第十六話 ダンジョンと冒険者
「これがダンジョン……」
翌日、俺たち四人はそれぞれ装備を着込んでダンジョンに降り立った。
眼前に広がる岩、というかコンクリートで出来たような四角い通路を前に俺たちは立ち尽くす。
かなり風化しているせいで、ぱっと見では分かり辛いが人為的に作られたように見える。
ヒカリゴケという発光する植物のおかげで通路は薄暗いものの行動に支障はなさそうだ。
「ナナオ、お姉ちゃんの後ろについときや」
「ううん、私も頑張る……!」
「そ、そないか?」
「やる気十分」
タマモとナナオは短双剣装備の火力役。
小太郎は盾に短剣を装備した盾役だ。
全員、騎士団から借りた革鎧をしっかりと着込んでいるのだが……。
「コスプレにしか見えないな」
本人たちは本気なのだが、いかんせん全員幼すぎることもあり、お遊戯会のようにしか見えないのだ。
ましてや敵はゴブリンとホブゴブリン。
いや、今の世の中だと強敵なんだっけ?
一応防御膜と身体強化魔法重ねがけしておくか。
「すごい……! 身体が、軽いです! これが祝福の力なんですね!」
「ゴブリンが一撃やなんてなぁ」
獣人は元々のスペックが普通の人間より高い。
補助魔法をかければ爆発的にその性能は引き上がる。
今の彼女たちは重力という枷を外されたかのごとく、通路を縦横無尽に飛び回っていた。
「えいっ」
時折二人の隙間を抜けてくるゴブリンは小太郎がシールドバッシュで吹き飛ばす。
……、いや、盾のシミになってたわ。
どんな威力だ。
それにしても、補助魔法の範囲を広めにして装備ごと守っていてよかった。
タマモとナナオの短剣もそうだけど、小太郎が持つ盾もそこまで質のいいものではなさそうだし。
今の勢いで振り回してたら、たぶん何匹か倒したところで装備破損となっていただろう。
完全にやりすぎになってるんだよな。
ダンジョンに慣れたら注意することにしよう。
「タマモ、ナナオ、その先罠あるから一回下がって」
「ご主人、よく分かるなぁ」
「わかりました……」
「あ、次の曲がり角左で」
「わかった」
モンスターハウスを見つけては殲滅し、ゴブリンが仕掛けたと思わしき低レベルのトラップを見つけては踏み潰す。
コレジャナイ感がひどいが、タマモたちに怪我をさせるわけには行かない。
安全第一で俺たちは順調にダンジョンを攻略していった。
「ふー、お疲れ様」
ダンジョンから外に出ると、まだ太陽は少し傾き始めたところだった。
だが思いの外疲労感がある。
はじめてのダンジョンということで少し緊張していたのだろう。
「魔石だけやけど、量が洒落にならんなぁ。もってきたリュック、パンパンやん」
「大戦果」
嬉しそうな声を上げながら、タマモは小太郎が背中に担いでいるリュックに魔石を放り込む。
次元収納に格納すれば楽だけど、血に濡れた魔石を入れるのは抵抗あるんだよね。
それに空間魔法は珍しいみたいだし、今更だけど目立ちすぎている気がするし。
「半日もしないでこんなに……。ご主人様、すごいです……」
探知魔法で魔物の多い場所を調べながらだったとはいえ、かなりの成果ではないだろうか。
それにダンジョン内は魔素が濃く地上の魔物に比べて魔物が強い分、魔石の質が良いらしいからな。
買取価格はそれなりに期待できるはずだ。
「アイテムが出なかったのが少し残念」
「まぁ、一番浅い層だし、今日のところは様子見だから」
本当にゴブリンしかいなかったからなぁ。
ホブゴブリンは二層以降じゃないと出ないって話だし。
こんなもんでしょ。
「さ、今日は初ダンジョンのお祝いだ。豪華にやろう」
「ご主人様、節約」
「たまにはいいんちゃう? うちは肉が食べたいわ」
「お魚……、いえ、ご主人様におまかせします……」
おーけーおーけー。
んじゃ肉と魚、両方行こう。
