第二十四話 教育的指導
「ご主人様、やりすぎ」
「すまん」
だけど、あれ以外彼女を止められる方法が思いつかなかった。
新人の非常勤の教師にそこまで求められても困るというものだ。
「まぁ、どうにかなるだろ」
というか既にやらかした後だし、どうにかするしか無い。
小太郎たちに叱られながら俺はトボトボと丘を下っていくのだった。
翌朝、小太郎たちを連れて領館を訪れると、鎧姿のアヤセが俺を出迎えてくれた。
その脇には諦めた顔をしたミサトさんが佇んでいる。
「おはようなのじゃ、お師匠様!」
「あ、ああ、おはようございます」
昨日までと打って変わって愛想よく挨拶されるがどうも座りが悪い。
お前誰だよと思わずツッコミたくなったがなんとか飲み込んだ。
「姫様、はしたのうございます」
「何をいう、自らの師を迎えるのに礼を尽くすのは当然であろう」
「そうかも知れませんが……」
「さ、このようなところで足を止めさせて悪かったの。早速、指導をお願いするぞ!」
ミサトさんの苦言を無視するとアヤセは俺の手を取り、外へと向かおうとする。
だが、俺はそれを止めた。
「む? 行かぬのか?」
「ええ。姫様にはまず魔法の知識を学んでもらいます」
ついでに小太郎たちも教えれば一石二鳥だ。
「知識?」
「ええ。魔法とは技術です。魔力で無理やり行使することも可能ですが、なぜそうなるのかを理解すれば、効率的に高精度で行使できるようになります」
「ふむ? しかしそのようなことは初めて聞いたぞ? 妾は魔法とは魔力を体内の魔力回路を通して顕現させるものと教わってきたのじゃが」
「そのあたりも含めて教えますから」
不思議そうな顔をされたが、さもありなん。
ミトさんや他の冒険者の人にも聞いてみたが、どうやら魔法の発動方法が俺の時代に比べ大きく変わっていたのだ。
少ない魔力量で魔法を習得するためにそういう手段になったんだろうけど、、それだと応用が効かないし体への負担も大きい。
カンダツ村のウルガさんも、タマモたちも少し魔法を使っただけでフラフラになってたし。
「ミサトさん、勉強できるような場所ありますか?」
「はい、当家の書庫に机などがありますのでそちらでしたら可能かと」
お、それじゃ指導の合間に本を読ませてもらおうかな。
それなら一石二鳥どころか一石三鳥だ。
「それじゃ、勉強を始めましょうか」
昨日のうちに準備しておいたプランを頭の中で思い出しながら俺たちは書庫へと向かった。
「ですから、姫様たちが使われている魔法は原始魔法ともいえるもので」
「ううむ……」
「よって電気というものは、より抵抗の少ない方向へ向かうのです」
「ぐぬぬぬ……」
「炎とは現象であって」
「ZZZzzz……」
「起きなさい」
「はっ! ね、寝ておらぬ! 寝ておらぬぞ!」
「はいはい、わかってますよ」
「本当じゃ! 妾は嘘などついておらぬ! オウムが燃焼して熱運動がなくなるのじゃ!」
とりあえず言い訳は口元のよだれを拭いてからにしようか。
まぁ昨日かなりむちゃしてたし、疲れも残っているだろう。
今日の座学はこれくらいで終わりにした方が良さそうだ。
一緒に授業を聞いていた小太郎たちは既に魂が抜けているような表情を浮かべている。
今日はどこまでやれるか確認したかったから無理をしたけど、あまり詰め込みすぎて苦手意識を持たれても困る。
明日からはもう少し軽くやろう。
「さて。最初にもお伝えしましたが、今日の話は完全に覚える必要はありません」
「む? しかしそれでは意味がないのではないかの?」
「一回で覚えるのは無理がありますから。とりあえず『こういう概念がある』程度で今のところは覚えておいてください」
彼女は頭が柔らかく飲み込みが早いが、それでも今まで知らなかった概念をいきなり理解しろっていうのは酷だ。
焦らず座学と実技を反復して摺合せをしていこう。
