表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第4話 封印した想い

 ひどく悪い予感がしたデゼルは、ネプチューンに懇願して、夜のうちに、相手だけして部屋に帰してもらいました。

 ガゼルがどうして、あんなことを言ったのか。

 まるで、お別れの言葉のようでした。

 明日の朝にはもう、ガゼルはいなくなっているような気がしたのです。


「ガゼル様!」


 ガゼルの血で真っ赤に染まった浴槽を見て、デゼルは心臓が止まるかと思いました。

 ガゼルにはもう意識がありませんでしたが、かろうじて、まだ息だけはありました。

 急いで止血すると、デゼルはガゼルに取りすがって泣きました。

 闇巫女であるデゼルには、精神に干渉する魔法が多くあり、もっとはやく、ガゼルを救えたのです。

 ガゼルが苦しいのは、公子だったこと、デゼルを愛していたことを覚えているからです。

 その記憶を封印してしまえば。

 ガゼルには苦しむ理由がなくなるのに。

 デゼルはそれでも、公国で幸せに過ごした優しい日々を、二人の大切な思い出を、ガゼルの記憶から消してしまいたくありませんでした。

 二度と会えなくなっても、記憶の片隅にでも、彼女のことを覚えていて欲しかったのです。

 彼女のその願いが、ガゼルを追い詰めてしまったことを知り、デゼルは慟哭(どうこく)しました。


「ごめんなさい、ガゼル様、ごめんなさい……!」


 意識のないガゼルに何度も謝ったデゼルは、涙を止めることもできないまま、彼女にとって一番大切な、大切な、ガゼルの記憶を封印しました。

 公子だったこと、デゼルを愛してくれていたこと。

 ガゼルの記憶に二度と戻らない封印をかけることは、デゼルにはどうしても、あまりにつらすぎてできませんでした。だからデゼルは、十歳の誕生日にもらったイヤリングを鍵に、ガゼルの記憶を封印しました。

 ガゼルにもらった大切なイヤリングを、山賊たちの慰み者にされていた間に、デゼルはなくしてしまっていたのです。

 デゼルはないも同然の鍵をかけて、ガゼルの記憶を封印しました。



  **――*――**



 翌朝、目を覚まして記憶がないことに途惑うガゼルに、デゼルは二人とも、滅ぼされた公国の生き残りだということだけ教えました。


「そう……とても、つらいことがあったような気がするんだ。戦争があったんだね。私はここにいていいのかな、出て行った方がいいのかな」


 デゼルは皇帝の(めかけ)であることをガゼルに伝え、ガゼルには彼女の侍者としてここに残ることも、出て行って自由に生きることもできると答えました。


「私には行くあても、帰る場所もないってことだよね」


 記憶をなくしたガゼルには、優しく誠実な人柄だけが残っていました。

 ガゼルは静かにデゼルを見詰めて言いました。


「同郷の私が出て行ったら、デゼルは寂しくならない?」


 へいき、と言おうとしたのに、デゼルには言うことができませんでした。

 嗚咽(おえつ)を噛み殺して泣くデゼルを見て、ガゼルは異国で一人にされるとデゼルは寂しいのだと考えたようでした。


「泣かないで、デゼルが寂しいなら、傍にいるから。行きたいところも、したいこともないんだよ。覚えていないだけかもしれないけど」


 でも、と、昨夜までの苦しみ方が幻だったような優しい笑顔で、ガゼルが言いました。


「今、したいことができたよ。デゼルを泣きやませたい。私がここにいれば、デゼルを泣きやませてあげられるなら、傍にいるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