EXEP1-06「交渉条件」
◇ ◆ ◇
現在、選手控室で相川とデイビッドが試合の準備をしている。
次は第一回戦の第一ブロックで勝利した相川と、シード参戦のデイビッドが第二回戦進出を賭けて戦うのだ。
第一試合を終えた金太郎は、会場の隅で将角たちと合流していた。
「おつかれ。金太郎」
「おつかれさまー」
「サンキュ。ふたりとも!」
右手で缶コーヒーを飲みながら、左手に持っていたコーラ缶を金太郎に投げつける将角。
「おっと……!」
金太郎は将角が投げたコーラ缶を器用にキャッチしてから、さっそく缶のタブを開けてグビグビと一気に飲み干していく。
桂は将角の隣でサイダーを飲みながら、横目で金太郎と将角のやりとりを観察している。
「……手ごたえはどうだった?」
将角は、対戦した相手についての感想を金太郎に訊ねた。
「ああ。かなり手強かったぜ」
「だろうな」
先ほど終わった金太郎と越智の対決。
勝ったのは金太郎だったが、思った以上に苦戦を強いられたようだ。
「越智なんてプレイヤー聞いたこともなかったけど、もともと大会とかには興味なかったヤツなのかな?」
「急に大会に興味が湧いて、今回出場したってこと?」
金太郎の言葉に対して、桂が確認するように疑問形で返した。
「ああ。どう考えても、無名とは思えない強さだったんだよなぁ……」
「まあ、そういう可能性は当然あるだろうが、単に急激な成長して今回出場してきただけかもしれねぇしな」
金太郎の予想を聞いて、今度は将角が意見を述べた。
実際には名の知れぬ強豪たちが、まだ人知れずどこかの地で息を潜めていることは間違いない。
今回の大会出場者の多くは、すでに過去に何らかの大会に出場して好成績をおさめた者がほとんどだ。そういった情報はネットなどに流れてしまうため、少し調べればすぐにわかってしまう。
だが越智のように、今回初めてクロスレイダーとして表舞台に現れたにも関わらず、トッププレイヤー並みの実力を兼ね備えている者も確実に存在しているのだ。
そういった者は、もともと大会などに興味がなかったか、個人的な理由で出場できなかったか────あるいは才能の恩恵を受け急激に成長したか、そのどれかだろう。
越智の他にも、今回の大会出場者の中には、過去に実績どころか何らかの大会に出場した経歴すらないと思われる選手が数名混じっていた。
井上正樹と加藤知之、それに────
「……あいつも実力は未知数みたいだな」
将角が視線を右に流しながら呟いた。
その視線の先にいたのは、相川円華。次にデイビッドと対決する選手だ。
「……お? いよいよ始まるのか」
将角のジェスチャーによって、相川を発見した金太郎が言った。
しばらくして、控え室からデイビッドも登場。
すると、一瞬にしてあたりは観客たちの大歓声に包まれた。
「……注目の試合だね」
桂が言った。
「ああ。少なくともデイビッドの試合が見れるのはありがてぇし……あの相川ってのも未知数だからな。まとめてふたりの実力を測れる良い機会だ」
桂が言った台詞の意味を、将角が解説するように言葉にした。
「……デイビッド・ゴールドマン…………」
金太郎は緊張した面持ちで、ただデイビッドの名を呟いていた。
アナウンスを担当する店員は、相川とデイビッドが指定の位置についたのを確認すると、いよいよ試合開始のゴングを鳴らした。
「お待たせしました! それでは本日のラストイベント! 電撃参戦のデイビッド・ゴールドマン選手と、先ほど第一試合を突破した相川円華選手の試合を開始いたします!」
試合開始の合図とともに、さらに観客たちの歓声が大きくなっていく。
「……あたしのターン!」
先行をとったのは相川。
「あたしは〈カピバラ二等兵〉を1マス前進させてターンエンド!」
そして、デイビッドのターン。
ターン開始早々、デイビッドの視線が相川の『あるモンスター』へと向けられる。
飛車〈クイーンハート・ドラゴン〉。
ランク5の激レアモンスターだ。
将角はデイビッドの視線を追うことで、デイビッドが相川の飛車〈クイーンハート・ドラゴン〉を狙っているのだと察知した。
(ドラゴン……! まさかこんなところでドラゴン使いに遭遇するとは思ってもいなかったが……。デイビッドのあの目──。明らかにあの女のドラゴンを狙ってやがる……!)
