オイラーの自然数和についての解説 補足
オイラーの自然数和 1+2+3+・・・=-1/12 の証明の不備に関して、
①:ラマヌジャン総和法
②:振動アーベル総和法
③ゼータ関数
について前後編に分割して説明しましたが、今回は抜けていた分と、説明不足に感じた点について解説していきたいと思います。
☆④では『解析接続』を使っての証明の問題を解説します。
※解説に入る前に、先に結論を述べておきます。
◇『S=1+2+3+・・・+n という数式は複素関数ではないため、解析接続は使えない』
よって解析接続によって導き出された -1/12 という値と S=1+2+3+・・・+n の式を = (※イコール)で結ぶのは明確な誤りです。
この説明に使われている論法は、関数と、関数に数値を代入して出した途中式を同じものだと錯覚させるミスリードによって、解析接続が使えるのだと錯覚させる詐術に過ぎません。
◇ではここから詳しく解説していきます。
この説明にはリーマンゼータ関数を知る必要があります。リーマンゼータ関数とは、
ς(x)=1/1(x乗)+1/2(x乗)+1/3(x乗)+・・・+1/n(x乗)
(n=∞ (∞は無限大))
という数式で表されるゼータ関数のことを指します。(ςはシグマ記号)
この時、 x は複素数、 n は自然数とします。
つまり、リーマンゼータ関数では最初から複素平面を意識した複素関数になっています。
◇複素関数というのはz=x+yi(x:yは実数、iは虚数単位)という複素数を含んだ数式で表され、横方向に実軸(Re)、縦方向に虚軸(Im)を置いた平面(複素平面)でグラフを描く関数のことです。高校の数学で習います。
この数式では複素関数上の実軸(Re) 1 より右側においてすべて収束します。( 1<x のとき)
逆にいえば、それ以外の場所では発散します。
試しにリーマンゼータ関数に 1 を代入してみると
ς(1)=1/1+1/2+1/3+・・・+1/n
となりますが、これらの数字をすべて差し合わせた場合には無限大に発散することがすでに知られています。
そこからさらに小さくして 0 を代入すると
ς(0)=1+1+1+1+・・・+1=∞
という具合に、数字を小さくすればするほど数式で導き出される答えはさらに大きくなっていきます。
よって、1<x のときという定義域でのみ収束する数式であることが分かります。
ただし、複素関数の場合はここで話が終わりません。
◇ここで、さきほど『解析接続』というものが出てきます。
『解析接続』とは、ものすごくざっくり言うと、複素平面上でとある条件を満たした関数の定義領域を広げられるというものです。その条件とは『正則関数』である・・・となりますが、ここではリーマンゼータ関数でこの『解析接続』が使えるとだけ認識できていれば大丈夫です。
◇解析接続を使えば、これまで 1<x だった定義域を x<0 にまで広げることができるようになります。
そこで試しに -1 を代入してやると
ς(-1)=1+2+3+・・・+n
というふうにオイラーの自然数和と同じ式ができます。
そして解析接続を使って定義域を拡げた上で
ς(x)=1/1(x乗)+1/2(x乗)+1/3(x乗)+・・・+1/n(x乗) に -1 を代入すると -1/12 という答えが導き出されます。
ではやはりオイラーの自然数和 1+2+3+・・・+n=-1/12 は正しかったのか? といえば、もちろんそんなことはありません。ここまでの流れにはある誤謬(詐術的トリック)が隠れています。
どういうことかと言いますと、 ς(-1)=1+2+3+・・・+n と導き出す時には手を加えていないそのままの数式に代入し、ς(-1)=-1/12 という答えを出す時には解析接続を通した式に代入して計算結果を得ている、ということです。つまり、
↓ 解析接続を通さないまま代入した途中式
ς(-1) = -1/12 = 1+2+3+・・・+n ←=(イコール)で結ぶのは誤り
↑ 解析接続を通して出した答え
というふうに、代入する数字自体は同じでも、異なった処理を経由して出した結果を同じ等式の中にまとめてしまっているわけですね。(リーマンゼータ関数の解析接続の数式を知りたい方は、ネット検索してみてください)
ですから
ς(-1)=-1/12
と
ς(-1)=1+2+3+・・・+n
の両方とも正しくても、間に解析接続という手順を加えるかどうかの違いで
1+2+3+・・・+n ≠ -1/12
となるというわけです。
正しくは ς(-1)=(解析接続された式に x=-1 を代入した途中式)=-1/12 です。
