第七話 「行き当たりばったりでは生きていけない」
今日二本目の投稿。できれば三本目も投稿したいですが、それをすると明日の投稿に響きそうだなあと思っており悩んでいます。
大体一話3時間くらいで書き終わるので、書ける時間を作れるか次第ですね。
「はあ……はあ……ラストォ!」
ニーナの魔力はほぼ尽きかけ、夕方になりつつある。これが『加速』を使用した最後の斬撃。
どのように振れば力をこめやすいか、どうすれば上手く斬れるか、ニーナは今まで剣の素振りでは考えなかったことを今日は実践してきた。
この練習はニーナに非常に大きな影響を与えた。今日試した斬撃の結果が木の幹の削られ方に如実に表れるのだ。
そうやってニーナは剣撃の最適化をおこなってきた。その結果が
ズバーーーン!
木の幹の一刀両断である。
「すごい! すごいよ! ここまで強く斬れるなんて! とにかくおめでとう!」
「ありがとうございます……さすがに疲れましたね。あはは……」
クリスは『情報閲覧』にてニーナの状態を確認する。
ニーナ・ライトワール
体力 100/210
魔力 0/510
状態
満身創痍
使用可能魔術
加速 レベル3
スキル
天真爛漫 レベル7
物理耐性 レベル1
剣術の心得 レベル1
怪力 レベル1
エクストラスキル
努力の天才
クリスの予想通り新たなスキルを取得していた。しかも2個同時である。
(努力した結果によってスキルを取得しやすくなるというのが『努力の天才』の効果なのかな。なんにせよ、『怪力』のスキルを取得できたのはとても大きいはず)
怪力はレベル1で自身の筋力を常時20%上昇するという破格のスキルだ。それからレベルが1上がるごとに20%加算されていく。剣で戦うニーナにとって恩恵の大きいスキルである。
今日の目標は達成された。それどころか冒険者として大きく成長できると確信できる一日だった。
五日目。今日の練習は休みだ。
その理由は昨日ニーナが完全に魔力を使い切ったことにある。
魔力を完全に使い切ると、元に戻るまで二日かかる。そのため今日は魔力が半分ほどしか回復していないのだ。
そのため今日は別のことをする。
勉強会だ。ニーナとクリスがいるのはニーナの個人部屋。ニーナは机に座り、クリスは本を開いて、アーデルベルトはクリスに睨みを利かせている。
「おじさん。ボクはニーナちゃんになにもしないよ……」
「だが狭い部屋で男女が二人きりだ。間違いがあってもおかしくない」
「はあ。せめて睨むのだけはやめてね? さ、ニーナちゃん。勉強を始めるよ」
「勉強かあ……」
クリスは確信している。ニーナは冒険者に関する知識が皆無だということに。そしてニーナはやや頭が悪いということに。
間違いなく戦闘に関するセンスはある。だが、それを補う知識がないともったいない。
「どうせキミは『魔物を見つけたらすぐにその場所に突撃するかもしれない』とか当時思ってそうだったからさ、事前に勉強が必要だなと思ったんだ」
「あ、あははー。さすがせんせいですねー」
「……図星なんだね。本当に授業を企画してよかったよ」
クリスはやれやれと頭を振る。
「知識はあるに越したことはないよ。知らない魔物に出会って、情報のないまま戦って死ぬなんてことしたくないでしょ? だから必要なのさ」
「……そうですね。勉強は苦手ですけど頑張ります」
「よろしい。ということでこれまでボクが培ってきた冒険者の知識をキミに教えていくね」
こうしてクリスによる授業が始まった。
「じゃあ始めに何から聞きたい? 手始めにニーナちゃんが興味を持ってることを知りたいな」
「じゃあ戦闘でお願いします!」
「了解。じゃあ戦闘に関する知識を教えるよ。
まず戦闘、冒険者ギルドがあるのはニーナちゃんも知ってるよね?」
「はい。冒険者に依頼を渡すところですよね」
「そうだね。一般の人がギルドを通して依頼したり、ギルドが直接依頼するね。主な依頼は素材の採取や未開の場所の調査、そして魔物の討伐」
