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魔術世界の剣姫  作者: 白石束
「旅立ち編」
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第三話 「魔術の片鱗」

 

「じゃあ、始めてみようか。この前と同じイメージで走ってみようね」


「はい! 指導よろしくお願いします!」


 私は一昨日と同じように走るときに『加速』のイメージを行う。


 一歩、二歩、三歩。地面を思いっきり蹴る。魔術の兆候はまだ出てこない。


 もっと、もっと溜めて、もっともっと鋭く。


 すると彼女の身体の周りが蒼く輝き始めた。前は踏んでいた片足の地面だけが光った。


 だが、今回は違う。全身である。


(すごい! すごい! 私ってこんなに速く走れるんだ!)


 彼女は『加速』を使用して走れることに喜びながらさらにスピードを上げていく。



 これは彼女の身体が『加速』に適応し始めたことを意味する。そしてそれをクリスは理解した。


(……早いな。魔術の兆候が出てから二回目の魔術行使。まだ体に通わせる魔力がちぐはぐしててもいいはずなのに、もう全身に魔力が通っている)


 彼女は蒼いオーラを纏いながら、広場の端から端を駆けていった。



 そしてそのまま広場の壁にぶつかった。



(……まあ『加速』の止め方も分からないよね)


 それも仕方ない。おそらく、今の彼女は自身の魔術を使える喜びから全力を出したのだろう。そして前回と同じく魔術の兆候のまま使用し、前回は転ぶことによる強制終了。


 つまり魔術の止め方を知らなかったため、前回と同じく壁にぶつかるということで強制終了することになった。



 クリスはやれやれと思いながら、ニーナの元へ駆け寄っていった。


「あはは……ニーナちゃん。大丈夫?」


 クリスは天を仰いでいるニーナを見下ろしながら話しかける。


「クリスさん! すごいです! 青い光がパーッて! そうしたらギュンギュン速く走れて! 壁にぶつかっても全く痛くないんですよ⁉」


「そうだね。それが『加速』の効力だよ。あと最後の壁の衝撃は『身体強化』のおかげだからね。自分の力だと過信しないで」


「あっ、そうでした。えへへ~」


 私はクリスさんに『身体強化』の魔術を付与してもらってたんだ。あまりに速く走るのに気持ちよくて忘れちゃってた。


 ……これが魔術かあ。


「……もっと色んなのを使いたかったなあ」



「……そうだね」


 クリスは悲しんだ。彼女には才能があるように見える。魔術を扱うセンスが極めて高いのではないかと思ってしまう。


 だから、もしくは他の魔術、炎や風といった属性の攻撃魔術が使えたのなら、赤の他人であるボクでさえそう思う。


 天は二物を与えず、というように彼女に属性魔術を与えなかったのかもしれない。


 それでも、ボクは彼女が使う『加速』の可能性を信じてみようと思う。


「それでも、キミは魔術に関する呑みこみが早い。『加速』を使った戦い方も確立していこうね」


「……! はい! 頑張ります!!」


 そうだ。私はお父さんの剣を使って活躍するって決めたんだ。へこたれずに頑張らなきゃ。



「よし、じゃあ次は魔術の停止の仕方を学んでみようか」


「『加速』するのはなんとなく分かったんですけど、『加速』をやめるってどうすればいいんですかね。走るのをやめるのとは違いますもんね」


「そうだね。根本的な解決にはなってない。むしろ『加速』を行っているとさっきみたいに走り続けてしまうだろうね」


 そう。そもそも魔術の発動から終了までのプロセスでは一度『加速』を行うと効力が切れるまで、速く移動している状態が維持されるのである。


「じゃあそうだね。止まれ! って思うのではなく、力を抜いてみる考え方をイメージしてみよう。そもそも『加速』の仕方は体中に魔力を張り巡らせて行使しているみたいだったからね。


 魔力を体中に通わせている状態を【力をいれている】と考えて、その逆の【力を抜く】。こうやって考えてみよっか」


 ……お父さんやクリスさん、色んな人がイメージイメージって言ってるなあ。


「あの、質問いいですか?」


「うん。なんでも聞いていいよ」


「お父さんからもそんな感じにイメージするようにって言われたんですけど、魔術ってイメージがそんなに大事なんですか?」


 クリスさんは少し考えている。その後彼は「うん」頷いて答え始めた。


「大事だよ。理由はそうだね……2つあるよ。まず1つ目、魔術が成功するためのイメージって結構大事で、火属性の攻撃をしなきゃいけないのに上手くいくか不安で行使してたら成功するものも失敗してしまうんだ」


「心の持ちようって結構重要なんですね」


「そうだね。スランプしてる人が自信を失ったり空回りしている時に本来の力を出せないように、自身のないまま魔術を発動しても失敗することは多々あるんだ」


 私の場合は『加速』をすることに自信をつけなきゃいけないんだね。分かった。


「じゃあ、もう一つは?」


「2つ目の理由として、魔術の影響を与えるタイプは全部で3つあって、『ファイアーボール』といった魔術による攻撃は放出型、2つ目はボクが使った『身体強化』のような他の人にバフ、あるいは毒や麻痺みたいなデバフを与える付与型。


 ニーナちゃんの『加速』は自分の体内の魔力を使って能力を行使するから放出型かな」


「そうなんですか? 私はどちらとも違うように感じたんですけど……」


「うーん……ボクもそこら辺曖昧だから許してほしいかな。たしかに体内に魔力を通わせているともとれるしね。まああくまでもイメージさ」


「そういった決まりはないんですね」


 なんでも技術が確立されているわけではないということかな?


