中間地点まで来たところで、奥に明かりが見えてきた。さらに銃声も聞こえてくる。
それを聞いたマノンが無線で告げた。
『銃声みたいね、急ぐわよ』
マノン達は速度を上げて明かりの方へと急いだ。




