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第2話 侵攻の目的は

 ガゼルが泣いて嫌がるデゼルをマリベルに託して、公邸から逃がして間もなくのことでした。

 公邸にまで帝国軍がなだれ込み、決死の抗戦むなしく、大公であるガゼルの父親と、公妃であるガゼルの母親が斬り殺されました。

 冷徹にそれをしてのけた黒髪の青年が、最後に、ガゼルに剣を突きつけて言いました。


「こういう場合、年若い公子様は他国に亡命したりするんじゃないのか?」

「公民が犠牲になっている時に、公子である私が逃げるわけにはいかない! 軍を引いて頂けるなら降伏します、この命も差し出します、いったい、この侵攻の目的は何なのですか!」


 降伏を宣言できるのも、もはや、公子であるガゼルだけなのです。

 けれど、黒髪の青年は無情にも言い放ちました。


「さぁな、オレも知らん。オレはトランスサタニアン帝国の第二皇子ネプチューン。皇太子殿下にオプスキュリテ公国を滅ぼすまで帰ってくるなと言われたから、従っているだけだ。公家を滅ぼせばいいのかとはオレも聞いたが、国ごと滅ぼすまで帰ってくるなとさ。だが、見上げた心意気じゃないか? おまえが兄上を説得できたら、オレは軍を引いてもいいぜ? 命令だからやってるだけで、オレはさっさと国に帰りたい」


 ガゼルは愕然としましたが、血の気を引かせた顔でうなずきました。

 命令だからと、二十万人を超える他国の民を虐殺できる目の前の青年が何を考えているのか、ガゼルには理解できません。

 それでも、一人でも多くの公民を守るため、ガゼルにできることがあるとしたら、その命令を出しているという皇太子の説得だけだったからです。


「ここまできて、公子をみすみす取り逃がしたとあっては、オレが笑い者だからな。皇太子の説得に行くのは構わないが、逃げたら殺すぞ。そういう呪いをかけられるとしても、行くか?」

「――はい」


 ガゼルがおとなしく呪いを受け容れると、ネプチューンはガゼルを連れて、帰還の魔法で帝国にいったん帰国しました。

 その帝国で待っていたのは、さらなる悲劇でした。

 ネプチューンが外征している間に、彼の恋人が殺害されていたのです。

 それと聞いたネプチューンは顔色を変え、ガゼルを置き去りに、側近達とどこかへ行ってしまいました。

 ガゼルは困惑しましたが、とにかく皇太子に会って、公国を滅ぼすことをやめてもらわなければなりません。

 城内を歩き、ガゼルを見咎めた衛兵に身分と目的を明かして皇太子に会わせて欲しいと頼むと、意外にも、ガゼルはすぐに皇太子に会わせてもらえました。

 ところが、皇太子に会って、ガゼルはネプチューンを見た時よりも、遥かに、ぞっとしました。

 これが人の上に立つ者だとは信じられないくらい、邪悪な気をまとう人物だったのです。


「面白い、公家の生き残りが公民を守りたいと? 何のための侵攻なのか、知りたいなら教えてやろう。ネプチューンに会ったな? あれは災厄そのもの、悪魔のようなヤツだったろう。侵攻の目的はネプチューンの暗殺だ、おまえがあれを殺せたなら、公国への侵攻は終わりにしてやろう。返り討ちに遭うだけだろうが、公民を守りたいなら急ぐことだ」


 帝国の皇帝と皇太子は、優秀すぎる第二皇子を(うと)んじていたのです。

 彼らの地位と権力を脅かす第二皇子を暗殺するためなら、何のうらみもない公国を滅ぼすことに、何の遠慮もないと言ってのけたのです。

 ネプチューンはどこかに行ってしまっていて、皇宮内に見当たりませんでした。

 いっそ、皇帝と皇太子を暗殺すれば――?

 残念ながら、帝国の皇帝と皇太子を単独で暗殺する方法を、ガゼルは思いつきませんでした。

 仕方なく、ネプチューンが戻るのを待つ間にも日は過ぎて、デゼルと別れてから六日目のことでした。

 突然、激しい吐き気と苦しみがガゼルを襲いました。

 デゼルに何かあって、夜明けの守護が発動したに違いありません。

 身を痙攣(けいれん)させて倒れ込みながら、ガゼルはどこか、ほっとしていました。

 彼にはもう、デゼルのためにできることも、公民のためにできることも見当たらなかったからです。

 この命で最後に、デゼルを守れたなら、よかった。

 そう思って微笑んだのを最後に、ガゼルの意識は途切れました。

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