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第六話 快適な空の旅

「ああ、もう……!」


 九人か。

 きついが、できないわけじゃない。

 それにこんなふうに言われて見捨てるんじゃ男がすたる。

 というか元から全員助けるつもりだったのだしね。


「全員の命、俺が保障します」

「すまない……」

「んじゃ行きますよ。歯食いしばってください」

「は?」


 自分含めて十人を飛翔させるのだ。

 それも素人の俺が無詠唱で、だ。

 空の旅はとても快適とは言えないものになるのは目に見えていた。


「のわああああああああああ!?!?!?」

「舌噛みますよ!」

「これはあああああああ!?!?!?」


 なんとか騎士たち全員を浮かばすが、バランスが取りづらい。

 空中で右に左に、上に下にと激しく揺れながら俺たちは城塞都市へと突き進む。

 ちくしょう、こんなことならちゃんと詠唱すればよかった!


 速度調整なんてしている余裕なんて無い。

 時折飛んでくる矢や投石を防ぐための障壁の展開で余裕なんてものは使い切っているのだ。

 ただひたすらに、全速力で、真っ直ぐに、城壁へと。


「っ!! やべええええええ!!!」


 ギリギリでなんとか高度を上げ、回避したが危なく城壁に突っ込むところだった。

 というか髪の毛に城壁が触れた感じしたぞ!?

 だけど抜けた!!


「んなああああああ!!!」


 そこで気が緩んでしまい、今度は錐揉み回転しながら地面へと向かう。

 民家の屋根が、地面が、勢いよく近づいてくる。


「うらあああああああ!!!」


 障壁魔法を解除し、空気のクッションを作る。

 俺たちはぐにょりという感触とともに何度かバウンドし、そして地面へと不時着。


「はっ、はっ、はっ……。なんとか、着陸、成功……?」


 成功、でいいんだよな。

 民家の屋根をいくつか破壊してしまったかもしれないが。

 ともかく全員揃って城壁内に撤退できたようだ。


「大丈夫、ですか?」

「……」

「あれ?」


 しかし騎士たちは全員路上に散らばってぐったりとしており、意識を失っているようだ。

 そりゃそうか、あれだけ激しくシェイクされて無事でいられるはずがない。

 緊急避難ってことで許してもらいたいが、文句の一つも言われそうだ。


「とりあえず治癒魔法かけるか。生命の源、その活力を取り戻せ、汝は汝のあるべき姿に。治癒(ヒーリング)


 騎士たちを回収、壁にもたれかけさせ一人一人慎重に初級の治癒魔法を掛けていく。

 俺が魔法を発動させる度に青白い輝きが騎士を包む。


「ふぅ……、とりあえず全員死んではないか。よかった」


 全員助けると宣言しておいてサクッと死なれては立つ瀬がない。

 少しホッとするな。


 落ち着いたところで閉じられた窓の隙間から投げられる視線に気がつく。

 それも複数。

 そりゃそうか、上空から騎士が降ってきたんだ。

 気にするなという方が無理だろう。

 まぁ距離をとってくれる分には問題ないさ。

 どうしたのかと聞かれても上手く説明する自信ないし。


「ん、ん……? はっ? ここは? 全員無事、か」

「目醒めました?」

「お前は……、いや貴方様が我々を助けてくれた、ということでしょうか?」

「うーん、助かったというのにはまだ早いかもですね。城塞内に撤収はしましたけど」


 城塞内に撤収には成功した。

 だが、周囲は変わらず魔物に包囲されたままだ。


「いや、それでも命を拾えたのは事実だ。座ったままで失礼だろうが、礼をいわせてくれ」

「どういたしまして。それともう立てませんか?」

「はは、先程も言ったと思うが、足を痛めてしまっていてね」

「うん? 治ってません?」

「は? いや、え?」


 そんなバカな、たしかに足の骨が折れていたはず。

 つぶやきながら騎士は恐る恐るといった感じでゆっくりと立ち上がり、足を踏み込む。


「痛く、ない? いや、たしかに私は足の骨を折っていたはずなのだが」

「えーっと、余計なお世話だったかもしれませんが治癒しておきましたから」

「なんだと?」


 あー、やっぱりまずかったか?

