悪夢
所属する文芸部のテーマ縛り季刊号シリーズ
テーマ:冷蔵庫
それは突然の出来事だった。原因は過労だ。いや俺自身のせいかもしれないが過労ということにしておこう。なんのことはない、残業で疲労困憊の身体を引きずり帰宅していたら、地下鉄の駅の階段を転げ落ちただけだ。俺の不注意のせいだと言われればその通りだが、その日は雨で階段がすべりやすくなっていたのだから雨のせいにしたっていいだろう。やたら長い地下鉄の入り口の階段の、それも上の方から転がり落ちたが、左手首の骨折と数カ所の打ち身で済んだのは不幸中の幸いと言ってもいい。終電ギリギリの時間だったおかげで人通りが少なく、階段から落ちたときに他の人を巻き込まずに済んだのは良かったが、逆に誰も階段を通らなかったせいで、終電後に駅の入り口を閉めに来た駅員がやっと救急車を呼んでくれた。駅員には感謝するべきところだが、手首が折れたときよりも俺を助け起こそうと身体を揺さぶってきたときの方が数百倍痛かったので彼を恨むことにする。救急車に載せられる寸前に「ご迷惑をおかけしました。」とは言ったつもりだが彼にちゃんと聞こえてなかったかもしれない。こんなときまで、他人に迷惑をかけてしまったと謝る言葉が出てくるのは、ブラック企業でいつも取引先や上司に謝らされているからに違いない。これを会社のお偉方が知ったら「我が社の社員教育は実に素晴らしい。」とほくそ笑むことだろう。
救急車には初めて乗ったが、あんなに飛ばすとは思わなかった。よく別の事故が発生しないものだ。もうひとつ驚いたのは、救急救命士は全然優しくないということだ。彼らも仕事して必要だからやっているとはわかるが、執拗に俺の階段から落ちたときの状況や痛むところなんかを聞いてくる。こっちは怪我人なんだからもう少しいたわってくれてもいいと思うのだが、ブラック企業の社畜一匹にいちいち優しくしていては彼らも大変だろう。それも草木も眠る丑三つ時に、怪我人が社畜なら彼らも社畜、搬送先の病院の看護師も社畜、人類みな社畜である。
そんなこんなで大きな病院に搬送された俺は、一通りの処置を受け、折れた左手首をギプスで固定されて入院することになった。骨折なんてギプスして白い布で吊って二週間ぐらいすれば治るものだと思っていたが、階段の上の方から落っこちたせいで状態が酷く、腕の中にプレートを入れて固定する手術が必要だと言われた。仕事を休むと上司に何を言われるかたまったものではないので、「手術は無しでなんとかなりませんか?」と医者に尋ねると、「これで手術なしで済むわけがありませんよ。」と呆れられながら、バッキバキに折れた手のレントゲン写真を見せられたので諦めがついた。手術は三日後、いや既に日付を跨いでいるので二日後ということになった。「よろしくお願いします。」と言ったときの俺の声が、仕事を休める喜びで明るくなったせいで、先生と看護師に怪訝な目をされたがそんなことは気にしないでおこう。鎮痛剤を打ってもらったおかげで痛みがマシになった左手をさすりつつ眠りについた。
次の日、といっても寝る前から日付を跨いでいたので同じ日だが、目を覚ましたら十五時、ではなく五時だった。せっかく積もりに積もった睡眠負債を返済しようと思っていたのにどうしてこうなったかというと、採血のせいだ。「下部さん、下部さん、失礼します。」と言って看護師が入ってくるからこんな時間に何事かと思ったらただの採血だった。ブラック企業は年一回の健康診断に行くための半休すら許さないので、採血なんていつ以来だろうか。こんな早朝に患者を叩き起こしてまでやるのは、朝食前が食事の影響を受けない最も正確な血だからだと教えてくれたが、睡眠を妨害されたことに変わりはないので終わった瞬間二度寝に入った。七時に朝食が運ばれてきたのでしぶしぶ起き上がってメニューを見ると、小学校の給食と同じ紙パックの牛乳があり、自分の小学生時代のことを思い出しながら朝食を食べた。そろそろ会社に連絡を入れようと、ベッド脇に置かれていた荷物からスマホを取り出したが、階段から落ちた衝撃で壊れたらしく電源が点かない。困っていると食事を下げに来た看護師が「談話室に公衆電話がありますよ。」と教えてくれたので、ありがたく公衆電話を使って会社に連絡を入れることにした。
