幕間三 妹の奴隷
胸が悪くなるシーンがあります。
読み飛ばし推奨です。
神様はいた。
痛みと空腹の絶望の中、私は神様に出会ったのだ。
私たちを罵る言葉と合わせて石礫が飛んでくる。
お姉ちゃんが私の上に覆いかぶさり、守ってくれているけど、それでも石は当たる。
「大丈夫、大丈夫やから……」
「で、でも……、ギャン!?」
痛い、痛いよ……。
でも、お姉ちゃんが頑張ってるんだ。
私も、頑張らないと。
……、でも、なんのために?
今日、なんとか乗り切れても、明日も同じような日がやってくる。
人間様の腹いせに、痛い目に、ひどい目に合わされる日が続くだけ。
こんな人生、嫌だ。
何度思ったかわからない。
なんで私たちが、こんな目に合わなければならないのか。
半分魔物の獣人だから?
でも、そんな理由でなんて納得できない。
私たちは何も悪いことなんてしていないのに。
神様、どうか助けてよ。
お願いだから……。
「調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
「ガッ……」
お姉ちゃんのうめき声がしたかと思うと、ポタリポタリと頭上に何かが滴ってくる。
鉄、血の匂い。
お姉ちゃんの血だ。
ああ、今日まで生きてこれたけど、とうとう私たち死んじゃうのかな。
でも、そうすればもうこの苦しみが続くことはない。
死んでしまえば、楽に、なれる。
……。
…………。
………………。
死にたく、無い。
死にたくなんか無いよ。
私、まだ生きていたい。
お腹いっぱい食べてみたい。
ちゃんとした服を着てみたい。
恋だって、してみたいのに!
神様、神様。
もし居るのなら、私たちを、助けてよ!!
痛みに歯を食いしばりながら私は祈る。
「何をしているんだ!?」
その祈りが通じたのか。
誰かの声がするとともに投石が止まった。
「あ、あんたも投げるか? 石礫一個一円だよ」
「投げるって、あの子たちにか?」
「ああ、俺の奴隷だからな。遠慮なく石を投げてくれ」
「あの子達がなに悪いことでもかしたのか?」
声の主と、私たちの所有者が何かを話している。
前の所有者はよかった。
ご飯はあまりくれなかったし冬は寒さに凍えたが、それでもこんな目には合うことはなかったのに。
「こいつらは魔物だからな。周囲の村々で虐殺を行い、少し前までこの街を取り囲んでいた魔物なんだ。わかるだろ? 存在自体が罪なんだよ、こいつらは」
だからその腹いせに、みんなお金を払って私たちに石を投げつける。
私たちは何もしていないのに。
ただ獣人、半魔だからと石を投げつける。
「魔物? 何いってるんだ?」
「兄ちゃん、よく見ろよ。獣人、半魔なんだよこいつらは!」
「獣の耳、いや、だけど魔物じゃないだろ?」
「あーもう、商売の邪魔だ。石を買わないなら帰ってくれ」
お姉ちゃんの腕の隙間から、私たちの所有者が男性に向かって向こうに行けと手を振るのが見える。
はは……。
やっぱり希望なんてなかったんだ。
神様なんて、いないんだ。
なんで、希望なんて持っちゃったんだろう。
どうせないのに。
裏切られるだけなのに。
私って、バカだな……。
「いくらだ」
「はぁ。さっきも言ったけど石なら一つ一円だよ」
「違うよ。その二人、俺が買う」
「買うって、あんたが? この奴隷を?」
「そうだよ。いくらだい?」
値段を聞く前に買うと言い切る。
それは相手の言い値で買うということだ。
傷だらけの、ボロボロの、いつ死ぬかわからない獣人の奴隷相手にいうことじゃない。
「……、ふぅん……?」
「なんだよ」
「いいえ、買ってくださるというのでしたら文句はありませんよ? そうですね。一人一万円。二人で二万円です」
一万円。
とんでもない値段だ。
それだけあればきっと立派な馬車だって買える。
奴隷商にいた頃、一番綺麗で可愛い、人間の奴隷でもそこまでしなかったはずだ。
私たち獣人奴隷の値段では決して無い。
「わかった、合わせて二万円だな? ほら」
「なっ!?」
「これでいいな?」
「ま、待て! 登録料がかかるんだよ! 奴隷の首輪が一つ五百円、二つ合わせて二千円だ!」
「ほー。一つ五百円なら二つで千円だろ?」
「い、いや、それは……」
「はぁ、二つで千五百円にしとけ。いいな?」
「あ、ああ、毎度あり……」
取引が終わったのか、二人が私たちのもとへとやってきた。
私たちの首元に手があてられると同時にお姉ちゃんが身を固くする。
「生命の源、その活力を取り戻せ、汝は汝のあるべき姿に。治癒」
「え……?」
青白い光が降り注いできたかと思うと、全身に感じていた痛みが引いていく。
光が引いたとき、さっきできたばかりの傷も、前からあった傷も、全て治っていた。
「大丈夫かい?」
奴隷の首輪の反応でわかる。
この人が新しいご主人様だ。
「えっと、まだ傷は痛むかな?」
そういって新しいご主人様は、優しく私たちに微笑んでくれたのだ。
きっと、この人なら私たちに乱暴しないと思える。
そんな安心感のある笑顔で。
「あんたが神様かいな」
「とんでもねぇ、あたしゃ神様だよ」
……。
お姉ちゃんの問に、新しいご主人様は自らを神と名乗った。
あはは、本当に、本当に神様はいたんだ。
でもなんでこんなところにいたんだろう?
その後もよくわからないことが続いた。
神様なのに、宿に泊まってる。
神様なのに、女の子にお説教されてる。
神様なのに、神様なのに……。
もしかして人間のふりをして何か大きな事をしようとしているのかな?
私たちにはわからないようなことを。
なら、私は黙っていよう。
知らないふりをしよう。
神様の迷惑にならないように。
私たちはご主人様の奴隷。
小太郎さんのいうように、ご主人様を信じて、全てを捧げれば、きっと幸せになれる。
人間様でも着れないような綺麗な服。
生まれて初めてはいた靴。
そして見たこともないような御馳走。
やっぱり神様は神様だ。
でも、ちょっと抜けているところがあるから心配になってしまう。
私ごときが神様の心配なんて、おこがましいかもしれないけれど。
その晩、お姉ちゃんと相談して夜伽の準備をしていたけれど。
結局ご主人様は来られなかった。
それだけが、少し心残りだ。
もしかして私たちの魅力が足りないのかもしれない。
ご主人様に求められるよう、頑張らないと。
やっと掴んだ幸せ。
絶対に、手放さない。
私は心に誓うのだった。




