第二十一話 三十六計
「それでご主人はこれからどうするつもりなん?」
「んー、そうだなぁ」
食事を終えて部屋に入ると早速タマモが聞いてきた。
やはり気になるよな。
ナナオと小太郎も口にはしないが気にしている素振りだったし。
「気が向いたら、ついでに程度での対応かな?」
「そなん?」
「それよりも、知りたいことあるし」
実家の方がどうなったか、やっぱり気になるんだよね。
西日本どころか周辺の街以外の情報がほとんど入手できていない現状だと、まずはそこの確認からだ。
千年前の話だし、今更焦るつもりもないけどさ。
その途中で絡むことがあったら対処する程度で行こうと思う。
「まぁご主人がそれでええっていうんやったらええんやろな」
「なんだよ、含みのある言い方だな」
「お姉ちゃん、ご主人様に失礼ですよ」
「ご主人様はどうせ巻き込まれる」
小太郎、ご主人様はその反応はないと思うのです。
という冗談はともかく、そんな気は俺もしている。
運命というか、ストーリーラインというか。
そんな拘束力を感じてしまうのだ。
「まぁ気にしてても仕方ないし、なるようになるさ」
とりあえず次は領都マツに向かって、伯爵家の書庫を閲覧させてもらわないと。
伯爵家の蔵書となると珍しいものがきっとあるはずだ。
せっかくカシワ男爵から紹介状をもらったんだし、無駄にするのもあれだしね。
「ほんなら馬車買うん?」
「え? 馬車?」
「うちら、獣人は駅馬車とか乗れんで」
……。
そうか、俺一人なら空を飛んでいけばいいけど彼女たちを連れてとなると厳しいものがある。
飛竜の背中に乗っていくのはまた騒ぎが起きそうだし。
「えーっと、馬車の操縦、できる人いる?」
「「「……」」」
当然のごとく全員が沈黙する。
ですよねー。
うん、どうしよう。
馬っぽいゴーレム作るか?
いや、俺の造形センスは絶望的だ。
創造系の魔法は完全に詠唱しても、なんか変になるレベルで。
騎士団で馬車を借りる?
いや、ミトさんとハヅキさんがついてくるか。
「どうすっかな……」
「マツでしたらそこまで遠くないですし、歩いていくことも出来ますけど……」
「とりあえずは徒歩で行くか」
「あら、ハヅキは連れて行かないのかい?」
「えーっと、なんのことでしょうか?」
「まぁ、そういうことなら仕方がないけどねぇ……」
「うむ! 頑張ってこい! 応援しているぞ、そして二度と帰ってくるなよ!」
翌朝、ハヅキさんの両親に見送られ俺たちは城塞都市カリワを後にした。
親父さんの心底嬉しそうな笑顔が少しだけイラッとくる。
ま、いいんだけどさ。
「タマモ、ナナオ重くないか?」
「平気やでー」
「これくらいは持っておかないと、不自然ですから」
「私は?」
「小太郎は力持ちだろう……」
大きな荷物を担いだ少女三人に手ぶらの男一人。
今の時代では普通みたいだが、どうにも落ち着かないな。
街が見えない所まで来たら次元収納へ格納しよう。
歩き始めて一時間程度経っただろうか。
魔物の襲撃があったばかりということもあり、ほとんど人通りのない街道の真ん中に一台の立派な箱馬車が止まっているのが遠くに見えた。
馬車の周囲には数名の倒れた騎士たちと、一〇人以上の粗末な革鎧を身にまとう者たち。
山賊か何かの襲撃だろうか。
「そっと脇を抜けるか?」
気づかれる前なら不可視化の魔法をかければ大丈夫だろうし。
こっちは子連れだし、襲われている者たちには申し訳ないがあまり面倒事に関わりたくはない。
「もう気づかれとると思うで」
「はい、複数の視線を感じます」
「結構距離あると思うんだけど……」
警戒していたのか。
当然といえば当然だが、このまま踵を返しても追撃されるだろうな。
「やるしかないか」
「任せて」
「うっし! ご主人にいいとこ見せたるで!」
「あ、待ってよお姉ちゃん!!」
俺の言葉に呼応して、三人が馬車へと向かって走り出した。
そして少し離れたところで爆発的に加速し、あっという間に馬車へと到着した彼女たちは革鎧の男たちを一瞬で制圧したのだった。
今の、身体強化魔法か?