ブラック企業なので朝の七時すぎでも誰かは既に出勤させられているため電話のひとつやふたつかけたところで問題はない。しかし課長が電話を取るとは思わなかった。開口一番「さっさと出社しろ! 何をしているんだお前は!」と怒鳴ってきたのには閉口した。朝っぱらから怒りの青筋を浮かべていては寿命が縮みますよ、と小言のひとつでも言いたくなったが、寿命が縮んでくれた方が嬉しいので飲み込んで、「今日含め一週間ほど有休を取らせていただきます。」と言った。すると課長は「下部! お前のような奴に有休を取る権利なぞ無いわ!」と叫んできて、鬱陶しいジジイめと思ったらちょうど電話が切れた。一瞬焦ったが公衆電話に入れたお金が切れたようだ。危うく「それでは今日付けで退職させていただきます。大変お世話になりました。」と口を滑らせるところだった。いくらブラックとはいえ入院中に職を失うのはハイリスクすぎる。ブラック企業では有休取得率を高くみせるために、本当は勤務していた日に有休を取っていたように書類を改ざんしたりするのが常套手段だが、今回はちゃんと有休になっているのだろうか。俺の給料を削りたい一心で課長が無断欠勤扱いにする方に一票入れておこう。骨折したことを言い忘れたがまぁいい、有休を取るのにわざわざ理由を言う必要はない。都合のいいことにスマホが壊れたので、呼び出しの電話がかかってくることもなくゆっくり寝られる。
五度寝して合計で十時間ほど寝たらもう夕方になっていた。お茶すら飲んでいなかったので、病院の地下一階にあるコンビニに行くことにした。手しか骨折していないのでずっとベッドで寝ていろとは言われていないし、食事の制限は手術の直前にしかないのでコンビニに行くぐらい構わない。俺の病室が四階だったことをエレベーターに乗るときに知った。四と九は縁起が悪い数字だからと、病室の部屋番号は四〇三の隣が四〇五になって四〇八の隣が四一〇になるように四と九を飛ばしているのに、階数を表す部分の四は普通に使われているのは不思議なものだ。コンビニには少数の入院患者と多数の医療従事者でごった返していたが、患者にはしっかり通路を空けてくれた。酒でも飲んでやろうかと思ったがなけなしの理性が働いて、ノンアルのチューハイとつまみの柿ピー、それにテレビカードとイヤホンと水を買った。入院中でもジャンキーな食生活をしているのは馬鹿でしかない。
病室に戻ってきてチューハイを冷やしておこうと思ったら冷蔵庫が見当たらない。ベッドの横には小さいテレビと小さい冷蔵庫がセットになった棚があると思ったのだが。病室でチューハイを飲む不届き者を妨害するためなのかもしれないと思いつつ、看護師に「ここに明らかに冷蔵庫が入ってそうな空間がありますけど、どうしてないんですか?」と聞いてみた。すると看護師はこともなげに「談話室にございますのでそちらを使ってください。」と答えた。談話室とは、患者同士の交流や患者と面会に来た家族が会う場所として用いられているスペースである。どうしてここに冷蔵庫が置いてあるんだと思いながら来てみると、夕食前のこの時間は誰もいなかった。大きな窓からは家路を急ぐ人々の営みが見えるが、人々の顔も空と同じように曇っている。何組かのテーブルと椅子が並べられたやや暗く静かな空間には、自販機と冷蔵庫の動作音だけが響いていた。入院患者には談話室まで歩いて来れないほど悪い人が多いのか、それとも脚を骨折した人が多いのか、冷蔵庫は他の誰にも使われておらず、盗難を心配する必要もない。ここは四階だが、病院が丘の上にあるためそれなりに眺めがよく、ここで外を見ながら飲もうと決めて、チューハイを冷やして部屋に戻った。
