超能力さんは普通の恋をしたい
1
私の家系は、先祖代々超能力が使えます。
「え、なにコイツ痛すぎ……。キモいし近寄らんとこ……」とお思いのみなさん、私は痛くないしキモくないので怖がらないでください。
いやもう最悪キモがりながらでもいいので話は聞いてください。
私の家系は超能力者です。私も母もおばあちゃんも、そのずーっと前のひとたちも超能力が使えます。この配列だと女性限定っぽく思えるかもしれませんが、たまたま誕生したのが女性だっただけで男性も生まれれば超能力は使えます。例えば叔父さんとか。
ただ、同じ血統でも能力の強さには個人差があるみたいです。遺伝的な何かが違ったりするんですかね?
ここで超能力者豆知識。秘密裏に各国の政府が管理する超能力研究組織『WPO(World Psychic Organization)』によって、超能力者たちの能力の度合いは日々測定されています。
能力の度合いは『リスク』という基準で数値化され、振り幅はリスク1からリスク7まで。まれに他人の心がなんとな〜く読めちゃったりするだけの実用性が皆無すぎる微弱な超能力を持つ程度の人はリスク1。平和ですねぇ。
しかし、最大のリスク7はどんな超能力でも使いこなし、その能力で世界の崩壊すら引き起こせるとされていたりします。あぁ、恐ろしい。
我が家はそこまで強い能力を保持する血筋ではありませんでした。お母さんもおばあちゃんも、たしかおじさんもリスク1や2、高くても3あたりがうちの家系の限界です。
せいぜい意図的に他人の心が読めるけれどめっちゃ疲れたり、丸めたティッシュくらいのゴミを捨てるのに面倒だからサイコキネシスを使ったり。そのくらいしかできません。
世界の脅威にならない。
うむ、平和!
そして、今から17年前に私が生まれました。
「超能力はどれくらい遺伝するかな〜」「かわいい娘だぁ〜」とかなんとか、我が家は大喜び。
さてさて、しばらくしてからWPOの職員が私のリスクを測定しに訪れます。スーツを来たOLにしか見えない女性です。今でもたまにお世話になってます。
あぁ、すいません。
話が逸れました。
家族みんなが温和な家庭ですからね、職員の方もニッコニコで「おめでとうございますー」なんて言ってたりして、さぁいざ結果が出ましたと。
驚くなかれ、その結果はリスク7!
はい、そうです。
誰あろう、私こそが世界を滅ぼしかねない天才あるいは天災なのです。
え、予想できた? 語り下手なんですかね、私って……。
2
「おあよーございまふー」
「コラ、彩子! 宙に浮いてないでちゃんと起きなさい!」
空中浮遊をしていたらお母さんに怒られました。
眠い朝くらい、ちょっとズルしてもいいと思うんですよね。
というか人が起き上がって動くことと超能力者が起き上がって浮くことは同義だと思うのですが。
ちなみに空中浮遊はサイコキネシスの応用です。我が身をサイコキネシスで動かしているのです。
立つよりも楽ですよ、これ。
「まったく……。だから早く寝なさいって言ったのに」
「昨日は宇宙にテレパシーを飛ばして宇宙人とコンタクトが取れないか遊んでたのですが……。誤って火星人の脳内にヒットしちゃいまして――」
「もう火星人とは話さないって2年前に約束したでしょ!? あの時も宇宙戦争の一歩手前だったんだから!」
「昨夜も危ないところでした……。でも自力で、しかも昨晩のうちに解決したので成長を感じますね」
火星人はヒットするのに宇宙人はいないんですよね。
え、違い?
