EXEP1-04「越智戦開始」
◇ ◆ ◇
五十嵐と知念の試合が終わってから小休憩を経て、会場の中心には金太郎と越智が対峙していた。
金太郎と越智のあいだには緊張が漂っているが、会場全体は観客たちの歓声によって賑わいを見せている。
「さあ! いよいよ第一回戦も最終局面……第四ブロック! 御堂金太郎選手対越智啓介選手の試合を開始します!」
会場にアナウンスが響きわたり、金太郎と越智の試合が始まった。
「俺のターン!」
勢いよくターン開始を宣言したのは金太郎。
「俺は歩兵〈ドレッド・ジャガー〉を1マス前進させてターンエンドだ!」
金太郎はスキルの使用を控えて、手堅くターンを昇華。越智のターンへと移行する。
「それじゃ次は僕のターンだ!」
越智は一瞬、金太郎の顔を確認してからモンスター・ユニットを手にした。
「……僕は歩兵〈ボサノサバ〉を1マス前進させてターンエンド!」
越智が金太郎の行動に逆らうことなく、同じように通常の行動だけでターンを終えたことが、お互いの脳裏にボンヤリと序盤の展開を映しだす。
ただ、こういった展開の場合、お互いに最も警戒しなければならないのは、相手がいつ仕掛けてくるのか──そのタイミングだ。
2ターン目以降は、お互いを警戒し合うふたり。
しばらく地味に自軍モンスターの位置調整を行いながら、じわじわと相手の陣地へと近づいていく。
金太郎も越智も、あまり長考するタイプではないうえに、お互いにスキルを使用していないため、序盤の展開は速い。
15分ほど経過したころには、すでにお互いのモンスターが序盤の陣取りを終え、最前線モンスターは相手の射程圏内に入る寸前まで近づいていた。
最初に動いたのは越智。
「僕のターン!」
越智は香車〈ソニック・エレファント〉のユニットを手に取り、5マス前にいる金太郎の歩兵〈百獣の女王〉の位置まで一気に突き進み〈百獣の女王〉を捕縛した。
その位置に歩兵〈百獣の女王〉がいたのは、越智が前のターンで金太郎の歩兵〈百獣の女王〉の目の前まで歩兵〈マグロード〉を前進させていたからであり、それを金太郎が歩兵〈百獣の女王〉を1マス前進させて捕縛した結果である。
だが、この行動によって越智の香車〈ソニック・エレファント〉の前にいたはずの歩兵がいなくなり、一直線に金太郎の歩兵を捕縛することで金太郎の領域の一歩手前まで前進することができたのだ。
しかし普通の将棋では、この状況ではまだ相手の陣地に入っていないため『成る』ことができない。もちろんクロスレイドでも同様だ。
将棋でいうところの『成り』──
つまりクロスレイドでいう『進化』も、相手の領域内まで侵入しなければ条件を満たせない。
現在、越智の香車〈ソニック・エレファント〉がいるのは、金太郎側の最深部から4マス目──。ギリギリ領域の一歩手前ということだ。
「ふう……。予想はしていたけど、クロスレイドで香車モンスターに突っ込んで来られると、わかっていてもヒヤッとするぜ……」
金太郎は冷や汗をかきながらも、ホッとしている様子だ。
だが、このとき越智の口もとにわずかに笑みが生まれていた。
それを見逃さなかった金太郎の顔に、焦りの色が浮かぶ。
「よし……! 最初は僕から攻め込ませてもらう!」
越智は目の前に並べてあったカード群の中から香車〈ソニック・エレファント〉のカード1枚を手にとり、金太郎へ見せつけるように前に掲げてみせた。
「僕は香車〈ソニック・エレファント〉のスキルを発動!」
これまで静かだったフィールドは一気に熱量をあげ、それが観客へも伝播し、会場全体の空気が震えだす。
越智は香車〈ソニック・エレファント〉のカードを手にしたまま、スキル内容を口頭で説明していく。
「スキル効果によって、僕は香車〈ソニック・エレファント〉を1マス前進させる!」
越智は香車〈ソニック・エレファント〉のユニットを手に取ると、それを1つ先のマスへ裏返しに指した。
「──進化召喚! 現れろ! 〈ソニック・エレファント・ロード〉!」
すると次の瞬間、香車〈ソニック・エレファント〉は竜巻のようなエフェクトに包まれ、その中から進化香車〈ソニック・エレファント・ロード〉が姿を現した。
悔しそうな表情を浮かべる金太郎。
「くそ……! 油断してたぜ」
だが越智は、さらに手に持っていた香車〈ソニック・エレファント〉のカードを、進化香車〈ソニック・エレファント・ロード〉のカードに持ち替えて、それをふたたび金太郎に見せつけるように前へと突きだしながら、スキルの発動を宣言した。
「まだいくぞ! 僕は〈ソニック・エレファント・ロード〉のスキルを発動!」
スキルの迎撃も考慮して身構える金太郎をまえに、越智が進化香車〈ソニック・エレファント・ロード〉のスキル内容を読みあげ始めた。
「こいつのスキルは、自分自信を2マス前進させる効果だ!」
「なにぃ……⁉」
「僕は〈ソニック・エレファント・ロード〉で、2マス先にいる香車〈ファイアー・ケンタウロス〉を捕縛する!」
だが、越智が金太郎の香車〈ファイヤー・ケンタウロス〉を捕縛したとき、今度は金太郎が香車〈ファイヤー・ケンタウロス〉のカードを手にとり、越智に見せながらスキルの発動を宣言した。
「俺は〈ファイヤー・ケンタウロス〉のスキルをカウンターで発動するぜ!」
「なっ……⁉ 捕縛されたモンスターのスキルを発動するだと⁉」
「俺の〈ファイヤー・ケンタウロス〉は、捕縛されたタイミングにカウンター扱いで発動できるスキルを持っている!」
金太郎が香車〈ファイヤーケンタウロス〉のスキル内容を口頭で説明する。
「〈ファイヤー・ケンタウロス〉を捕縛したモンスターを強制退化させる!」
「きょ……強制退化……⁉」
越智にとっては、かなり想定外だったようだ。
越智は自軍モンスターが現段階で使えるスキルの中に、香車〈ファイヤー・ケンタウロス〉のスキル効果を防ぐことができるスキルがあるか、慌てて探っている。
「だ……だめだ……。仕方ない…………」
そう言って越智は、せっかく進化させた進化香車〈ソニック・エレファント・ロード〉を、香車〈ソニック・エレファント〉へと戻した。
香車モンスターは進化することで、金将モンスターと同様の行動範囲へと変化するため、相手の最深部からでも行動可能だが、前にしか進めない香車モンスターが進化していない状態で相手の陣地の最深部にいるということは──
もはや、この香車〈ソニック・エレファント〉は自力では行動することが不可能な状態になっているということだ。
もちろん状況を打破できる都合の良いスキルがあれば別だが、少なくとも香車〈ソニック・エレファント〉自身のスキルは『自身を1マス前進させる』という効果であり、すでに最深部にいる時点で完全に腐った状態になってしまっている。
あとは他のモンスターのスキルを利用して救い出すかどうかだが────
仮に都合の良いスキルがあったとして、それが果たして香車〈ソニック・エレファント〉を救い出すために消費することに意味があるのかということだ。
「くっ……! してやられたってわけか…………」
越智の顔が険しい表情へと変わった。




