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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編小説(エントリー作品)

あの子の罪

作者: オリンポス

この少女はヒロインなのか・・・?

まぁ,ヒロインでしょう,ヨシ!()


※GC短い小説大賞エントリー作品

新魔界歴2000年,新たな魔王の誕生により魔界街デビルストリートは賑わいを見せていた.


立ち並ぶ屋台では怒号が飛び交う.常に曇り空な魔界では雨は降らないが血は降る.

特に今日は良く降る日であった.


「はあー.」


賑わいを見せる通りの隅で箒を持ってため息をつく男性悪魔が一人.


「なんちゅう祭りだよ.こりゃ掃除が大変だ.」


彼はつい最近生まれた悪魔で名前はニール,下級の悪魔である.


祭り期間中の掃除を任されたはいいものの,あまりにもあまりな事態に彼は辟易としていた.

うんざりしてるその間に,目と鼻の先で悪魔が血を吹いている.

魔界では日常茶飯事な出来事であり,これの掃除がニールら「掃除当番」の仕事である.


「はいはい,どいてどいて~.魔界ビールの飲みすぎだぜ~ホントさ~.」


ニールは床にまかれた血を拭いていく.


「おう,羽なしの兄ちゃんお勤めご苦労な.」


通りを往く悪魔は,ニールの横を通り過ぎると同時に頭をたたいていく.


「うるせぇ,羽は邪魔だから隠してんだ!」


掃除の度の扱いであったため,ニールは既に慣れていた.


血を拭ききり,通りの端へ行こうとするニールだったが,悪魔ごみの中で泣いている少女をニールは見逃さなかった.


急いでその少女の下へ駆け寄った.

背中には小さく悪魔の羽があり,頭に小さな巻角が生えた小さな少女であった.


「おい,あぶねえぞ.こんなとこにいちゃ踏まれちまう.」


少女はまだ泣き続けた.


「どうしたんだ.泣いてちゃわかんねぇからな.そうだ,飴ちゃんやろう.」


ニールが指しだした手を少女は強く弾いた.少女は泣き続けた.

悲鳴や怒号で溢れる祭りの中だったが,ニールの耳にはなぜだか少女の泣く声しか入っていなかった.


「迷子だよな,お母さんはどこだ?」


その言葉に反応して,少女は泣き止んだ.


「お母さん・・・.どこ・・・?」


「なあ,一緒に探そう.おじちゃんがついてやるよ.」


少女はニールの指を握った.




「ってわけなんだが,なんか知らないか?」


母親を闇雲に探すわけにもいかないと,ニールは掃除当番の集会所へと足を運んでいた.


「んなもんしらねぇよ.というか,ここは祭りの通りから結構はずれている場所だぞ.通りの奴らに聞けよ.」


至極まっとうな返しを言った悪魔の名はイル.ニールの同僚である.

イルは路頭に迷ったニールに掃除当番の仕事を回した.

ニールが何とか飯を喰らえるのは彼のおかげである.


「迷子なんて他の部署に回せよ.俺らは特に忙しいんだからよ.」


「わかってたんだけどよ.ほっとけなかったんだよ.なんかさ,胸のあたりがギューッとさ.」


「・・・堕界前の記憶かなんかか?」


「・・・さあ.」


魔界の悪魔は2種類に分けられる.

1つは真生の悪魔である.悪魔から生まれた悪魔のことである.

一方で堕界の悪魔というものが存在する.

天界,地上界において,罪を犯したものが死んだとき,魔界に送られた悪魔である.

真生の悪魔は生んだ両親のもとで赤子から魔界を生き抜く一方で,堕界の悪魔は死んだ年齢のまま魔界に一人で生まれ,放り出される.

また,堕界の悪魔が魔界に生まれる前の記憶はひどくあやふやになる.


「まぁ,俺も適当に探してみるが期待するなよ.母親の名前も自分の名前も分からないんじゃどうしようもねぇ.ここじゃ何が起きても日常茶飯事だ.あやふやな記憶の中の地上とは違うんだぞ.」


「ああ,わかっているよ.」


イルは集会所を飛び出していった.


「お母さんは・・・?」


少女は握ったニールの指を引っ張って聞いた.


「大丈夫だ.絶対に見つかるさ.」


何のあてもないことをニールは承知の上で答えた.


「あ,」


少女は何かに気付いた.