火星人は火星人、宇宙人は火星に住んでなくて、かつ地球以外の生命体のことですよ。
ぜひ宇宙人さんとお話してみたい……。
そういえば金星人もなかなか見つかりませんね。
光の巨人もぜひいてほしいものです。
私は驚愕のあまり動けなくなっちゃった母をよそに、パイロキネシスでパンを炙りました。
どうしていそいそと朝食を食べているのか。それはですね、私が今をときめくJKだからです。
私が普通の学園生活に憧れていること、また超能力者である真実を隠しつつ社会に溶け込む練習を目的として学校に行っているのですが――普通に憧れつつも、自宅ではつい能力を多用してしまう天然っぷり。
もっと表情豊かならテヘペロしているところでした。
ちなみに、多くの超能力者は一般社会に馴染めているようですが、能力を悪用すればWPOに消されます。
もし誰かに能力を自慢してもその誰かの記憶がWPOによって消されます。
つまり、超能力のことは他人に知られちゃまずいのです。
ならばなぜ超能力者ではない父やおじいちゃんがちゃっかり我が家にいるのか。
それはもちろん結婚したからですが、超能力の存在は結婚する時にはじめて明かすのです。
超能力者と結婚する人は婚姻届と一緒にWPOの人が持ってくる誓約書も書く必要があります。超能力者についての口外禁止、離婚も禁止――って内容の誓約書です。
そのため打ち明けられた時点で、相手の人はもう超能力者と結ばれなくてはならない運命となります。
許嫁みたいですね。
さてさて、今日も一般人らしくセーラー服に身を包みましょうか。
普通らしく、普通に歩いて普通に勉強して普通に帰りましょう。
私よ、どうか普通に。
3
あー、つまんねー。
授業ガチつまんない。暇だからこっそりサイコキネシスで時計の針を動かす遊びしてるのに、絶対誰も気づかないし。
は? 作者の考えとか、目の前の生徒たちの心を読めない分際のくせにわかるわけないでしょう。私にだってわかんないですよ、死んじゃってるんだから。
死者蘇生なら多分可能ですけどね。
いいですか。
もちろん私は学び舎の存在を否定するわけじゃないんですよ。
私たちが生き、見て、感じるこの世の中を素晴らしいものにするものは他ではない教養であり、それは知識なり思考力なり総合的にあってこそのもので、同時に国社数理から、体育やら美術やら、全教科から多感な時期だからこそ感じ得られるものを吸収するために学校は必要です。
ただ、その意義を絶対的に学校が教えているかというと、私たちの人生を彩るものとして考えているかというと、きっとそうではないでしょう。
進学率――。
これです、これに尽きます。
高校や大学のHPを見てみると、必ず教育理念が書かれているじゃないですか。
とりあえず面接試験で使うから、受験する本人はしっかり目を通すとして、はたしてそこに行くことの決定打やキューを出した先生および親御さんはどこを見ていたというのでしょう。
偏差値、進学率、就職先――。まぁ、そういうものでしょうね。
すなわち、もはや私たちが享受しているものは学ぶための学びなのではなく、もちろんそれは真に教養たるものでもなく、大学受験の中に特にセンター試験でよく出題されそうな部分を教えられているだけなのです。
世界からセンター出題領域のみを切り取り、それだけで私たちに数字を振り分けんとしているのです。
そうはいっても学びは学びだし、得るものは少なからずあるでしょう。
そしてこんな私の愚痴は、真面目に授業を受けるみんなに失礼なものなんでしょう。
でも、かのトーマス・エジソンだって、天才すぎて学校を中退してますから。つまりこれは天才ゆえの宿命ですね。
しょうがないしょうがない。
ただ、まぁ、私にはエジソンさえ持ち得ない能力がありますから。
暇つぶしにテレパシーで誰かの考えてること覗いちゃおっと。
隣の席の山崎拓郎くん。
ザ・普通って感じの男の子ですね。
見た目も普通だし名前も普通だし、聞く話も普通です。
普通の人はいったい何を考えているのか――早速見ちゃいましょう!
ビビビビビ――っと。
「うわぁ、授業眠いな……。なんか面白いこと起きないかなぁ」
普通ですね。
想像通りすぎてむしろ想像を超える凡夫加減です。
「あー、もしここで隕石落ちたらオレが特別な力に目覚めてみんなを救うんだろうなぁ。それか校内にテロリストが侵入してきて、それをオレがどこで身につけたかもわからない武闘術でボコボコにするんだ」
妄想力たくましいですね。
隕石かぁ……。
隕石くらい頑張れば落とせそうな気もしますけど。
「あーあ、モテねぇかなぁ。女、女、女……。お、あの子かわいいよなぁ。卒業までにさっさと彼女つくりてぇー。そういえば、隣のやつ、ミステリアスで何考えてるかわかんないよなぁ。こいつ、魔女かなんかだったりして」
惜しいですね。魔女じゃなくて超能力者です。
「でもいけなくないんだよなぁ。あっちから告ってくれたらバリバリオッケーするのに……。あー、恋してぇなぁ」
むむっ。
普通に憧れる者としてこれは盲点でした。
