EXEP1-07「悪魔との契約」
◇ ◆ ◇
プレイを始めるまえに、意味深な言葉で相川とコンタクトをとるデイビッド。
「契約ハ絶対デス。約束ハ破ラナイデクダサイネ?」
「それはこっちのセリフよ。あんたこそ、あとで泣きごと言わないでよね」
この場にいる人間の誰もが知らない、デイビッドと相川のあいだにだけ存在している契約──。
当然、ふたりが何の話をしているのか理解できている者などひとりもいない。
将角が怪訝そうな顔でつぶやく。
「……契約? なんの約束だ?」
そんな将角を、金太郎と桂が不安そうに眺めていた。
相川に何かを確認するように質問するデイビッド。
「最後ニ確認シテオキマス。ルールハ理解デキテマスヨネ?」
「ええ。あたしは〈ハートクイーン・ドラゴン〉を奪われるまえに、あんたの持つ4体のうちの1体だけでも奪えれば、その時点であたしの勝ち──ってことでしょ?」
余裕そうな表情で答える相川を見て、デイビッドの顔が不気味に笑う。
「……ソウデスネ。ソシテ同時ニ、私ガ4体ノウチ1体モ奪ワレルマエニ、アナタノ〈ハートクイーン・ドラゴン〉ヲ奪ウコトガデキレバ私ノ勝チ──ダト言ウコトモ忘レズニ……」
「…………わかってるわよ」
煙たそうに答える相川。
そのやりとりを聞いていた将角が険しい表情に変わった。
「……ルール? 奪ったら勝ち──? 賭けでもしてんのか? やつら」
「それが契約……ってことかな?」
桂が答える。
さらに将角と桂に同調するように、金太郎も会話に加わった。
「それが一番しっくりくるよな」
三人の視線が、デイビッドと相川に集中する。
「たぶん4体ってのはデイビッドのドラゴンだよな。……4体いるし」
「そうだな」
金太郎の問いかけに将角が答えた。
さらに質問を追加する金太郎。
「これが本当に賭けなら、お互いのドラゴンを賭けているってことかな?」
「……だろうな」
そして金太郎が重い口を開いた。
「…………ただの……賭けかな?」
「考えたところで答えは出ねぇよ。……ひとまず警戒だ」
少し躊躇してから答えた将角。
その隣で心配そうな顔をした桂が、ふたりを見ている。
そして金太郎の顔にも不安の色が浮かんでいた。
相川に契約について確認を済ませたデイビッドが、いよいよプレイを開始する。
「私ハ歩兵〈Giant monkey〉ヲ1マス前進サセテ、ターンエンドデス!」
相川同様、スキルは温存しつつ、通常行動権のみで様子をみるデイビッド。
しばらくはふたりともスキルは使用せずに、ゆっくりとした展開を見せていた。
そして開始5ターン目。
「あたしのターン!」
相川が手にしたのは歩兵モンスター〈凍傷ミーアキャット〉のカード。
「……キマスカ?」
不敵な笑みを浮かべたデイビッドが言った。
「あたしは歩兵〈凍傷ミーアキャット〉のスキルを発動!」
相川は〈凍傷ミーアキャット〉のカードを、デイビッドへと見せつけるように提示しながらスキル内容を口頭で伝えていく。
「このスキルは、歩兵〈凍傷ミーアキャット〉と同じ筋上に存在する自軍モンスター1体を選択して発動できる。あたしが選択したモンスターは香車〈レイズ・キャット〉!」
相川は盤面にある対象のモンスターユニットを手に取り、スキルの内容を説明しながら、宣言したとおりにユニットを動かしていく。
「選択したモンスターと歩兵〈凍傷ミーアキャット〉の位置を入れ替える!」
自軍領域の一番最深部右隅に位置していた香車〈レイズ・キャット〉を手に取り、その2マス前に存在していた歩兵〈凍傷ミーアキャット〉と位置を入れ替える相川。
このアクションにより、相川の一番右の筋に存在していた歩兵と香車のモンスターの位置が入れ替わったのだ。
「あたしは香車〈レイズ・キャット〉で、あんたの歩兵〈Dwergen Tovenaar(ドワーフの魔術師)〉を捕縛する!」
本来は歩兵モンスターが陣取っているはずの場所から、相川の香車〈レイズ・キャット〉が一直線にデイビッドの歩兵〈Dwergen Tovenaar〉を襲う。
「オォウ⁉ グレイトォ! ナイスコンボデスネ!」
デイビッドは特に反撃することなく、素直に歩兵モンスターを相川に渡した。
「……まだよ! 香車〈レイズ・キャット〉は、あんたの領域に侵入したけど、まだ進化はしない!」
「……ホホゥ!」
相川は香車〈レイズ・キャット〉のカードを手に取って、デイビッドへと見せつけながら言った。
「あたしは香車〈レイズ・キャット〉のスキルを発動! 通常行動権とは別に〈レイズキャット〉に1回分の行動権を与える!」
これによって、ふたたび行動が可能となった香車〈レイズ・キャット〉が、今度はデイビッドの領域の奥に潜む香車モンスターを狙う。
「あたしは香車〈レイズ・キャット〉で、あんたの香車〈सुपर फास्ट कछुआ(超速亀)〉を捕縛!」
「ホッホオォウ! ファンタスティーック! スバラシイコンボネ!」
自分の歩兵モンスターのみならず、香車モンスターまで奪われたというのに、まるで子供のように燥いで喜ぶデイビッド。
さらに相川のコンボが続く。
「あたしの香車〈レイズ・キャット〉は、あんたの領域〈テリトリー〉内で移動した──。進化する!」
相川は香車〈レイズ・キャット〉のユニットを手に取って、裏返しに置き換える。
「進化召喚! 現れなさい──進化香車〈レイズキャット・トワイス〉!」
相川は香車〈レイズ・キャット〉のカードを進化香車〈レイズキャット・トワイス〉のカードに持ち替えて、デイビッドへと見せつけながら宣言した。
「さらに、あたしは進化香車〈レイズキャット・トワイス〉のスキルを発動! 進化香車〈レイズキャット・トワイス〉の行動範囲内に存在する敵軍モンスターユニット1体を強制的に捕縛する!」
進化香車モンスターの行動範囲は、金将モンスターと同様となっている。つまり斜め後ろ以外が行動範囲となる。
相川はデイビッドの最深部まで攻め込んだ進化香車〈レイズキャット・トワイス〉の隣に存在するデイビッドの桂馬モンスター〈불여우(火キツネ)〉を強制捕縛対象に指定した。
「……スキルの迎撃…………しないの?」
あっけなくモンスターを奪われていくデイビッドに対して、怪訝な顔で質問をする相川。
「ウーン。チョウドイイスキル、アルト言エバアルンデスケドネェ……。ココハ温存シテオキマショウ!」
現時点でデイビッドの角行モンスターは、初期の位置を離れてしまっている。まだ最初の斜めライン上にいれば、引き返して相川の進化香車〈レイズキャット・トワイス〉を奪えたはずなのだが、相川に誘導されてそのラインから外れてしまっていた。
とはいえ、この相川の猛攻を離れた位置からでも止められるスキルを搭載したモンスターがいそうなものだが、何のアクションも見せないデイビッド。
なにより、その余裕に満ちあふれた表情──。
優勢であるはずの相川は、なぜかデイビッドに底知れぬ恐怖を感じ始めていた。




