第十五話 冒険者組合
「冒険者カードはおもちですか?」
「冒険者カードですか? いえ、持っていません」
某ポイントカードの確認をする如く、ダンジョンの入口の受付のお姉さんから確認される。
「それでしたら先に冒険者組合にいって、冒険者登録をされたほうがいいかもしれません」
「冒険者登録、ですか?」
まるでゲームのようだ。
都市内に入るための身分証明書等になるのだろうか。
「詳しくは冒険者組合でお聞きください」
「あ、はい」
説明してもらおうと思ったが、そこまで親切ではないようだ。
一応冒険者組合の場所だけは教えてもらえたので、俺たちは街へと引き返すのだった。
空を見上げれば俺たちの気持ちを表すような曇天。
昨日までの暖かさが嘘のような冷たい風が吹きすさぶ。
「これ、今日中にダンジョンに入るのは無理だな」
頑張れば行けないこともないのだろうが、少しモチベーションが下がってしまった。
「もう、お昼前ですしね……」
「まぁええやん」
「そういう日も、ある」
誰も下調べしていないのはちょっとアウトな気がしたが、あまり深く考えても仕方がない。
今日のところは冒険者登録を済まして、情報収集までとしておこう。
「ここが、冒険者組合か」
「存外質素な建物」
小太郎のいう通り、冒険者組合はちょっとした商店程度の大きさでゲームみたいにバーなどが併設されているということはなかった。
建物内には冒険者向けの依頼等を貼り付けるためのボード、そして受付台のみ。
受付には四十代程度のおばちゃんが座っており、編み物をしているのだった。
「あのー、冒険者登録をお願いしたいのですが」
「あん? ああ、新人の冒険者希望者かい? やめときな。無駄に死ぬだけさ」
声をかけてみたものの、こちらをちらりとも向かずにおばちゃんは編み物を続ける。
お客様は神様とはいうつもりはないが、流石にこの態度はないのではなかろうか。
「失礼ですよ……!」
「せやな、せめてこっち見て話ししぃな」
「はぁ、あんたらみたいな食い詰めたガキがちょくちょくやってくるがね。すぐに居なくなっちまうんだよ。……え?」
不満の声を上げるナナオとタマモに、ようやくおばちゃんがこっちに顔を向けてくれた。
そしてじっとこちらを見据えてくる。
「……、もしかしてお貴族様かい?」
「はい、一応そうなります」
「そうかい、失礼したよ。浅学な平民のいうことだ、大目に見ておくれ」
「いえ、昨日貴族になったばかりですし、お気になさらず」
バツの悪そうな表情を浮かべるおばちゃんに、俺は苦笑いを返す。
昨日なったばかりで貴族がどうのといわれても困ってしまうんだよな。
「へぇ……、するってーとあれかい? ちょっと前の魔物の軍勢を追い払い、城内に現れた騎士団でもかなわない巨大魔物を簡単に捻り潰した英雄ってのはあんたのことなのかい?」
「えーっと、たぶんそうかと」
英雄なんていわれるとこそばゆい。
それに黒巨人は捻り潰したわけでもなければ簡単に倒せたわけでもない。
否定しようかと思ったが、ちらりと後ろを見れば三人が自慢気に浮かべた笑みが見えた。
……、まぁめんどくさいから適当に流しておこう。
「とりあえず冒険者登録と説明をお願いしたいのですが」
「あ、ああ、そうだね。ちょっと待っておくれ」
ざっくり説明すると、冒険者登録をしておけばその実績が公式に記録されるらしい。
そして実績がある程度貯まるとランクアップし、Bランク以上になれば冒険爵という爵位が与えられることがあるそうだ。
また、Dランク以上であれば身分証明書としても使用でき、Cランク以上であれば入市税が本人に限り無料になるのだとか。
「もちろん、犯罪なんかをすれば冒険者カードは没収となっちまうけどね」
「なるほど」
うーん、既に貴族の俺にはあまり魅力がないように思える。
貴族は入市税はかからないし、その同行者も不要だ。
それにたぶんこれ、一定以上力を持つ人間を体制側が把握するためのシステムだよね。
冒険者カードを見せてもらったが、隠蔽魔法付きの簡易の追跡機能みたいな魔法がかけられているみたいだし。
「獣人でも、冒険者登録をすればそれなりの立場が与えられるよ」
「そうなんですか?」
「ああ。普通、獣人は宿屋には泊まれないだろう? だけどね、冒険者カードを持っていれば大体の宿屋に泊まれるようになるのさ」
「え?」
「他にも、レストランなんかにも入れるようになるね。貴族に叙せられたって話は聞かないけど、従士にならないかとかお声がけはあるみたいだよ」
えー。
ヒイラギ亭には普通に泊まれたけど……。
あれか、騎士団からの紹介でハヅキさんの知り合いだったからなのかな?
でもよかった。
知らなかったら今後トラブルを起こすところだったよ。
しかしそうなると、メリットもあるわけか。
全員Cランク以上になれば、俺が居なくても街に出入りするのがタダになるし。
その他、冒険者依頼と呼ばれる依頼をまとめてくれているそうだ。
大まかな難易度も設定してくれており、安心設計というわけだ。
しかも対価は先に冒険者組合が依頼主から預かっているのでとりっぱぐれもないと。
「そのかわり、依頼料の三割を天引きするけどね」
「まぁ妥当でしょうね」
「ほぅ、貴族様は鷹揚だね。ゴネる奴が多いっていうのにさ」
うーん、確かにそうかも?
三割っていうと大きいし。
でも、依頼内容の精査と依頼料の確実な取得をしてくれるのであれば悪くないと思うんだ。
その他にも魔石の買い取りや魔物の素材の買い取りもしてくれるみたいだし。
「それじゃ登録でいいね?」
「あ、はい」
「んじゃあんたは貴族様だから百円、後ろの奴隷たちは千円だよ」
……。
高くね?
俺たちは払えるけど、一般人が払うには少々ハードルが高い気がする。
「これは保証料みたいなものだからね、諦めな」
一瞬の戸惑いを感じたのか、おばちゃんが苦笑を浮かべる。
払えないとは思っていないようだが、やはり一般人感覚でも高いのだろう。
この金が払えなくて冒険者を諦める者も多いのかもしれない。
「いえ、問題ありません。それでは金貨三枚に銀貨一〇枚、三千百円ですね」
小太郎から革袋を受け取り、貨幣を取り出しカウンターに置く。
それと同時におばちゃんはカウント用のケースに貨幣を差し込んでいった。
「はいよ、確かに。それにしても暗算、それもこんなに早くできるなんて、あんた本当に昨日貴族になったばかりなのかい?」
「あはは……」
おばちゃんが出してきた冒険者カードを受け取って眺める。
四人とも揃って灰色がかかった金属のカードだ。
「最初はGランクからのスタートだよ。まずは魔石を一〇個持ってくるんだ」
Fランクへの昇格条件は魔石一〇個の納品らしい。
この魔石は質が悪かったり割れていてもいいんだとか。
まぁ最初だからね、そんなものだろう。
俺たちは冒険者組合を後にした。




