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【PERFECT】 トゥルー・エンド ≪前編≫

 そんなある日のことでした。

 ガゼルを伴い、ネプチューンの魔力で魔物に変えらえてしまった人達を助けてあげている時に、デゼルはその様子を光の聖女達に見つかってしまい、あわてて逃げ出しました。

 追ってきた光の聖女が叫びました。


「待って! あなたは悪い人ではないはずよ、みんなを助けてあげているんだわ」

「いいえ、私は……」

「これは、きっと、あなたのものね」


 光の聖女が差し出した物を見て、デゼルは息をのみました。

 それは壊れてしまっていましたが、何年も前になくしてしまったきり、どうしても、見つけることのできなかった月のイヤリングでした。

 十歳の誕生日にガゼルから贈られた、デゼルの大切な、大切なイヤリングでした。


 デゼルは涙を落として、光の聖女から壊れたイヤリングを受け取ると、せめてもの御礼に、ネプチューンに渡すはずだった月齢の首飾りを光の聖女に譲りました。


「優しいのはあなたよ、ネプチューン様を助けてあげて。あの方は、ずっと、あなたを待っていた」


 デゼルから渡すより、光の聖女から渡された方がいいと思ったのです。

 何万人もの生贄を要する儀式をして死者を復活させるより、ネプチューンの想い人によく似ていると聞いた、この優しい光の聖女をネプチューンが愛してくれたらいいと、デゼルは願っていました。

 光の聖女を愛したら、ネプチューンはガゼルにかけた呪いを解いてくれるかもしれません。

 たくさんの人々を生贄にする儀式をやめてくれるかもしれません。


 光の聖女と別れた後、イヤリングをじっと見詰めていたガゼルが顔を覆って、苦しげな声を漏らしました。



  **――*――**



 それから、間もなくのこと。

 ついに、闇の帝王が引き起こす災厄から世界を守ろうとする光の聖女達が、皇宮に攻め込んできました。

 ネプチューンの副官であるデゼルは、儀式の間を守れと言い渡されていました。

 背けばガゼルを殺されてしまいます。

 光の聖女達が攻め込んでくるなら、何の罪もない相手を殺さなければなりません。


 デゼルには、デゼルを魔女だと信じて倒そうとする光の聖女達を返り討ちにすることができませんでした。

 だからといって、ネプチューンのいる儀式の間に通すこともできません。


 デゼルはついに、涙を伝わせながら命乞いをしました。


「お願い、私はどうなってもいい、ガゼルを殺さないで! 彼に罪はないの、私があやつっていたの!」


 聖女と呼ばれるだけのことはあり、光の聖女達は、デゼルの懇願を聞くと、攻撃の手を止めてくれました。

 それどころか、優しい笑顔で言ってくれたのです。


「デゼル、私は知っているわ、あなた達は優しい人よ。あなたは彼をあやつっていないし、二人で、みんなを助けてあげていたでしょう? ここを通してくれるなら、二人とも見逃すわ。だから、もう、闘うのはやめましょう」


