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第十話 買い物をしよう。

「それにしても、通貨が円なのに紙幣じゃなくて全部硬貨なのな」


 俺は椅子に座り、ミトさんから渡された革袋を眺めながらつぶやく。

 ミトさん曰く千円硬貨は金、十円硬貨は銀、一円硬貨は銅でできているらしい。

 その下の銭貨は鉄なんだとか。

 ちなみにカンダツ村で手に入れた魔石は全部コミコミで一五〇〇円になった。

 高いのか安いのかよくわからないな。


「んじゃ、今からお前の服を買ってくるわ」


 騎士団から一度宿へと戻り小太郎の採寸を済ました俺は、すぐに買い物へと出かけようとしたが小太郎に引き止められてしまった。


「待って、私もついていく」


 いや無理だろ。

 素っ裸の少女連れて街を歩くとかどんな罰ゲームよ?

 いくらペット、飛竜とはいえ、まわりからはわからないんだぞ?


「ご主人様一人だけだと心配」

「あのなぁ……」


 どんだけ信用されてないんだ。

 たしかに俺はこの時代の常識には疎いが、それでも大人だ。

 多少は信用してほしいものだ。


「とにかく待っててくれ」

「しかたない……、先に私の服だけ買って一度戻ってきて」

「わかってるよ、それから他のあれこれ買うって」


 はぁ。

 ペットに心配される大人ってなんなんだろうな。

 そんな心配しなくても大丈夫だってのに。



「で、これはなに」

「奴隷です……」


 一時間後。

 俺は宿のベッドに座る小太郎を前に正座をしていた。

 俺の後ろには灰色の貫頭衣を着た薄汚れている痩せこけた少女が二人。

 治癒魔法をかけたものの、服には未だ血がこびりついていた。


 半分が銀色、半分が金色の頭髪をしており、瞳は朱と蒼のオッドアイ。

 瓜二つ、いや鏡写しといったような容姿だ。


「なんで連れてきたの」

「買ったからです……」


 だって仕方ないだろ!?

 ケモミミ少女が石投げられてたんだよ!?

 そんなの放っておけないだろうが!


「ご主人様、バカ?」

「面目ございません……」


 わかってるよバッキャロウ!


「だからついていくっていったのに」

「ご尤もです……」


 小太郎が来ていたとしても結果は変わらなかったと思うけどな!


「ご主人様、反省してない」

「いえ、海よりも深く反省しております……」


 なぜバレたし。

 あれか、野生の勘ってやつか?


「はぁ……。それで、なんで奴隷買うことになったの」

「ああ。彼女たちは、ハイブリッターなんだ」

「ハイブリッター?」

「ああ、獣の力を人間が取り込もうとした結果生まれた存在なんだけどさ」


 獣の力を取り込んだ結果、体の一部にその特徴が出るようになった。

 昔はそれはファッション要素でもあり、嫌われるようなことは一切なかったのだが。

 それどころか一部熱狂的なファンが問題行動を起こす事もあったくらいだ。

 俺はそこまででもないが、揺れる尻尾をモフりたくなる程度には好きだった。


「私とお姉ちゃんは、魔物との混ざり物ですから……」

「見ての通り獣人やからな……」


 妹少女がポツリと、姉少女は吐き捨てるようにつぶやく。


「魔物との混ざり物、ねぇ……」


 俺はちらりと小太郎(魔物成分一〇〇%)に視線を送る。

 その視線を受けて、任せておけとばかりに小太郎は首を縦に振った。


「二人共、ご主人様に全てを捧げればいい。そうすれば、幸せになれる」


 小太郎はじっと二人を見つめ、無表情で告げる。

 いや、何いってるのこの子。

 奴隷として購入したからある意味あっているのか?

 なんか意味合いが違っている気がしてならないが。


「でも……」

「うちら人間じゃないし?」


 妹少女とは対象的に挑戦的な物言いで自分は人間ではないと言い張る姉少女。

 姉少女の方は随分と荒れているようだな。


「そんなこと、関係ない。ご主人様を、信じて」


 というか、そういう意味で小太郎を見たんじゃないんだけど。

 まぁいいや。


「ともかく、二人とも魔物じゃないし、俺は仮に魔物だったとしてもどうこうするつもりはないよ」

「え?」

「じゃあなんで買ったん?」


 二人とも俺が買い取ったあと殴ったり切り刻んだりするつもりだと思っていたらしい。

 彼女たちいわく、それが当たり前らしいが、いくらなんでも世紀末すぎるだろうがよ。


「いや、石を投げられてたから?」

「へ?」

「意味わからんし」


 ですよねー。

 俺もそう思うわ。

 というか、その光景を目撃するたびに買い取ってたら小太郎がハゲてしまう。

 いや、自分で稼げよって話だけどさ。


「買ってしまったものは、仕方ない」

「はい……」


 どうにか小太郎の怒りは収まってくれたようで、矛を収めてくれた。


「それで、服は?」

「……。彼女たちの購入費用が高く……」


 二人セットで二万千五百円也。

 ぴったし全額使い切ってしまっていた。

 それにしても人が一人一万円ちょっととは、人命は随分と安いらしい。


 そして呆れた表情で黙って鱗を差し出す小太郎に、俺は何も言えず。

 ただその鱗を受け取った。


「新人の教育は、私がやる」

「あ、はい」


 有無を言わせぬ迫力でいわれ、俺は即座にうなずくのだった。


「それじゃ、服買ってきて。ううん。宿の女将さんにお願いしてきて」

「え?」

「ご主人様は、宿から一歩も出ちゃ、だめ」


 信用ねえな!

