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第二十八話 兄の帰還

「なんだ、獣臭いと思えば獣人がいるじゃないか」


 伯爵の執務室に向かう途中、玄関に差し掛かったところで失礼な言葉を投げつけられる。

 この館でそんなことをいう人間に心当たりがないとそちらを見てみれば、どこか伯爵に似た青年がこちらを睨みつけていた。


 旅装であろうマントを羽織った彼らは、先ほど話しに出ていた兄とそのお仲間といったところか。

 若様はもとより、そのお仲間も整った顔立ちに仕立てのいい服。

 そして今の時代基準では多めの魔力を保有しているようだった。


「久しぶりに帰ってきたと思えば、いつから当家は畜舎に変わったのだ?」

「ヤハシラ様、言葉がすぎるかと……」

「はっ、父上の食客の奴隷だったか? まったく、父上も物好きなものだ」


侍女が苦言を呈するがどこ吹く風。

 それどころか伯爵を少しバカにするような雰囲気すらある。


 しかし優しくておおらかな人物だったんじゃなかったっけ?

 あれか、妹相手に擦り切れてこうなっちゃったのかな。

 青年は神経質そうな痩せた顔で、嫌味な笑いをこちらへ向けてくる。


「はじめまして若様。私は瓜生 透です。先程までアヤセ様の教師を務めさせていただいておりました」

「そうか。私はマツ家長男のマツ・ド・ヤハシラ。近い内にマツ・ド・シモサの名を継ぐ者だ」


 なにか言われる前に挨拶だけしてさっさと退散しよう。

 そう思っていたのだが……。


「そちらの獣人どもは不肖の妹の友人だったか? 妹に殺されないように注意しろよ?」

 

 随分と煽ってくれる。

 証拠はないとはいえ、こいつが手を回したのは火を見るより明らか。

 だというのにぬけぬけと良くも言えたものだ。

 知らなければなんのことかと思っただろうが、俺たちは知ってしまった。


「なんやてっ!?」

「っ!」

「……」


 一瞬頭に血が上りそうになったが、タマモたちの方が先に怒ってくれたおかげで落ち着けた。


「三人共落ち着け。若様、彼女たちは私が守りますから大丈夫ですよ。ご心配いただきありがとうございます」

「ふん、貴殿は随分物分りがいいようだな? 望むなら私に仕えさせてやってもいいぞ」

「お言葉感謝します。ですが私はこれより旅に出る予定ですので」

「ほぅ? 殊勝な心がけだな?」


 妹に取り入って伯爵家を乗っ取ろうとしていたのではないのか。と言外ににおわせてくる。 

 そんなつもりはまったくないし、そんな振る舞いをしていた記憶もない。

 彼にもたらされた彼の手先からの報告が少し気になるな。


「これから伯爵へ挨拶に伺う予定でしたしね」

「ふむ、であるならば同道するがいい。私もこれから父上へ帰還の挨拶をするところだったからな」

「お供いたします」


 はぁ、めんどくさい。

 さらっと挨拶してとっとと街を離れたかったのだけど。

 どうもそういうわけには行かなさそうだ。



「父上、只今帰還いたしました」

「うむ、よく無事で帰ってきた」


 俺たちは執務室の大きな机をはさみ伯爵と向き合う。

 逆光になっているせいで伯爵の表情はよく見えないが、いつもと違う様子なのは何となくわかった。


 ここ数年、若様は王都へ留学していたらしい。

 そこでより高度な教育を受け、他の貴族と縁を作り、多くの経験を詰んできたようだった。


「手土産がありますので、まずはお収めください」


 若様が自信ありそうな声でそういうと、横に控えていた従士が台車を押して前に出てくる。

 白い布が取り払われると灰色がかった四角い長方形の箱が現れた。


「これは?」

「私がダンジョンで入手してきた古代魔導文明の遺産(アーティファクト)です」


 彼が伯爵へ献上したもの。

 それは、俺が伯爵へのお土産としたものと同じ冷蔵庫だった。


 ダブった!?

 俺は心の中で冷や汗をかく。


 いやダブリはまだいい。

 だが、彼が自慢気に開陳した冷蔵庫は俺の渡した冷蔵庫の半分程度の大きさ。

 性能も推して知るべし。


 あまり騒がれたくなかったので、こっそりと渡したことが仇になったか。

 彼の『お友だち』が知るところになかったのが災いした。

 もしバレたら顔が潰れるというレベルではない。


「ほぅ、これは凄いな。よく頑張ったな」

「……、あまり驚かれないのですね?」

「ああ、瓜生殿からつい先日同じものを頂いていたのでな」

「なっ!?」


 伯爵ぅ……、そこは空気読んでほしかったよぉ?

 息子さん顔真っ赤にしているじゃないですかぁ。


「ぐ、う゛……、ごほん。そうでしたか、それは残念でした」

「いや、複数あって困るものではない。それに古代魔導文明の遺産を入手出来るほどの力を得たのだ、父として誇りに思う」

「ありがとうございます……」


 えーっと、息子さんさっきからこちらに殺気をガンガンに飛ばしてるんですが……。

 というか伯爵、わかっててわざとやってますよね?

 何が狙いだこのおっさん。


「時に、私も、そして私の仲間たちも強くなりました。食客殿は凄腕の魔導士と聞く。試合をしてみないか?」

「……いえ、ヤハシラ様には遠く及ばないかと」


 試合っていってるけど、意味合い的には死合だよね?