「どうした.なんか思い出したか?」


「・・・バッグがない.」


出会ったとき,少女は小さなポーチを肩から掛けていた.

しかし今見ると,バッグの部分からちぎれており,黄色の紐だけが肩にかかっていた.


「お母さんがくれたの・・・」


小さく少女は言った.切れたポーチの紐の端を,小さな手でぎゅっと握っていた.


「じゃあ,それも見つけないとな.来た道を戻れば見つかるさ.」


「うん.」


二人は集会所を後にした.



来た道を戻りながら,ニールは掃除担当の同僚に聞き込みを行った.

娘を探している両親はいなかったか,ちぎれたポーチが落ちていなかったか,通りに配置されていた掃除当番10人の悪魔に聞いても手掛かりは掴めなかった.


10人目の悪魔ディスに話を聞いた後,ニールと少女は近くのベンチで休んでいた.


「見つからねぇな,まぁこんなに悪魔が居りゃしょうがないか.」


「・・・お母さんとポーチ,無いの?」


少女の声は震えていた.

ニールは少女の手を握った.


「いや,見つかるさ.絶対に見つける.」


根拠の欠片もない言葉であったが,これは彼の心からの声であった.


「だがな,これだけ見つからないのはおかしいだろう.」


ディスがやってきて,口を挟んだ.

ディスを見て,少女はニールの足の後ろに隠れた.


「おいおい,そんな避けられちゃ俺も泣いちまうってもんよ.悪魔見知りかぁ?」


「いやぁ,他の奴らの時はそうじゃなかったんだがな.怖いんじゃねぇか?」


「はん,誰がよぉ.」


ディスは話を続けた.


「掃除当番の俺らにはよぉ,運営側からの連絡は当然くる.だがな迷子探している親なんていやしない.ポーチは,まあ,ここじゃ盗みは日常だ.嬢ちゃんは子供だから知らんかもだがよ.」


ニールはその先の言葉を直感的に理解した.

そしてそれは決して少女に聞かせてはならないということも.


「つまりこのガキはぁ,す―」


その言葉を言う前に,ニールはディスの胸ぐらをつかんだ.

普段隠している背中の羽を,服を破って大きく開かせた.


「そこから少しでも言ってみろ!二度と口を開け失くしてやる!」


「つい最近生まれたばかりの坊々がいい度胸じゃねぇか! 雇ってもらった恩も忘れてよ!」


「お前になんか恩はこれぽっちも感じてねぇよ!」


ここまで来れば売り言葉に買い言葉である.

互いに互いの火に油を注ぐ,水かけならぬ油かけ論はデッドヒートを極めていく.


互いに熱くなったものを止めることができず,どちらもが右のこぶしを握り締めたとき,ニールの後ろから殺気が走った.

それは背中の下部を突き刺し,次に正確にニールの心の臓を貫くものであった.


ニールが振り向くと,そこには後ろ手を組んでもじもじとしている少女しかいなかった.

悲鳴を奏でる祭囃子がうるさく響くだけの時間が流れた.


「おしっこ・・・」


少女が恥ずかしそうに告げた.


「お,おい連れて行ってやれよ.」


ディスは日和ながらニールに言った.


「あ,ああそうだな,漏らすんじゃないぞ.」


ニールは少女を抱え,トイレの方向へ走った.

それを見送ってディスはベンチに座り込んだ.背中には汗をかき,羽は小さく震えていた.



二人は外れの公園へ駆け込んだ.

少女のトイレを待つ間,ニールは周りを警戒していた.

もしかするとあの少女は母親と共に事件に巻き込まれているのかもしれない,そんな不安が拭えずにいた.


「トイレ,終わった.」


少女の後ろからの声掛けにニールは心底驚いた.


「よし! じゃあお母さんと,ポーチを探そう.」


不安が募るニールの言葉に以前のような元気は無くなっていた.


「居やがった! 見つけたぞ! クソガキィ!」


公園の入り口から3人組の屈強な男性悪魔が入ってきた.


「おい兄ちゃん,そこのガキ連れてくぞ.」


3人組の真ん中の悪魔はそう言って,少女の後ろ襟を掴もうとした.

が,ニールは割って入った.


「何する気だよ.」


声を震わせてニールは言った.


「何もありゃしねぇよ.いいからどけ.」


「只事にはならないだろう.あんた子供相手に・・・.」


それを聞いて,中央の悪魔は笑った.