薄味で健康的な病院食を食べたあと、そこまで面白くないバラエティ番組をダラダラと見ていたら寝落ちしていたらしく、気づいたら九時になっていた。いつもはまだ残業している時間だから日頃は見れないテレビでも見ようと思ったが、一匹狼で絶対に失敗しないフリーランスの女医のドラマを病院で見る気にはなれなかったのでやめにした。スマホも壊れているし他にすることもないし眠くもないので晩酌にしようと再び談話室に行くことにした。冷蔵庫からチューハイを取り出そうとしていると、通りがかった掃除のおばちゃんが横から話しかけてきた。
「その冷蔵庫を使う人がいるなんて珍しいわね。今日入院された患者さん?」
「そうですが、何か……」
「病室ではなくここに冷蔵庫があるのか気にならない?」
「えぇ……確かに気になりますが……」
「二十五年前、この階が小児科の病棟だったときに子どもが冷蔵庫に閉じ込められて死んだからよ。この病院は今でも『出る』そうよ……」
「『出る』ってどういうこと──」
振り返ってもそこに掃除のおばちゃんはいなかった。俺は幻聴を聴くほどに疲れていたのだろうか。階段から落っこちて骨折したのだから確かに疲れてはいたが、それにしても今のはおかしすぎる。かといって幻聴にしてはリアリティがありすぎる。何より病室ではなく談話室に冷蔵庫がある理由としては筋が通っている。『出る』ならばこれもその一種だろうか……いくら病院とはいえそんな非科学的なことが起こるはずがない。きっと疲れがまだ取りきれていないのだろう。晩酌はやめてさっさと寝ることにしよう。
入院生活二日目、手術は明日だ。今日は早朝の採血もなかったのでゆっくり寝ることができた。十時ごろに寝て七時に起きたので九時間睡眠だが、こんなに長く眠れたのはいつぶりだろうか。今日も小学生の時を思い出させる牛乳を飲み、栄養バランスを考慮した朝食を食べた。朝の八時は仕事なら既に出社しているし休みの日ならまだ寝ている時間なのでテレビを見ながら朝食を食べるのも新鮮な感覚だ。入院でもしなければ、朝ドラを見ることも何故か朝からやっているバラエティ番組を見ることもなかっただろう。バラエティを見ながらゴロゴロしていたら、明日の手術を担当する医師が回診に来たので、手術の説明を聞いたり診察を受けたり同意書にサインしたりしていたら昼になっていた。手術は明日の昼間なので、今日の夕食以降は水を飲む以外の飲食は禁止らしい。
昨日は結局飲まなかったので、今のうちに飲むことにしよう。せっかくだから昼間から飲むのも(ノンアルだが)いいだろう。談話室の窓際の席で、柿ピーをつまみながらちびちびとチューハイを飲むのは乙なものだ。入院中の身ではあるがそれでも酒は美味い。昼間という時間と病院という場所の二重の背徳感がさらに酒を美味くする。アルコールがなくともアドレナリンで酔ったような気分になれて最高だった。少しハイになったせいでテーブルに折れたところをぶつけてしまい少し痛んだが、明日手術すれば治るので問題ない。
ゆっくりとチューハイを楽しむ夕暮れ時を過ごし、夕食を食べたあとは、明日の手術に備えてすぐに寝なければいけないのだが、手術に緊張しているのか一向に眠れない。昨晩は気にならなかったが、隣のベッドの患者のいびきがうるさいし、向かいの患者は痰がからんでいて汚い高頻度の咳が耳障りだ。これでは寝れるわけがないと白旗を揚げ、ナースコールを押して睡眠薬をもらった。これで一応眠ることができるだろう。