どうやら私は『普通の恋愛』たるものの追求を忘れていたようです。
たしかに、JKといえば恋愛とさえ断言できるかも……。
それに、先程学校の存在意義たるものを説いていましたが、学校はこういった経験の場でもあると思うのです。
超能力者が社会に溶け込む練習として一般的な学校へ行くように、恋なり友情なりを体験して、人間としてのカルチベートを成し遂げるのが、段階的に人生のあれこれをつまみ食いするのが学生に許されし青春ではなかろうかと思うのです。
普通は顔が好みとか性格がいいとか、そういう部分で恋に落ちるのでしょう。
私は普通になれない――というか、もう普通じゃない方法で心の声を聞いてしまったので、仕方がないですね。
私のことを好きでいてくれる可能性の高い山崎拓郎くん、あなたは今日から私のターゲットです。
面白くなってきましたね、意外と。
4
普通に憧れつつも、初の恋路がハードモードでは流石にビビります。
初回は補助輪付き、私の全能力を行使してお相手しましょう。
私からとやかく言うことは多分ないですが、学生の恋なんて一生モノになる確率は低いのが現実でしょう。
そりゃあ、高校生の時から付き合って、先日とうとう入籍しましたなんて素敵なこともあるとは思いますが。
だからまぁ、練習っすよ練習。気楽にやりましょう。
さて、まず恋とはそもそもなんなのか。
率直に「好きです」とでも言えばいいんですかね。
「突然ですが山崎拓郎くん、あなたのことが好きです」
「え、えぇ!? 突然だね、彩子さん……。ごめん、ちょっと――」
おや、なぜか失敗しましたね。
安心してください。今の会話は私の予知能力を通して流れた映像ですので。
現実ではまだ何も言ってません。
内心では私のことを悪くないと思っているはずなのに、率直な告白では断られる――。
あれですか、ロマンとかいうやつですか。
一回ロマンを極めし愛の言葉でも述べてみますか。
「山崎拓郎くん。今日は月に照らされるバラのように、青の光と赤い花が結ばれる日だと思います」
「え? な、なんすか……? 彩子さんから話しかけてくるの珍しいっすね、はは……」
ドン引きされてしまいました。
やっぱり普通にするって難しいですね。
あ、そうだ。恋は障害があるほど燃えるって聞きました。
今度はいわゆるツンデレキャラになってみて、かつそれとない好意を伝えてみましょうか。
「山崎拓郎くん。別にあなたのことが好きというわけではないのですが、なんとなく連絡先が知りたいと思ったので交換しませんか」
「えっ、どういう……? 怖いんだけど……」
「怖くないです。今ここで交換すれば、きっと幸せが訪れることでしょう」
「宗教勧誘!? 詐欺!? なんか悪用されそうで怖いんだけど!?」
ツンデレが伝わりにくすぎたかもしれません。
難しいですね、ツンデレって。
そもそも私のガラじゃないんでしょうね。仕方ない仕方ない。
しかし、こうなるといよいよ私がするべき行動がわからなくなりました。恋って難しい。
普通たる行動とはいかに……。
私にとってはみんなが普通じゃないのに、多数決で普通を決めるなんてちゃんちゃらおかしい話なんですけどね。
普通とか常識とか、そんなもの気にしなくていいよ――と言うぶんにはみんなタダですが、しかし実際は嫌われたりハブられたり、最悪捕まるという現実。
普通や常識の言葉は、使い方を間違えれば偏見的なものであるのと同時に、社会のまとまりをつくるうえで大切な言葉ですし。
なにより私が普通の人間じゃないのは事実です。超能力者が普通って言われたら世界崩壊しますよ。
「彩子さん……? なんか困ってる?」
おっと、今のは予知でもなんでもなく現実のお声がけ。
その声は高すぎず低すぎず平凡な声で――つまりは拓郎くんからのお声がけでした。
拓郎くん、キミは普通の人間のはずなのに普通以上の優しさを持っていますね。
「なんかあったら手伝うよ。オレでよかったらだけど……」
では手伝って――もらえませんね。
接触の機会は得たものの、恋とはここからどうすればいいものか。
直球に好きですと言ってもよくなかったですし、なんかもっと仲良くなれる話題でもあればいいんですけどね。
当然、キミの心を読んだら私に好意を持っていそうだったので――なんてのも超能力がバレるので無理です。
そっか、心覗けばいいんですよ。
もう一回心の中を覗いて、私に合いそうな話題を探せばいいんです。
そうと決まればビビビビ――っと。
「あんまり話したことないのに突然過ぎたかなぁ。何も言わないでこっち見てくるのなに……? オレ、もしかして何かやったか? いやいや、ただ悩んでそうな顔してたから話しただけ。オレは人として正しいことをした。それなのに、なんだ。なんでこんなじっと見てくるんだ……! うわ、よく見たら瞳の色ヤバッ! ありえねぇほどきれいじゃん。まつ毛なっが! 顔面強すぎだろ。あなた本当に同じ人間ですかって! 口数少ないから多分知らないだろうけど、あなた実は男たちにちょこっと人気あるんですよーって言えるわけないか」
へぇ。人気あるんですね、私。
