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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

婚約破棄と見せかけて王妃力を滾らせる公爵令嬢

お題をもらったので、ちょっと書いてみた。

『婚約破棄』。

細かいあらすじは、作中に。 @短編その2

簡単なあらすじ>>



マッキン皇国の嫡男・アルギルレオ皇子が、婚約者がいるにも関わらず、平民の女・マリーダにうつつを抜かして恋をして!あろう事か記念式典のパーティーで、10年来の付合いの婚約者である公爵令嬢・フィール嬢に対して『婚約破棄』を宣言!原因は、マリーダの暗殺未遂!眉唾物の証拠と証言を盾に、フィール嬢を追い詰める!「マリーダに嫌がらせどころか命を狙う不届き者!お前のいる場所はこの国には無い!さっさと出て行かねば、公爵家も取り潰すぞ!」とまで言う始末。危うし!フィール嬢!!



**********************************************************************


本日は国を挙げての記念式典パーティー。

国の内外からの貴賓も大勢集まって、和やかに進行していた。


それが突然緊迫した空気に包まれ、招待客は押し黙ってその様子を見守るしかなかった。

突然始まった悶着は、マッキン皇国の嫡男であるアルギルレオ皇子の発した言葉で、口火が切って落とされたのだった。


「マリーダを甚振るどころか、暗殺まで企てるとは!私の寵愛が得られないからと、程がある行為!お前には随分前から愛想が尽きていた!フィール!お前とは『婚約破棄』だ!私達の目の前から消え失せろ!」


10段程高い舞台の上から、お相手の娘・マリーダの肩を抱き寄せて、アルギルレオ王子がフィールに向かって言い放つ。

対する婚約者であるフィールは、首をこてんと右に傾け、不思議そうな顔をしている。


「私が暗殺?」


彼女の暢気な態度に皇子は顔を赤らめ、犬歯が見えるほど大きな口を開けて吠えるように叫んだ。


「ああ!可愛いマリーダを、お前は殺そうとしたのだ!」

「アル様、怖かった・・・」

「ああ、大丈夫。私がマリーダを守るよ。・・シラを切る気か、フィール!」


眼光鋭く婚約者を睨んでいる皇子に構わず、フィールは従者から手渡された犯行調書を見せて貰う。

アルギルレオは証拠に証言が揃っているので、強気な態度だ。


「マリーダに嫌がらせどころか命を狙う不届き者!お前のいる場所はこの国には無い!さっさと出て行かねば、公爵家も取り潰すぞ!」

「・・・ふむ・・・まあ・・・はあ・・・」

「何をしている!返事ぐらいしろ!」


だがフィールは調書を熟思、返事は無しだ。


「あら。こんなモノが証拠?・・・まあ・・・」

「いい加減に、返事を・・しろっ!!」


憤慨した皇子は壇上を降り、フィールの側まで大股で歩いて近寄って、調書を取り上げた。

取り上げるのが乱暴だったので、数枚パラパラと床に落ちる。

落ちる数枚を『あらあら』と呟きながら、フィールは目で追って・・ふぅと大きな溜息を吐いた。

そして彼女の表情が、おっとりとした顔が・・・ジワジワと、変わる。


「アルギルレオ様。この調書で私を訴えられると、本気で思っているのですか?」


ギロッ!!

フィールは射殺す勢いでアルギルレオを睨んだので、彼は思わず一歩下がってしまう。


「なんだと!これはきちんと証拠として使えると「誰が言いましたの?宰相様?それとも只の文官風情?」


アルギルレオが言う言葉を無視して発言を被せ、フィールは一歩彼に迫る。


「こんな証拠よりも証言が多いようなモノなど、偽証し放題ではありません?」

「マリーダが証言している!証拠もマリーダが「ですから。もう一度調べましょう」


再びフィールは彼の言葉を遮り言い募る。


「そうですわね。我が公爵家には優秀な密偵がいますが、私が偽証すると思われても困りますの。

そうだわ!王所属の暗部!それなら偽証はあり得ません!ねえ、そこの下賤で不愉快極まる、そこ!」


フィールは、扇子をビシッと壇上の娘に向けて指した。マリーダは一瞬ビクッと肩を跳ね上げる。


「そうそう、そこの。お前です。口にするのも汚らわしい。やっていることもクズとは」

「お前!マリーダに」


皇子はフィールの肩に掴みかかろうとするが、パン!!扇子で手を叩き落とされた。


「実は『そこ』の事、陛下に相談して前もって暗部に捜査させてありますの。ケビン!」


フィールは従者のケビンを呼ぶと、革張りのファイルを銀盆に載せて足音を立てずにやって来て、彼女に手渡した。皇子は呆気に取られるばかりだ。

いつも物静かで、優しく温和だったフィールが、鋭い眼付きで彼を睨むのだ。

なんでも『そうですわね』と同意してくれた彼女ではなかったから、なんだか落ち着かない。


「これは、『そこ』のを徹底的に調べ上げた調書です。ご覧になります?貴方のお父上である陛下直属の、暗部が調べたのですから信じますわね?内容は既に陛下とお妃様はご存知ですわ」

