第十九話 残された一人
「やっぱ出れそうにないね」
「進むしか無い」
「私は、ご主人様についていくだけです」
「まぁそれしか無いわな」
食後、来た道を調べてみたがやはり開かずの間からは戻れないようになっているようだ。
誘い込まれたみたいで少し憂鬱だ。
まさかこんなことになるなんて、迂闊すぎる。
次からは気をつけよう。
……、次があればだけど。
「ふむ……」
開かずの扉の中も、ヒカリゴケは生えており薄暗い道が続いていた。
しかしここまでの道中とは明らかな違いがある。
「道が綺麗」
小太郎のいうとおり、綺麗なのだ。
タイルのようなもので舗装された地面。
壁はコンクリートの打ちっぱなし。
自然にできたものではない。
「注意しましょう……」
「せやな、明らか雰囲気違うし」
先程中から現れた大狼の存在も気になる。
ここから先は特に注意して進むとしよう。
「変なゴーレムやなぁ」
入ってすぐに現れた敵を倒したタマモが首を傾げながらつぶやく。
倒れた敵は、ところどころ火花をちらしながらひっくり返っていた。
倒れた敵を見下ろしながら考える。
白を基調とした円筒状の筐体に半円状の頭部。
筐体中央部から伸びるアームが持つ棒状のスタンガン。
こいつはおそらくゴーレムじゃなくて警備用ロボットだ。
街の様子を見る限り、錬金術は魔法より衰退しているようだった。
魔石をエネルギー供給源としたランプや扇風機、ストーブ程度の魔道具しか見当たらなかったし。
おそらく『天の火』の際に失われたのだろうが、今目の前にはその残滓があるのだ。
「もしかしたら、ここはシェルターだったのか……?」
「しぇるたぁですか?」
千年前、天の火により一夜にして文明は崩壊した。
神話にはそんな事が書いてあったと思ったが、本当に一夜で文明が崩壊するなんてありえない。
ただ崩壊するのを甘受するわけがない。
対抗するために何かしらの手段を講じたはずだ。
もしそうだとしたら……。
「ああ、ともかく先に進んでみよう。なにかわかるかもしれない」
千年前。
一体何があったのか。
ここでなら詳しいことがわかるかもしれないのだ。
俺は逸る気持ちを抑えながら先を急いだ。
整然とした通路。
通路の両脇に並ぶ扉の数々。
それらは俺の持つカードでは開かなかった。
だが時折鍵のかかっていない扉があり、その中には過去、誰かが生活していたような痕跡があったのだ。
もっとも、書籍や家具等は経年劣化でかなり朽ちており、触れるだけで崩れてしまったが。
「けほっけほっ。ご主人様、何かありました」
「ん? ああ、冷蔵庫か」
それでも一部の魔道具等は劣化することなく、ホコリを被っているだけで済んでいた。
申し訳ないと思いつつも、俺はそれらを回収し次元収納へ放り込んでいく。
「うーん、パソコンとかは無しか……」
あれば何かわかるかもしれないと思ったが、そう甘くはないらしい。
「もう何もなさそう」
「そうだな。次に行くか」
探索中に見つけた大きめの倉庫内には、多くの道具が残されていた。
そのどれもがハイブランド品のハイエンドモデルだ。
「お宝ザックザクやなぁ」
タマモが腕輪をなでながらニヤニヤと笑う。
彼女の手にしている腕輪、それはアーティファクトと呼ばれるものだ。
それらはダンジョンから産出されるアイテムの中では最上級のもの。
「これでうちも魔導士っちゅーわけや?」
「まぁ、そうなるかな?」
魔導デバイスなしでも既に魔法が使えているというのはいわないでおこう。
「私が、魔導士様ですか……」
ナナオも、タマモとおそろいのアーティファクトを撫でながら感慨深そうにしていた。
「えーっと、おめでとう?」
「ありがとうございます……。これからも誠心誠意、粉骨砕身でお仕えしますね」
ナナオが目を輝かせながら俺へと忠誠を誓う。
しかしそこまでいわれると重いんですけど。
「ま、まぁ、ほどほどにね?」
「はいっ!!」
好きにしていいんだけどなぁ。
前にそういったら悲しそうに捨てないでくれっていわれたからいえないけど。
しかし、介護用の魔道具がこれだけたくさんあるというのはあまりいいこととは思えない。
それだけこのシェルターに逃げ込んだ人間たちが弱っていたという傍証になってしまう。
もっとも腕輪に印字されたマークは俺でも知っているブランドのものだったから、相当な金持ちの爺さんが逃げ込んでいた可能性もあるけど。
「ん? これはなんやろ?」
「お、農業用の魔道具だね。置いとくだけで周囲の土壌を改善してくれるやつ」
「これはなんでしょうか……?」
「カメラだね。今の姿を後で見たりすることが出来る魔道具だよ」
あとで記念撮影するのもありかなとカメラを次元収納に格納しながらふと思う。
……、泥棒と変わんないよな、これ。
ゲームなんかで主人公が壺割ったりタンス漁ったりするのよく見るけど、彼らは罪悪感を覚えなかったのだろうか。
そんな益体もないことを考えながら俺は次々と次元収納へ魔道具を格納していった。
シェルター内部には人間が生活していく飢えで必要なものすべてがあった。
運動場では指導用のものと思わしきロボットが今日のトレーニングメニューを提案してきたし、シアターではかなり古い映画から割と新しい映画まで揃っていた。
食堂では世界各地のあらゆる料理が提供可能となっており、畑ではたわわに実った作物をロボットが収穫していた。
トマトを一つかじってみたが、今の野性味の強い物ではなく、人の好みに合わせて改良されたもののようだ。
もう口にする人間は居ないだろうし、遠慮なくもらっていくとしよう。
「ひっ……!」
「お墓?」
「骨ばっかりやな……」
そして、当然死体安置所等もあるわけで。
部屋の数と同じくらいの白骨が、石で作られたベッドに並んでいた。
「ここの住人だったんだろうな」
その数およそ四十体。
どのくらい前に最後の住人が亡くなったかわからないが、埋葬したほうがいいのだろうか?
それともこのシェルター自体を墓標と見るべきか。
何も知らない俺が手を加えるのはまずいかな。
手を合わせて冥福を祈ると俺たちはその部屋を後にした。
「……」
中央制御室とでもいえばいいのだろうか。
壁一面にモニターが設置されており、中央のメインモニターにはこのシェルターの全体図が。
周辺のサブモニターには監視カメラからの映像が表示されており、各画面ではロボットがそれぞれの仕事をしている風景が映し出されていた。
その部屋で、俺は最後まで生き残っていたと思わしき人物と対面した。
モニターを背にし、椅子に腰を掛けてこちらを見つめてくる彼の眼窩は何も映さず、ただ虚しい沈黙が室内を支配する。
彼は、何を思ってここで最後を迎えたのだろうか。
たった一人、残されて。
「ご主人様……」
「ん、ああ。大丈夫」
ナナオに袖を引かれて我に返る。
彼には申し訳ないが、早速情報収集をさせてもらうとしよう。