ここはどこだ? あれは誰だ? 大柄な男の子が三人、それと向き合うようにして普通の背丈の男の子が一人、その子の横に小柄な男の子が一人。ここは学校の教室のようだ。席についていないということは今は休み時間なのだろう。この子たちは何をしているのだろうか。ぼんやりと眺めていると、大柄な男の子が普通ぐらいの背丈の子を殴った。小柄な子が普通のぐらいの子の元に駆けより助け起こした。小柄な子は怒りのまなざしを大柄な子に向けて大柄な子の急所を殴った。これはかなり効いた様子で大柄な子は何か言いながら去っていったが、何と言っていたのかは聞こえなかった。俺はここまできてやっと状況を理解し、殴られた子に「大丈夫か?」と尋ねようとして顔を覗きこんで気づいた。これは俺だ。小学生のときの俺だ。彼らには俺が見えていないらしく、呆然としたままの俺を残して、小柄な子は小学生の俺を保健室へと連れていった。いや待てよ、これが小学生の俺ということは、残りの男の子たちは……小柄なのはいじめられていた俺を守ってくれた上坂だ。そして大柄な三人は俺たちをいじめてきた奴らだ。ということは思い出している場合じゃない、と教室を飛び出し廊下を曲がった俺の目に映ったのは、俺が知っている光景だった。突然胸を押さえて倒れる上坂、そしてその横で途方に暮れている俺。そう、上坂は身体が弱くて、このときも発作を起こして倒れたんだった。彼は優しくて、身体を強くするために親に空手を習わされていて、俺がいじめられたときはいつも「今度やられたら僕が守ってあげるよ。」なんて言ってくれたんだった。俺よりも小さな身体に病をかかえた彼に、俺は何回発作を起こさせてしまったのだろう。彼が定期的に入院していることも、彼の母親が発作を起こさせる原因である俺をうとましく思っていたことも、発作ばかり起こす彼のことをうとましく思っていたことも知っていたのに。かつて俺が彼のお見舞いに病院に行ったとき、母親の顔が病人以上にひどくやつれていたことを覚えている。そういえば彼は今どうしているのだろう? あのあとしばらくして学校から席がなくなり、先生は俺が何回聞いても何も教えてくれなかったんだった。
場面が変わった。ここは病院だ。ベッドの上にいるのは上坂だ。ということはさっき倒れて病院に運ばれた後の場面のようだ。彼はひとまず回復すると途端に暇になったようで母親と遊ぼうとしている。母親はカバンから薬を取り出すと彼に飲ませた。飲み終わってしばらくすると彼は再び寝てしまった。すると母親は彼を抱き上げて身体を折り曲げ、冷蔵庫の中に閉じ込めてしまった! 慌てて助けようとするも俺は透明人間状態なので冷蔵庫を開けられない。しかも扉をガムテープで固定したうえに、冷蔵庫の前に椅子を置いてふさいであるせいで、内側から開けることもできなくなっている。彼の小さな泣き声が聞こえて消えた──
ひどく悪い夢を見た。夢の内容が強烈すぎて理解が追いついていないが、覚めても鮮明に記憶に残っている。それにまだ夜が明けていないようだ。テーブルに置いた腕時計を見ると四時四十四分を指している。全く縁起の悪い時間だ。ひとまず冷えた水でも飲んで落ち着こう。いや待て、病室にはない冷蔵庫、閉じ込められて死んだ子ども、今見た夢での上坂、これらが全て正しいなら、この病院の病室から冷蔵庫を撤去する原因となった事故は俺の友達だった上坂が母親によって冷蔵庫に閉じ込められて殺された事件だったということなら辻褄が合う。信じたくはないが俺の想像にすぎないじゃないかと笑う気にはなれない。早いとこ水分を補給したら寝直そう。冷蔵庫のある談話室まで行こうとしたが、手首から血をポタポタと流しながら歩く患者や、何もない空間に向かって助けてくれぇ……と繰り返し叫んでいる患者が廊下を歩いている。ナースステーションには看護師の影すらない。これは幻覚だと言い聞かせながら談話室の冷蔵庫に到達し、水を取り出そうとしたら、冷蔵庫の中には子どもの遺体が入っていた。俺は奇声を上げながら逃げ戻ろうとしてつまずいて転んでそのまま気を失った。