「なっ・・・!」

「皇帝が決めた婚約を破棄するのですもの。暗殺が本当なのか、陛下に説明しなければいけません」

「あ、ああ・・そう、だな・・父に・・そうだな・・」


アルギルレオに暗部の調書を渡すと、彼は『要約』を読む。簡単な結果説明を読んで、息を飲む。

『暗殺は狂言・マリーダの計略によるもの・・・犯人をフィール嬢に仕立て上げる為に・・』


「アルギルレオ様。私はしておりません。神に誓って」

「・・・そ、そうか・・」


アルギルレオは今頃気付いたみたいな表情、そして狼狽している。

まさか思い浮かばなかったとは言わせない。この取って付けた様な証拠や証言で騙せると思っていたとは、浅はかな考え。皇子が書いたシナリオとは思えない。多分、『そこ』のが考えたのだろう。

だがこんなお粗末なシナリオでさえ見抜けず、彼女を断罪したのには正直ガッカリした。

それでも彼を見捨てられようか。これでも嫡男、皇子なのだから。

尻拭いは次期妃となる私の『仕事』ですもの。

後でゆっくりと調書を読んで貰う事にしよう。

『これ』の性根や悪巧みが羅列されているから、読めば反省と後悔で寝込むかも。


だが・・暗部が調べた調書にあった『アレ』が、ここまで思考に害を及ぼすモノだったのね。

フィールは不意に彼の体が心配になった。


「ああ、そうだわ。急がないと・・アルギルレオ様。今すぐに魔法治療院に入院して下さいませ」


先ほどまで睨んでいた怖い顔が、急に心配げな表情になったからなのか、アルギルレオの頭の中の何かが『とくん』と脈を打つ。鼻があと数センチでくっつく距離まで、顔が接近。


