第五話 「『加速』の本質」
モチベーションが高いのと趣味につかえる時間があるため、しばらく毎日投稿に変更します。
もしその日投稿していなかったら次の日必ず投稿します。
よろしくお願いします。
「クリスさんできました!」
彼女は喜びの声を上げる。
「なんか、すごいね。キミは本当に呑みこみが早い。ボクの教え方がいいのかキミのセンスがすさまじいのか……」
「なんとなくなんですけど、イメージを思い浮かべてどんな風にしたいかを具現化したものが上手くいくんですよね! 運がいいと感じてます~」
「どんな風にイメージしてるの?」
「最初はギューン! とかバーン! とかイメージすればいけるかな? と思ってたんですけど、溜めを作って走ってみたり、【歩く→ジョギング→走る】みたいに段階を踏んで『加速』をつけたら加減ができるようにと色々考えてみました!」
「……うん。よく考えていて偉いね。これからもそれを続けていこうね」
「はい!」
……ボクが彼女の指南役で心からよかったと思えたよ。
「じゃあ『加速』の段階を上げていくことはできたから、次は下げられるようにしようね。
段階的に速度を落とせるようにしないと視点が急にグラってきて気持ち悪くなることもるらしいからね」
「次はどんな風にイメージしてみましょう?」
「さっきは【歩く→ジョギング→走る】のイメージで力を加えていったんだよね。ならその逆を実践してみてはどうかな?」
「逆転の発想ってことですね!」
「……そうだよ」
「じゃあ頑張ります!」
彼女の冒険者としての活躍より、そもそも通常の生活で生きていけるのか不安になるクリスであった。
彼女はその後、『加速』の下げ方をマスターし、今日の練習を終えた。
その日の夜。クリスとニーナの父、アーデルベルトは二人で飲み屋に来ていた。
「クリス。あれからどうだ? ニーナはよくやってるか?」
「想像以上だね。彼女の魔術に関するセンスはとても高い。良い報告と悪い報告一つずつあるんだけどどっちから聞きたい?」
じつはクリスはまだ20代前半である。成人してまだ数年にも関わらず、彼はその歳に似合わぬシニカルな笑みを浮かべていた。
「あはは。年上をからかうんじゃないぞ。そうだな……じゃあ良い報告から頼むよ」
「了解。これはすごいことさ。ニーナちゃんはとんでもないスキルを持っていたよ」
アーデルベルトはあまりの喜びで立ち上がった。
「ほう! それは一体?」
「『努力の天才』っていうエクストラスキル。エクストラスキルというものは聞いたことあるけど、『情報閲覧』では初めて見たね。しかも『鑑定』でどんな能力か分からなかったよ」
「そうなのか……でもスキル名からいいもののように聞こえるな!」
クリスは続ける。
「そうきっといいものだ。そして僕の予想ではきっとすごいスキルなんだ。考察を聞いてくれるかい?」
「ああ、頼む」
「まず、ニーナちゃんのスキルに『物理耐性』があった。これは本来魔物と何度も戦闘をしてダメージを受けることでようやく得ることのできるスキルなはずなんだ」
アーデルベルトは驚愕の表情を浮かべる。
「そんなバカな⁉ ニーナは一度も魔物が出るような場所に行ったことはないはずだ!」
「だろうね。ボクも思ったよ。だからさ、ボクの予想では【特定の条件をクリアすることでスキルを獲得、レベルアップできる】みたいなものだと思うんだ」
「……つまり」
「つまり、ニーナちゃんは魔術には恵まれなかったけど、スキルになら恵まれる可能性が出てきたってこと。彼女が活躍できる可能性がでてきたよ」
アーデルベルトはジョッキに半分以上も入っている酒を飲み干し、涙を流し始める。
「そうか……それはよかった。ニーナがもし冒険者で挫けて悲しむ姿を考えていたんだ。
もちろんニーナが活躍するのを応援している。だけどそれと同時に心配しているんだ。ニーナが悲しまないか、ニーナにもしものことが起きないかってな……」
そう。アーデルベルトも妻のサラと同じようにニーナの冒険者としての活動を心配していたのだ。
冒険者は過酷な世界。その中で果たしてニーナは生き抜くことができるのか、と。
「……最初はもちろん誰もが大変さ。慣れない世界で生きていくんだ。だけど、ニーナちゃんはそれを乗り越えられるかもしれない。
それを可能にするかは彼女次第だ。おじさんはニーナちゃんのころをちゃんと見守るんだよ」
「ああ……分かったよ。そしてもう一つの悪い報告というのはなんなんだ?」
「ああ……聞いちゃう?」
クリスは苦い笑みを浮かべる。どうやらあまり話したくないようだ。
「? 一体どうしたんだ」
「彼女は、気の抜けたところあるというか……その……」
「悩みがあるならはっきり言ってくれ。相談にのるぞ」
「じゃあはっきり言うね。彼女、精神年齢低いよ」
「……はあ?」
