EXEP1-03「戦略観察」
◇ ◆ ◇
すでに会場では第一回戦、第三ブロックの試合が行われていた。
対戦しているのは五十嵐亜紀と知念吉光。
二人とも各都道府県で代表まで上りつめてきただけあって、ハイレベルな駆け引きを展開しいる。
もちろん、すでに試合が終わっている選手たちも、かなり実力者揃いだった。
第一ブロックの加藤智行と相川円華の対決では、どちらもトリッキーな戦略を得意としており、長期戦にもつれ込んだ結果、勝ち上がったのは相川の方だった。
また第二ブロックの井上正樹と三浦正和の対決では、パワー型の井上が知力戦を得意とする三浦を制した。
そして現在行われている第三ブロック。
優勢なのは沖縄県代表の知念だ。
知念は基本的にバランスのとれた編成になるようにモンスターを配置している。
一方、少し押され気味の五十嵐も、全体的にクセのないオーソドックスなモンスターを多く使用しているように見える。
確実に言えるのは、全員が間違いなくトップレベルプレイヤーだということだ。
彼らの試合を見て怖気づく金太郎。
「ああ……⁉ 俺……本当に恥かいたりしないのだろうか……?」
「おまえ……まだそんなこと言ってんのか?」
金太郎の横で、将角が呆れた顔をしている。
そして、いつもは金太郎と将角のコントを楽しそうに見ている桂だが、この時はどこか見当違いの方向をじっと眺めていた。
その様子に気づいた将角が桂に声をかける。
「……どうした? 桂?」
「うん。さっきデイビッドさんが、金太郎くんに言った言葉が気になって……」
桂の視線の先にいたのは、不気味な笑みを浮かべながら試合を見ているデイビッドだった。
自然と将角の視線もデイビッドに向けられる。
「そういや、やけに金太郎の〈ゴールド・ドラゴン〉に興味を示していたな…」
将角たちの会話によって、金太郎の視線もデイビッドへと向くことになった。
金太郎は、どことなく不安そうな顔をしている。
「おい、金太郎。あまり弱気になるな。角田の一件で神経質になっているのはわかるが、今は俺たちもいるんだ。アイツが不審な動きを見せたら、俺たちも黙ってねぇからよ」
「ごめんね。ボクが余計なこと言ったから……」
「いや……。俺が〈ゴールド・ドラゴン〉と角田の話題を出したのが無神経だった。わりぃ」
あきらかに金太郎がデイビッドを警戒し始めてしまったのを見て、慌ててお互いをフォローし合う将角と桂。そうすることで金太郎の不安を軽減しようとしたのだ。
「あ、ああ……。サンキュー! 二人がいてくれて心強いぜ……!」
金太郎は将角たちに笑顔を向けるが、やはりどこか無理しているように見えた。
そんな中、五十嵐と知念の試合が終盤に差し掛かっていることに気づいた将角が、金太郎の気持ちを切り替えようと話題を変える。
「……そういえば、あいつ。次のおまえの対戦相手だろ。越智っつったっけ?」
将角が握った右拳の親指だけ立てて、後方のやや離れた位置に陣取っている越智を指差しながら言った。
将角の親指が指し示す方向に視線を向ける金太郎。
そこにいたのは愛媛県代表である越智啓介だ。インテリ風のフチなし眼鏡をかけており、知的な印象を醸し出している。
「おまえ。アイツの戦略とか、もう研究したのか?」
「いや……してないけど……」
頭を抱えながら、ため息を吐くと同時に項垂れる将角。
「相変わらず、呑気な野郎だな……」
「わ、悪かったな……」
金太郎は少し不機嫌そうな態度を見せるが、将角とはいつもこんな感じのため、それ以上は反論することもなく、そのまま将角の情報提供に耳を傾ける。
「いいか? ヤツのエースモンスターは恐らく桂馬の〈サイキック・ラビット〉だ」
「おまえ、よくそんなことわかるな」
金太郎の意識がデイビッドから次の対戦相手である越智へと完全に移行したことを確認した将角は、ホッと胸を撫でおろしてから越智について調べた情報の続きを語り始めた。
その様子を横から笑顔で見守る桂。
将角という人間が他人に対して人一倍優しいことを、桂は誰よりもよく知っている。
だから、金太郎の不安を取り除くために、さり気なく話題を変えたことにも気づいていた。
桂は、それを相手に恩着せがましくひけらかさない将角が好きなのだ。
「ああ。あいつ地元の大会にはよく出場して優勝をかっさらっていたらしくて、ネットにも情報が大量に流れていたぜ」
「へえ」
将角が調べていた情報によると、越智は全体的にバランス型のモンスターが多いということだが、中でもスキルシナジーなどを利用した戦略も好む傾向があるという話だ。
、金太郎の脳内から完全にデイビッドへの不安が消え去ったころ、第三ブロックの勝敗が決したようだった。
審判をしていたSEEDの店員が、勝者の名前を口にする。
「勝ったのは知念選手!」
金太郎たちの視線が、一斉に知念に注がれる。
「勝ったのは知念の方か」
シリアスな表情で勝者の名をつぶやく将角とは対照的に、桂が笑顔で金太郎に呼びかける。
「いよいよ金太郎くんの番だね!」
「ああ! ちょっと緊張してきたぜ……!」
金太郎は額に汗を浮かべてはいるが、その表情からはもう不安は感じられない。
むしろこれから試合をするのに、程よい緊張感に包まれているようだった。
「越智くん強そうだけど、頑張ってね!」
桂の言葉に頷く金太郎。
その時、将角の視線だけは越智ではなく知念へと向けられていた。
それは金太郎が一回戦を突破した場合、次に対戦する相手が知念だからだ。
越智は本トーナメントにおいて最年少らしいが、やや落ち着いたクールな笑顔を覗かせていた。
しばらく越智を観察していた将角は、相川と三浦へとその視線を移す。
相川は長い黒髪が特徴的で、容姿端麗の美女といった感じである。また三浦の方は明るい茶色のミディアムロングの髪に細長い目が特徴的で、どちらかというと中性的な感じの男子だ。
(次に金太郎が戦う相手は知念……。そして金太郎が決勝戦まで勝ちあがった場合、戦う可能性があるのが相川か三浦、もしくは────)
そして最後に将角の視線はデイビッドへと移った。
(デイビッド・ゴールドマン……。突然、シード枠で出場が決定した海外の有名プレイヤー。桂が気にしていたが、たしかに不気味であることには変わりねぇな)
将角はデイビッドにその鋭い眼光を向けながら、思考を巡らせている。
(そもそも、どうしてデイビッドがシードっつー特別な席を用意してもらえたかだ。それも予選すら免除されたって噂だ。当然だが出場選手たちに快く思っているヤツはいねぇだろうな)
デイビッドが将角の視線に気づき、不気味な笑顔で返してきた。
だが将角は、それを無視するかのように攻撃的な視線を向け続けている。
(裏で手を引いてるヤツがいるのか……。それともヤツ自身にそれを可能にする何かがあるのか……。ともかく────。何を企んでんのか知らねぇが、警戒しておくに越したことはねぇか)
しばらくすると将角は、その目を横に逸らしてぽつりと独り言をつぶやいた。
「……どっちにしても一筋縄ってわけにはいきそうにねぇな」




