第九話 「唯一無二」
体調が悪かったため投稿が遅れました。
今回は冒険者試験のお話です。よろしくお願いします。
ニーナ、クリス、アーデルベルトの三人、それに加えてニーナの母であるサラもギルドにやってきた。
「もう、なんでお父さんとお母さんもギルドについてきたのさ」
「そりゃあニーナの勇姿をこの目に焼きつけておきたいからな!」
「ふふっ。お父さんったらはしゃいじゃって……私はニーナが頑張っていることは知っているけど、どれくらい成長したか知らないのよ?
冒険をすることは認めたけど、今でも心の中では家族で仲良く過ごしたいもの」
(心の中で秘密にしていることを言っちゃってよかったのかな)
クリスはサラが少し抜けているところを見て、子は親に似るものだなと納得した。
冒険者ギルドの中に入るとたくさんの冒険者で埋め尽くされていた。
色んな年齢層の男女がおり、掲示板で依頼を見る者、受付に話しかけている者、鑑定所なるところで素材の取引をしている者と様々である。
だが、十人十色ともいえる冒険者の中で唯一共通している点がある。
誰も剣を持っていないのだ。
きっとバッグの中に素材回収用に何かと便利な短剣やダガーは持っているのだろう。
だが、ニーナの魔鋼剣のようなバッグに入れられないような長さの剣を持っている人は誰もいないのだ。
ニーナは受付に歩を進める。冒険者試験を受けるためだ。
すると当然、ニーナが他の冒険者の目に留まる。剣と共に。
「……今時珍しいな。剣を持ってるやつがいるなんてな」
「あれは魔鋼でできた剣か? 魔術を剣に付与させたいのか」
「新人の子みたいね。冒険者試験を受けにきたのかしら? それにしても独特のスタイルなのね」
ニーナは奇異の目に晒されている。こうなってしまうのも仕方ない。それだけ魔術の絶対的優位は確立されているのである。
中には柄の悪い冒険者も存在する。決して口には出さないが、心の中で嘲笑しているのだろう。
(問題ない。彼女は通用する。それが今日証明されるのだ)
クリスは思う。試験官は強い。だが、彼女の戦闘スタイルならもしかすると……
「御用はなんでしょうか?」
受付の男性がニーナに笑いかけてくる。
「冒険者試験を受けに来ました!」
「はい。冒険者試験ですね。今すぐ受けられますが後日でも可能です。いかがなさいますか?」
「今すぐ受けます!」
「かしこまりました。では担当の者がいますぐ準備をしますので必要書類を書きつつお待ちください」
冒険者ギルドの裏に訓練場がある。冒険者試験はいつもここで行われるのだ。
模擬戦を行われることもあるため、観覧席も用意されている。
観覧席にはアーデルベルトとサラだけでなく、ニーナの戦いを一目見ようとやってきている人が10人くらいいた。
「さて、今回試験を担当するスパーダだ。ニーナくんよろしく」
「よろしくお願いします!」
スパーダは長身でギルド職員の制服を着ており、ミスリルでできた杖を持っているスタイルだ。
「うむ。元気はよろしい。今回はAランク冒険者のクリスくんがいるから彼に『魔力障壁』を張ってもらうことにしよう。私の『魔力障壁』のレベルより1高いからね」
「分かりました。いいですよ」
そう言い、クリスはニーナに『魔力障壁』レベル7を両者に張る。
「ん? クリスくん何かの間違いかな。さすがに私には必要ないよ。私の『魔力障壁』レベル6で十分問題ない」
「いえ……何かあってからでは遅いのでこの対応をとらせていただきます」
「ふむ……ではその恩恵をもらっておくとしよう」
スパーダはクリスの意図を正しく理解した。
彼女には何かあるのだと。
「さて、ニーナくん。こちらの準備は完了した。そちらはいかがかな?」
「はい。大丈夫です」
「いいでしょう。ではクリスくん。掛け声だけ頼むよ」
「分かりました。では……開始!!」
「では手始めに、『ファイアーボール』!」
スパーダは火の球を三つ放つ。真正面に並列させて放っているため、通常の魔術師ならよけるのは難しい。
普通の魔術師なら。
―――『身体強化』。『加速』。
ニーナは速度を上げ、走って回避する。
「……『加速』か。厄介だな。試験を受ける身でありながらそれだけの速度を出せるとは」
「頑張ったので……! ではこちらもいきます!」
全力の『加速』。そしてそのままスパーダに急接近する。
「ふむ。いい速さだ」
スパーダは杖を前に掲げた。その瞬間、ニーナの目の前に風の結界というようなものが目の前に現れた。
ニーナはこの結界に即座に反応し、後退する。
「『サイクロン』という中級魔法だ。さすがにこの中にいるとダメージを受けるだろう。
『加速』をよく使いこなしているようだな。よく下がった」
「……厳しいですね」
「そう。範囲魔法の前には接近は厳しいのだ。ニーナくんは剣による戦闘スタイルなようだが、どう対処する?」
これがニーナの戦闘スタイルで唯一の弱点。範囲魔法に対応できないのだ。接近できない限り、攻撃は不可能である。
故に勝てない。
「魔物の中にも範囲魔法を使えるやつがいる。キミの戦闘スタイルではいずれ勝てなくなる。さあ、どうする?」
「……ならそれを超えて見せます!」
ニーナは駆ける。前に。
「まて、そのままだと『サイクロン』にぶつかって……!」
ニーナは跳躍する。上に。
そして、【上に】『加速』した。
(なんだと……⁉ 跳んだ⁉)
スパーダは驚愕する。これはスパーダの知っている『加速』の使い方ではない。『加速』は速度を上げるものという認識だったからだ。跳躍しつつ『加速』を行う人を初めて見た。
ニーナはスパーダの真上に到達する。そしてニーナの到達している場所は『サイクロン』の範囲外だったため辿り着いた。
(―――『加速』!!)
そしてそのまま【下に】加速した。
ニーナは魔鋼剣に『加速』を付与する。ニーナの速度、『加速』した状態で落下する衝撃、そして『加速』を付与した魔鋼剣の斬撃。
それらが一体となった攻撃は、『魔力障壁』を貫通し、スパーダに大ダメージを与える一撃となっていた。
ズガアアアアアアン!!
剣の衝撃が訓練場に響いた。
しかし、スパーダにはその斬撃は当たらなかった。正確には当てなかったという方が正しい。
ニーナが直前で斜め右に『加速』してスパーダを避けたのだ。恐ろしい威力になることをニーナが理解していたからだ。
「……さすがにこれをぶつけるのは危ないですよね?」
「……その通りだな。さすがにそれを喰らうと私でも危なかったよ。
合格だ。キミが冒険者になるのを認めよう」
「やったー! ありがとうございます!」
(うおおおすげえ! なんだあの威力⁉)
(『加速』なんて初めて見たわ……あんな戦い方もできるのね)
観戦していた冒険者たちは各々驚いた反応をしていた。
それも当然だ。訓練場の表面に大きな穴を開けた。これは中級魔術のレベル5以上、下手したら上級魔術に匹敵する威力だったからだ。
これは冒険者たちの魔術が剣の攻撃より優位であるという常識を覆しうるものであった。
こうしてニーナは、試験官に実力を見せつけ、冒険者試験に合格したのだった。
ニーナは無事冒険者試験に合格しました。次回で旅立ち編が最終回となります。
最近生活リズムを治したいのですが、逆に悪くなってきています……なんとかしたいものです。
誤字脱字あったら報告よろしくお願いします。
高評価、ブックマーク、拡散していただけると励みになります。よろしくお願いします!