デイビッドが不気味に笑う。
「サテ……ソレジャア、ショータイムト行キマショウカネ? 私ノターンデス!」
◇ ◆ ◇
10分前────
選手控え室。
相川が次の試合の準備をしていると、そこにデイビッドが近寄ってきた。
相川はデイビッドの存在には気づいたが、まるで無視を決め込むかのように、黙々と自分の編成セットの最終チェックをしている。
すると突然デイビッドは、相川に意味深な言葉を投げかけた。
「アナタ……トテモ魅力的ナモンスター持ッテルネ?」
「…………だからなに?」
もともとデイビッドさえいなければ、すでに二回戦進出が決定していたはずの相川。あたりまえだが、相川にとってデイビッドは目の上のたんこぶでしかない。
あきらかに不機嫌そうな顔で、デイビッドに攻撃的な言葉をぶつける相川。
「用がないのならあっち行って……邪魔!」
だがデイビッドは、そんな相川の態度に臆することなく、不気味な笑みを浮かべながら、あり得ない言葉を口にした。
「ヒトツ──提案ガアルノデスガ────。アナタの〈クイーンハート・ドラゴン〉……コノワタシニ譲ル気ハナイデスカ?」
「……は? 馬鹿なんじゃないの…………あなた?」
提案と呼ぶにはあまりにも自分勝手すぎる唐突な話に、相川はあきれるのと同時に嫌悪感を抱いていた。
だがデイビッドは交渉をやめる気はなく、さらに条件の詳細を話していく。
「モチロン────タダデ……トハ言イマセンヨ」
「だから……! 交渉なんかしても無駄よ! 鬱陶しいから、さっさとその口を閉じてっ!」
それでも苛立つ相川を無視して、淡々と話を進めていくデイビッド。
「賭ケヲシマショウ! 私モ相応ノモノヲ出ス用意ハアリマス」
「〈クイーンハート・ドラゴン〉は、あたしのお気に入りなの! 何を出されても賭けなんてする気ないって言ってるでしょ! しつこいわね……!」
すると、デイビッドは自分の持っているモンスターのカードを4枚手に取って相川に見せた。
「……コノ4体デ、ドウデショウ?」
「なっ……⁉ ド、ドラゴン4体……ですって…………?」
さすがの相川も、目を大きく見開いて驚いている。
ドラゴンなど1体も持ってない人のほうが圧倒的に多いのに、ひとりで4体も所持していること自体に驚いたのだ。
デイビッドが提示したモンスターは次の4体だ。
飛車〈春夏秋冬龙(春夏秋冬ドラゴン)〉。金将〈Green Dragon〉。銀将〈Thunder dragon〉。香車〈Drago coniglio〉。
だが、少し深呼吸をしてから、相川はゆっくりと返事をした。
「……悪いけど。さっきも言ったように〈クイーンハート・ドラゴン〉は、あたしのお気に入りなの。いくらドラゴン4体を積まれたところで交換する気なんてないから」
するとデイビッドは、まるで計算どおりと言わんばかりの笑みを浮かべながら言った。
「交換……ノ要求デハアリマセンヨ?」
「は……? 交換の要求じゃない……?」
これで話は終わりと思っていた矢先、まだ話を展開させようとするデイビッドに困惑の色を隠せない相川。
そんな相川の心境などお構いなしに、いよいよデイビッドが話の本題に入った。
「〝賭ケ〟ト言ッタデショ? 私ガ勝テバ、アナタノ〈クイーンハート・ドラゴン〉ガ私ノモノニ……。アナタガ勝テバ、私ノ4体ノドラゴンガ、アナタノモノニ……。ツマリ────────」
デイビッドの眼光が怪しく光る。
「私トノ賭ケニ勝テレバ、アナタハ無償で、コノ4体ノドラゴンヲ手ニ入レラレル……トイウコトデスヨ」