「アルギルレオ様。貴方は今、精神汚染に侵されています。『そこ』の・・『そこ』のくれた何か、飲食しました?」

「え」


話が急に変わったので、思わず彼女の顔を見入る。

フィールは真剣な表情だった。それは見覚えのある・・


アルギルレオは不意に、随分前の出来事を思い出した。




まだ二人共10歳に満たない年齢だった・・

城の庭園を二人で走り回って遊んでいて、アルギルレオが石に躓いて転んだのだ。

フィールはトテトテと駆けて来て、彼が膝に怪我をしているのを見て、


「痛いの痛いの飛んでけー!アルギルレオ様、痛いの治りましたか?まだ痛いですか?」


その時の顔も、こんな風に真剣で、心配してくれていて・・

何度も何度も『飛んでけー』をしてくれた。


懐かしく、心から大事な思い出だった。



とくん、とくん・・


頭の中が熱くなって、脈打つ程に何かが鮮明になっていく・・・

アルギルレオの目に、光が戻るのを見てマリーダは焦った。


「アルギルレオ様」

「アルギルレオさまーーっ!!」

「ゔっ」


フィールの声にマリーダの声が被さり、彼女の声を聞いた途端、アルギルレオは頭の中がグラグラ揺れ、体もぐらついた。

傍にいるフィールは彼を支えようとするが、180越えの長身の男だ、支えきれずに一緒に膝を折る。


「誰か!アルギルレオ様を医務室に!!魔法医師を呼んで!!そして『そこ』のを捉えよ!!」

「はっ!!!」


数人の騎士がマリーダを捕縛し、引き摺って出ていこうとするが、アルギルレオはそれを見て駆け寄り、騎士達を腕で掻き分けるようにして追い払う。


「わぁぁん、アルギルレオさまーーーー!怖かったですぅーーーー!!」


マリーダは涙を滲ませて彼に抱きついた。

そして勝ち誇ったように歪んだ笑顔を、フィールに見せつける。

が。

マリーダの隠しポケットにアルギルレオは手を突っ込んで、中の物を引っ張り出した。

小さな巾着袋が彼の手に握られていた。


「フィール・・・これを調べてくれ」

「あ、アルギルレオさま?返して!!」

「邪魔をしてすまなかった、騎士達・・連れていってくれ」

「え!!アルギルレオさま!!きゃあ!!」


騎士達は再びマリーダを捕まえて、今度こそ引き摺って出て行った。引き摺られながらもマリーダは暴れ、奇声を上げ続けていたが、それも遠くなって消えた。


「く・・」

「アルギルレオ様!!」


フィールはまだふらつく彼に取縋り、身体を支えるがまたしても力が足りず、二人はずるずると正座で床にしゃがむ事となった。


「大丈夫ですの?アルギルレオ様」


また昔のような、心配げな表情をして彼をみる。

アルギルレオは自分の至らなさを恥じた。


彼女は凄い。出来る。才色兼備。次期妃として相応しい。

国中、いや国外からも誉れ高い公爵令嬢で・・私は正直肩身が狭かった。

彼女に相応しくない、勝手に思い込んでいた。

平民の出で、気楽に付き合えるマリーダといると、落ち着けた。

手作りのお菓子だ、私のために作った、そう言われたらなんだか嬉しくて・・・

彼女となら自分らしくいられる。そう思った。


だが間違っていた。

我ら王族は、いついかなる時でも気を抜いてはいけないのに。

王族は平民ではない、貴族のさらに上の、国を統べる存在なのに。

私は次期王となる者なのに。

甘えなど許されない存在だったのに。


『アルギルレオさま!甘えていいんだよ!』


マリーダの菓子のように甘い言葉に縋って、自分を正当化しようとした。


本当に、愚かだった・・・



ようやく頭痛が治まり、全てが理解出来るようになった彼は、傍に寄り添っている婚約者に頭を下げた。


「フィール・・すまなかった・・私は・・甘えていた。間違っていた」

「・・・・・・・・」

「・・何か言ってくれ・・婚約破棄したいのは・・君の方だな・・私は・・愚かだった」

「・・・・・・・・」

「私の傍から・・離れてくれ。フィールに・・私は似つかわしくない」


急に彼の顔を両手で掴み、顔を持ち上げるとフィールは睨んだ。


「アルギルレオ様!!お黙りなさい!!」

「!」


そしてフィールは大声で言った。周りに聞かせるつもりでは無い、ただ大きな声で言わなければ、アルギルレオに響かないと思ったからだ。


「アルギルレオ様!!私は、この10年!!貴方の為に!!貴方だけの為に!!

努力に努力を重ね、精進してまいりましたの!!学問も!!魔術魔法も!!身嗜みも、お妃教育も!!

貴方が恥をかかないように!!貴方が自慢出来る様な!!貴方に・・あ、い・・・・」


フィールの目が潤み、口が震えた。

思いを振り払う様に、ぱちぱちと強く瞬きをすると、水滴が散って・・・

きゅっと顔を引き締め、高慢な笑みで彼を見た。


「それに!!この程度の瑣末な事で、いちいちオロオロしていては!!国の一大事なんて処理できませんもの!!アルギルレオ様を支え、お力添えが出来ないような者などお傍におけませんわ!!

いい事?アルギルレオ様!!これからも!!おいたが過ぎるようでしたら私!!」


パン!!

畳んだ扇子でアルギルレオの胸元を叩いた。そして音を立て扇子を広げ、口元に添えて微笑む。


「もっと良い殿方の所に輿入れしますわよ?そうね。海外の・・」

「ダメだ!!フィー・ル・・」


何か言おうとしているのか、口がわずかに話をするような動きをするも、そのままアルギルレオは気を失ってしまった。


先程まで高慢な笑みだったフィールは、今は泣きそうな顔でぐったりとした王子に付き添い退場。




時間として30分に満たない、本当に瑣末な事件は幕を閉じた。

パーティーは突然のお開きとなり、来客達は騒然としつつも解散して行く。


この出来事は『アルギルレオ皇子と婚約者の痴話喧嘩』として終了したのだった。



その後だが・・


袋に入っていた菓子には媚薬が練り込まれていた。

マリーダは皇子に『毒』を盛った罪で・・・どうなったかは不明だ。


皇子と婚約者は1年後に婚姻を果たした。

いつも悋気で劣等感に苛まれていた皇子も、妻の掌に転がされる心地良さを知るや、心にゆとりが出来たのだろう。いつしか王に相応しい人格となっていった。










それは随分昔、何年前のことだろう。


もう昔の事・・というか、皇帝はあの瑣末な出来事などすっかり忘れてしまっていた。


が。

妻で王妃であるフィールは、あの事を決して忘れていなかった。

こっそり、彼には知られないように、今も頑張っているのだ。

いつも美しく、賢く、王妃として、そして彼の妻として愛されるように。


ついでにこっそり・・・暗部に彼の身辺を調べさせている。今の所大丈夫の様だ。

もう40も過ぎた壮年だが、皇帝という地位を取ったとしてもモテる風貌で、彼も『まだまだ若い者に負けない』と余裕を見せる。本当に素敵だと妻も思うのだ。だから気が抜けない。


「浮気は赦さないから」


子供を4人産んでも未だ衰えない美貌を鏡に写し、王妃はニコッと微笑んだ。


ほぼ毎日短編を1つ書いてます。随時加筆修正もします。

どの短編も割と良い感じの話に仕上げてますので、短編、色々読んでみてちょ。


pixivでも変な絵を描いたり話を書いておるのじゃ。

https://www.pixiv.net/users/476191

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[気になる点] いたぶる は 甚振る と書きます。
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