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第八話 宿

「な、なるほど……」

「ええ、すみません、こんな騒ぎを起こすつもりはなかったのですが……」


 飛竜を一旦城外に出すことで混乱は収まった。

 そして今、俺は騎士団の指揮所でミトさんに事情を説明、ドン引かれているところだ。


 そりゃそうだよね。

 ゴブリンやオークですら脅威なんだ。

 そこに飛竜を連れてくればこうなるって、わかって当然だろうに。

 テンションが上りすぎてついやらかしてしまった。


 周りにいる第二騎士隊の人たちも俺の方を時折ちら見しており、自分のやらかしを自覚する。

 今指揮所に居るのはみんな俺が助けた人たちみたいだし、そこまで悪感情は持たれていないと思いたい。

 チェーンメイルは着たままだが、ヘルムを脱いだ彼女たちは皆美人だ。

 そんな彼女たちに嫌われていたらと思うと少し悲しくなる。


 しかしどうしよう。

 せっかく手に入れた飛竜だ。

 出来るなら手放したくない。


「ごほん、それは置いておくとして」

「置いといていいんですか?」

「置いておかないと話が進まないでしょうに……。ともかくウリュウ様に都市長のカシワ男爵様より手紙を預かっております。お収めください」

「手紙? 俺宛に?」

「はい」


 紅い封蝋の施された封筒を受け取る。

 えっと、これ、どうやって開ければいいんだろうか。

 普通にびりって破っていいの?

 封蝋自体を割っちゃまずい、のか?


「は、はぁ、とりあえず受け取っておきますけど……」

「申し訳ないのですが受け取ったらすぐに開けてもらうよう言付かっております」


 なん、だと……?

 あとでゆっくり考えようと思っていたのに、その時間すら無いだと?


「で、では……」


 向こうが開けろって言ってるんだ。

 開けるしか無いだろう。

 ええいままよ!


 封蝋は割れ、地面へと落ちる。


「……」

「……?」


 ほっ、ミトさんの反応も特に無いし、問題なかったようだ。

 さて、それでは中身はっと。


「……、はぁ」

「えっと?」

「ああいえ、会って話がしたいってことみたいです。何でも二日後に馬車を向かえに行かせるから宿を教えてくれとか」

「なるほど」


 しかし、宿か。

 今日到着したばかりでその後もずっとバタバタしてたし、まだ取ってないんだよな。

 というか、お金ってどうなんだろ。

 俺、日本円しか持ってないぞ?

