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第五話 緑の絨毯

「もう、行ってしまわれるのですか?」

「ええ、用事もあるからね」

「来週には馬車が来ますから、それまで村に居ても……」


 翌朝、残念そうに俺の胸元で俯く(うつむく)ヒナちゃんに別れを告げる。

 次の街までは街道沿いに歩いて三日程度。

 馬車を使えば一日程度らしい。

 しかし馬車が来るまで待てばと言われても、その間に俺が押し倒されかねない。

 俺も男だからな。

 ピナちゃんはともかく妙齢の村の女性陣に迫られたら断りきれる自信はないし。

 それにボロが出ても困るしね。


「それじゃ、元気でね」

「……」

「さ、ヒナ。ウリュウ様を離してあげて」

「はい……」


 ウルガさんの言葉を受けて離れていった温もりに、少し寂しさを感じてしまう。

 俺はロリコンじゃないが、あれだけ好意を向けられれば多少は情が湧いてしまうというものだ。


「ウリュウ様、本当にありがとうございました」

「ありがとうございました!!」


 村人たちに見送られ、俺は村を後にした。



「とはいえ、一応、ね」


 村が見えなくなったところで俺は飛翔の魔法を使用し、村へと舞い戻っていた。


「おー、結構いるな」


 そして空を飛びながら周囲を探索、魔物を狩っていく。

 オークは居なかったものの、ゴブリンの集落やホーンラビットの巣が村の周囲には多数点在していた。

 俺はそれらを尽く(ことごとく)駆逐していく。


「仕上げにっと」


 魔物が避ける程度のちょっとした結界を張る。

 そして少し面倒ではあったが周囲のマナを自動で吸収し、結界を維持するように魔法を組んでいく。

 初めて使用したということもあり、思いの外手間取った。


「ふぃー、これでよし」


 あくまで嫌がらせレベル、結界内に入ると気分が悪くなる程度だがオーガ程度までなら村へ近づくことはないはずだ。

 飛竜だと少し厳しいかもしれないが、ウルガさんも今まで見たこと無いくらい珍しい存在らしいし問題ないだろう。


「元気でな」


 後ろ髪を引かれる思いを胸に、俺は街道上空を街へと飛翔していった。



「お、あれかな」


 空を飛び始めて一時間くらいだろうか。

 昼前には遠くに石造りの壁が見えてきた。


「城塞都市か」


 五メートル程度の高さの石壁に囲まれた都市。

 日本なのになぜと思ってしまうが、千年の歴史によって新たに作られた文明であれば是非もなし。

 きっとそれが必要とされる背景があったのだろう。


「そろそろ降りて歩いたほうがいいかな?」



 緑に囲まれた城塞都市。

 周囲はきっと穀倉地帯で麦や稲に囲まれているのだろう。


「と思っていたんだけどな」


 思わず俺はつぶやく。

 近づくに連れて、そんないいものじゃないことがわかってきたのだ。

 いや、元は穀倉地帯だったのだろうが。


 鮮やかな緑を塗りつぶす醜悪な緑の群れ。

 それはゴブリンだった。

 あたり一面に広がるゴブリンの絨毯に所々オレンジや黒色の突起が見える。

 オークやハイオーク、それにオーガが点在しているようだった。


 一周ぐるりとまわってみたが、蟻の這い出る隙間もないほどに都市は魔物で囲まれていたのだ。


 城壁はかろうじて持ちこたえているようだが、カンダツ村基準で考えると絶望的と思える。

 村と城塞都市では条件が違いすぎるから一概には言えないかもしれないが。


「ん? 橋が降りてきた?」


 城塞都市入り口の跳ね橋が降ろされていく。

 そして門が開き、中から馬に乗った騎士が飛び出してきた。

 その数は僅かに九騎。

 一応強化魔法等を使用しているらしく、身につけるチェーンメイルや槍は薄っすらと光を放っているようだった。

 乗っている馬にも防具が施され、威風堂々という言葉が似合う佇まいだ。


「数は少ないけど、村人ならまだしも騎士なら大丈夫かな? それにみんな魔法使えるみたいだし」


 きっとあれが魔導デバイスを用いた魔法なのだろう。

 正式には魔導っていうんだっけ?