アーデルベルトはポカンと口を開ける。アルコールも入っているせいか、クリスの言っていることがまだ理解できていないようだ。
「彼女さ……天真爛漫でかわいい子だなあと最初は思ってたんだよ」
「いくらクリスでもニーナはやらんぞ」
「ボクはおじさんの親バカっぷりを見たことがあるのに、そんな勝算のない賭けをする人間じゃないよ。
彼女はさ……どんな風にイメージして魔術を使っているか聞いたら、最初はギューンとかバーン! って言いだしてさ……耳を疑ったよね」
アーデルベルトは心当たりがあるようで、顔を台に突っ伏した。
「ああ……そうか……俺が甘やかしすぎたようだ。いい子だ、いい子なんだよ……」
「うん。そうだね。彼女はとてもいい子だ。だけど、冒険者として旅立たせるにはもう少し教育をだね……」
クリスのアーデルベルトに対する忠告やアーデルベルトの愚痴は夜が更けるまで続いた。
「さあ、今日からはついに剣と魔術の複合練習だ」
練習が始まって四日目。ちょうど中間の日である。
クリスが意気込んで話したこの場所は、アーテイルから少し離れており木々が生い茂っていた。
「今日はいつもの広場と違いますね。剣と魔術の複合ってどんな練習をするんです?」
「キミはいずれ近距離戦をしなければいけない。その模擬練習をしようと思ってね」
クリスさんは頭がいいなあ。私だったら即魔物のいる場所に突撃するかもしれなかったからね。
クリスが今から行おうとしているのはニーナが走りながら移動先の木々を斬りつけていくという練習だ。ニーナの戦い方は『加速』を使用して戦う。つまり移動しながら攻撃していくことが必須技能である。
それを反復して行おうというのがクリスの狙いである。
「特にこの練習は複数の魔物との接敵時、逃走にも役に立つ。ニーナちゃんは剣の練習をしていたって聞いているから実践に近い練習をすることにしたよ」
クリスは予想している。『加速』を使用できる冒険者は少ない。それを意味するのは「殿」となれる人間が存在しないのだ。もちろん『透明化』や『煙幕』といった魔術を使用して逃走を図ることもある。
むしろ魔術師の世界ではそれがメインだ。しかし、それは敵に背を向けることになり、さらに逃走時魔物相手に魔術師が対応できることは何もない。
逃走している状況は基本的に自分たちと強い場合か、あるいは魔力が枯渇している状態なのだ。
この世界には体力や魔力を回復するポーションというものが存在する。だが、それを一回の冒険で持てる数には限度が存在し、逃走を図る時には大抵それらを使い切っている。
つまるところ、逃走をする時は常に全滅の危険性を孕んでいるといっても過言ではない。
これらのことから、クリスは「殿」を務められるニーナが逃走時に貴重な戦力になれる。クリスはそう考えたのだ。
「いいかいニーナ。キミは単独で行動のできる存在になれる。『加速』の魔術はキミが思っているよりも使い道がある可能性があるんだ」
「……はい」
きっとこの話は重要だ。私が思いのつかないような考えをクリスさんは考えているんだ。忘れないようにしないと。
「単独で行動ができるということは一人でなんでもできるということだ。攻撃する、味方をカバーする、ヘイトを稼ぐ、そしてこれが一番重要。【一人で逃げられる】」
「一人で逃げられる……ですか?」
「そう。魔物との戦闘って、基本的に生きるか死ぬか。簡単に言うと自分たちより強い魔物に出会ったら、基本的に全滅するんだ。
全滅してしまうとね、その魔物がどんな攻撃をしたか、どこが弱点かといった情報が全く得られないんだ。この情報がないと……他の冒険者も同じ目に遭うかもしれない」
同じ目に遭う……つまり、たくさんの冒険者が死んでしまうってことだよね。そう考えると私が情報を持ち帰ることができると、すごいいいことなんだよね。
頑張らなきゃ。
「こういう話をするのはまた今度するね。今日は魔力を使い切るくらいまで練習してほしいから早く始めよっか。反復練習は大事だからね」
「はい!! それと質問なんですが、練習用の剣とか使わなくていいんですか?」
そう。手に持ってるのは、父アーデルベルトから授かった魔鋼剣である。
「あはは。実戦練習なのにその素晴らしい剣を使わないのはもったいないよ。
それに、その剣の切れ味を試してみたかったでしょ?」
「ふふふ。クリスさんはさすがですね。私のことをよく分かってくれています。
じゃあ、始めます!」
ニーナはさっそく魔力をこめる。
―――『加速』。
迸る蒼いオーラ。木まで一直線に駆けるニーナ。クリスの目にまだ追える速度であったが、その姿は美しく、まるで一筋の閃光のようだった。
ニーナはそのままの勢いで木の幹を切り裂いた……はずだった。
ニーナの剣は木の幹の丁度真ん中程まで達していたのだった。
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