幕間一 騎士団の逃走
胸が悪くなるシーンがあります。
読み飛ばし推奨です。
「くそ! どういうことだ!?」
「団長! ゴブリンが! ゴブリンが!!」
我々が南門から脱出した直後、急に気温が上昇した。
そして涼やかな風が吹き込むと同時にゴブリンたちが涼しい方へ涼しい方へと我々を無視して移動を始めたのだ。
その流れに逆らいつつ、我々はどうにか魔物の脱出に成功した。
多少の犠牲は出たが、許容値内だろう。
馬を失ったのは痛いが……。
団長の俺さえ生き残れば騎士団は立て直せるのだから。
「なんとか、生き残れたな……」
「ええ、これも団長の日頃の行いのおかげでしょう」
騎士隊長のコバヤカワが俺を持ち上げてくる。
普段なら機嫌が良くなるところだが、今はそれどころではない。
「して、ここはどこだ?」
生い茂った木々のせいで分かりづらいが、太陽はかなり傾いてきている。
早く移動しないと拠点につく前に日が暮れてしまいそうだった。
「はっ……。おい! ここがどこかわかる者はいるか!」
しかしコバヤカワの問に答える騎士は居ない。
ここまでに馬は全て失い、約半数の騎士が脱落。
残る者たちも疲労困憊の有様だ。
そして現在地は不明と。
不安が首をもたげるが、それをあからさまにする訳にはいかない。
「仕方がない、とりあえず食事にするぞ」
俺は鷹揚に首を振るとそう告げた。
腹が減っては戦は出来ぬというしな。
そう思い声をかけたが部下たちに動きはない。
どうしたのだと怪訝に思うと同時に一人の騎士が声を上げる。
「団長、申し訳ありませんが食料はありません……」
「なんだと? どういうことだ?」
騎士いわく、今までの遠征は道中で補給ができたが今回の脱出と遭難は想定外だったらしい。
輜重隊も足手まといになるからと連れてきておらず、余計な重量を減らすため糧食も持ってきていないと。
「つまり、食料はないわけか」
「そうなります……」
申し訳なさそうに告げる騎士に俺は落胆を隠せない。
せめて水をと思ったが、それすらなさそうだ。
本来は禁止事項だが、今は緊急事態。
そう思い俺は魔法で水を生み出し喉を潤す。
「ふぅ……」
「……」
騎士たちが俺を見つめてくるが、今は魔力を温存する必要がある。
頭を使う必要がある俺と違って、体を使うだけの一般騎士に無駄に水魔法を使わせるわけには行かないのだ。
俺は心を鬼にして彼らの無言の訴えを黙殺した。
「ならば急ぎ拠点を目指さねばなるまいな」
「しかしどちらに向かえばいいのか……」
なに、正確な方向がわからずとも南に向かえば領都があるのだ。
大体の方向はわかる。
ならばまっすぐ南に歩けばそのうち街道にあたるだろう。
「あちらだ」
「おお、さすが団長ですな!」
甲冑に身を包んだ集団は夕暮れの森をガシャリガシャリと音を立てながら練り歩く。
ただひたすらに、南を目指して。
夕暮れの森を歩き始めて一時間が経った。
「お、おい。ここさっきも通らなかったか?」
「ああ、そんな気がする……」
騎士たちの呟く声が耳に入ってくる。
くそ、どういうことだ。
まさか幻覚を使える魔物が潜伏しているというのだろうか。
いや、先程かなり無理をして索敵の魔法を使用したが魔物の反応はなかった。
そうなると同じところを通っている気になっているだけ、そのはずだ。
くそ、第二騎士隊の誰かを一人でも連れてきていれば……。
歩き始めて二時間。
すっかり日が落ちてしまい、漆黒の帳が森には落ちている。
最初の頃は不安を口にしていた騎士は、今は一人も居ない。
一人斬り殺してからは黙ってついてくるようになったのだ。
くそ、俺も斬りたくて斬ったわけではないというのに。
組織としての統制を保つため、断腸の思いだったというのに。
どうしてそんな怯えた目で俺を見るのか。
バカにしやがって。
街についたらお前たち全員反逆罪で処刑してやる。
松明やランプのような気の利いたものは誰も持っておらず、結果照明の魔法を常用するはめになった。
おかげで魔力を使い果たした騎士が一人、また一人と脱落していく。
だが、脱落した彼らのおかげで俺たちが同じところをぐるぐる回っている可能性については否定された。
なんせ脱落した彼らとは二度と遭遇することがなかったのだから。
まぁ、最後に俺たちの役に立って死ねたのだ。
きっと喜んでいることだろう。
歩き始めて三時間。
いい加減疲れてきた。
いくら訓練を積んでいるとはいえ、決死の脱出をした上でなれない山歩き、そろそろ限界だ。
しかし、森の中で夜を過ごすことは出来ない。
魔物避けの結界を一晩中張り続けることは困難だ。
それも第一騎士隊だけでは……。
くそ、なぜ第二騎士隊の連中が居ないのだ。
普段は戦力にならないくせに必要なときに居ないとは、あの役立たずどもめ。
俺は悪態をつきつつ歩みを進めた。
歩き始めて四時間。
俺はいつの間にか寝てしまっていたようだった。
暖かく、心地の良いベッドで意識が覚醒する。
「ベッド……?」
そこで違和感に気がつく。
俺は甲冑を着て山中を歩いていたはずだ。
甲冑を脱いだ覚えはないし、ましてや拠点についた記憶もない。
なのになぜ暖かく心地よいベッドに……。
「な、なんだこれは!? ブベッ!? ヤメッ! 俺を誰だと!?」
暗闇の中、暖かく湿ったナニカの中を俺の身体がすり抜けていく。
これは、まさか、のまれているのか!?
クソ! クソックソックソッ!
これも全て第二騎士隊の小娘共が悪い。
奴らがついてきていればこんなことにはならなかった。
あの神官もどきもそうだ。
やつでも照明くらいは使えただろう。
そうすれば俺の部下たちの消耗も避けられたはずだ。
思えば俺の命令に対しても不快な視線を向けてきていた。
クソックソックソックソックソックソックソックソッ!
絶対に、絶対に殺してやる!!
俺の意識は、ゆっくりと闇へと落ちていった。
お読みいただきありがとうございました。
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