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第12話 『誰か、王子を廃嫡にする案がある者は申すがよい』(第一王子視点/過去編)

 ーー飲まなくて正解だったな。


 己の首を落とす処刑台があと少しだ。にもかかわらず、倒れた体は言うことを聞かない。睨み付けた仕返しだろう。看守達が、私の首に繋がれている縄を引き、腹部を蹴り上げてくる。民衆はそんな看守達に勇気付けられ、一斉に石を投げ、あらゆる罵詈雑言を浴びせてくる。


 不思議と痛みを感じなかった。目の前にある、亡き王妃の遺体を入れた棺に泣き縋る父王の姿をどこか白けた眼差しで見ているばかりだった。


 母亡き後、父王は変わった。母以外の女など、路傍の石程度にしか意識していなかったのに、夜になれば酒と女に溺れ、気まぐれに私を呼びつけ、杯を投げつけてくる。何故と聞く気にもなれなかった。母の葬式から日が経っていないのに、側室達を代わる代わる寝所に呼びつけ、その光景を息子に見せつける父王。その目は生前の母に向けられていたものと同じもの。


 母が私に父を重ねて見ていたように。父もまた、私を母の面影を重ねて、母に対する鬱憤をぶつけているに過ぎない。


 似たもの夫婦である。

 だからこそ、余計に思う。


 母は私をあの茶会で道連れにしようとしたのだと。母が口にしたのは、第二王子の母親が淹れた紅茶のみ。それは私の前に置かれた紅茶と同じものだった。根拠はない上、確証もない。しかし、確信はあった。


『貴方は陛下と同じ轍を踏むつもりですか』

『やはり貴方は陛下の御子なのですね』


 母は嫌がるだろうが、私を病ませて死なせることで王妃への鬱憤を晴らそうとする夫を持ったのだ。母が私を通して夫に対する復讐を晴らさんと、無理心中を図ったところで何の不思議もない。二人は似た者同士だったからだ。


「············」


 父王は王妃の死を病死とした。その方が父王にとって都合がよかったのだ。王妃が側室の手を借りてまで自害したと公になれば。


 王妃が王を愛していなかったと知られてしまう。それが父にとっては耐え難いものだったらしい。王妃の死の真相。それを知るのは自分だけでいいと。最初に寝所の光景を見せつけられた際、酔った王が言っていた。


 第二王子の母親を呼びつけては、亡き王妃の部屋に一晩居させるようになったのもまた、精神的に追い詰める為だった。王妃の命令に従っただけとはいえ、自らが殺めた主人の部屋を訪れるなど苦痛以外の何物でもないだろうに。第二王子の母親は甘んじてその『罰』を受け入れていた。


 王の支離滅裂な行動はそれだけに留まらない。王妃の死後、喪に服さなければならない期間にも第一王子としての公務はあり、少しの判断ミスも許されなかった。王が折に触れてよく言っていた。


『誰か、王子を廃嫡にする案がある者は申すがよい』


 王宮内で、大勢の家臣達がいる前で堂々と言い放っていたからだ。第一王子派の家臣達が王を諌めたものの、王が言動を改めることはなかった。その癖、王の歓心を得たい家臣が『王妃の不貞』を理由に私の王子としての権限を奪ってはどうかと言い出した際、その者の首は呆気なく落とされた。


『この者の首を落とせ。我が王妃に対する不敬である』


 王の気が触れたと、家臣達は言い合った。

 王と王子の不仲は周知の事実とされた。


 故に失敗は許されなかった。王の気まぐれで、首を落とされる可能性があったからだ。


 ある種の緊張状態が続く中で、私は王と対峙しながら、軽蔑さえしていた。


 王妃の死を嘆く一方で、王妃の顔に泥を塗り、あまつさえ王妃を死に至らしめた父王。喪に服す様子もなく、堕落しきったその姿を見る度に考えていた。


 こんな王にはなるまいと。


 だからこそ、余計に彼女の名前を呼べなかったのかもしれない。

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