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第十七話 インターセプト

「……えっと、どうしてここに?」

「い、いや。その……、そうだ。夕食をしようと店に入ったらたまたまウリュウ様を見かけまして」

「は、はぁ……」


 ミトさんが長い髪をいじりながら目を泳がせる。

 ランプの光を浴びた金色の髪は美しく、その動きに合わせて思わず首を縦に振りそうになるがいくらなんでもその言い訳は苦しすぎる。

 もう少し気の利いた言い訳は出来なかったのだろうか。


「ウリュウ様を探してたんですよっ!」


 ハヅキさんにチラリと視線を送ると、全く飾らない笑顔の回答があった。

 愕然とした表情を浮かべるミトさんが少し可哀想だ。


「ひどいじゃないですか、婚約者をずっと放置するなんて!」


 ミトさんたちの登場で静まり返っていた店内がその一言でざわつき始める。

 固まっていた冒険者たちも動き出し、そそくさと逃げていくのが視界の片隅に写った。


「誰が婚約者ですか。その話はお断りしたはずですよ?」

「あ、美味しそう。私たちも同席していいですよね? 店員さーん。椅子二つ追加お願いします! あ、なにか言いました?」

「……」


 この人、ほんとマイペースだよなぁ……。

 そこが魅力でもあるんだろうけど。


「ちょ、ちょっとハヅキ!?」

「いいじゃないですか。未来の旦那様なんですから」


 我に返ったミトさんがハヅキさんを止めようとするがハヅキさんの言葉でミトさんは再びフリーズする。


「旦那様……」


 いや、そこで嬉しそうにモジモジと指を絡ませないでくださいよ。

 綺麗な人にこういう仕草をされると少し心が揺らいでしまう。

 というか、カリワ男爵の前ではそんな雰囲気なかったのに一体何があったのか。


「ご主人様……」

「料理冷める」

「やっぱ胸か! 胸がええんか! うちらだってあと数年で大きくなるで!」


 ナナオたちが三者三様の不満を表明する。

 特にナナオの悲しそうな視線は俺を十分冷静にさせてくれたのだった。

 そしてタマモ、いい子だから少し黙って?


「あ、ああ、そうだな。とりあえずご一緒しましょうか? ごちそうしますよ」

「ご相伴、預かります……」

「やったー! 私ステーキで!」

「ハヅキ! 少しは遠慮というものをだな!」


 ミトさんが苦い顔をしてハヅキさんをたしなめる。

 俺も多少思うところはあるが、今日は懐も暖かい。

 別にいいだろう。


「まぁまぁ、ミトさん。食事は大勢で食べたほうが美味しいですから」

「ウリュウ様……。お気遣いありがとうございます」

「さぁ、冷める前に食べましょう」


 追加された椅子に二人が座り、夕食は開始された。

 しかし食事中にも鎧を着ているのはしんどくないのだろうか?



「店員さんー、焼酎ダブルで!」

「……、私も同じものを」


 ……。

 騎士というのはそういうものなのだろうか?

 二人はかなりのハイペースで器を空にしていく。


「ご主人様はよろしいのですか?」

「んー、俺は今日はいいかな」


 今はお酒って気分じゃないし、何となく嫌な予感がするから控えておくことにする。

 料理も美味しいし、ナナオたちが美味しそうに食べる姿を見るだけで満足なんだよね。


「ほら、俺の世話はいいからナナオも食べて」

「あ、はい。いただきます……」


 ナナオは気がつけば食事の手を止め、そのやせ細った手で俺の世話を焼こうとしてくる。

 そんな気を使わなくてもいいのにな。

 それよりしっかりご飯を食べて、健康的な体になってほしい。


「なぁなぁご主人。うちも飲んでみてええか?」

「……、お酒は二十歳からな」


 タマモは気がつけばアル中になってそうな気がしてならない。

 気をつけるとしよう。


「えー、あと八年もあるやん! 成人したらでええやろ?」


 成人は十五歳だったっけ?

 それだとまだ早いと思う。

 郷に入っては郷に従えとはいうけど、体に悪いのはちょっとね。


「あ、満年齢でな?」

「なん、やと……」


 今は匂いだけで勘弁したるわ……。

 恨めしそうな声で呟きながらタマモはフォークで肉を持ち上げ、かぶりつくのだった。



「ふー、ウリュウ様、私少し飲みすぎちゃいました……」

「わ、私もちょっと足元が……」


 桃色に染まった頬、艶っぽい瞳で美女にそんなことをいわれれば思わずお持ち帰りしたくなる。

 カリワ男爵からも彼女たちを好きにする権利はもらってるわけで。

 据え膳食わぬは男の恥ともいうし……。


「そないか。ご主人、騎士団まではうちらが送っていくわ」

「はい、お任せください……」

「タマモ、ナナオ、お願い」


 だが、うちの鉄壁トリオに膳は手を伸ばす前に下げられてしまう。

 うう。

 いや、これでいいんだけどさ。

 俺も男だ、どうしても後ろ髪を引かれてしまう。


「ご主人様、私たちがいる」

「ソウデスネ……」


 絶壁トリオじゃなぁ。

 この高ぶり、どう処理するか……。


「えっ!? ちょっと待って!?」

「あなたたち! どうして!?」


 タマモとナナオ。

 二人の華奢な少女が鎧を着込んだ騎士を軽く肩に担ぎ、そして軽やかなステップで店外へと走っていく。

 補助魔法ありとはいえ、流石はハイブリッター。

 そんなことを呟きながら、今夜は街に繰り出すかと俺は考えるのだった。



 暗闇に浮かび上がる金色の瞳。


「ここは、通さない」

「くっ……!」


 その瞳には強い意志が浮かんでいた。

 そして小太郎の左右を静かに、しかし隙なく固めるタマモとナナオ。


「ご主人、諦めや」

「申し訳ありません、ご主人様……」


 タマモは勝ち誇ったように、ナナオは少し気まずそうにそれぞれの意思を主張する。


 くそ、どうしてこうなった?

 完璧な計画だったはずだ。


 今日はみんな疲れ切っていた。

 タマモとナナオに至っては食後に騎士(重量物)を担いでランニングまでこなしている。


 さり気なく小太郎を先にベッドに入らせ、寝静まるのを待った。

 三人が寝息を立てるのを確認し、そっとベッドから抜け出したというのに。


「どうして、どうしてわかったぁ!?」

「そんなんいわれてもなぁ」

「あの、私、がんばりますから……」

「ご主人様、わかりやすい」


 くっ……!

 バレバレだったというのか?

 寝息は演技、しかしベッドにいる小太郎は……、幻影!?


「夜は、寝る時間」

「そ、そんな……」


 夜はまだまだこれから。

 そうじゃないのかよ。


「俺の、俺のケモミミ美女が……」

「ご主人、うちらやったら好きにしてええんやで?」

「わざわざ、危ないところに行く必要はないと思います……」


 二人はピコピコとその可愛らしい耳を動かすが、俺はロリコンじゃない。

 君たちでは圧倒的に胸部装甲が足りてないんだよ。

 あと五年もすればわからないが、少なくとも今の君達たちでは(おっぱい)不足なんだ……。


「気持ちだけもらっとく……」

「ご主人様」


 うなだれた俺の手を、そっと小太郎が握ってくる。


「往生際、悪い」

「く……」


 手印で発動させようとした幻影の魔法もあっさりと妨害されてしまった。

 そのまま腕を引かれ、俺はベッドへと押し込められるのだった。

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