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第七話 笛吹き男と大空の支配者

「ふむ、そうか。ならば可能性はあるか」

「はい、索敵に特化した、それも女だけの第二騎士隊でも生還できたのです。我々第一騎士隊であれば確実に突破できるでしょう」

「ならば是非もない。ゆくぞ」


 ミトさんの報告を受けてウキタ騎士団長とコバヤカワ第一騎士隊長が立ち上がる。


「お待ち下さい! 団長たちはこの街を見捨てるというのですか!?」

「ミト! 見捨てるとは何たる言い草だ! 無礼だぞ!」

「コバヤカワ様!!」


 ミトさんが激高するが、ウキタ騎士団長が手を上げて静止する。

 その目には憐憫(れんびん)が浮かんでおり、とても仲間に向ける目ではないように見えた。


「ミト、我々は援軍を呼びに行くのだ。仕方がなかろう? 今、この包囲網を脱出し救援を呼びに行くには我々が出る以外ないのだから」

「し、しかし!」

「だが、貴殿のいうこともわかる。そこで貴殿の意思を尊重し、第二騎士隊には引き続きこの地の守護を任せる。ああ、ついでにそこの神官もつけてやろう」

「なっ!」


 ……。

 体のいい生贄か。

 大方、囮にでもなると考えているのだろうが。

 というか、俺はあんたたちの指揮下に入った覚えはないんですけど?


「そうだな、第三歩兵師団を守備に残し、第二騎士隊は我々の出撃の前に北門より出撃。敵の数を少しでも減らし城塞への圧力を軽減せよ」

「……」

「返事はどうした?」

「我々第二騎士隊を囮にすると……」

「ミト第二騎士隊長(・・・・・・)、命令だ」

「承り、ました……」


 では出陣だ。

 そういうとウキタ団長たちは足早に指揮所から外に出ていくのだった。



「えっと、ミトさん?」

「ウリュウ様、醜い姿を見せてしまい申し訳ありません……」


 俯いた(うつむいた)ミトさんの表情は読めない。

 しかし、その声から悔しさ、悲しさ、辛さ。

 そういったものが多分に感じ取られた。


「いえ。それよりこれからどうするのですか?」


 もういっそのこと命令を無視してしまえばいいのではないか。

 そういったニュアンスで聞いてみるが、ミトさんは力なく首を振る。


「命令、なのです。部下を、反逆者にするわけにはいきません……」

「そうですか……」

「ですがウリュウ殿、貴殿は我々に付き従う必要はありません」


 とはいってもな。

 乗りかかった船だし。

 それに見知らぬ他人ならともかく、こうして言葉をかわした相手を見殺しにするのは気が咎めるというか。


「一度救っていただいた命を再び投げ捨てることになるのは申し訳ありませんが……」

「いえ……」

「女とはいえ、我々は騎士です」


 顔を上げ、覚悟を決めた瞳を俺へと向けてくる。

 騎士、その誇りに殉じると。


 うー、あー、もうね。

 そうまでいわれたらハイそうですかなんて言えないでしょうが。

 それにこんな美人がゴブリンたちに蹂躙されるのを見て見ぬふりなんて出来ない。


「我々が居なくなれば、その分食料も消耗しなくてすみますしね」


 ミトさんは嘯くが、相手はいくら大群であろうとも所詮ゴブリンとオーク、ところによって一時オーガだ。

 俺の相手じゃない。

 だから、そんな表情はしないでくれ。


 しかしそんなに食料が厳しい状況なのだろうか。

 城塞都市ということは籠城を前提としているはずなのに。


「魔物の連中は周囲の村を襲い、そこで捉えた領民をこの街に逃したんですよ」

「兵糧攻め、ですか」


 ミトさんに聞いてみると予想外の回答があった。

 ちょっと考えにくいが、魔物が兵糧攻めか。

 もしかしてカンダツ村もその対象の一つだったのかな。


 彼女の覚悟。

 それはとても尊いものだ。

 おそらくこのまま俺がこの街を離れればきっと彼女たちはみんな死ぬだろう。

 そうなっては寝覚めが悪い。


「わかりました。俺に、任せてください」

「神の奇跡でも賜われる(たまわれる)のでしょうか?」


 疑わしそうに俺を見つめてくるミトさんに微笑みを返すと、俺は空へと舞った。



「うん、本当に完全に包囲されているな」


 改めて上空からぐるりと城塞都市周辺を眺めるが、隙間なくびっちりと包囲されている。

 水路の中にすら魔物が立っており、時折ゴブリンが流されているのが見えた。

 それでも抜けた穴には少しすると他の魔物が入り込み、再び隙間は無くなっていく。


「とりあえずゴブリンだけでもなんとかしないとな」


 ゴブリン、人型ではあるがその知能は最低レベル。

 言葉なんて通じないし、意思と呼べるものがあるのかも怪しい魔物。

 そんなゴブリンを退治するのは簡単だ。


魔法威力増大インクリース・マジックパワー範囲拡大レンジエクスペンション


 威力を増大し、更に範囲を拡大、用いる魔法はただの温風。

 といってもそれなりに暑くなる。

 大体三五度程度だろうか?