普通に憧れつつも、あまり過度な接触をしてはボロが出ると思って口数少なめで過ごしてましたが、これからは男子たちを落としてまわるのも楽しそうかも。
「山崎拓郎くん。キミ、いい人ですね」
「えっ、そ、そっすかね……」
「困ってること……。うーん、誰かと話したかった――とかでもいいですか?」
「あ、や、なるほどぉ、あぁ全然! オレも話したかったところなんだ、はは、偶然」
緊張してますね〜。心を読むまでもなく。
しかもなんか全然と偶然で韻踏んでますが。
いや、それは図らずやってそうか。でもそれはそれで面白いですね。
「オレさ、彩子さんのことよく知りたかったんだよね」
「告白ですか?」
「……え? あ、違う! そういうつもりで言ったわけじゃない! だからって彩子さんに興味がないわけでもないんだけど――。えっと、つまり彩子さんのことはいいとは思ってるけど、彩子さんが不快になるような意味ではなくて……。ごめん、うまく言えないや……」
「構いませんよ。私、人の心を読むのが得意なので。キミが悪い人じゃないってことだけは伝わってます」
本当は超能力者ですって言えたら楽なんですけどね。
言えたら楽なのは、彼の恋心も同じですか。
5
山崎拓郎くんと話しはじめてから2週間ほど経過しました。
私たちの仲がどれほど仲良くなったのかを語るとするならば――というか語り下手な私には、これから起こる出来事をうまくまとめられるかが心配です。
この2週間で私たちの仲は友達以上恋人未満ってやつになったかもしれません。
ただこれは私が彼の好意を知っていることと、私自身も拓郎くんに対して悪い気がしていない、むしろ他の人よりかは大いに気に入っていると認めているからこそわかることであって、第三者からすればあいつら最近仲良くなったな程度の、ただ友人としての接点が増えただけにしか見えていないでしょう。
三人称で語るならば、
彩子と拓郎はよく話すようになった。
くらいの軽いものです。
しかしネタバレをすると、2週間経過したこの日こそがXデーとなります。
どういう点からXデーなのかと問われれば、一言で表すのは難しいですが、チラ見せすると以下の通り。
「私、ずっと言いたかったことがあるのですが――」
「今ここで!? いや、生きて帰ってからにしようよ! なんか死亡フラグみたいで嫌なんだけど!」
「今言うべきです。ずっと打ち明けたかったので。あと、吊り橋効果的なあれで」
「ちょちょちょ、黒い人たち近づいてきてるって! マジでここから飛び降りるんすか!?」
「拓郎くん。私、実は超能力者なんです。あと、ずっとあなたのことが好きです。私と付き合ってください」
はい、ここでストップ。
なんか急に一番盛り上がるところを見せられて困惑していると思いますが、そうですね、やっぱり簡潔にまとめたほうがわかりやすいかもしれません。
もちろん、どうにもこの日は情報量が多すぎて一言じゃ正確な内容をひと欠片も言い表せないのですが。
強いて、なんとか振り絞って、頑張って、努力して、それでもって一言で表すなら、私に普通の恋は無理だったという、そんなXデーです。
6
彼と話しはじめて2週間後。
その日は席替えがありました。
席替えのタイミングは数ヶ月に一度、その日がたまたま数ヶ月に一度だったのです。
「席替えしたのにまた隣って、なんかむしろ嬉しいね」
拓郎くんはそんなふうに言っていますが、彼の内心は「うっひょおおお」みたいなことになっています。
かわいい。
ちなみに、席替えはくじ引きで決まるのですが、私がくじを透視して意図的に彼の隣をキープしました。
うまくいきそうな関係をここでペースダウンなんてさせるわけにはいきませんし、彼だってこの展開を望んでいます。
我ながらデキる女。
「私はとても嬉しいです。まるで運命みたいで」
「お、おう! オレも実はすっごく嬉しいよ! 恥ずかしくて言えなかったけど……」
運命なんてことはなく、私がズルして招いた結果ですがまぁいいでしょう。運命という言葉のロマンは計り知れないですからね。
拓郎くん、チョロくてかわいい。
席替えは毎回全授業が終わった後のおまけみたいな立場でした。そのため、これが終われば帰るのみ。
私と拓郎くんはここ2週間で急激に仲がよくなったため、最近ではこんな会話まで繰り広げてしまいます。
「一緒に帰りましょう。拓郎くん」
「え、今日も!? 最近毎日一緒に帰っちゃってるから、周りから誤解されそうなんだけど……」
「嫌でしたか? 私は一緒にいたいのに」
「嫌なわけないっすよ! 彩子さんがいいならいいんです、帰ろう、うん」
動揺が隠せない拓郎くんの脳内では「これ、もうオレのこと好きだろ! 今日告ったらいけるかなぁ……。最近、彩子さんマジで好きになっちゃってそれしか考えてないし……。そろそろ話つけないと私生活に影響出そうだし――」とさらにごちゃごちゃ言ってます。
ほぉ、私生活に影響が出る一歩前なんですか。超能力級の煩悶ですね。
もうこれは、未来予知をするまでもなく成功まっしぐらの予感。
「手でもつなぎます?」
「え……?」
