トモダチの価値
最近はパートナーのケイイチとあまり合わなくなったユージ。特別何か理由があるわけではなかった。会わない理由は無いが、会う理由も感じない。
「なんでかわからないけれど、そう言う気持ちになるときがあって。そういうことが切っ掛けで別れると、どういうわけか一番悲しい」
なにか大ケンカをしたとき、一時的に距離を置くのは誰でもすること。そして、「もう戻ってもだいじょうぶ」「戻れる状態になった」と思ったら、様子を見て元いた場所に帰ってゆく。それも人の自然な行動だろう。
友人はこんなことを言う人もいる。
「一度大きく距離を取った相手は、戻ってもまた同じことが起きるよ。問題が起きたけれど、それが過ぎ去ればまた前のような関係に戻れると予想するんだろ?それは「過去」を予想してるに過ぎないよ。ましてや、大ケンカで距離を置いたのなら、近寄ればまた同じ結果にナルト予想するのも有力なことだろう?
未来がどうなるかは、違う方法を考えないとね。ボクなら、完全に離れてしまうのが未来への一歩サ」
「過去のデータでは、過去のことしか予想できない」か。では「未来」を予想するにはどんなデータが必要なのか。いや、「未来」のためには予想ではなく挑戦が必要なのだ。飽くなき挑戦。そして、その挑戦が実を結ぶかどうかの予想は、過去のデータからしか予想できない。だから何があっても、常に挑戦し続ける、そういうことにする」
ユージはスマートフォンの画面を見る。スマートフォンのインテリジェント機能がアラートを発している。
『このアラートは、3ヶ月間、パートナーへの声かけ、会話、微笑みかけ、その他生物的接触が行われていない場合に表示されます。[提案][今後このアラートを表示しない]』
『[提案]を選択すると、相手との再接触に有効な接し方、場所などが提示される。
ユージは[今後このアラートを表示しない]を選んだ。すると、もう一度確認される[アラートの対照からケイイチさんを除外します。よろしいですか? Yes/No]
ユージは[Yes」を選択した。コーヒーショップの隅でボロボロとむせび泣いた。
そんな彼にスマートフォンは続ける。
『ユージ様。新しいパートナーをご希望ですか?現在位置から半径5キロ圏内で3人ご紹介できます!』
「すぐに次を探せって言うのかい……」ユージが独り言を言うと、スマートフォンはそれにも反応する。
『お気づきですか?ユージ様は、通常会話をなさるときとネット上のテキストチャットでは、話のしかた、会話の内容、質が異なります。このような違いは、最初にネット上で知り合ったか、会って知り合ったかにより、後から受ける印象なども変わります』
「フゥン。そうか……自分ではあまり考えたこともなかったよ」
『ユージ様の場合、チャットでの会話のほうが慎重で思慮深い発言、態度が多く見受けられます。通常会話では早く発言しようという焦りから、ことばの選び方などに失敗しているのではないかと考えられます。チャットでのほうが相手に好印象を与えています』
「ううん。それは、なんか言われてみると、思い当たるところがあるナァ……しかし、きょうは、スマートフォンのおまえもキツいこと言うな。これがインテリジェント機能の真価ということなのか」
それ以来、ユージはスマートフォンとよく「会話」するようになった。スマートフォンは、話を聞いてくれるし、かなり的確な返事を返してくれる。我が儘を言ってきたりしないし、いつ話しかけても、いつも同じ調子で相手をしてくれる。ユージにとってかけがえのない、いい友達になって行った。
ある夜更け。ユージは、眠れずにベッドの上でスマートフォン相手に無駄話をしていた。
「最近思うんだ。おまえが人間だったら、いいのにって……」
するとスマートフォンの反応は、次のようなものだった。
『当社スマートフォン搭載のインテリジェント機能についての詳しい説明は[こちら]をお読みください。合わせて[利用規約]もご参照ください』
「なんだ、突然、説明書を読めってカ。変なヤツだ。こういうところが「機械」って感じだな」
彼はそう言われたけれど、説明書も利用規約も全く読まなかった。
スマートフォンのインテリジェント機能についての説明には、次のような一文がある。
『インテリジェント機能では、応答精度の補完、向上のため、予告なくオペレーター応対に切り替わる場合があります』
タイトル「トモダチの価値」




