EXEP1-09「ゴールドマンの罠」
突然アクションを起こしたデイビッドを見て、目を大きく見開きながら警戒心をあらわにする相川。
だが宣言した行動は止まらない。
「ワタシハ金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉ノスキルヲ、カウンターデ発動シマス!」
「──なっ⁉」
慌てふためく相川に、金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉のカードを見せながらスキル効果を読みあげるデイビッド。
「フィールド上ニ存在スル、王将以外ノ敵軍モンスターノ中カラ1体ヲ選択シテ発動シマス! 金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉ト選択シタモンスターノ位置ヲ入レ替エ、サラニ所有権ヲ交換シマス!」
「なっ……⁉ しょ、所有権の交換ですって……」
「チナミニ……コノスキルハ無効化スルコトガデキマセン!」
「無効化にまで耐性のあるスキル……! なんて厄介な……」
動揺する相川を尻目に、デイビッドは不気味な笑みを浮かべながら、選択した相川のモンスターの名を口にする。
「私ガ選択スルノハ、モチロン竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉デス!」
「くうっ……!」
相川の顔に不安の色が浮かぶ。
だがスキルの無効化もできないうえに、対処できる都合のいいスキルがないため、やむを得ずデイビッドの交換に応じる相川。
金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉の所有権がデイビッドから相川へ移り、逆に竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉の所有権が相川からデイビッドへと移る。
そして、これまで相川の竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉がいた場所には金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉が相川のモンスターとして出現し、代わりにデイビッドの金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉がいた場所に竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉がデイビッドのものとなって出現した。
思わず声を上げる相川。
「こっ……これは捕縛されたわけじゃないから無効でしょ⁉ ただ……あんたのスキルで所有権と位置が入れ替わっただけ……! あたしが奪われたわけじゃない……!」
「……本来ナラ今ノデアウトデスガ、一度ダケチャンスヲアゲマショウ。タダシ──スデニ〈クイーンハート・ドラゴン〉ハ、私ノモトニアリマス。ダカラ試合終了マデニ、アナタガ私ノ〈クイーンハート・ドラゴン〉を奪ウコトガ出来レバ、返シテサシアゲマショ」
その余裕を感じさせる発言から、まだデイビッドは何かを隠しているとしか思えないが、追いつめられた相川はそのことに気づいていない。
いや────
気づく気づかない以前に、もはや彼女に選択肢がないため考える必要性がないのだ。
そしてその相川の苦しまぎれの言い訳を、すんなり受け入れたデイビッド。
何を考えているのかわからないが、相川にとってはラッキーという以外にないだろう。
(ふふ……。あたしから竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉の所有権を奪えたことで悦に入って、もう忘れているのかしら? もともとあなたの金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉を狙っていたのは、あたしの進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉! 竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉に入れ替わったなら、そのまま捕縛して奪いかえすだけよ!)
追いつめられながらも、起死回生を狙った相川の顔に不敵な笑みが浮かんだ。
「それじゃ……さっきの続き───」
だがその直後、デイビッドが相川の言葉を止めるように言った。
「ソウソウ。私ウッカリスキルノ解説ヲ途中デ忘レテイマシタ!」
「……え?」
目を大きく開いて、動揺する相川。
デイビッドは相変わらず不気味な笑みのまま言葉を続けた。
「ソノ金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉ノスキルハ、1ゲーム中ニ1回シカ使ウコトガデキナインデスヨ」
「……なにそれ?」
「モウソノモンスターハ、アナタノモノデスガ、スデニ今回ノゲームデハ私ガ1回使ッチャイマシタカラネ。……モウソイツノスキルハ使エマセン」
「なんですって……」
金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉のスキルは、実際に相川が体験したとおり思ったよりも相手にとって厄介なスキルである。
相川にとっては大切な竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉のユニットを所有権ごと奪われたのは気に食わないのだろうが、その代わりに手にしたモンスターとして戦力的には申し分なかったはずなのだ。
だが、その肝心なスキルがすでに使えないとなると、まったくもって不釣り合いな交換をさせられたことになる。
悔しがる相川をまえに、さらに言葉を続けるデイビッド。
「モウヒトツ──。ソノモンスターニハ『行動不能』トイウパッシブスキルガ搭載サレテイルンデスヨ」
「行動……不能?」
相川が怪訝そうな顔で聞きかえした。
「言葉ドオリ、ソノモンスターハ行動スルコトガデキナイノデス」
「なにそのパッシブスキル……? そんなのデメリットしか────」
その瞬間、相川の中でいろいろな疑問が湧いてきた。
竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉を所有権ごと奪われたあげく、その代わりに押しつけられたのがスキルの発動ができないうえに行動不能のモンスター。
だが金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉と竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉の位置が入れ替わったということは、もともと金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉を狙っていた進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉の捕縛対象が、金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉から竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉に切り替わっただけということ。
つまり──
デイビッドがカウンターで放った金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉のスキル処理がこのまま無事に終われば、そのまえに捕縛宣言をしていた進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉によって竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉を取り戻せるという事実は変わっていない。
だが、しかし──
こんなやり方をするデイビッドが、本当にそんな単純なミスを犯すのか。
それも、あとから金将〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉のパッシブスキルについて、説明を付け足すというイヤらしさ。
相川の思考には、そういった疑念が渦巻き始めていたのだ。
デイビッドの真意は、どこにあるのか──。
違和感を感じた相川の顔には、絶望の色が浮かんでいた。