 あ、殺すのは禁止ですかそうですか。

 でもまぁうっかり手が滑ってとかはあってもおかしくないよね、わかります。


「謙遜するな。カリワの英雄殿の話は私にも入っている」

「私としても、息子の成長をみてみたい。悪いが協力していただけないか?」

「私たちは五人、貴殿らは妹を含めて五人。五対五で丁度いいな」


 そしてさらっとアヤセも巻き込まれてるし。

 この試合でまとめてケリをつけようという考えか。

 流石に俺や小太郎たちを殺すとは思えないが……。


 というかアヤセとは先程揉めたばかりでちょっと会いづらいんだけど。

 しかしそんな理由は通らないだろうな。

 心の中でため息を吐き、俺は承諾を返した。


「……、仕方ないですね。承りました」

「英雄殿の胸をお借りするよ」


 はは……。

 俺の胸をソードラック代わりにするつもりですか?

 笑えねぇ。


「それでは支度をして来る。一時間後に中庭で始めよう」

「……、わかりました」


 というかアヤセはまだ瘴気が抜けきっていない。

 今無理に魔法を使うと自然治癒は難しくなってしまう。


 仕方ない、アヤセには手番が回らないようにするしかないな。

 俺は戦う順番を考えながら中庭に向かった。



「チェストオオオオオオ!!」


 試合開始と同時に騎士は、その手に持つ長剣を紅く輝かせナナオへと振り下ろした。

 剣の軌道は、そして速さは彼女を確実に仕留めるため、殺意の籠もったも。

 ご丁寧に武器への魔法付与のおまけ付きだ。


 これが普通のDランク冒険者なら気がついた時には体が真っ二つになっていただろう。

 だが、騎士の攻撃は掠ることすらかなわない。

 スルリと脇を抜けたナナオは、騎士が地面にめり込んだ剣を引き抜こうとしている間に後頭部へ一撃を入れた。


 ドシャリ


 騎士は倒れ込みそのまま動かなくなるが、短剣の柄で殴っただけだし殺してはいないはずだ。

 ……、殺してないよね?

 ピクリとも動かない姿を見ると少し不安になってしまう。


「……。はっ! 先鋒、ナナオ殿の勝利!」


 呆然としていた審判役の騎士がナナオの勝利を告げる。

 歓声は沸かない。

 当然だ。

 中庭の観客は伯爵とミサトさん、それに若様の仲間と思わしき従士や侍女しかいないのだから。


「なっ!? トキワ殿が一撃だと!?」

「あ、ありえない! 相手は獣人だぞ!?」

「一瞬翠に輝いていた気がしたが、魔法を使えるのか!?」


 歓声の代わりに上がるのはざわめき。

 どうやら先鋒はかなりの実力者だったようだ。


「次鋒、前へ! はじめっ!」


 審判が震える声で次の試合の開始を告げる。


「ほないきまっせ」

「来い!」


 次鋒の騎士はナナオの戦いを見た後だからか、突っ込んでいこうとはしない。

 慎重に身体強化魔法などを重ねがけし、待ち受ける構えを取っていた。


 だが、タマモはゆらりと動いたかと思うと翠の燐光をその場に残し騎士の足元へ突貫。

 金属で覆われた脚をタマモの華奢な脚が蹴り飛ばす。


「がっ!?」

「兄さん、降参してや」


 そしてひっくり返った騎士へ、タマモは紅く輝く短剣を突きつけた。


「ま、参った!」


 騎士は両手を上げて降伏する。


 少しは粘らないのかと思わないでもないが、これはあくまで試合。

 若様たちの様子を見るに、本気で殺そうと考えているのは若様と先鋒の騎士の二名だけだったようだし。

 他のお仲間は無理をしてケガをする必要はないと考えているのかもしれない。


「次鋒、タマモ殿の勝利!」


 中堅の小太郎もシールドバッシュの一撃で騎士を吹き飛ばし、これで俺たちが三勝。

 勝利が確定した。


 ちらりとアヤセの様子を見るが、俯いたたま一言も発しない。

 体調も悪いだろうし、早くベッドに戻らしてあげたいものだ。


「副将、前へ!」

「え?」


 終わったと思っていたが、俺に前へ出るように審判から声がかかる。

 どういうことだ?


「この試合は若様の成長を見るもの。ならば全員が戦うのは当然だろう?」

「なるほど……」


 審判もグルということか。

 試合には負けたが、せめてアヤセだけはということなのだろう。


 こうなるならわざと負けたほうが良かったか?

 いや、先に三敗していても同じことだったか。

 くそ、無理矢理でも試合を断っておけば……。


「始め!」

「ツエアアアアア!!」

「防御障壁、身体強化」


 俺はアヤセが回復する時間を少しでも稼ぐためにひたすらに逃げに回ることにした。


「がはっ、はっ、はっ……。降参、だ……」

「ふ、副将、ウリュウ殿の勝利!」


 一時間ほど避けていただろうか?

 騎士は膝を付き、剣を手放した。

 アヤセに比べると随分と根性のないことだ。


「凄まじい攻防でしたね……」

「ああ、ムツミ殿の連撃と合間に打ち込む魔法もすごかったが……。ウリュウ殿は一体何者なのだ?」


 ひたすら逃げていただけなのに謎の高評価。

 騎士たちの価値観がよくわからない。

 罵声を浴びさせられてもおかしくないと思っていたんだけどな。


「主将、前へ!」


 そんな俺の逡巡をよそに、無常にも審判が次の試合の開始を告げるのだった。

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