いつの間に使えるようになったのか。
アーティファクトのおかげかな?
「助けにまいりました。ご無事ですか?」
「助けるのが遅いのじゃ!」
一言声をかけてから馬車の扉を開けると開口一番罵声が飛んでくる。
口元をへの字に曲げ、きつい眦で馬車から俺を見下ろしてきたのは、のじゃロリだった。
違った、貴族のお嬢様だった。
彼女は襲われたばかりというのに特に怯えた様子もなく、不満げなため息を吐き首を振る。
濃い朱の長い髪が揺れ、紺色を基調としたドレス。
「姫様、助けてくださった方にそのような言い方はないかと……」
「妾に指図するでない!」
「しかし……」
側付きの侍女がたしなめるが、聞く耳を持たずと行った様子。
これは早いところお暇させてもらいたいな。
タマモとナナオが双剣をシャキーンシャキーンし始めてるし……。
「まったく、どうしてこんなことに……。それもこれも突如現れたとかいう魔導士が悪いのじゃ」
「はぁ……」
「どうして妾が名誉魔導士爵ごときの婚約者にあてがわられねばならぬのじゃ!」
「姫様、かの御仁はカリワを包囲した魔物を一層した英雄でございますれば……」
「その話は何度も聞いた! もしカリワが落とされておれば領都マツに魔物の大群が押し寄せて来ておったというのじゃろう?」
……。
ぱーどぅん?
それって俺のことだよな?
聞いてないんですけど。
ミトさんやハヅキさんならともかく、こんな幼女を婚約者とか勘弁してもらいたい。
「では私どもはこれにて失礼いたします」
言い争いを続ける二人からそっと距離を取り軽くお辞儀をする。
三十六計逃げるに如かず。
俺はさっさと立ち去ることにした。
「待ちください!!」
のだが、侍女さんに呼び止められてしまう。
聞こえなかったふりをして逃げ出したかったが、彼女の豊満な胸部装甲に目が行ってしまい思わず足を止めてしまった。
「見ての通り護衛が皆討たれてしまいました。申し訳ないのですがご同行いただけないでしょうか」
「いや、先を急いでおりますので……」
「姫様の無礼はお詫び申し上げます! カリワに着けばお礼もさせていただきますのでどうか!」
俺の手を取り自らの胸元に押し付けての上目遣い。
グラっと来てしまう。
タマモたちの視線がなければそのまま首を縦に振っているところだ。
「手、離してもらえますか?」
なんとかそれだけを伝えるが彼女はイヤイヤと首を振って手を話してくれない。
たゆんとした幸せな感触が俺の理性を侵食してくる。
「姫様からもお願いしてください!」
「なぜ妾が……」
「護衛もなしに街道を行くなど、自殺行為です! 死にたいのですか!?」
「あぁ、もう、仕方ないの……。冒険者ども、妾は領主マツ・ド・シモサが娘。マツ・ド・アヤセじゃ。カリワまで妾の護衛をすることを許す」
感謝せよと続ける彼女のおかげで理性を取り戻した。
ああ、ほんと助かったよ。
「では先を急ぎますので」
「ま、待ってください! わ、わかりました! でしたら領都までで構いませんので!!」
えぇ……。
「あなた方もそちらに向かうのでしょう? ついで、ついで構いませんから!」
大した距離じゃないし、一度言葉をかわしてしまえば見捨てるのも気が引ける。
必死で拝み倒してくる侍女さんに負け、俺は彼女たちに同行し領都へと向かうことになるのだった。
「ご主人様、やはり胸が好きなのでしょうか……」
「違うよ!?」
違わないけど違う!
違うったら違うんだ!