「依頼の中だと、戦闘では討伐が当てはまりますね」
「違うよニーナちゃん。先程挙げた三つどれにも当てはまる」
「えっ、でも素材の採取や調査だと魔物と戦闘することはないですよね?」
「【行く先に】魔物がいないとは限らないでしょ?」
無論、冒険者ギルドは他にも色々やっているが、魔物との戦闘に当てはまるのはこの三つである。
「……確かに」
「それ以外に魔物との戦闘が起こり得るのはそうだなあ。商人の馬車の護衛時の接敵とかかな」
「そんな依頼もあるんですねえ」
「ふふっ。接敵するのは魔物よりも人が多いけどね」
「……えっ?」
「さあ続きを話そうか」
クリスはシニカルな笑みを浮かべる。
「……大丈夫なんですか?」
「そういう話は商人の方に直接聞くのがおすすめだよ。色んな話を聞かせてくれるからさ」
「さて、ここからは実践的な戦闘の話。
第一問。パーティ人数よりも魔物が多いことが、接敵する前に分かった。ニーナちゃんならどうする?」
「全力で戦う!」
「……
おじさん。こういうところだからね」
「……すまん」
二人は落胆をした。
「正解は逃げる、逃げられそうにない場合は魔術の範囲攻撃で敵の数を減らすor動きを鈍らせる。他には狭い一本道に誘い込んで一匹ずつ倒すとかだね」
「なんですぐ戦っちゃいけないんですか?」
「理由の一つとしては、まず数的不利のまま戦闘を行うと一匹を一人が倒してももう一匹に襲われる危険性がある」
「それで戦える冒険者が減るとさらに不利になるんですね」
「そのとおり。そういうセンスは持ってるのになあ……」
クリスは再度落胆する。
「なんですか⁉ 私をアホの子みたいだって言っているんですか⁉」
「そうだよ?」
「なんだとクリス⁉ さすがにその言葉は俺も黙ってられないぞ!」
「『麻痺毒』」
「ががが……」
「もう……飲み屋で話したのに……しばらくそこで黙っててね」
アーデルベルトはクリスの『麻痺毒』レベル6により30分間動けず、言葉も話せなくなった。
「とにかく、キミはアイデアを生み出す力もある。だけど思考が短絡的すぎる。もっと考えることを意識してみようね」
「……はい」
口を尖らせて不満げに答えるニーナ。
「さて、他にも理由があるんだよね。2つはあるかな。さて、何でしょう」
2つ、2つ……うーん。
たくさんの敵と戦うことで起きることを考えてみよっかな。たくさんの敵と戦うとその分攻撃をすることだよね……そっか!
「魔力が枯渇してしまう!」
「正解。そうなんだよね。たくさん魔術使うとその分魔力が減るのは当然だね。だから複数の戦闘は避けるというのも考えなきゃいけないんだ」
「なるほど……!」
「そして最後。これはボクが言うとしよう。
中には仲間を呼ぶ習性をもつ魔物もいるんだ。だからさらに長時間の戦闘になる可能性もある。これらが理由さ」
「分かりました。冒険者になった時は気をつけます」
「戦闘でとりあえず教えておきたい最後のポイント。相手をよく観察する」
「あ! これなら分かります! 相手の弱点や攻撃パターンを理解するためですね!」
「偉いよニーナちゃん。そうやってダメージを負わず、戦闘に勝てるように心がけていこうね」
クリスがこの後教えたのはニーナにとってどれも知らないことだった。日常の生活、冒険時バッグに詰めるもの、冒険者や冒険者以外の人間に対して……などなど。
それはクリスの経験に基づいた貴重な話で、ニーナにとってはまるで冒険譚を聞いているようであった。
アーデルベルトをたまに『麻痺毒』で黙らせつつ、クリスの講義は長く続いた。
地の分と会話の分量の調節って書き手の永遠の課題だと思ってるんですよね。皆さんはどのように心がけてるんでしょうね……
誤字脱字あったら報告よろしくお願いします。
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