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第十八話 開かずの扉

「んー……」


 初めてダンジョンアタックの後も、何度もダンジョンに潜り既にカリワ周辺のダンジョンは回りきっていた。

 どのダンジョンも、最奥の間にある『開かずの扉』に阻まれ地下二階から三階程度までしか入れなかった。


「ご主人、どしたん?」

「いや……」


 そしてダンジョンの最奥、開かずの扉の前に現れるハイオークを倒しても、これまで大した収穫はなかった。

 一応ハイオークをアイテムもいくつか手に入れたが、どれも使いみちのないガラクタばかり。

 履いたら中に水が滲み出る靴なんて、何に使えというのか。


「このカード、何かあるの?」

「うーん、何かあるというかなんというか」


 俺が手に持っている一枚のカード。

 小太郎たちから見れば謎の模様が書かれた、ただのカードにしか見えないだろう。

 ハイオークが落としたアイテムとしてはハズレもハズレ、ゴミとしか思えないはず。

 だが、俺にはこのカードに書かれた模様、いや、文字に見覚えがあったのだ。


「SecurityCard、ねぇ」


 開かずの扉。

 もしかしたらこれで開けることが出来るのではないだろうか。


「せきゅりてぃかぁど、ですか……?」

「ああ、悪いけどもうちょっと付き合ってくれ。試したいことがあるんだ」

「えー、うちもう疲れたんやけど」


 もうすぐ帰ろうかというところではあったが、どうしても気になる。

 俺は渋るタマモたちを説得し、開かずの扉の前に立った。


「これでよしっと」


 古ぼけた扉の脇にある不自然に飛び出た小さな四角い突起。

 知らない者から見れば、苔に覆われたそれが何かなど検討もつかないだろう。

 だが、俺は知っている。

 これは、入館用の端末だ。

 苔を落としてみれば、表面にはCardと書かれた文字。

 まず間違いない。


「鬼が出るか蛇が出るか」


 俺は恐る恐る、端末へとカードをかざした。


 ピンポーン。


 間抜けな音がホール内に響き、そして、ゆっくりと左右へと開いていく。


「んな!?」

「これは……?」

「ご主人様下がって。タマモ、ナナオ、警戒」


 急激に尻尾を膨らますタマモとナナオに小太郎が指示を出す。


 三人が俺を囲むように移動した頃、ムワッとした、質量をもった空気が扉から溢れ出てきた。


「何なんやこれは……」

「ちょっとばかし魔素が濃いみたいだね」


 ダンジョン内は元々魔素が濃かったが、ここから先はさらに濃い。

 つまり、より強力な魔物が潜んでいる可能性がある。

 大丈夫とは思うけど、この先は彼女たちを連れて行かないほうがいいかな?


「よっし、んじゃ見るものは見たし、今日は帰ろっか」

「ご主人様……、無理、みたいです……」

「え?」


 俺は肩をすくめて戻ろうと三人に声を掛けたが、耳をぺたりと倒したナナオが首を振る。


「後ろ、閉まっとるで……」

「閉じ込めれた」


 ……。

 え?

 そんなのってあるのか?

 入口を開けたら退路が塞がれるとか、ちょっとおかしくないか?