 くそ、ちゃんと確認しておけばよかった。

 俺も少し混乱していたんだよ、許してくれ。


「治癒魔法とおっしゃりましたか?」

「え、ええ。余計でしたかね?」


 宗教的に治癒魔法NGとかだったかな。

 たまに居るんだよなぁ、そういう人。


「まさか! 有り難い! しかし治癒魔法、そして飛翔を使えるような高位の神官様が来てくださるとは!」

「神官?」

「おっと、兜をかぶったままで失礼しました」


 騎士が兜を脱ぐと金色の長い髪がバサリと落ちる。

 汗の滲んだ額に少し張り付いた金糸が艶やかさを感じさせる。

 気の強そうな青い瞳、自身に満ちた口元。

 騎士は女騎士だった。


「私はマツ領軍第一騎士団、第二騎士隊隊長のミトです。訳あって姓は言えません、ご容赦ください」

「あ、これはご丁寧に。私は瓜生 透です。それで、現状を教えてもらえますか?」

「はい、一〇日ほど前の話ですが――」


 突然魔物がこの城塞都市カリワを包囲したらしい。

 前兆もなく、一切の準備を整えることのないまま籠城戦へと突入したと。


「常駐している領軍第三歩兵師団と、たまたま訓練のために駐留していた第一騎士団が防戦に当たっていたのですが」


 緊急救援依頼を領都へ出したが、時同じくして領都マツにも魔物の侵攻があり援軍を出せない状況になってしまったらしい。


「そこで強行偵察のため、私の第二騎士隊に突撃が下令されたのです」

「強行偵察ですか」

「私は反対したのですが……」


 悔しそうにミトさんが俯き、拳を握りしめる。


「ミト! ここにいたか! 何をしている!!」


 掛けられた声に後ろを振り向けば四十歳程度の甲冑を着込んだ厳つい男性がこちらを睨みつけているところだった。

 おそらくミトさんの仲間の騎士なのだろうが、なんとか生還したばかりの仲間に向ける態度ではない気がする。


「すみません、少々待っていただいてよろしいでしょうか」

「何だお前は。下賤な平民に従ういわれなど無い!」


 ミトさんに代わって少し待つようにお願いしてみたものの、見下すような視線を向けられてしまう。


「コ、コバヤカワ様! この方、ウリュウ様は高位の神官様です!」

「神官だと?」

「はい、その証拠に重傷だった我々の傷を癒やしてくださいました」

「はっ、重傷ねぇ? 小娘にとってはかすり傷でも重傷というわけか?」


 いや、全員骨折なり裂傷なりでかなりひどいことになっていたんですけど。

 治癒魔法で全部治したけどさ。

 それでも放置していたら普通に死んでいてもおかしくない傷だったのに。


「なっ。私は女とはいえ第二騎士隊を任されている身。いくら第一騎士隊長とはいえ、そのように呼ばれるいわれはありませんよ!」

「ふん、小娘が囀り(さえずり)よる。もう良い、ウキタ団長を待たしているのだ! 早く指揮所へ来い!」

「はっ……」

「そこの神官とやらも来い!」


 そういうと騎士は踵を返し去っていった。

 後ろについてくるのが当たり前という雰囲気だが、これって従う理由なんて無いよね。


「それでは失礼しますね」

「え?」


 呆然とした表情でミトさんが俺を見つめてくる。

 いや、縁もゆかりもないのになんでついていかなきゃいけないんだよ。

 それもあんな失礼な態度取られてさ。


「コバヤカワ様があのような態度を取り申し訳ありません! ですが、後生ですから矛を収め、ご同行いただけないでしょうか!」

「えぇ……」

「お願いします! 私にできることでしたら何でもしますから!」


 なんでも? 今何でもするっていった?

 いやいや。

 いくら美女に縋りつかれてとはいえ、ご遠慮させてもらいたい。

 面倒事の臭いしかしないんだもの。


「私たちからも、お願いします!」

「お願いします!!」


 しかし、いつの間にか意識を取り戻していたミトさんの部下の女騎士たちに囲まれ、俺はなし崩し的に同行するはめになるのだった。

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