第八話 「努力の結晶」
本日三話目の投稿です。
さすがに疲れたので、明日は一話のみの投稿になると思います。
よろしくお願いします。
クリスとの練習六日目。今日は四日目に行わなかった移動しながら剣を斬りつけていく練習である。
ニーナとクリスはこの前と同じアーテイルから離れた木々が生い茂る場所にやってきた。
「それに加えて、速さの加減、急加速、急停止といった今までやってきたことを反復練習しながらやってみようか」
「はい!」
「あと、剣に『加速』を付与するのは必要最小限、もしくは付与しないようにしてもらっていいかな?」
「……? どうしてですか?」
「いやあ、だってさ。ここら辺一体を更地にしたら怒られそうだし……」
ニーナはこの前なぎ倒した一本の木のことを思い出した。
「……そうですね」
「じゃあ、始めよっか」
ニーナは言われた通り、木々は完全に切り倒さずに加速の加減、剣に『加速』の付与、急加速、急停止といったこの一週間の間に行った練習の集大成を全てそつなくおこなった。
それでも、その威力に耐えきれず何本かの木をなぎ倒してしまったが―――
クリスは思う。彼女はこの一週間でよく成長したと思う。今日の練習を機に『加速』のレベルが4に上がった。
特に『加速』のレベルが上がったことにより、さらにニーナの移動速度が上昇した。
さらにスキル『怪力』を取得したことも大きい。これにより斬撃の威力が大きく上がった。
その証拠に今日は明らかに加減をした斬撃でも木を切り倒すことができた。
『剣術の心得』は……正直どんなスキルかは知らない。だが剣術の技術を上げるとか恩恵を得られるスキルなのだろう。
正直に言おう。彼女は確実に初級冒険者の実力を遥かに超えた実力を持っている。
中級魔術と同等、もしくはそれ以上の威力を持つ剣術。接近、逃走といった色んなことに使える『加速』は彼女の成長に深く関わっている。
単独での戦力も高く、パーティを組んだとしてもその能力が腐ることはおそらくない。昔の戦術に存在した前衛としての役割を忠実に担ってくれることだろう。
「今日の練習はここまで」
「えー本当ですか? もう少しやりたかったんですけど……」
「魔力量が半分になったからね。明日に備えよう」
「明日ですか? 明日は一体何を……」
クリスは淀みなく答える。ニーナの強さを考えると、これが今の最適解だと考えたのだ。
「冒険者試験を受けにギルドに行くよ」
「⁉ ついにですか⁉
えっ、でもまだ明日が練習の最終日で……」
「いいのさ。一日延ばすよ。それに、ボクがキミに教えることはもう実際に魔物と戦う時に伝えることしかないんだ。
だから、明日受けに行くよ」
「……はい! 頑張ります!」
ニーナは笑みを浮かべ元気よく答える。
「よしその意気だ!」
「それにしても冒険者試験なんてあったんですね」
「……え?」
クリスはポカンと口を開ける。
「宣言さえすれば誰でも冒険者になれると思っていました」
「…………はあ」
やっぱりこの子は変わらないのかなあ、と思うクリスであった。
練習七日目の朝、ニーナは人生で初めて緊張している……かもしれない。昨日、突然クリスに冒険者試験を受けろと言われたのだ。
聞くところによると冒険者試験は試験官との1対1の純粋な戦い。もし試験官に負けても試験者の才能を見出してくれれば合格にもなる。
ニーナが緊張している理由は生まれての対人戦を行うことになったからである。
(うぅ……何かの手違いで試験官さんを斬り殺しちゃうことがあるかもしれない……)
ニーナの頭の中はお花畑である。試験官に勝てると思っているのだから。
そもそも試験官との1対1の戦いということはクリスの『身体強化』の恩恵を受けることができないことを忘れている。
だが、その一方のクリス。抜かりはなかった。
クリスはアーデルベルトの鍛冶場にニーナを呼んだ。