「ご主人様、敵。タマモ、ナナオ、戦闘準備」

「ははっ……。こりゃ、やばいかもなぁ……」

「ご主人様は、死なせません……」


 混乱する俺をよそ目に、俺を守るように三人が門へと一歩踏み出る。

 そのまま小太郎は盾を、タマモとナナオは双短剣を構えた。


 そのまま数秒。

 大地を揺るがす振動とともに、そいつは現れた。


「狼……?」

「ナナオ! しっかりし! こない巨大な狼なんかおらへん!」

「大狼の魔物」


 全身を覆う闇に溶けるような漆黒の体毛。

 腕ほどありそうな鋭い牙と爪。

 炎のような紅い瞳。

 人間の二倍以上はある巨大な狼が扉の奥より歩み出てきたのだ。


「ええやん、こちとら獣人。半魔やで。人間様と魔物の融合体や! その力、見せたるわ!」

「ご主人様の前で、みっともない姿は見せられません……」

「二人とも、その意気」


 威勢のいいことを言ってはいるものの、タマモとナナオは耳をぺたりと倒し、尻尾を低く下げたままだ。

 やはり、怖いのだろう。

 今まで相手をしていたゴブリンやハイオークと破格が違う。


「来る」


 小太郎の言葉と同時に大狼が駆け出した。


「GURAAAAAA!!!」


 白い爪が、牙が、彼女たちへと襲いかかる。

 無慈悲な一撃が彼女たちの柔肌を切り裂き。

 血飛沫が舞う。

 そんな光景を一瞬幻視した。


「うわっとぉ!」

「っ……!」

「甘い」


 だが現実はタマモとナナオを襲った爪は空を切り、小太郎を襲った牙は弾かれる。


「いけるか!?」

「これならっ……!」

「余裕」


 金と銀の閃光が走るたび、大狼に一つ、また一つと傷が現れていく。

 やばそうなら介入しようかと思っていたが必要はなさそうだ。

 持つ武器の刃渡りが短いため傷口は浅いものの、確実に大狼は削られていく。


「GYUAAAAA!!」


 大狼も反撃しようと暴れるが、その牙も爪も小太郎に抑え込まれタマモたちを捉えることはかなわない。

 その隙きに後ろ脚が落とされ、(はらわた)が切り裂かれる。


「GYULAAAAAA!!!」


 たまらず大狼が悲鳴を上げるが、小太郎のシールドバッシュで壁へと縫い付けられた。


「今」

「お姉ちゃん!」

「わかっとる!!」

「「力の根源、我が牙を満たせ! 下位武器付与レッサー・エンチャントウェポン!」」


 タマモとナナオの詠唱に合わせて、二人が持つ双剣が紅い輝きを纏う。

 その刃は空中に燐光を残し、小太郎に抑え込まれていた大狼の首へと突き刺さった。


「「開放リリース!」」


 開放された魔力が大狼の首の肉をえぐり取る。

 そして数瞬。

 瞳から光が消えた大狼は、床へと沈んだ。


 ……。

 えーっと、なんかおかしくないか?

 小太郎は元が飛竜だしまだわかる。

 だけどタマモとナナオはただの獣人の少女だぞ?

 俺、彼女たちに魔法を教えてなんかいなかったんだけど……。


「ご主人様、やりました!」

「うちらの活躍、見とったか!?」

「ぶいっ」


 衝撃におののく俺を知ってか知らずか、彼女たちは嬉しそうにこちらへ駆け寄ってくる。


「お、お疲れ様。さっきのあれ、自分の魔力を武器にのせたのか? すごいな」

「えへへ……、褒められちゃいました……」

「せやろ? せやろ? 先輩とこっそり練習してたかいがあったわ」

「ん。教育」


 ナナオとタマモは嬉しそうに耳をピコピコとを動かしながらはにかむ。

 小太郎も表情では分かりづらいが少し誇らしげだ。


「しっかし、威力はすごいけど一発でヘロヘロや」

「もっと、がんばらないと……」


 それにしても彼女たちにとって、それはかなりハードルが高かったはず。

 それを一ヶ月かそこらで身につけたのか。

 すごいな。

 彼女たちには才能があったということなのだろうか?


「ご主人がいつも掛けてくれてる防御膜とかいう魔法あるやろ?」

「おかげで魔力っていわれてもピンとこなかったんですけど、最近わかるようになってきたんです」


 あー、つまりあれか。

 魔力が少ないから練習出来ない。

 練習できないから感覚がつかめず魔法が使えない。

 だけど俺がずっと魔法をかけ続けてたから、感覚がつかめてきたと。


 しかし魔導デバイスなしでか。

 いくら最低レベルの強化魔法とはいってもな。

 バレると少しめんどくさいことになりそうだ。


「みんな、人前では使わないようにね?」

「はい、私の力はすべてご主人様のものですから」

「ナナオ、ちゃうって。めんどくさいことになりかねん、そういうことやろ?」

「タマモのいう通りだ。誘拐とかされても困るからね」


 力をつけることは悪くないけど、中途半端な力は身を滅ぼしかねない。


「わかりました」

「あいよー」

「ん」


 頷く彼女たちに満足し、俺は次元収納から椅子やテーブルといった休憩セットを取り出した。

 本当は帰りがけに川辺でと思ってたけど、たまにはダンジョン内でというのも悪くないだろう。

 結界を張ってれば安全だし。


「ん? ここで休憩するん?」

「ああ、大狼倒したら後ろの扉開くかと思ったけど開かないし」


 帰り道を探すにしても前進するにしても腹ごしらえをしてからだ。

 それに少し考えをまとめる時間がほしい。

 魔法を使って消耗した彼女たちに魔力を譲渡する必要もある。


「今日は照り焼きチキンバーがーだぞ」

「照り焼き! うちの大好物やん!」

「それはよかった」


 水は魔法で出せるが食料はそこまで持って来ていない。

 無事に脱出できるといいんだけどな……。

 俺は不安を顔に出さないように気をつけながらハンバーガーにかじりついた。

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