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第二十話 待ち人、来たらず

「ようこそ来訪者さん」


 俺が部屋に一歩踏み出すと同時にモニターに表示されていた画面が全て切り替わり、一人の老人が表示された。

 眼前の白骨死体の来ているものと同じ黒いスーツ、紅いストライプの入ったネクタイを締めた彼は笑顔でこちらを見つめてくる。


「驚いたかな? ああ、そこにある死体は僕のものだよ。 最後をどうするか迷ったけど、僕の好きなネットゲームで友人が言ってた言葉を思い出してね」


 『死ぬなら笑わせれ』

 その言葉に従って最後を選んだらしい。

 ネトゲとリアル混同すんなよ……。


「こういう最後にしたわけなんだけど。少しは笑ってくれたら嬉しいな」


 ブラック過ぎて笑えないよ!?

 というかドッキリとかって掛けられた本人じゃなくて周りが笑うものだし!


 俺は思わず口元が引きつってしまう。

 あ、これも一応笑いに入るのか?

 なら大成功だね。

 ってんなわけあるか!


「さて、僕が死んで何年経ったかはわからないけど、この映像を撮影しているのは西暦二一八〇年の四月だ。例の災害から一六〇年も経ってしまったよ」


 俺がツッコミを入れている間にも彼は言葉を続けていく。


「もう、みんな死んでしまった。守るべき対象はみんな」


 ボディーガードの僕が最後まで生き残ることになるなんて、皮肉がきいていると思わないか?

 苦笑いを浮かべながら肩をすくめる彼は、タバコに火をつけながらこちらを見つめてくる。

 その瞳には何も写っておらず、深い悲しみが宿っているような気がした。


「それで、君がこのシェルターにやってきた理由はわからないが、君が僕の、僕たちの思いを少しでも引き継いでくれればと切に願う」


 彼いわく、人間の手による魔物の製造と従属化。

 これらの技術の実証試験中に何らかのトラブルが発生、それが引き金となり後に天の火と呼ばれる災害が発生したらしい。


「もっとも、製造できる魔物は非常に弱いものだったけどね。君が入り口で倒してきた魔物も、それによるものさ」


 彼の願いは、その技術の完全破壊。

 そして、二度と同じ悲劇が繰り返されないように後世に伝えて欲しいというものだった。


「本当は僕が直接対応したかったが……、災害の影響で入り口が完全封鎖されちゃってね」


 外からしか扉を開けることができなくなったそうだ。

 シェルターなので非常に強力な材質で作られており、彼らでは壁を壊すことも転移することも出来ず詰んでしまったらしい。


「せめて魔物の従属化装置か外部スピーカーがあれば来訪者に呼びかけることもできたんだけど、あいにくこのシェルターには試作段階の製造装置があるだけでね」


 そして扉の前に製造した魔物にカードをもたせたが、誰も入り口の端末に気が付かなかったらしい。

 まぁそりゃそうだよな。

 端末は苔で覆われてる上に、そういった技術は消失している。

 カードをそこに当てるって発想はなかなか出ないだろう。


「ああ、エントランスの出入り口はもう開いているはずだ。驚かせてごめんね。だけど、どうしてもここまで来てもらう必要があったんだ。わかってくれ」


 なるほどな。

 シェルターの入り口が開くと同時に退路を塞がれたのはこういう事情だったのか。

 入り口までの通路がダンジョンになっていて魔物が居るのも、人を集めるためだったのだろう。


「お詫びと言ってはなんだが、このシェルター内にあるものは君にあげるよ。有意義に使ってほしい」


 もう誰も使う人は居ないしね。

 そう言って彼は寂しそうに笑った。


 えーっと。

 ここまで聞いていてなんだが、やるとは一言もいってないんですが。


「だがきっと君はそんな義理はないなんて考えているだろう。だが、本当にそうかな? もしこの技術を悪用する人間が出てくれば、多くの人が不幸になるだろう。そして再び災害が起きれば、今度は本当に人類は滅亡してしまうかもしれない」


 その言葉にハッとなる。

 包囲された城塞都市。

 何故か統率の取れた魔物たち。

 そして城下に現れた知らない魔物。

 まさか……。


「さて、その技術の場所だが、セキュリティーの関係で全国各地に散らばっている。研究施設の地図もあるが、災害のせいで地形が変わっているらしいから留意してくれ」

「……」


 おいおい、そんなこと聞かされたら放置できないじゃないか。

 しかし、入り口が固く閉じられてるんじゃどうしようもなくないか?