「ううん、冗談です。そうしたかったらいつでも拓郎くんから手を差し伸べてください」
最近では私もすっかり彼のことが気に入ってしまって、こういうからかいもしょっちゅうやるようになりました。
このまま恋が成功すれば目的は達成するんじゃないでしょうか。普通の恋をするという目標が。
けっこう能力使ったけど、恋は恋です。ちょいインチキな恋路があったとしても、周りからは普通の恋人として映るはずです。
彩子と拓郎はごく平凡な高校生カップルだ――って。
私はからかいに満足して小さめのカバンを肩にかけました。教科書とかあまり持って帰る主義じゃないので、小さいほうが動きやすくていいんです。
超能力でいつでも取り寄せられるし。
拓郎くんもカバンを背負いました。
でも、それでも動かずに何か言いたげです。
ベタなラブコメなら、私はきっと「私の顔、何かついてる?」とでも言ってしまって彼の発言権を奪う展開にあったでしょう。
しかし私は超能力者。
彼の表情が神妙だったので、私は心を読もうと身構えました。
ちょうどその時ですね。
窓ガラスが割れたのは。
結論を言うと、男の子が授業中に妄想する謎のテロリスト集団――それが本当に来ちゃいました。
黒い防弾スーツにヘルメット、そして銃で完全武装した、多分ゴリゴリマッチョの男が窓ガラスから私たちの教室に突入してきたのです。
しかも複数人。
超能力者はWPOに保護されています。
能力を悪用することがないように、また世間を混乱に陥れないように――また、軍事的あるいは反社会的勢力に利用されないように。
そう。
WPOが保護してくれるのは闇の組織が超能力を悪用しないための措置でもあるんですね。
厳重に保管されているはずの私たちの情報をどうして知っているかも不明ですが、私たちの力を狙う悪い人はいるみたいで、それらにWPOはガチガチに対抗してくれています。
ならどうして学校の中にテロリストが来たのか。
もちろん、WPOは頑張ってます。しかし、私は他の超能力者より気持ちマーク薄めかもしれません。
だって私、リスク7ですから。
強いですから。
実際にテロリストさんとの出会いはこれで3回目です。しょうがない、私はいい女ですからね。
「彩子さん、走ろう!」
「あ、ちょっと――!」
拓郎くんはいつの間にか私の手を掴んで走り出していました。
多分、テロリストさんの登場と彼らの持つ銃に驚いたんでしょうね。
学校中もパニックパニック。みんなダッシュで逃げています。
正直、この程度なら私がコテンパンにやっつけてやることは容易いです。
それができないのは、ここが学校という場で多くの目が存在するから。
逆に私一人だけがテロリストを前に直立不動なのも違和感ありまくりですが。
さて、テロリストさんの狙いはやはり私。銃口は私に向けられています。
なんで顔知ってんだ。
拓郎くんが走り出すと、少し遅れてから容赦なく発砲してきました。
透視して銃の中を見ましたが、幸いなことに弾はゴムみたいです。死ぬことはない……はず。
ぜひとも軟質のゴムであってほしいですね。
「さい、彩子さん! 絶対死なせないから! 何があっても、絶対に離さないから!」
「その言葉、そっくりお返しします。やっぱり拓郎くんって優しいですよね」
教室中を飛びまわるゴムから逃げ、どうにか廊下まで来たものの、テロリストは教室に突入したよりもっと多数いました。
私のことを囲む作戦のようですが、透視と読心のおかげでフォーメーションがバレバレです。
ただ、普通に走って逃げれば100%逃げられないでしょう。それほど完璧に囲まれていました。
こういう時こそ光の巨人がいたらいいのに。
「拓郎くん、上に行きましょう」
「上!? 早く外に出ないと危ないでしょ!」
「いいえ。狙いは私なので、外に出てもまかない限りは追ってきます。それに、そもそも出ることが不可能です。ここは時間稼ぎ兼被害を最小限に抑えるために上へ――」
「な、何言ってんの!? なんで彩子さん、狙われてるの!?」
「まぁ、信じてくださいよ」
「信じろって……。わかったよ、信じるから! しょうがないなぁ!」
拓郎くんは進路変更して私の手を引きながら上につながる階段へ向かいました。
ギュッと手を握られると本当に、その人の優しさが伝わってくるんです。心を覗くよりも、ずっと。
そんなロマン溢れる胸アツな空気なのに、どこかの邪魔者がドパドパ発砲してきます。
流石に廊下や階段は直線的すぎて被弾の恐れがあるので、ここはサイコキネシスで弾を止めましょう。
サイコキネシスくらい振り向かずとも発動できるので、きっと誰にもバレないはず。
そもそも緊急事態すぎて気づかないか。
虚しく落下するゴム弾を見て無意味だと悟ったのか、テロリストの誰かが叫んで、私たちの前方に落ちるよう何かを投げました。
円柱のそれは――恐らく爆弾です。
あくまでも彼らは私を生け捕りにしたいと思うので、もちろんこれも殺傷力はなく、光と音で気絶させるだけの爆弾でしょう。
サイコキネシスでどこかに投げても他の人に被害が出るかもしれない。
