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EXEP1-05「デイビッドを追え」

◇ ◆ ◇


 一方、そのころ将角まさかどはというと────

 会場をあとにしたデイビッドを追って尾行を続けていた。


(いったい、どこへ行く気だ……? あの野郎)



 金太郎きんたろう越智おちの試合が開始してまもなく、何かを物色するような目で試合を見ていたデイビッドだったが、しばらくすると薄気味悪い笑みを浮かべてどこかへ去って行った。

 それを見た将角は、けいに金太郎の応援を任せてデイビッドのあとを追って会場をあとにしていたのだ。


 まるで緊張感のない表情で秋葉原の街中を散策するデイビッド。

 将角は電柱のかげや建物の裏などに身を潜めながら、デイビッドを追跡していた。


 すでにデイビッドが会場を出てから10分以上が経過しており、そろそろ引き返さなければ次の試合に間に合わなくなる可能性も十分にある。

 将角は選手ではないため特に影響はないが、そうなって困るのはデイビッドのほうなのだ。


 本日の試合は残すところあと一試合のみ。

 それは相川あいかわ円華まどかとデイビッドの試合だ。


 デイビッドがシード枠として第一ブロックに組み込まれたため、第一ブロックの勝者である相川は、デイビッドに勝たなければ第二回戦へは進出できなくなってしまったのだ。間違いなく彼女の頭の中は不満で一杯だろう。


 またシード枠と言っても、もともと第一ブロックに割り当てられていた選手たちが不利になっただけであって、シード枠のデイビッド自身の試合数はその他の選手たちと変わりない。

 つまりデイビッドの扱いは、そこまで他選手と差異があるわけでもないのだ。

 厳密に言えば、シードと呼ぶには少し異なっている状態とも言える。


 どちらにせよ、デイビッドが間に合わなければ、そのまま不戦勝で相川が第二回戦へと進むだけだが……。



 特に将角が気になっていたのは、金太郎と越智の試合を品定めするように観ていたデイビッドのあの目────

 あきらかに何かを物色していたようにしか見えない不気味な雰囲気を醸し出していたのだ。


 それから急に会場を出ていったかと思えば、デイビッドは秋葉原の街中をあてもなくウロウロと歩き回っているだけだった。

 追ってきたのはいいものの、デイビッドの掴みどころのない行動に翻弄されている将角。


(くそ……! 何がしてぇんだ…………あの野郎は……!)


 将角が時間を気にしながら監視していると、ようやくデイビッドは目の前に見えている店に入っていった。

 クロスレイドの中古専門店『ミッドガルド』──

 どうやら最初から、この店を目指して歩いてきたらしい。


(ミッドガルド……? なんだ? 中古のモンスターでも買いに来たのか……?)



 デイビッドを追って、将角もミッドガルドの店内へと入っていく。

 すでに目的のモノがある場所がわかっているのか、何の迷いもなく店内を進んでいくデイビッド。

 将角も物陰に隠れながら、一定距離をキープしつつ、デイビッドのあとをつけていく。


 ある地点で立ち止まり、デイビッドが手にしたモノ────────


「ウオオォオ……⁉ ソウソウ……コレコレェ……! ツイニツケマシタヨォ……! 銀将ギンショウモンスター〈モエモエモ・メイド〉!」


 そこらじゅうに響き渡る大きな声で、恥ずかしげもなくメイド美少女風のモンスターの名を叫ぶデイビッド。



(…………なにやってんだ……? あいつは……)



 銀将モンスター〈モエモエモ・メイド〉。

 ランク2のスキルなしモンスターだ。進化することで、進化銀将〈エモエモエ・メイド〉へと変化する。ランクは4へと上昇し、選択したモンスターの行動をターンエンドまで封じるスキルが付加される。


 進化後はそれなりに使えるが、それでも強さだけ見れば凡庸ぼんようだろう。むしろ進化前はスキルなしというデメリットを持つこのモンスター。


 実は、数年前に懸賞で500名だけに配布された希少価値の高いモンスターなのだ。

 現在は、かなりの高額で取引されており、コレクターが手放さない限り市場に出回らないため、なかなか手に入れることができない激レアモンスターなのである。


 デイビッドが立っている目の前にあるショーウインドウの中を見ると、そこには20万円の値札が付けられていた。


(に……20万だと……? まさか、あの野郎……あれを買う気か…………?)



 するとデイビッドは大きな声で店員を呼び出し、満面の笑みでそれを指さして言ったのだ。

「コレ……クダサイッ!」


 筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)としたガタイの良い体型をしている外人さんが、萌え系美少女のアイテムを買って喜んでいるさまは、何とも形容し難いおもおむき風情ふぜいがある。



 何の躊躇もなく20万円を支払い、目的のアイテムを手にすると、上機嫌で会場へと戻っていくデイビッド。

 あきれた顔でその様子を見ていた将角だったが、しばらくしてどこか浮かない表情へと変わる。なぜなら将角は、最近話題になっているクロスレイドの激レア狩りの犯人が、デイビッドなのではないかと疑っていたからだ。

 そのキッカケは、会場でのけいの言葉だった。


 デイビッドは有名人であるため、ネットでその行動歴をある程度は調べることができる。

 実際に将角が会場にいるときにスマホで調べていたのだが、結果的に疑わしいタイミングでの行動歴がいくつか確認できていた。

 ただ、当然だが確証があるわけではない。一般人がネットで調べられる情報など、所詮は限界がある。せいぜいレア狩りがあったと判明している日時に、デイビッドが現場近くにいたかどうかなどの情報を調べられる程度だ。

 たとえばデイビッドが参加していたイベント会場の付近で、偶然レア狩りが起こっただけという可能性も否定できないわけだ。


 仮にデイビッドが激レア狩りの犯人だったとして──

 デイビッド自身は、オークションなども駆使してレアアイテムを集めていると公言しているので、それ自体が嘘なのか、それとも実際にオークションで正規の取引もしているのか。

 まだわからないことは多いが、少なくともデイビッドが手放しに信用できる人物ではないということだけは、将角のなかで確固たるものになっていたことは事実だ。


 金太郎に対しての言動や、あの〈ゴールド・ドラゴン〉を見る目──

 将角がデイビッドをレア狩りの犯人だと疑うのも無理はなかった。


 なのに、さっきは何の躊躇もなく20万円も支払って銀将〈モエモエモ・メイド〉を購入したデイビッド。

 もちろん何でもかんでも強奪しているとは限らないわけだし、有名人であることからお金に困ってはいないだろう。

 そうなれば、お金で買えるものは普通に買っている可能性もある。


 しかし、だとすればレア狩りなどせずに穏便にお金で交渉すれば済むことなので、もう将角には何が何だかわからなくなっていたのだ。


 ただ──

 陽気な笑顔で銀将〈モエモエモ・メイド〉を購入するデイビッドの姿が、将角を困惑させていたことだけは間違いない。


(…………こいつ……レア狩りの犯人じゃないのか……?)


◇ ◆ ◇


 デイビッドと将角が会場に戻るころには、もう金太郎たちの試合は終盤を迎えていた。


「オォウ……! アブナカッタネ! モウ少シオクレテタラ、不戦敗フセンパイにナッテシマウトコロダタヨ……!」


 このデイビッドの言動が素なのか、演技なのか、将角は見切れずにいた。


(この野郎……どこまでが本気なんだ……?)

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