「そうだね。あくまでも魔術書にはどんな魔術が存在するか、どんな効力かくらいしか書いてくれないからね」


「……不親切なような気がします」


「まあ、そもそもボクたちが使える魔術は生まれた時から決まってるし、【こんな風にイメージや詠唱すれば使えます!】とかそういうわけじゃないからね。ボクも無属性以外の魔術は使えない。


 ……つまりボクに攻撃できる魔術は使えない」


 そっか、もしかしたらクリスさんも私みたいに悲しい気持ちになった時期があるかもしれない。いや、今も思う時があるかもしれない。


「……ごめんなさい」


「ふふ。気にすることはないよ。ボクにはボクの戦い方、役に立つ方法を見つけられたんだ。そりゃあ、『ファイアーボール』くらいは使えたらいいなと思ってるけどね。


 ……ぶっちゃけボクを悲しむよりキミの方が深刻なんだからね? 忘れちゃだめだよ?」


「あ、あはは……」


「でもそのやさしさを忘れないでね。冒険者は助け合いが大事だからね」


「分かりました……」


 クリスさんはやさしい人だ。そして心が強い人だ。私もクリスさんみたいになれたらいいな。


「さて、話も終わったし実際に『加速』を停止させることを練習してみようか」


「はい。では、いきます!」



『加速』。強く踏み込む。



 今度は一歩目で『加速』の魔術に成功した。


 上手くいってる! やっぱり魔術がちゃんと使えるって嬉しいな。


 そう思うまま4歩、5歩と駆けていく。


「そろそろ! 『加速』の停止を意識してみて!」


「は、はい!」


 体の力を抜く。止まろうとしても意味がないらしいからね。


 ……体の力を抜くってリラックスするイメージなのかな? 試してみよっと。


 リラックスするイメージで、フォームもやや変えて、力を抜くように。


「……へえ。やるねえ」


 クリスが呟いた。ニーナはなんと『加速』の停止を行うことが一発でできるようになったのだ。


 徐々に全身を纏う蒼いオーラが薄れていき、広場の端に着く頃には蒼いオーラは完全に消えていた。


 ニーナは嬉しくなったのか、クリスが出迎えにいくのではなくクリス側に向かっていった。


「クリスさーん! できました!」


「すごいよ。たった一回でできるなんてね! やっぱりキミは魔術への呑みこみが早いみたいだ」


 クリスは嬉しそうに、そして驚きながら話す。


 そして彼は「そろそろかな」と呟くと1つの魔術を行使する。


「『情報閲覧』」


 その瞬間ニーナの目の前に文字列が現れた。



「あっやっぱり! 『加速』のレベルが2になってるよ! おめでとう!」


「……? レベルってなんですか? あとこの文字列は一体……?」


「魔術にはレベルが存在していてね、レベル次第でその魔術の威力や効果が上がるんだ。


 レベル1で使えるようになったことを示していて、3で少しずつ使える。5で実践投入可能。7がプロの領域。10は天上の達人レベルという基準らしいね。レベル10までたどり着ける人は中々いないんだ。


 そしてこの魔術は『情報閲覧』。各個人の色んな情報を得られるんだ。体力や魔力、魔術のレベルとかも分かるよ」


「便利な魔術ですねえ。えっと、それってつまり『加速』の効果が上がったということですか?」


「そうだね。『加速』の停止も扱えることができてレベルアップに成功したんだろうね」


 へぇ~魔術って奥が深いなあ。


「あとは魔術以外にもスキルっていうのも得ることができて、例えばボクだと、魔術耐性とか毒耐性とかそれぞれのダメージへの耐性を得られたりできるんだ。もしかしたらニーナちゃんにもあるかもしれないね」


「本当ですか! あったら嬉しいなあ」


「一緒に見てみようか。……は?」


 クリスは驚愕した。ニーナの情報はこうだった。



 ニーナ・ライトワール

 体力 188/200

 魔力 400/500


 使用可能魔術

 加速 レベル1


 通常より魔力量が多いことは知っていた、問題はそのあとのスキル表示だ。


 スキル

 天真爛漫 レベル7

 物理耐性 レベル1



 天真爛漫はまだ分かる。彼女らしいスキルだ。きっと彼女の周りの雰囲気を明るくしてくれるのだろう。レベル7は驚きだけど。


 それよりも物理耐性だ。どうしてレベル1がついているんだろう? これって魔物と複数回戦闘をして物理ダメージを何回も受けることで取得できる、みたいな覚えがあるんだけどな……


 彼女はおそらく一度も戦闘をおこなったことはないはず。どうして……?


 クリスが見たのはこれだけではなかった。初めて見る文字列があった。



 エクストラスキル

 努力の天才



 【エクストラスキル】……?


今日はひとまずここまでです。明後日からは15時に定期投稿予定です。

誤字脱字あったら報告よろしくお願いします。


2020/11/04/16:47 三話まで改行など読みやすいように色々修正しました。

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