ここはちょっと本気を出します。
超能力の王道、テレポートです。
無論、私がテレポートするのではなくその爆弾をテレポートさせます。
場所は私がいる場所の上空3000メートル。何もないはずです。
「伏せて、拓郎くん」
「どわッ!」
目の前で円柱の物体が消滅すれば、流石に超能力がバレてしまいます。
私はあえて拓郎くんの足を引っ掛け、押し倒すようにかつ正当な理由のもと、安全面を考慮した行動として彼の視界を己の体で隠しました。
覆い被さったんです。
今のうちにギュギュギュギュ――ポンッと。
テレポートいっちょあがり。
「彩子さん、大丈夫!?」
「はい。一発も被弾してませんし爆弾もノープロブレムです」
「はは、オレも! すっげぇ怖いけど、すっげぇヤバい感覚がする!」
ハイになって走る拓郎くん。
その必死さのおかげでさっきからのテレポートやサイコキネシスに気づいていません。
無我夢中、日進月歩な前進です。
その純粋さというか単純さというか――助かりますね。
「とにかく3階まで来たけど、どうする!? 屋上は閉まってるだろうし、黒い人たちもすぐ追ってくるよ!」
3階より上の4階と位置づけられる場所は屋上です。
しかし屋上なんてものは災害時以外閉まっていて、それはきっと今も同じことでしょう。
災害級の事件ですが、屋上に逃げたとて避難できるものでもないし、屋上を開放するなんてそんな余裕はありません。
「奥の渡り廊下まで走りましょう」
「わかった、行こう!」
棟と棟をつなぐ渡り廊下は一本道。左右についてる大きな窓が魅力的です。
風通しもよくて景色もよくて、気に入っています。
後ろから迫りくるテロリストから逃げるように走っていると、渡り廊下の前方から別のテロリスト隊がなだれ込んできました。
振り向いても同じような集団がすでに逃げ道を塞いでいます。
純粋な直線である渡り廊下は、前後に挟まれるともう逃げ場はなし。詰みです。
しかしながら私は透視していたのでこうなることは予想済みですが、何も知らない拓郎くんは追い詰められたと勘違いして慌てています。
「さ、彩子さん! オレの、オレ後ろにいて! オレから、絶対に離れないで……!」
前を見ても後ろを見ても武装した人ばかり。
拓郎くんはそんな状況でも壁を背にし、壁と自分の体の間に私を入れて守りきるご様子。
「おぉ、かっこいいですね。どこで身につけたかもわからない格闘術を見せつける時ですか?」
「こんな時に何言ってんの……? めちゃ余裕じゃん。ぶっちゃけオレ漏らしそうだよ?」
自嘲気味に言う拓郎くん。下が漏れる寸前らしいのですが、涙も相当たくわえていました。
優しい彼が泣くのは、私の心も悲しくなります。
そろそろネタバラシしましょうか。私たちは無事に生き残れますよって。
「拓郎くん。逃げますよ。この窓から」
「はぁ!? この高さでできるわけ……」
「できます。信じてくださいって」
私がそう言うと、窓はひとりでに開きました。
もちろんこれもサイコキネシスです。私が開けたんです。
テロリストたちは何かを察して発砲しましたが、もちろん当たりません。
残念ですね。
「私、ずっと言いたかったことがあるのですが――」
窓の前にあるちょっとした段差に足を引っ掛け、その上に登ると、あとは一歩前へ出るだけで外の世界に飛び込めます。
しかし私が登ったあと、拓郎くんはビビってなかなか登れずにいました。
「今ここで!? いや、生きて帰ってからにしようよ! なんか死亡フラグみたいで嫌なんだけど!」
「今言うべきです。ずっと打ち明けたかったので。あと、吊り橋効果的なあれで」
余裕がなく未来予知が使えない状況なのでイチかバチかになりますが、彼はいい人だから一生のパートナーになってくれることでしょう。
私は拓郎くんの体をサイコキネシスで浮かせ、お姫様抱っこをするように抱きかかえました。
「ちょちょちょ、黒い人たち近づいてきてるって! マジで窓から飛び降りるんすか!?」
こんなテロリスト集団がわんさかいるところに余計な目撃者はいない。
だから私は、拓郎くんさえいなければ元気に暴れられるわけです。
しかし彼は私の手を真っ先に握って走り出してしまった。
幸か不幸か、その決断のせいで『普通』は消え去りました。
これを言ったらもうお別れはできなくなる。普通の恋愛なんて、もう二度とできません。
でもいいんです。
私は拓郎くんを信じているし、テロリストに捕まって彼と離れるほうが100倍寂しいですから。
「拓郎くん。私、実は超能力者なんです。あと、あなたのことが好きです。私と付き合ってください」
ヒュッと心臓に悪い浮遊感がして、私たちは真っ逆さまに落ちました。
でも大丈夫。超能力者なので。地面にぶつかる直前にサイコキネシスで落下速度を0にできます。
しばらく急降下してからギリギリでふわりと浮いて――着地。
ショックの連続に拓郎くんはゼェゼェ言いながら半泣きでした。
さっきの泣き顔よりもかわいくてゾクゾクするのはなんでですかね。
「な、なに……。なんか、なんかもうなんもわからなくなってきた……」