 優しい言葉に、また、デゼルの美しい蒼の瞳から涙があふれて零れ落ちました。


「ありがとう、優しいのはあなたよ。どうか、ガゼルは見逃して。だけど私は――」


 デゼルは涙を伝わせながら、ガゼルに優しく微笑みかけました。


「ガゼル、ずっと、傍にいてくれてありがとう。ずっと、あなたを愛してた」

「デゼル!?」


 デゼルはそれから、光の聖女達に向き直りました。 


「私が生きてあなた達を儀式の間に通したら、裏切り者とみなされてガゼルを殺されてしまうの。あなた達を通すなら、私は死なないと――」


 デゼルは世にも儚く綺麗に笑うと、身をひるがえして、切り立った崖際のテラスへと走りかけました。


「デゼル!」


 ネプチューンにかけられた呪いのため、デゼルに触れれば激しい苦痛があるはずのガゼルが、デゼルの腕をつかみました。

 目を見張るデゼルに、光の聖女も強い口調で訴えました。


「駄目よ、あなたが死んでしまったら彼が悲しむわ! 残される方がつらいのよ、だから、ネプチューン様は罪を犯してしまったの。誰よりも、優しい人だったのに」


 ガゼルが命を(むしば)まれる激痛に耐えて、右手でデゼルの腕をつかんだまま、左手で月齢の首飾りをはずして、床に投げ捨てました。


「ガゼル!?」


 すべての記憶を取り戻していたガゼルは、デゼルを見詰めて、――妖艶な笑みを刻みました。

 そうしてから、デゼルの腕をはなしたガゼルが、苦しげに壁にもたれました。

 彼が月齢の首飾りをかけてさえいなければ、デゼルは死を選べないと、ガゼルには確信があったのです。

 案の定、デゼルは部屋の隅に投げ捨てられた月齢の首飾りとガゼルを交互に見詰めたきり、そこを動けなくなっていました。


「私達を通すと、彼を殺されてしまうのね?」


 光の聖女に問われたデゼルがうなずきました。

 すると、光の聖女が優しく笑って約束しました。


「わかった、じゃあ、もしもネプチューンに問われたら、私達はあなたを気絶させてきたと伝えるわ。あなたがネプチューンを裏切ったと思われるような伝え方はしないから」


 デゼルの瞳から大粒の涙が零れ落ちました。


「……あなたは本物の聖女様なのね。私にはできなかったけれど、あなたになら、ネプチューン様のことも救えるかもしれない」


 何かを覚悟したように、いつもかけていた緑石のペンダントを外したデゼルが、それを光の聖女に渡しました。


「この緑石を、月齢の首飾りのペンダント・トップにして持っていれば、いつか必ず、あなたとネプチューン様をもう一度巡り会わせてくれるはず。あなたに幸運を」


 光の聖女は最後に明るく優しい笑顔でデゼルに笑いかけ、光の十二使徒を率いて、儀式の間へと向かいました。


「デゼル」


 闘いの場となった広間に二人きりで残されると、ガゼルが背中から優しく、デゼルを抱き締めました。


「駄目よ、ガゼル!?」

「デゼルが封じたの? 記憶をなくしていた間、デゼルに拒まれているんだと思っていたよ。皇帝の呪いだったなら、デゼルが拒んでいるわけじゃなかったなら、遠慮しなかったのに」

「ガゼル、やめて! あなたを失いたくない、お願いよ!」

「彼女達はああ言ってくれたけど、あの皇帝が信じるかな。この命を失う前に、もう一度、デゼルを抱き締めたかった」


 苦しい息遣いで(あえ)ぎながら、ガゼルはそれでも、デゼルを離そうとはしませんでした。

 激しく首を横にふったデゼルが、壊れそうに身を震わせながら、あふれる涙を止めることもできず、叫ぶようにガゼルに言いました。


「――私、ネプチューンに(はら)まされているの、もう、ガゼル様に愛してもらう資格がないのよ!!」


 息をのんだガゼルが、それでも、デゼルを抱く腕に強く力を込めました。


「お願い、ガゼル様。月齢の首飾りをかけて。――もう、私を死なせて」

「いいよ、デゼル。死にたいなら死んで。だけど、月齢の首飾りはかけないよ。公国を守れなかった私に、デゼルさえ目の前で死なせて、まだ苦しめと言うの?」


 それは許して欲しいなと、優しく微笑んだガゼルが、寂しそうに言いました。


 どれくらいの時間、そうしていたのでしょうか。

 ふいに、ガゼルに苛烈な苦痛を与え続けていた呪いが砕けました。


「あ……」


 デゼルも、それを感じたようでした。

 デゼルの(あご)を取ったガゼルが、目を伏せて、デゼルに優しく口づけました。

 皇帝にかけられた呪いは間違いなく砕けていて、デゼルを抱いても、口づけても、もう、ガゼルに苦痛や死が与えられることはありませんでした。


 二人は長く引き裂かれ、募り続けた想いのすべてを込めて、かたく、かたく抱き合いました。


 ガゼルもデゼルも、このまま、いつまでもこうしていたいと思いましたが、皇帝が呪いを解いてくれたのか、光の聖女に倒されたのかを確かめなければなりません。

 二人は手をつないで、儀式の間へと向かいました。



 皇帝は自決でした。

 ネプチューンもまた、最愛の少女を奪われた痛みと悲しみ、やり場のない怒りに苦しんでいたのだと。

 重ねた罪を悔いていたのだと。

 ネプチューンの亡骸(なきがら)を抱き締めた光の聖女が、慟哭(どうこく)しながら皇帝の最期の様子を二人に話してくれました。


 皇帝の亡骸から顔を背けて肩を震わせたデゼルが、光の聖女には泣いているように見えたでしょうか。

 いいえ。

 デゼルは肩を震わせて、冷酷に笑っていました。


 皇帝が苦しんでいたのかどうか、悔いていたのかどうか、そんなことは、デゼルにとって何の意味もありませんでした。

 それらがどうでも、二度と、失われた命も滅ぼされた公国も戻らないのです。

 穢され尽くした彼女の身が、清められることもないのです。


 それでも。


 もう、望まぬ罪を重ねなくても、ガゼルを殺されないのだと。

 もう、望まぬ愛を受け容れなくても、ガゼルを殺されないのだと。


 そのことが、デゼルには、嬉しくてなりませんでした。

 ふと見れば、ガゼルもまた、デゼルと同じ冷酷な笑みを浮かべて、皇帝の亡骸を見下ろしていました。



 二人を救ってくれた光の聖女が嘆き悲しんでいるのに、皇帝の死を心から喜んでしまったことに、二人が良心の呵責(かしゃく)を覚えなかったわけではありません。

 だから二人は、ささやかな贖罪(しょくざい)を思い定めました。

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