『解析接続をして定義域を拡げれば 1+2+3+・・・+n = -1/12 になる』、という説明は誤りであるということがこれでご理解いただけるのではないでしょうか。
◇そもそも元の関数は ς(x)=1/1(x乗)+1/2(x乗)+1/3(x乗)+・・・+1/n(x乗) ←これです。
1+2+3+・・・+n は式の中に変数が含まれていないので関数ですらありません。
最初から 1+2+3+・・・+n という式が↑の関数に x=-1 を代入して導き出された答えなのだということを了解できていれば、この論法に隠された誤りにすぐに気付けるものと思います。
☆⑤おまけとして、『領域』に関するある検証を行って〆たいと思います。
◇S=1+r+r²+r³+r⁴・・・+r(n乗)
↑
この式の -1≦r≦0 という定義領域について検証します。
r=b/a とするとき、上の定義領域を満たすには b≦0<a 及び -b≦a が必要。
以下、
1: r が 0 のとき
2: r が限りなく 0 に近づくとき
3: r が限りなく -1 に近づくとき
4: r が -1 のとき
の4つのケースについて検証していきます。
◇その前に、検証に相応しい形に式を変形させておく必要があるでしょう。
r の値がマイナスなのでそのまま、例えば -1/2 を代入すると
S=1-1/2+1/4-1/8+・・・ とプラスとマイナスが交互に来る式になってしまいます。
こういう数式を交代等比級数と言いますが、これでは少し不都合が出ます。
なのでここから最初の 1 を除く隣同士を一まとめにしていきます。
するとこんな感じの式になります。
S=1+r+r²+r³+r⁴+r⁵+・・・r(n乗)=1+(a+b)(b/a²+b³/a⁴+b⁵/a⁶+b⁷/a⁸+・・・) (nは無限大)
このようにすれば分子 b の乗数が必ず奇数になるので、最後の自然数 n が奇数か偶数かを気にしなくても良くなります。
◇では検証を始めます。
1: r=0 のとき、b=0 なのでそのまま式に代入します。a はとりあえず 1 にしておきます。
S=1+(1+0)(0+0+0+0+・・・)=1+1(0)=1
よって r=0 のとき、S=1 に収束することが分かります。次に行きます。
2: r が限りなく 0 に近づくとき -1/100 を代入してみます。(a=100:B=-1)
S=1+(100-1)(-1/10000-1/100000000-・・・)≒1+99(-1/10000)=1-99/10000=0.9901
このように限りなく 1 に近い数字だということが分かります。
1/10000などさらに 0 に近い数を代入するとさらに 1 に近づきます。
よって r が限りなく 0 に近づくとき S は限りなく 1 に近づくという結果となりました。
3: r が限りなく -1 に近づくとき -99/100 を代入してみます。(a=100:B=-99)
S=1+(100-99)(-9/100-729/10000-・・・)≒1+1(-46.・・・/100)≒1-46.・・・/100≒54/100
(※20回分で計算を切り上げてます)
となり、-9999/10000とさらに -1 に近い数を代入するとさらに S=1/2 に近づきます。
よって r が限りなく -1 に近づくとき S は限りなく 1/2 に近づくという結果となりました。
次で最後です。
4: r が -1 のとき -1/1 なのでとっとと a=1 b=-1 を代入していきましょう。
S=1+(1-1)(-1-1-1-1・・・)=1+0x(-∞)=?
ご覧の通り 0x(-∞) は不定で値を定義できないため、計算が成り立たないという結果になりました。
◇以上により S=1+r+r²+r³+r⁴・・・+r(n乗) という式のマイナス領域では、
r=0 のとき、S=1 に収束する。
r が限りなく 0 に近づくとき S は限りなく 1 に近づく。
r が限りなく -1 に近づくとき S は限りなく 1/2 に近づく。
r が -1 のとき S=1+0x(-∞) となり0x(-∞) は不定で値を定義できないため、計算が成り立たない。
よって-1<r≦0 という定義域でのみ S=1+r+r²+r³+r⁴・・・+r(n乗) は収束する。
こういう検証結果となりました。
数式を多少変形したところでやはり r=-1 では異常値になりました。
こういう問題は簡単に答えが出るようなものではない、というオチがついたところで私の考察を〆たいと思います。
最後まで読んでくれた方、長々とお付き合いくださりありがとうございました。