「もういい時間ですし一度休憩にしましょう。午後からは実技に移ります」
「おお、それはいいの! 楽しみじゃ」
たぶん彼女が期待しているような実技ではないだろうが、それを今言うのは野暮というものだろう。
俺も鬼じゃない。
現実を見るのはお昼ご飯を美味しく食べてからで十分だ。
「むぐぐ……」
「きっつ……」
「難しいです……」
「がんばる……」
俺は全員に向かって同じ勢い魔力を放出し続けている。
そして彼女たちは拮抗するよう、同様に俺に向かって魔力を放出している。
「姫様。魔力が乱れてますよ。もっと細く、収束するようにしてください」
「わぷっ!?」
注意をするも更に制御が乱れてしまい、俺の魔力が彼女の額を軽く叩く。
デコピン程度の威力だけど、繰り返し叩かれた彼女のおでこは既に真っ赤になっていた。
「それではもう一度。いけますか?」
「が、頑張るのじゃ……。それとすまぬが魔力がそろそろ心もとなくなってきたのじゃ」
「ご主人、うちもそろそろ頼むわ……」
「わ、私もできれば……」
「私も」
「ほいほい」
魔力制御の練習には一番効率がいいとはいえ、このつまらない訓練をみんなよく愚痴一つこぼさずにやれるものだ。
今までの教え子のことを考えると、少し感心してしまう。
「魔力譲渡」
「んぅっ……」
「んっ……、この感覚癖になるわ」
「ご主人様に満たされてる感じで落ち着きます……」
「気持ちいい」
白い輝きが俺から彼女たちへ注がれる。
普通は自分の魔力を使い切ったら訓練は終了だが、彼女たちの魔力量程度ならいくらでも回復させられる。
つまり無限に訓練ができるってことだ。
やったね! アヤセちゃんっ!
「さて、それじゃ続きやりますよ。明日からは俺相手じゃなくてお互いにやってもらいますからそのつもりで」
「う、うむ、頼む」
「ばっちこーい!」
「はいっ!」
「やるの」
そのまま訓練は日が暮れるまで続いた。
「姫様、そろそろ訓練を終わりにしてはいかがでしょうか」
ミサトさんがアヤセへタオルを差し出してくる。
気がつけば太陽は山陰に落ち、周囲は暗くなってきていた。
「夕食の支度も間もなく終わるかと思います」
「む、もうそんな時間か」
途中休憩を挟んだとはいえ、少しやりすぎてしまったかもしれない。
本人たちの引くほどの熱意に流され、つい言われるがまま訓練を続けたが反省だな。
明日からは夕方までには終わらせるようにしよう。
「お師匠様、今日は海の魚が入ったと聞いておる。楽しみにししておるのじゃ!」
「え?」
荷物をまとめて帰ろうとしていた俺に予想外の声がかかる。
貴族の食卓には少し興味があるけど……。
「え? あ……、もしや迷惑じゃったか……?」
アヤセは不安そうに首を傾ける。
迷惑というか、貴人が獣人を食卓に招くというのはあまりないと聞く。
逆に迷惑をかける話にならないか心配なのだ。
「そんなことはないですけど、小太郎たちも一緒ですよ?」
「なんじゃそんなことか。巷では獣人が半分魔物などという流言が飛び交っておるらしいが、バカバカしい」
アヤセは肩をすくめながら首を振る。
今までの様子を見てわかっていたことではあるが、彼女には獣人への偏見はないようだ。
「仮に魔物であっても妾の同輩であれば問題ない。そうじゃろ? ミサト」
「はい、それに小太郎様たちはCランクの冒険者でもありますから」
「それでしたら遠慮なくご相伴預からせていいただきます」
俺が答えると花が咲いたように笑って喜ばれた。
ご飯を御馳走されるだけというのにこうも喜ばれると少し申し訳ない気がしてくる。
「貴族様の食卓かいな!」
「楽しみだね、お姉ちゃん」
「海の魚、初めて食べるかも」
「期待しておくのじゃ!」
お礼というわけではないけど、明日からも教育頑張らないとな。
楽しそうにはしゃぐ皆を眺めながら、俺は心に誓うのだった。