「私のお父さんも最初はそんな感じだったらしいです。そのうち慣れますよ」
「え、えぇ? 慣れとかそういうものの前に、全部受け止めきれてないんだけど……。だってありえないじゃん、超能力とか――」
「お付き合いするのは?」
「それは、えっと――。受け止めさせていただきます……」
ある意味スリルでロマンチックなひと時。
私たちは銃声が祝福してくれる中、イチャイチャと問答を繰り広げていました。
「私相手だと、隠し事はできませんよ? 心の中を覗けるので」
「隠し事はしないけど、心の中覗かれるのは恥ずかしいな……」
「ちゃっかり嫉妬深いので、浮気でもしたらパイロキネシスで燃やしますよ?」
「しない! それは絶対ない!」
「ここで首を縦に振ったら、もう二度と私以外の人と恋できませんよ?」
「心を覗けるならさ、もう確認しないでいいでしょ……」
「そういうところがかわいくて大好きなんです」
すぐ照れるのに、テロリストが来ても守ってくれる。
最初は普通の人として見ていましたが、キミは底なしにいい人です。
さて、じゃあ仕上げをしましょう。
私たちの恋を飾ってくれた花火たちを、ちゃんと最後まで散らしてあげるのです。
「拓郎くん。超能力者の本気、見てみたくないですか?」
「また唐突な……。オレ、まだ飲み込みきれてないからね?」
「じゃあ、見張りだけやっててください。キミ以外に見られると面倒なので」
テレポートでもよかったのですが、宙に浮いたほうがかっこいいのでサイコキネシスを使いましょう。
私の体は上へ上へと上がっていき、脱出した窓の前まで戻ってきました。
テロリストさんらは動揺が隠せずに恐れおののいています。
ヘルメットで顔見えませんけど。
「WPOさんの仕事を減らしたいのでおとなしくしててくださいね。ちょっとばかり記憶が消えるだけです。ご安心を」
ここで超能カ豆知識――初回より時間が空きましたね。
今回は私がなぜリスク7なのか、その内訳をご紹介します。
ざっくり強いとしか紹介していませんでしたが、どういう感じに強いのかというと、私は多くの能力が使えるのに、それと合わせてサイコキネシスがピカイチなのです。
多用してますし、察している人もいる気がしますがサイコキネシスなら発動し放題、ノーモーションでいけます。疲労も感じません。
それがどう強いの?
まぁ見ててください。
「サイコキネシスキーック――!」
「ぐわぁぁ!」
くぅぅぅ〜!
シビレますね、このかっこよさ!
空中で静止してから斜めに落下するなんて物理的に不可能ですが、サイコキネシスがあれば誰にでもできます。
サイコキネシスがあるので着地も完璧です。
サイコキネシスがあるので。
「からの、サイコキネシスパーンチ――!」
パンチと同時にサイコキネシスを発動すれば、まるで私のパンチが強すぎて相手が吹き飛んだように見えます。
もちろん拳は触れていません。
だって防弾スーツとヘルメットの人を殴るとか硬そうですし。
「サイコキネシスビームっ!」
もはやただのサイコキネシスです。
テロリストたちはぶっ飛びます。
人同士がぶつかったり、壁や床に激突したり、様々な方法でテロリストたちは気絶していきました。
しまいには少しずつ逃げだし始めるほど。もちろん逃しませんが。
今回のような襲撃を生業とする人は、流石に身動きも素早いものでした。
でも大丈夫、私にはテレポートがあるので。
「――どこに行く気ですか」
「うわぁぁあ! なんだコイツ、バケモノか!」
「いいえ、超能力者です。ご存じなかったですか?」
テレポートを使えば追うことなんて一瞬。
しかも透視があるので誰がどこにいるかはいつでも確認できます。
強すぎますね。
「そこをどけ! 銃が効かないなら――」
「あ、殴ってくるのは知ってます。心が読めるので」
相手のパンチをかっこよく避ける方法をお教えしましょう。
一歩も動かず、テレポートでちょっと横にズレるだけ。
これを何度も繰り返すとかっこいいですよ。
今回は面倒なので割愛――。
「サイコキネシスインビジブルカッター!」
左手による出力と右手からの出力を逆方向にすれば、どんな物でも真っ二つにできます。
引き裂く対象は人でも――もちろんやりませんが。
今回引き裂いたのはテロリストさんの武装。JKの前でパンツ一丁です。
視聴者のみなさんに私からのささやかなサービスですよ。
無骨な男性の裸ですが。
「さて……勝負ありですかね」
服を失ったり、勝てないと悟ったり、とにかく戦意喪失した方々をサイコキネシスデコピンで眠らせて一件落着。
WPOさんに連絡を入れておいたので、あとはそっちでうまくやってくれるでしょう。
「拓郎くん」
「うわぁ!? いつからそこに……?」
「今です。テレポートしてきました」
「そう……。怪我はない? 大丈夫だった?」
「はい。もう全部終わりました。WPOにも連絡したので、あとは指示に従えば安心です」
拓郎くんは心からの安堵を感じてくれていました。
安堵も何も、私がいたせいでこんなことになっているんですが。
「あ、早速来ましたよ」