 まぁやらかしたばっかりだし黙っていうこと聞くけどさ。


「わかったよ……」



 その後、女将さんにお願いして鱗を騎士団まで持っていってもらい換金。

 更に伝えた寸法で適当に小太郎と奴隷たちの服を見繕ってもらった。


「ありがとうございます。助かりました」


 服の入った袋とお釣りを受け取りながら礼を言うと、苦笑いを浮かべながら軽く肩を叩かれる。


「ウリュウ様、お人好しも程々にね?」

「あはは、気をつけます」


 こんなことは今回限り。

 と言いたいところだが、同じ場面にでくわしたらどうなるかわからない。

 自分でもお人好しすぎるとは思うんだけどね。



「ほー、馬子にも衣装だな」

「ご主人様、それは誤用」

「わかってるよ」


 水色のフリルの付いたワンピース。

 それに紺色のウェッジソールを履いた、いいとこのお嬢様が宿屋の一室に居た。

 動かない表情とは対象的に、緑の長い髪が楽しげに揺れる。


「こんなにいい服を頂いてもよろしいのでしょうか……」

「あれか? 男が女に服を渡すのは脱がすためっちゅーやつか?」


 洗浄魔法をかけ、身綺麗となった彼女たちも色違いのワンピースを着ている。

 妹少女は不安気に、姉少女は警戒心を(あらわ)ににそれぞれ話しかけてくるが、二人共嬉しさを隠しきれないでいるようだ。

 表情はともかく尻尾と耳は正直なんだよね。

 ゆらゆらと動く金と銀に輝くフサフサ尻尾。

 ああ、モフりたい。


 というか、俺は君たちに手を付けるつもりありませんから。

 もっと大きくなってからそういう事はいいましょうね。

 尻尾やケモミミは少しモフらせてもらうかもしれないけど、流石にね。


「それにしても、ご主人様は魔導士様だったんですね……」

「二人も即金で購入、それにこない綺麗な服までかぁ。魔導士は儲かるって本当なんやなぁ」


 朱と蒼の瞳が俺を不思議そうに見つめてくる。

 勢いで購入してしまったが、獣人の奴隷というのは本来もっと安いらしい。


「あーうん、だいたいそんな感じかな」

「そんな感じってなんやの?」


 コテリと首を傾げられても、俺もよくわからない。

 正しく言うなら無職ですし。

 そして現状の収入源は小太郎(ペット)の鱗のみっていうね。


「まぁええわ。それで、もしかしてうちら名前ってもらえたりするんやろか?」

「名前?」

「私たちは、名前がありませんから……。同じ名前の人が、気分を悪くするからと……」

「なるほどな。んじゃ……。姉の方はタマモ、妹の方はナナオっていうのはどうかな?」

「ほぉ?」

「えっ」


 我ながら結構いい名前だと思うんだけど、二人の反応はなぜか訝しむものだった。

 今の時代だとこの名前はNGとかいうのがあったのかもしれない。

 しまったな、先に誰かに聞いておけばよかった。


「あー、嫌なら別の名前を考えるよ?」

「いえ、そういうわけでは……」

「ん、いや、思ったより普通の名前で驚いただけやで?」


 二人は首を傾げながらそんなことを言ってくる。

 そんな変な名前つけるような人間にみられていたのか?

 ほんの数時間しか一緒にいなかったのに、そんなふうに見られる要素なんてあったっけ?


「ほら、ご主人って先輩に小太郎って名前つけたんやろ?」

「てっきり、一郎とか太郎みたいな男の人の名前をつけられると思ってました……」


 すぐ目の前にあったわ。


 いやほら、小太郎はペット枠ですし。

 でも確かにタマモとナナオのいうとおりだ。

 あんな美少女を『小太郎』と呼べば、まわりがどう思うか。


「小太郎」

「やだ」

「まだ何もいってないぞ?」

「この名前は、ご主人様から最初にもらったもの。それを捨てるなんて、とんでもない」


 そんな物捨ててしまえ。

 せめて上書き保存してくれ。


「人間諦めが肝心」


 お前は人間じゃないだろうが。

 喉元まで上がってきた言葉をなんとか飲み込む。


 でも、元気だしてって言葉はお前がいっていいセリフじゃないと思うよ?

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