EXEP1-08「クイーンハートドラゴン・ツァイト」
相川がターンエンドを宣言したあと、本来であればスキルを多用した激しい攻防へと移行していくのがセオリーだ。
そういう決まりがあるわけではないが、やはり人の性質、そしてゲーム性のバランス。いろいろな要素が関わっていることは事実である。
スキルの回数に制限はあれど、ゲームが半永久的に続くわけではない。スキルを最大限に利用できず、出し惜しみしたまま敗北してしまっては元も子もない。
かと言って、後先考えずにスキルを無駄に多用していれば、肝心な時にスキルが尽きて回避できるリスクも回避できなくなる。
すべてはバランスなのだ。
相川が勝負をしかけた今回のタイミング。
余程の事でもなければ、普通はここから相手もスキルを駆使した戦術へ移行していくパターンが通例ではある。
だが何も反応しなかったデイビッド。
デイビッドは、その後もあまりスキルは使用せずに、まるで将棋のようなゆったりとした戦術を維持している。
一度加速し始めた熱量を抑え込み、ふたたび失速させるような動き。
「……何を考えてるの」
相川が苛ついた表情で呟いた。
結局、中盤に差しかかるまで派手な動きを見せなかったデイビッド。
その頃までには相川も何体かの歩兵モンスターを失いはしたが、比べ物にならないほどデイビッドのモンスターを捕縛していた。
そして相川に、デイビッドの持つ4体のドラゴンのうちの1体──
香車〈Drago coniglio(ラビット・ドラゴン)〉を捕縛するチャンスが訪れる。
(ついに来たわ……このチャンス! 絶対に逃さない!)
相川が手にしたのは、桂馬モンスター〈フリージング・ライガー〉のユニット。
そのまま通常の桂馬と同じ動きで前進させる。
この行動によって桂馬〈フリージング・ライガー〉は、デイビッドの領域へと侵入したが、あえて相川は進化させなかった。そして、そのまま桂馬〈フリージング・ライガー〉のカードを手にしてスキルの発動を宣言する。
「あたしは桂馬〈フリージング・ライガー〉のスキルを発動! 桂馬〈フリージング・ライガー〉の行動権を1回分得る!」
これによって再度行動可能になった桂馬〈フリージング・ライガー〉の行動範囲先にいるのが、デイビッドの香車〈Drago coniglio(ラビット・ドラゴン)〉だ。これを捕縛できれば、賭けは相川の勝ちとなる。
「あたしは〈フリージング・ライガー〉で、あなたの香車〈Drago coniglio(ラビット・ドラゴン)〉を捕縛!」
だが──
「ソウハイキマセンヨ! 私ハ香車〈Drago coniglio(ラビット・ドラゴン)〉ノスキルヲ発動シマス!」
「くっ……! そう簡単にはいかないか!」
悔しがる相川。
デイビッドの香車〈Drago coniglio(ラビット・ドラゴン)〉のスキルは、前方、右斜め前方、そして左斜め前方の3方向からひとつ選び、好きなだけ進むことが可能なスキルだ。
デイビッドは右斜め前方を選び、もっとも安全な位置へと香車〈Drago coniglio(ラビット・ドラゴン)〉を退避させた。
「ちっ……! ターンエンド!」
相川が悔しそうにターンを終えると、デイビッドは相変わらず何をするでもなく、無難に歩兵ユニットを前進させてターンを終えた。
そして再び相川のターン。
真っ先に相川が手に取ったのは飛車〈クイーンハート・ドラゴン〉のユニット。
「あたしは飛車〈クイーンハート・ドラゴン〉で、あなたの歩兵〈Elfen eskortieren(エルフの護衛)〉を捕縛する!」
「……ツイニ来マシタネ」
不気味に笑うデイビッド。だが相変わらず反撃しようとしない。
その様子に警戒心を示すも、相川はさらに挑発を続ける。
「……ここまで攻め込まれても反撃して来ないなんて、あたしをナメてるの? いいわ、見せてあげる!」
そう言うと相川は、勢いよく右手を前に突きだして詠唱を口にした。
「時間は有限──魂は無限! いずれ訪れる死という名の終着点への恐怖! 恐れるな──! 心の中に存在する宇宙が、いずれ君のすべてを解き放ち、君はその先で世界の真理を知ることになるだろう! 進化召喚──現れなさい! 竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉!」
歩兵〈Elfen eskortieren(エルフの護衛)〉を捕縛したことで、デイビッドの領域へと侵入した相川は、そのまま飛車〈クイーンハート・ドラゴン〉を進化させたのだ。
続けて相川は、竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉のカードを手に取り、そのカードをデイビッドに見せながらスキルの発動を宣言した。
「あたしは竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉のスキルを発動! フィールド上に存在している金将、および銀将の自軍モンスターの中から1体を選択して、そのモンスターと竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉の位置を入れ替える!」
「……ホウ」
若干デイビッドの顔に苛立ちの色が浮かんだ。
だが相川はデイビッドの些細な変化など気には留めずに、言葉を続ける。
「あたしが選択するモンスターは、銀将モンスター〈魔将ヴァーユ〉!」
この相川の宣言によって、彼女の竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉と銀将〈魔将ヴァーユ〉の位置が入れ替わった。
「そして竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉のスキル効果には、まだ続きがあるわ! モンスターの入れ替えに成功したとき、竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉と入れ替わったモンスターを強制的に進化させて1回分の行動権を与える!」
この竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉の凶悪なスキル効果を、観客として聞いていた将角が驚きの声を上げる。
「な……⁉ 属性の指定はあるものの、強制進化させたうえに、さらに行動権まで与える効果だと……!」
相川は銀将〈魔将ヴァーユ〉のユニットを手に取ると、それを裏返しにして指定の位置へと置くことで、銀将〈魔将ヴァーユ〉を進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉へと変化させた。
さらに進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉のカードを手に取って、デイビッドに見せながらスキルの発動を宣言する相川。
「さらにあたしは進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉のスキルを発動! 属性をひとつ選択することで、このターン進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉の行動範囲は、選択した属性のものへと変化する! あたしは『龍馬』を選択!」
その瞬間、相川の進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉の行動範囲が、龍馬と同じ範囲へと変化する。
「竜王〈クイーンハートドラゴン・ツァイト〉の効果によって、進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉に付加された1回分の行動権を使用! あたしは進化銀将〈超魔将ヴァーユ〉で、あなたの金将モンスター〈GOLDEN・FAKE・SLIME〉を捕縛────」
そう相川が口にした瞬間、突然得体のしれないプレッシャーを放ちはじめたデイビッド。
「……遊ビハ、ココマデデスカネ。残念デス」