祭りで誰もいない公園にその笑い声は高らかに響いた.


「あんたはなぁ,このガキが何なのか知らねえから言えるんだ.悪いが,おい.」


その合図と同時に,ニールは気を失った.



携帯の音を聞いて,ニールは目を覚ました.


「おい,何回電話したと思っている!」


電話の主はイルであった.


「すまない・・・.ああそうだ!あの子が攫われて,」


ニールが慌てだすのをイルは制した.そして続けた.


「あの子のことは忘れろ.」


ニールは当然食って掛かった.


「どういうことだよ.母親を探してたんじゃないのか!」


「落ち着け.落ち着いてよく聞け.いいか,堕界した悪魔はな,お前みたいに突然魔界に生まれ落ちる.その時に魔界にはその存在が刻まれるんだ.そして,危険悪魔の場合は悪魔院の職員によって,保護される.」


「どういうことだよ・・・?」


ニールは焦りと怒りで思考が追い付いていなかった.


「あの子は堕界の悪魔だ.しかも危険悪魔に登録されたな.」


ニールは衝撃だった.小さな子供が地上か天界で何らかの罪を犯して魔界にたどり着いた,その事実を受け入れられなかった.


「だが,あの子は母親を探して―」


「おおかた堕界前の記憶だろう.俺も誤解していた.子供だったからすっかり真生だと―」


「あの子は悪魔院か?」


ニールは内から湧き上がる感情を抑えられそうになかった.


「落ち着け.いいか,理性を保て.あの子は保護される.ちゃんと魔界で生きられるようにな.」


ニールは非力な自分を嘆いた.

その感情は沸き上がると共に,濁りも生じてくる.


「駄目だ,駄目なんだ.あの子には母親が・・・.」


「その感情を抑えろ! ニール! それは堕界前の記憶だ.あやふやなもんに振り回されるな.自分を保て.」


「・・・っ!」


ニールは携帯を切った.

背中の羽を広げ,公園を飛び立つのだった.

公園には携帯電話が鳴り響いていた.



「くそ! 切りやがった.」


イルは掃除当番の詰め所にいた.


「おい,手の空いてるやつ! これからニールを探しに行く! 手伝え!」


イルが呼びかけるが誰も手を上げない.


「ディ,ディスがよぉ.あのガキがおっかねえっていうからよ.俺,ディスがあんなんなっているの初めて見てよぉ.」


一人の悪魔がそう答えた.


「そうだよ,そんなおっかねぇ奴といた奴なんてよぉ.」


口々に悪魔たちは喋り始めた.


「ニールも堕界だしよぉ.」


その言葉にイルは怒鳴った.


「おい! さっき堕界の話しやがった奴,次はないぞ!」


詰所は静まり返った.


「さっさと持ち場に戻りやがれ・・・.」


イルは詰め所を飛び立った.


イルは真っ直ぐ件の少女がいる悪魔院へと向かった.

それと同時にニールを探した.


「クソ! まただ,また俺は繰り返すのか・・・!」




ニールを掃除当番として拾ったように,イルが堕界の悪魔を拾ったのはこれが初めてではなかった.


10年前,イルは一人の男性悪魔を拾った.

酷くやせこけ,背中の羽も小さな悪魔だった.


「ここはどこでしょうか?」


やせこけた悪魔はイルに尋ねた.


「ここは魔界だ.あんたは今生まれたんだよ.」


「今,いえ,私はさっき,いやそんなことは無くて・・・.」


やせこけた悪魔はぶつぶつと呟いた.


「記憶が混濁しているんだよ.あんたは前の世界で生きた記憶がある.同じような奴は他にもいるよ.」


「そうでしたか・・・.」


イルはやせこけた悪魔に「フレン」という名前をやった.

掃除当番としての仕事を与え,自身もフレンと共に働いた.


フレンとイルが出会って間もなく一年が過ぎようとする時期であった.

掃除当番の詰め所で騒ぎが起きたと連絡があり,イルは急いで詰所へと駆け付けた.

そこで見たのは,悪魔に縋りつくフレンの姿であった.


「殺してくれ! 消してくれ! 俺を,消してくれ!」


フレンはそう言って,周りの悪魔に縋りついていた.

悪魔は死ぬが消えない,すぐに生き返る,それはイルがフレンに話していたことだった.