次に目を覚ましたとき、既に手術の直前になっていた。看護師が「冷蔵庫の前で倒れていましたが、どうされたのですか?」と聞いてきたが、「こ、こ、子どもの遺体が……」としか言えず、「冷蔵庫で子どもが亡くなった事故はありましたが、もう二十年以上前の話ですよ? 遺体がまだ入ってるわけがないじゃないですか。手術で緊張していてそう思っただけでしょう。だいいち、そんな冷蔵庫はすぐに廃棄されていますよ。」と一蹴された。「じゃ、じゃあ、血を流しながら歩いていた人と、助けてくれと言いながら歩いていた人は……」と聞くと、「あぁ、あれは自分で点滴の管を抜いてしまった患者さんと、認知症気味の患者さんですよ。驚かせてすみませんね。」と謝られた。全く困った患者もいるものだ。手術は全身麻酔なのでまた寝るのかと思いながら手術室に運ばれていった。
「久しぶりだね、下部くん。二十五年経ってやっと気づいてくれたんだね。」
「久しぶり、と言うべきだろうな、上坂。どうして俺のところに何しに来たんだ?」
「何をって、僕の死とその真相にやっと気づいてくれた下部くんを迎えにきたんだよ。」「ということは、あの夢は本当なのか……?」
「本当だよ。あの掃除のおばちゃんもあの夢も、全部僕が見せたんだからね。」
「どうして今更こんなことを……」
「実は下部くんが今寝ているそのベッドの場所は、僕が入院していたときのベッドの場所なんだ。お母さんに殺されてからずっと、その場所に入院してきた患者さんに君が見たのと同じ夢を見せてきたけど、誰も信じてはくれなかった。下部くんが入院してきたときは本当にびっくりしたよ。」
「こんなことをした理由はわかった。だが『迎えにきた』ってどういうことだ。」
「どういうことも何も、こっちの世界に下部くんを迎えにきたんだよ。僕、いつも言ってたでしょ? 『僕が守ってあげるよ。』って。こっちに来ればもうブラック企業に悩まされることもないよ?」
「それはそうだが……」
「なんで楽になれるのにためらうの? 何かためらう理由なんてあるの?」
会社に迷惑がかかるから、と言いかけて自分の社畜さを思い知らされた。ブラック企業に悩まされているが、別に死ぬこと以外の方法だってある。階段から落ちたとき、打ちどころが悪ければ死んでいたのかもしれないが、あれはわざとではない。
「確かにブラック企業はしんどいが、もう君に守ってもらわなくても大丈夫だからさ。」
「そんなこと言わなくていいから、僕に守らせてよ? 早くこっちに来て楽になりなよ? ねぇ? ねぇ?」
まさか麻酔による睡眠の中までこんな夢を見るとは思わなかった。俺が目を覚ましたのに気づいた看護師が、「手術は無事成功しました。ゆっくりお休みください。」と言って出て行った。その後丸一日ほど熱と吐き気に苦しめられたが、全身麻酔のせいなのか上坂の『迎え』を断ったことによる彼の仕返しなのはわからない。正直に言うと、手術は終わったのに死ぬんじゃないかと思うぐらいには辛かった。
しかしまだ『向こう』に行くわけにはいかないだろう。小学生のときに彼が俺を守ってくれたおかげで今の俺があるのだから、俺が生きることが彼への恩返しになるはずだ。いつまでも誰かに守ってもらうばかりじゃダメだろう。俺は彼に何もしてあげられないまま彼は死んでしまったのだから。
またひとつ彼は俺を助けてくれた。階段から落ちて手術になるほどの過労の分の給料を、俺はあのブラック企業からもらった試しは無いんだから、この機会に、仕事量に見合う給料の会社に転職しよう。二十五年前に死んだ彼は知らないかもしれないが、今は一生同じ会社に勤めなくたっていいんだ。やっぱりこんなブラック企業、さっさと辞めておけばよかった。
お読みいただきありがとうございました。
2年前にどうやってこんなに書いたのか覚えてない(苦笑)