「当然、君には特別な力を与えるよ。そこの棚に入っているから持っていってくれ」

「特別な力……」


 中学生でもあるまいし、そんなものに期待はしない。

 期待はしないが、少しロマンを感じるのは男なら仕方がないのではないだろうか。


「なお、この映像は五秒後に消滅する」

「は?」

「グッドラック」


 いい笑顔で親指を立てた爺さんの画像が最後に表示され、ブラックアウトした。

 慌てて周囲に障壁を張ったが何も起こらない。


「あれ……?」


 気がつけばモニターは元の監視画面に戻っていた。


「……」

「ご、ご主人……?」

「今のは一体……」

「意味がわからない」


 うん、俺も意味わからない。

 いや、たぶんお約束ってやつなんだろうけど、そこは爆発じゃないのだろうか?

 流石にそこまでは出来なかったのかな。

 科学者とかじゃなくてボディーガードって言ってたし。


「とりあえず、棚の中身確認するか」


 棚の中には一つの箱が鎮座していた。

 あの爺さんのことだ、なにか仕込んでいるに違いない。

 恐る恐る開いてみたが何も起きない。


「杞憂だったかな?」


 そっと覗き込むと、箱の中には朽ちたバネの残骸と人形だったモノが入っていた。

 びっくり箱としては、爺さんと同じく死んでいたのだった。


 少しだけしんみりとしてしまう。

 彼は、本当に長い間ここで一人で待っていたのだろう。

 誰も訪れることのない、この寂しい空間で。

 そう思えば、家族や友人の痕跡探しのついでなら手伝ってやってもいいかもしれない。


「カードが無事でよかったと思うべきか」


 箱の奥底に残されたカードを取り出し光にかざすとキラキラと金色に輝いた。

 おそらくオリハルコンで作られているのだろう。


「手紙も朽ちてるか」


 何に使えばいいのか、動画内で説明しておいてほしかった。

 というか研究所とかの地図は?


「手がかりなしで探せと……?」


 思わず魔力が溢れ出るが、それにカードが反応した。

 情報が俺の脳内へ直接流れ込んでくる。


「ぐっ……」

「ご主人様!?」


 思わず膝をついた俺に三人が心配そうに声をかけてくる。


「大丈夫、ちょっとくらっときただけだから……」


 だけどいいたい。

 爺! もうちょいちゃんと説明しろや!

 と。


「とりあえず、研究所や装置の隠し場所の大まかな場所はわかった。それにこのカードの使い方も」


 積層型多重魔法陣の刻まれたオリハルコン製のカード。

 全国に分割された研究データは、こいつを使えば回収できるようだ。

 たしかに特別といえば特別だけど、なんだかなぁ。


 頭の整理をするついでに彼女たちに説明すると三人とも目を丸くして驚いていた。


「オリハルコンて、神金のことやろ!?」

「伝説の金属、ですか……?」

「オリハルコンも凄いけど、それに魔法陣を重ねて刻むのも凄い」


 あ、そっち?

 今の世界だとオリハルコンはかなり珍しいのかな。

 俺にとっては確かに高価だが伝説っていうほどじゃない認識だったんだけど。

 それこそ結婚指輪に使われたりする程度で。


「はー、これがそうなんか、眼福やわ。……それで、ご主人は世界を守るために旅にでるっちゅーことなん?」

「ご主人様、格好いいです……」


 二人が目を輝かせるが、俺は英雄願望とか無いんだよね。

 できるだけ危険からは遠ざかりたい、平和にやっていきたいんだ。

 ただ、死者からの伝言となると、あまり軽んじるのもどうかと思ってしまう。


「落ち着いて、そんなことご主人様に関係ない。危ないだけ」


 まぁそうなんだけどさ。

 あくまでついで、気が向いたら程度でやる分にはいいだろう。


「まぁ、とりあえず宿に帰ろうか。疲れたよ」

「そう、ですね……」

「そやな、いわれたらガクッと来るわ」

「ん」



「ご主人、行かんの?」

「どうされました?」

「気になること、ある?」


 シェルターの入り口。

 最奥の間。

 足を止め、開かれた『開かずの扉』を振り向いた俺にタマモたちが怪訝そうな声をかけてくる。


「ちょっと待っててくれ」


 俺は認証端末にセキュリティーカードをあて、扉を再び閉めた。


「よかったん?」

「開いて報告すれば、功績になる」

「ご主人様?」

「いや……、ここは彼らの墓標だからさ」


 墓荒らしのマネごとしておいてなんだが、それでも不特定多数の冒険者が踏み入るのは気がとがめた。

 偽善とは思うが、それでも。


「さ、行こうか。今日はご馳走にしよう」

「ほんまかっ!」

「嬉しいです……」

「楽しみ」


 魔石はともかく魔道具とかは騎士団に持ち込んだ方がいいだろうな。

 そんなことを思いながら俺たちはダンジョンを後にした。


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