「イル!」


フレンはイルを見るや否や,転びながら駆け寄り縋りついた.


「イル! 俺を消してくれ! 頼む! なぁ!」


イルから見ても彼は異常だった.

しかし,詰所の全員はイルに彼を任せるしかなく,イルもそのことをよくわかっていた.


「落ち着け,なぁ.どうしたんだ.何があった.」


フレンは泣きだして,震えた声で答えた.


「俺は,思い出したんだ.俺は,俺はさ,弟を,殺したんだ.ご,ごめんよって.あいつ,何も,悪く,ないのに,病気で,俺には金がなくて,あいつは,く,苦しそうで,,,」


「それは,堕界前の記憶だ.今のお前じゃぁない.もし割り切れないと思うなら,償うように今を生きろ.」


イルがフレンに渡した言葉は,イルが後に後悔した言葉であった.


「ああああ!」


フレンは叫んだ.

他の悪魔が制し,口を塞いでも,フレンは叫び続けた.

彼の手には魔界製でないペンダントが握られていた.


フレンは悪魔院に送られた.

殺人で堕界した悪魔,彼は危険因子として魔界には刻まれなかった悪魔であった.




「クソ! ニールのトリガーを引いちまった.」


ニールが暴れないことを願いながら,とにかくイルは悪魔院に急いだ.


イルが悪魔院に着くと血だまりが広がっていた.

不安の的中に恐怖を覚えながら院の門をくぐると,件の少女が暴れていた.


「お母さんは!どこ!」


ハサミを持って,取り押さえようとする悪魔の心臓を突き刺していた.


「おい,ガキィ!」


イルは叫んだ.


「っ...!」


イルはそのあとの言葉を見つけることができなかった.

それは,彼女を知らないことと,フレンのことが頭をよぎったからであった.


次の言葉を探しているうちに,後ろから飛んで降りた羽の音が聞こえた.


それはニールであった.

イルはますます焦った.

収拾がつかなくなるこの事態はもうイルの手には負えなかった.


ニールはイルの横を通り過ぎ,少女の前に立った.


イルはこれからのその始終を見届けるしかなかった.


少女の前に立ったニールは,血だまりの中で膝をつき,少女にポーチを渡した.


「見つかったよ.」


少女に優しく告げた.


少女はポーチを抱きしめ,倒れた.




少女の騒ぎから1日が過ぎた.

祭りは最後の盛り上がりを過ぎ,片づけを始める屋台も少なくなかった.

イルとニールは掃除当番詰め所の屋根に上ってその光景を眺めていた.


「あの子のことは心配するな.経過は良好だ.卒院はもう少し先だがな.」


イルはそうニールに話した.


「よくもまぁ,あの状態でポーチを探せたもんだ.俺はお前も―」


「堕界の奴らから,魔界に持ってきた荷物を離してはいけない.それは俺がよくわかっていた.俺たちは魔界に持ってきた荷物に何らかの思い入れがある.それが何か,具体的には分からないが,無いといけない.あれは俺たちにとってのろいであり,まじないでもある.」


「そうか・・・.」


イルはフレンのことを思い出していた.

ニールは続けた.


「俺は,俺の持つ記憶は,今の俺じゃないけど,それを捨ててしまえば,心のどこかが悲しくなる気がする.だから,俺はこの記憶を抱えながら生きると決めた.」


「あいつにとって,あれはどっちだったんだろうか.」


イルは呟いた.

ニールは不思議そうにイルを見た.


「あ,ああ.何でもないんだ.忘れてくれ・・・.」


イルはニールの正面に立ち,指を鳴らした.

イルの手には一輪の花があった.


「クサイかもだが,送らせてくれ.今日はお前がニールとなって1年目だ.」


ニールは照れ臭そうに受け取った.


「ありがとう.」


「お前はなにもかも俺の友人とそっくりだ.いいやつだよ.」


月明りが強い魔界の夜は月光が強くイルの潤んだ涙を光らせた.


「あ,そうだ.」


イルは思い出したかのようにニールに告げた.


「あの子との面会は別にできるんだ.あの子もお前と同じ堕界だ.俺がお前にそうしたように,お前があの子の名前を付けてやれ.」


ニールは少女に綺麗な花の名前を送った.

それは,彼女が成長した時,自身の罪に苛まれても打ち克てるようにと,金色の綺麗な花の名前であった.

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