今日だけで千五百円以上の稼ぎにはなってるし、節約といっても何か欲しいものがあるわけでもない。
路銀を貯めなけきゃではあるけど、たまには外食も悪くないだろう。
急ぐ必要もない、のんびりやるさ。
まずは宿に帰って着替えないとな。
流石に革鎧を着込んだまま、Gを処理したままで食事は気持ちが悪いし。
それにまだ夕食にはだいぶ早いからね。
白身魚のあんかけ、ステーキ、それから炊き込みご飯。
和洋中、統一性のないメニューが次々と木で作られた大きめのテーブルに並んでいく。
料理から立ち上がる湯気、ランプの光を受けて輝く料理たち。
空腹ということもあり、思わずツバを飲み込んだ。
しかし各自好きなものを頼むようにはいったが、もう少し統一感があっても良かったのではなかろうか。
店員さんにチップを渡しながら思案するが、俺の左右で鏡写しのように目を輝かせるタマモとナナオ。
そして正面に座った小太郎の無表情ながらも料理に釘付けになっている姿を見ればそれを口にするのは憚られた。
「美味そうやなぁ!」
「タマモ、ご主人様が先」
「先輩、わかっとりますって。ご主人、早く食べてや!」
「お姉ちゃん……、はぁ。ご主人様、お取りします。どれがよろしいですか?」
立地は裏路地だし店構えも少しボロかったが、受付のおばちゃんおすすめの店なだけはありどの料理も美味しそうだ。
お値段も高いメニューから手頃なメニューまで幅広く取り扱っており、そしてメニューと同じく客層も幅広いらしい。
「おぅ、兄ちゃん景気良さそうだな。俺たちにもおすそ分けしてくれよ」
声のした方を見てみれば、ボサボサ頭に無精ひげ、洗浄魔法なんて縁のないような不潔な男たちが腕を組んで立っていた。
皮の鎧に腰に吊るした剣、彼らも冒険者なのだろう。
「かー、獣臭いと思ったら獣人が居るじゃねぇか」
「おい兄ちゃん、半魔を店に連れ込んだんだ。迷惑料ってやつが必要だと思わないか? な?」
「それに幸せってやつは人間同士で分け合うもんだぜ? 魔物なんぞ、残飯で十分だろ?」
こんな連中まで居るのだから。
一応俺たち全員の冒険者カードはテーブルの見える場所においてるんだがな。
入店は断られなかったが、他の客の対応は別問題ってことか。
しかしわざわざ店の一番奥のテーブルまで文句をつけにやってくるとは。
「見てわからへん? うちら冒険者なんやけど?」
「おい半魔。生意気に人間様の言葉使ってんじゃねえぞ。それもこんな綺麗な服着るなんざ千年早えんだよ!」
タマモがテーブルの上の冒険者カードを指差すが、男たちは関係ないとばかりにタマモに掴みかかろうとしてきた。
「ぐあっ!?」
「兄貴!?」
だが、やつの伸ばした手の指はタマモに触れる前にあらぬ方向を向く。
薄暗い店内だと障壁って見づらいからね。
そこに向かって無防備に指を突き出せばさもありなんだ。
「おい! 兄貴に何しやがった!!」
「何って、魔法だけど?」
穏便に済まそうと思ったが気が変わった。
俺に絡むのだけならともかく仲間に手を出そうとするのは許せない。
その汚い手でうちの子たちに触るんじゃない。
というか臭いから近寄らないでくれる?
そんな思い込めて俺は男たちを睨みつけた。
「ま、魔法だと!?」
「嘘をつけ! Fランクごときが魔法なんて使えるわけがないだろうが!」
「ついでに俺は貴族だ。嘘だと思うなら騎士団なりカリワ男爵なりにでも聞いてみるがいい」
「き、貴族!?」
「ハッタリだ! 貴族を騙るのは重罪だぞ!」
「そ、そうだ! 通報してやる! 覚悟しろよ!!」
そういって男たちがいきりたったその時だった。
「ぜはっ、ぜはっ……。ウリュウ様、ここにおられましたか」
「ハァッ、ハァッ。隊長、苦しい……」
「あれ? ミトさん? ハヅキさん?」
扉を勢いよく開き、二人の騎士が店内に入ってきたのだった。