 まぁいいや。


「お手並み拝見と行きますかね」


 騎士たちはその手に持った槍でゴブリンたちを貫いていく。

 やはり村人とは違って戦い慣れているようだ。


 なんて見ていると、騎士に気がついたオークがゴブリンを蹴散らしながら騎士へと突貫していくのがみえた。


「おいおい、フレンドリーファイア―かよ」


 流石はオーク。

 ゴブリンなんて弾除け以下って訳だ。


「上手く連携するもんだなぁ」


 騎士の元へたどり着いたオークは、しかし三騎の騎士に取り囲まれ傷だらけになっていく。

 ゴブリンと違い鎧袖一触というわけには行かないようだが、騎士たちは無傷だ。


 そこまで考えて違和感に気がつく。

 村でもそうだったが、違う種族のオークとゴブリンが共同戦線?

 村を襲ったオークとゴブリン程度の数であればオークがゴブリンの集落を支配したと考えられるが、この数ではありえない。


「一体なぜ……っておい!?」


 オークを取り囲んでいたはずの騎士の一人が落馬する。

 いや、違う。

 いつの間にか忍び寄っていたオーガに足を捕まれ、引きずり落とされたのだ。

 オーガの背にはゴブリンが巻きつけられておりその黒い巨体をカモフラージュしていたようだ。


 気づけば他の騎士たちも同じ状況に陥っていた。

 おそらくオークが気を引いている間にオーガが忍び寄りという作戦なのだろうが。

 オークやオーガがこんな知恵があるなんて聞いたこと無いぞ。


「ってそんな悠長に考えている場合じゃない!」


 無事だった騎士たちも動揺が激しく、オークからの一撃を受け落馬したり、ゴブリンにまとわりつかれ動けなくなっている。


照準固定(ロックオン)多重氷針マルチプル・アイスニードル


 急ぎ攻撃魔法を発動させる。

 氷柱よりやや小さい氷の針が俺の周囲に多数展開される。

 この位置から撃ったらほとんど魔石を砕くことになるだろうが今は緊急事態だ。


「グギャ!?」

「グブッ!」


 氷針(アイスニードル)に貫かれた魔物たちは一斉に動かなくなる。


「騎士にはあたってないよな?」


 動かなくなった魔物たち。

 しかし、騎士たちも微動だにしない。

 氷針なら人に当たっても急所じゃなければ死にはしないから大丈夫とは思うけど。

 まさか運悪く魔物を貫通した氷針が急所に……?


「とにかく救助しないと!」


 一時的にできた魔物の空白地帯。

 そこに再び魔物たちが押し寄せる前に騎士たちを回収しないと今度は押しつぶされてしまうだろう。

 そうなったら不器用な俺では彼らを助けるのが困難になってしまう。

 俺は慌てて騎士たちの元へ降り立つと声を掛ける。


「大丈夫ですか!」


 声をかけながら騎士の上に乗っていたゴブリンの死体を蹴り飛ばす。


「あ、ああ。これは君が? 君は一体?」


 騎士は体を起こし、兜の隙間から俺の方を見つめてくるが今は問答をしている時間はない。


「そんなのは後です! 離脱しますよ、立てますか?」

「……、すまない。足を痛めたようだ」


 騎士はフルフェイスの兜を左右に振る。

 一瞬の間の後、覚悟の籠もった声で俺に自分は捨て置けというのだった。

 一つの依頼とともに。


「私はいい。だが、部下はどうにか助けてやってほしい」

「私はいいって、ここで死ぬつもりですか」

「報酬だ、受け取ってくれ」


 俺の問には答えず胸元から取り出した革の袋。

 その中には何枚かの硬貨が入っているようだった。

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