卒業待ちのカレンダー(なろうラジオ大賞6 参加作品 テーマ:卒業、カレンダー)
桜の花びらが舞う三月のある日、体育館の片隅で私はカレンダーを眺めていた。十二枚の薄い紙には私たちの三年間が詰まっている。入学式の集合写真から始まり、運動会、文化祭、修学旅行と続いていく。
そして最後は三年経ってから同じ場所で再び撮った集合写真だ。その全ては担任がクラスのために作ってくれたカレンダーだ。
「この写真懐かしいな」隣から声が聞こえて振り向くと、そこにはクラスメートの梅野隆太がいた。
「坂本ってば体育祭のリレーで転びかけてたよな」
「今更そんなこと言わないでよ!」と私は笑い返す。そのせいで最後抜かれてしまい泣いてしまったことまでが、ついこの間の出来事のように思い出された。
苦笑しながらめくっていき最後の一枚で手が止まった。真ん中に大きく『卒業式』と書かれた三月のページ。写真は数日前に撮ったクラス全員の笑顔だった。でもその下に小さく控えめな一文が書き加えてある。
『また会おう、絶対に』まさに青春な一言を見て私は少々赤面していた。
「これ隆太君がが書いたの?」
「なんだか終わっちゃうのが寂しくてさ。でもみんなそれぞれ新しい道に進むんだよな」隆太は少し照れくさそうに頭をかいた。
その言葉に私はハッとした。卒業とは終わりではなくスタートなのだと。けれど新たな道へ進むことには少しの不安も混じる。この三年間を全部置いてきぼりにする感覚もある。
「でもまた会いたいな、みんなと。もちろん隆太君ともね」
「じゃあさ、このカレンダーを約束の証にしよう」隆太はそう言うと、カレンダーの空いているスペースに日付を書き込んだ。
「五年後の今日、またここに集まるってことでいいな?」
「随分とクサいこと言うんだね。でもそれまで皆が覚えてるかどうか……」
「覚えてるさ。だってこれが俺たちの『卒業カレンダー』なんだから」
「なにそれ、意味わかんなーい」私たちは笑いながらハイタッチをした。その瞬間、体育館にに飾り付けられた桜の花びらがカレンダーの上からひらひらと舞い落ちてくる。
卒業はただの区切りでしかない。でもその先で新しいなにかが始まっていくのだと思えば、なんとなく不安も消えて行くような気がした。