 そして夏の熱風を受けたゴブリンたちが何をするか。

 簡単だ、涼しい方へ逃げるのだ。


「こうしてっと。よし、来た来た。っと、念の為障壁も張ってと」


 暑さに喘ぐ(あえぐ)ゴブリンたちに向かって冷風を送ってやる。

 そうするとゴブリンたちは熱に浮かされたようにフラフラと涼しい方へ涼しい方へと移動を開始する。


 異変に気づいたオークたちがゴブリンを斬り倒して止めようとするが、彼らは止まらない。

 なんせ斬られたゴブリンは悲鳴をあげることもなく死んでしまうのだ。

 オークの近くに居たゴブリンは一瞬足を止めるが、後ろから押されて前へ前へと移動してしまう。


 ゴブリン軍団の誘導先、それは湖だ。

 大きな湖。

 少人数で遊ぶには問題ないだろう。

 だが、大群が押し寄せればどうなるか。

 深みにハマったから戻ろうとしても後から後からやってくるゴブリンに押され、更に深みへとハマっていく。


 時折ゴブリンの群れに流されたオークやオーガも湖に沈んでいく姿が見えた。



 誘導開始から一時間。

 包囲していたゴブリンの軍団は、その殆どを水中に没した。

 オークやオーガとともに。


「水質汚染もいいところだけど、まぁ仕方ないよな」


 流石に少し疲れた。

 魔力はともかく、ずっと集中していたからなぁ。


 俺はフラフラと飛翔しながら城塞都市へと向かう。

 しかし俺は油断しすぎていたのだろう。

 ゴブリンやオーク、オーガといったちょっとした魔物しかいないと、思い込んでいたのだ。


「んなっ!?」


 ガラスの割れるような音が響き、防御障壁が砕かれる。

 そして衝撃。


「ぐえっ!!」


 衝撃を殺しきれず地面へと墜落する。

 なんとか空気のクッションを作り激突は回避したものの、頭が揺さぶられ目が回ってしまう。

 思わず地面へ膝を付き、首を振るって空を見上げた。


「何、が?」

「クエエエエエエエ!!」


 この空は俺のものだ。

 そう主張するかのように翼を広げ、雄叫びを上げる。

 体表は輝く緑の鱗に覆われ、流線型の頭部からは濃い緑の嘴が生えていた。

 薄い翼膜を透過した太陽の光で長い尻尾が影を作る。


 俺を見下してきたそれ。


「マジかよ!?」


 大空の支配者、飛竜がそこに居た。


 ウルガさん、そうそう会えるもんじゃないんじゃなかったんですか。

 いや、村に引きこもってるウルガさんに文句をいうのは筋違いか。


 緊張に思わず喉が鳴る。

 まさか、まさか飛竜と遭遇してしまうなんて……。


「なんて俺は運がいいんだ! ……、ふぅ、落ち着け、落ち着くんだ俺。……さてと、それじゃいっちょ気合を入れますかね!」


 飛竜。

 子どもたちのアイドル。

 その格好いいフォルムと人語を理解する頭の良さから人気だったペットだ。

 雑に扱っても大丈夫な体力、餌は魔力だけでもOKと親御さんからも評判が良かった。


 友達がその背に乗って散歩をさせたりしているのを見て悔しい思いをしたものだ。

 そういえば一度野良を拾って公園で飼っていたこともあった。

 いつの間にか居なくなっていたけど元気にしてるのかな。

 ともかく、今なら飼育スペースとかを気にしなくてもいいのではないか。

 なんせ住処は最悪放し飼いでいいだろうからな。


「クエ……?」

「よっし、お前の名前は小太郎だ。今決めた」

「……」


 何いってんだこいつって目で見てきてももう遅い。

 俺はお前をペットにすると決めた。

 今決めた。


「さ、かかってこい。誰がご主人様か、教えてやるよ!」

「クエエエエエ!!!」


 飛竜は上下関係を非常に気にする質だ。

 だからペットにするには一度殴り倒してどちらが上かはっきりさせてやる必要がある。

 その調練方法が動物愛護団体に一時期批判されたが、批判し飛竜を保護(笑)した彼らは皆傷だらけになる結果に終わっていた。


「ほっ、ていっ!」

「クエッ!? クカアアア!!」

「おりゃっ」

「グエッ……」


 小太郎の噛みつきを防ぎ、カウンターを入れる。

 殴られた勢いで尻尾を回して打ち付けてきたが軽く受け止めて地面へと叩きつけてやった。


「やばっ! 翼膜傷つけてないよな!?」


 飛竜は魔法で飛んでるから翼膜が傷ついても飛べなくなるってことはない。

 だが、翼膜が破れているとかっこ悪い。

 それに治りにくいし。


 俺は慌てて大地に半分埋まった小太郎の元へと降り立つ。

 地面に突き刺さった小太郎を引っこ抜き翼を広げて確認するが、傷は特に無いようだ。


「よかった……」


 せっかくの初飛竜、五体満足で飼育を始めたいのは当然だよな。

 と、そこまで考えたところで小太郎と目があった。


「……」

「よろしくな。小太郎」

「クエッ……」


 俺が軽く手を上げるとゆっくりと目を閉じ、小さく鳴く。

 それは飛竜が服従したという印だ。


「ふ、ふふふ、飛竜、ゲットだぜ!」

「クエックエッ?」


 しかし嬉しいな。

 これは是非とも他の人にも自慢したい。

 といっても、知り合いは居ないからなぁ。

 あ、そうだ、

 ミトさんのとこにいってみるか。

 一応ゴブリンたちの片付けは終わったって報告しなきゃいけないだろうし。


「んじゃ小太郎、俺が背に乗ったら飛んでくれ」

「クエッ」

「目標、城塞都市カリワ! 出発!!」

「クエックエッ!」


 ふわりと小太郎の体が浮かび上がる。

 自分で飛翔魔法を使うのとは違った、少しくすぐったい感覚だ。

 なるほど、これは面白い。


「気持ちいいな」

「クエッ」


 首筋を軽く撫でると小太郎は気持ちよさそうに返事を返す。

 ふふ、これが俺の飛竜。


 みんなきっと驚くだろうな。

 そんなことを思いながら俺はカリワへと帰還した。


 ――五分後。

 城塞都市内で大騒ぎが発生したのは言うまでもないだろう。

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