 千年も経ってたら使えるわけ無いだろうし。


「えーっと、ミトさん、俺、まだ宿決めてないんですけど」

「それでしたら騎士団員の者で実家が宿を営んでいるものが居るのでそちらではいかがでしょうか? 案内もさせますよ」

「え、いいんですか?」


 それなら宿泊費をツケにしてもらえるかもしれないな。

 しかし解囲されたばかり、ついでに俺の引き起こしたトラブルの処理で忙しいだろうに。

 申し訳なく思ってしまう。


「忙しくないと言えば嘘になりますが、街を救ってくれた英雄様の案内ですから」

「英雄って、大げさな」


 俺には似合わなすぎるその言葉。

 それにミトさんみたいな綺麗な人に言われるとくすぐったい。


「英雄、ですよ」

「え?」


 ミトさんは苦笑いを浮かべる。


「私が街を代表してなんておこがましいでしょうが、それでもお礼を言わせてください。私たちを救ってくれて、ありがとうございました」

「ありがとうございました!!」

「うわっ!? あ、あはは、どういたしまして」


 ミトさんの言葉に合わせ、周囲に居た女騎士の人たちが一斉に頭を下げる。

 みんな美人さんだし、こういうのはどうにも落ち着かないな。

 流れをぶった切るようで申し訳ないが、この場から離れるために案内を催促することにしよう。


「それじゃ、案内お願いします」

「はい、任せてください。 ハヅキ、案内を頼む!」

「はい! 隊長! 私たちを助けてくれた英雄様をしっかりとご案内いたします!」


 ハヅキと呼ばれた女性騎士が敬礼のポーズをとる。

 肩まで伸ばした髪と快活そうな笑顔が魅力的だ。


「ハズキさんまで、やめてくださいよ」

「あはは、英雄様は案外シャイなんですね?」


 俺はからかわれつつ騎士団の詰め所をあとにするのだった。



「あそこのヒイラギ亭って書いてあるところです!」

「あれですか」


 表通りの一角。

 入り口には達筆な文字でヒイラギ亭と書かれた木の看板がぶら下がる。

 しかしぱっと見では宿屋ってわからない気が。


 入り口では地味ながらも小奇麗な和服を着た女性が掃き掃除をしているところだった。


「あ、お嬢様。お帰りですか?」

「うん、お客様連れてきたの。お母さん居る?」

「はい、奥様は二階で帳簿をつけておられます」

「わかった。ありがと。頑張ってね」


 ハヅキさんは女性に軽く声を掛けるとそのまま店内へと入っていく。

 俺もそれの後を追うのだった。

 変なものを見るような目をした店員さんの視線を受け流しながら。


「お母さん居るー?」

「おやハズキかい? ちょっと待っておくれ」


 ややあって二階に続く階段から一人の恰幅のいい和装の女性が降りてきた。

 この人がこの宿屋の女将さんなのだろう。

 明る笑顔がどことなくハヅキさんに似ている。


「騎士団をクビになったのかい?」

「違うわよ! この方を案内してきたの!」


 ハヅキさんのお母さんは一瞬こちらをちら見したかと思うと、ニヤリと笑う。

 そして後ろを振り返ると。


「お父さん! ハヅキが男連れてきたわよ!!!」


 そのまま大声で叫んだのだった。


「なんだとおおおおおおおおおお!!!!」

「ちょっ!? 違うからね!?」


 野太い声での絶叫とハヅキさんの否定の悲鳴。

 あ、うん、別に俺そんなイケメンじゃないし、根無し草だしわかってるけどさ。

 はっきりと否定されると少し辛いものがあるよね。

 うん。


「あ、いや、別に嫌ってわけじゃなくて、その!」

「お前がハヅキの男かああああああ!!」


 顔を真赤にして俺を見てくるハヅキさん。

 そして同じく顔を真赤にして勝手口から宿に飛び込んできた親父さん。

 ああ、親子だなって感じだ。


「お父さん黙ってて!!」

「黙れるかっ!!!」


 今にも俺に飛びかかってきそうな親父さんに、ハヅキさんは平手打ちを一発入れる。

 スパン! といういい音とともに親父さんの足が止まる。

 きっと脳を揺らされたのだろう、膝が笑っている。


「この人は私の命の恩人なの!!」


 スパパン!

 ハズキさんは親父さんの胸ぐらを掴み前後に揺らす。


「それどころか街を救ってくれた英雄なんだよ!?」


 ズバババン!

 そのまま更に往復ビンタを続け。


「な、なに?」

「だからうちの宿に泊まってもらおうって!」


 ゴボボボボン!!

 往復ビンタを続ける。


「それなのにっ!!」


 涙目で金切り声を上げながら延々往復ビンタ(?)を繰り返すハズキさん。


 あ、いや、もういいからやめてあげて?

 親父さんの頬、どんどん赤くなってってるよ?

 それにまじでやばい音してるって!

 というか、女性とはいえ騎士。

 体は鍛え上げられているはずで、その力を父親とはいえ民間人に振るうのはどうかと思うんだよ!


「スットップ! ハズキさんストオオオオップ!!」

「あっ! すみません! つい熱くなっちゃって!」


 羽交い締めにしてようやく止まったハズキさんの往復ビンタ。

 眼の前には両頬を真っ赤にした親父さんがもうお嫁に行けないみたいな顔をして呆然と床に座り込んでいる。


ふ、ふまん(す、すまん)へっと(えっと)あひゃはさはわ(貴方様は)?」


 よろよろと立ち上がりながら、気丈にも笑顔を作ろうとしている親父さんを見て俺は涙を禁じ得なかった。

 というか女将さん、笑ってないで止めてくださいよ。

 まぁこれがこの家族のコミュニケーションなのかもしれないから余計なことはいえないけどさ。


「えーっと、瓜生 透です。宿泊をお願いしたいのですが……」

ひふれいひまひは(失礼しました)ひひらひへいへ(ヒイラギ亭へ)ひょほほそ(ようこそ)ひらっひゃいまひた(いらっしゃいました)


 と、色々トラブルはあったもののなんとか宿を決めることができた。

 それも今日と明日はタダにしてくれるらしい。

 とりあえずホッとした。

 それ以降も一泊二食付きで通常二〇円のところを一五円にしてくれるらしい。

 それがどれくらいの価値かわからないが、とにかくそれ以上稼げれば宿は確保できるということだ。

 どうにかして稼がないとな。

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