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第1話 ちいさな恋の物語

 昔々、あるところにオプスキュリテ公国という美しい公国がありました。


 安らぎを司る闇の神に守られた公国には、世にも可愛らしい闇巫女様と、とても立派な公子様がいらっしゃいました。

 闇巫女様の名をデゼル、公子様の名をガゼルといいました。

 二人は幼い頃から将来を誓いあい、とても仲睦まじく、幸せな日々を過ごしていました。

 デゼルの十歳の誕生日には、ガゼルがとても綺麗なイヤリングを贈ってもくれました。

 月を(かたど)ったイヤリングの台座には、『ガゼルよりデゼルへ 永遠の愛を込めて』と彫刻されていました。

 ガゼルからのその贈り物を、デゼルは心から喜んで、一生の宝物にすると約束しました。




 ところが、そんな幸せな日々は、ある日、あまりにも突然の軍靴(ぐんか)蹂躙(じゅうりん)されました。

 トランスサタニアン帝国という大きな国が、攻め込んできたのです。

 いったい、どうして始まった戦争なのか、デゼルにもガゼルにもわかりません。


「デゼル!」


 帝国軍が迫る公邸で、ガゼルが誰よりも大切な少女を胸に抱き締めて言いました。


「公子である私が、公邸から逃げるわけにはいかない。だから、マリベル達と一緒に、デゼル一人で逃げるんだ」

「いやです! ガゼル様が逃げないなら、デゼルもここに残ります」


 逃げようとしないデゼルに、ガゼルが口づけました。


「お願いだから、逃げて。私はデゼルにだけは、生きていて欲しいんだ」

「そう思って下さるガゼル様が死んでしまったら、デゼルにはもう、生きている意味がありません! ガゼル様と一緒でなければ逃げません」


 ガゼルから離れまいと、泣いて懇願するデゼルを、じっと見詰めたガゼルが抱き上げて、寝台に運びました。


「ガゼル様……?」

「デゼル、ごめんね」


 二人は婚約していましたが、デゼルはまだ十歳です。

 想い合っていても、契ったことはありませんでした。


「ガゼ……」


 その夜、二人は最初で最後の契りを交わしました。

 夜明け前、何をされたのか、何が起きたのかわからないデゼルに、ガゼルがささやきました。


「デゼル、闇巫女であるデゼルには特別な魔力があるんだ。これで、私はデゼルの『闇主』になった」

「……闇…主……?」


 ガゼルの腕の中、デゼルもささやくように問い返しました。

 ガゼルに抱き締められてキスされると、デゼルはもう、死んでも構わないと思いました。

 ガゼルの傍にいられるなら、この場所にいられるなら、たとえ、残りわずかな命だとしても、それでいいと思いました。

 それなのに。


「闇主は死ぬまで闇巫女を守る者――闇巫女であるデゼルが死ぬ時には、私の命も終わる。私を死なせたくなかったら、逃げて」

「えっ……」


 もう一つ。

 夜明けの公子であるガゼルの方にも特別な魔力があって、デゼルに特別な守護をかけたのですが、ガゼルはそのことは、デゼルに言いませんでした。

 ガゼルは間もなく、踏み込んできた帝国軍に殺されるのです。

 デゼルにかけた守護には、あまり意味がないと思ったからです。

 契ってから七日の間、デゼルに何かあった時、ガゼルが身代わりとなって命を落とす『夜明けの守護』には、ガゼルが生きていないと意味がありません。


「そんな!」

「愛してる、デゼル」


 ガゼルはもう一度、誰よりも愛しい少女を抱き締めると、一生分の想いを込めて口づけました。

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