「え、早くない? てか、リムジン……?」
黒くて長い高級車――リムジンからスーツの女性が現れました。
OLにしか見えませんね。
「じゃあ、乗りましょうか。あれに」
「オレも!? なんで……? そもそもダブリューなんちゃらってなんなの……?」
「だって、誓約書を書く必要があるじゃないですか。あれ? 言ってませんでしたっけ?」
7
あれから2ヶ月が経ちました。
ここはもう後日談というか、今回のオチみたいなそれです。
「おまみょーもまひまむ」
「お、おはよ……。彩子さんっていつもパン派だよね」
「朝に弱いので。こうして寝坊した日にお米は食べられませんからね。それに、定期的にパイロキネシスのガス抜きをしないと大爆発を起こしかねないのです」
「え、マジ? 日本が戦争しないのって彩子さんがいるからな気がしてきたな……」
「恐縮です。たっくんはどうなんですか。パン派ですか?」
「パンかな――」
「お米ですね。隠し事はダメですよ」
「いや、どっちも好きだよ! なにも隠してないって!」
「今から将来の心配なんてしないで大丈夫です。今と未来は違いますからね。数ヶ月前まで私たちが他人だったように」
拓郎くん改めたっくんが嘘をついたのは私たちの食の好みが異なると今後に響くと考えたからです。そんな小さなことを気にするなんて――もしくは、世間が気にするようなことでも、普通じゃない私はそんなこと気にしませんので、正直に言ってくれればいいのに。
嫌われたくないって心が読心するまでもなく見え見えです。
かわいい。
あの事件から2ヶ月、すなわち私とたっくんが恋人同士になってから2ヶ月が経過したわけです。
あの後、たっくんはリムジンの中でWPOさんから丁寧に説明を受け、顔を赤くしながらほぼ一生の愛を誓うに等しい誓約書を書かされ、家族にも友人にも明かせぬ、WPOと私と彼だけの秘密ができちゃったわけですが、そんな非日常が今ではすっかり日常になっています。
普通に憧れていた私ですが――まぁこれもまた私にとっての『普通』であると解釈しておきましょう。
人生は一度きりだから――なんてよく言いますが、それならAの道に進んでもBの道に進んでも、そこでしか見えない景色があるわけですよ。
つまり、私は私の普通を存分に楽しんどきゃいいだろって話です。
「そういえばたっくん。今思い返して気づいたのですが、まだ私に好きって言ってませんね」
「へ!? いきなりなんの話ですか!」
「告白の日を思い出しまして。それで、キミは告白の返事を『受け止めさせていただきます』としか言ってないなぁ、と」
「彩子さんさ、心読めてるんでしょ? オレの心の中、結構四六時中見えるでしょ……?」
「はい、見てますが?」
「見てますが――じゃなくてさ。そしたら、オレの言いたいことわかるよね……?」
「うっわ、いつも好きとかかわいいとか超思ってるのバレてるのかー! しかもそのうえで口で言わさせるとか、オレのことを恥ずかしくさせる以外のどんな理由で――」
「言わなくていいってぇぇええ! やめてよ! 人のプライベートを外界に出すのだけは!」
「くっそ……。なんで彩子さんはいつも真顔でいられるんだ――」
「だからやめてって」
これ以上は恥ずかしさのあまりたっくんが発狂する恐れがあるのでナイショの話として紹介します。
「オレだけいつも照れて、この人はいつも真顔ってずるいよな。でもまぁ、そんなきょとんとしてる顔もすっげー好きなんだけど……」らしいですよ。
私のことを無愛想って思う人もよくいるんですけどね。
彼、やっぱりいい人ですよね。
「あと、いつまで『彩子さん』で呼ぶつもりですか。私は初日からたっくんにしましたけど」
「ええぇ……」
「ついでに言うと拓郎を許さなかったのも納得がいきません。たっくんも親しみやすくていいですが、やはり彩子、拓郎と呼び捨てにするのが理想です」
「うえぇぇ……。そう言われてもさぁ」
「受け入れてくれないなら、今日はテンション不足で学校行けませんね」
「えっ、えぇ……? わかったって、しょうがないなぁ……。どうせ超能力のせいでどこに逃げても逃げきれないだろうし」
たっくんは私の腕を強引に掴んで歩きだしちゃいました。
なるほど、死んでも表情だけは見せないつもりですね。
あるいは勢いに任せて言うつもりですね。
「さっさと行くよ、彩子! あと、す、好きです……!」
「おぉ。今日もかわいいですよ、た・く・ろ・う」
「それ、こっちのセリフなんだけど!」
顔を見るまでも、心を読むまでもなく、やっぱりギュッと掴まれた腕から彼の優しさが伝わってきました。
この温もりだけは、私の全能力をもってしても自力では生み出せませんね。
お読みいただきありがとうございました。
この流れで敬語を表示すると全部彩子の発言っぽく見える呪い、あなたにもかかってますか?
今後は敬語の地の文を見るたびに(C.Vは各自で考えてもらって)彩子さんボイスが聞こえるようになりますよ。
楽しみにしておいてくださいね。
あと超能力の力がひとつだけカタカナの「カ」になっています。