「クリスさん? お父さんの鍛冶場に呼んでどうしたんですか?」
「ニーナちゃん。キミは今日の冒険者試験に対する秘策ってある?」
「え? いつも通り『加速』を使って……」
「その時に『身体強化』をボクはキミにできないからね?」
「……あっ」
クリスは頭を抱えた。
「やっぱりね!! ニーナちゃんのことだからそうだろうと思ったよ!!」
「し、仕方ないじゃないですか! いつもクリスさんに助けてもらってたから……」
「まあ、そもそもこの練習指南が終わった後、ボクはキミの元から離れる。
そのためにこんなものを用意しておいたんだ。今日間に合ってよかった」
鍛冶場の奥からアーデルベルトがやってきた。
手に持っているのはアーマー。だが、父がいつも作っているような鱗を組み合わせたようなものではない。隙間のないひとつなぎのアーマー。
デザインはニーナの所有している剣と同じ青と銀であしらわれている。
「お父さん……? これは……?」
「ふふふ。俺の最高傑作第二弾! なんと希少なエンチャントミスリルを使用したアーマーだ! しかもこのエンチャントミスリルは軽く、とても硬いんだ。このアーマーは、名付けて『蒼銀の羽』!!」
まるでバーン! という言葉がつくかのような大声で自慢気に言う。
「カッコイイ! それで、エンチャントミスリルってなんなの?」
「……そうか、我が娘はエンチャントミスリルを知らないか。
エンチャントミスリルは、使用する量によって魔術を付与することができる。この能力で『蒼銀の羽』に三つの魔術を付与することに成功したんだ」
「そういうこと。これでボクの『身体強化』レベル7、『魔力障壁』レベル7、『情報閲覧』レベル7を付与しておいたよ。
これは魔力を流し込んで心の中で念じればニーナちゃんでも使えるようになる」
「……つまり本当にすごいものなんじゃないの?」
「……そうだよ。よく分かってくれたね。さあ、試してみようか。分かりやすいのはそうだね、『情報閲覧』がいいんじゃないかな」
「はい! やってみます!」
―――『情報閲覧』。
ニーナは心の中で呟く。するとどうだろうか。
クリスが以前やってくれた『情報閲覧』と寸分違わぬ同じ情報がそこに映し出されていた。
「すごい! 本当にすごい!」
「ふふふそうだろう。もっと俺を褒めるんだぞ!」
「大好きお父さん!」
「俺も愛してるぞ我が子よ!」
クリスはこの親バカの光景をやれやれとした表情で見ていた。
(まったくおじさんは……冗談で言った「これだけのエンチャントミスリルがあれば『身体強化』の魔術を付与できるよと言ったら、その三倍の量を用意するなんて。
あの1つの鎧の分のエンチャントミスリルがあと3つ集まったら家すら建てられるのに……)
そう。このエンチャントミスリルは希少で、とても高価なのだ。
それをアーデルベルトは自身の貯金をかき集めて用意した。これはとんでもないことである。
(とはいってもこれでニーナちゃんが戦闘時、自力で『身体強化』、『魔力障壁』が使えるようになる。ニーナちゃんにとっては鬼に金棒だ。
もしかしたらのこともある。これで一人で戦えるようになる)
実はあのエンチャントミスリル、クリスも三分の一を出資しているのだ。クリスは『加速』しか使えないニーナの可能性を信じ、アーデルベルトの『蒼銀の羽』製作に賛同したのだ。
尤も、クリスがそれをニーナに伝えることは絶対にない。彼がそこまでニーナに思い入れをしていることがバレたくないのだ。
ニーナがそのことを知ることはなく、冒険者試験が始まる。
今日一日寝てる以外はほぼPCに張り付いていたので肩が凝りましたね……
あと二話で旅立ち編が終了します。ニーナの成長をこれからも見ていただけると嬉しいです。
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